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ロボティクスを子供でも使える技術にすることを目指す
~Microsoft Robotics Studioのタンディ・トローワー氏インタビュー

Reported by 森山和道

Microsoft ロボティクスグループ ゼネラルマネージャー タンディ・トローワー氏
 米Microsoftのロボティクスグループ ゼネラルマネージャー タンディ・トローワー(Tandy Trower)氏が来日して各社から取材を受けた。Microsoftは2006年からロボットのソフトウェア開発・実行を行なうための統合環境「Microsoft Robotics Developer Studio」を展開している。いま公開されているのはCTP(コミュニティ向け技術評価版)版だが、今年11月には正式リリースを行なう予定だ。ダウンロード数はこれまでに20万件。

 トローワー氏はMicrosoftで27年の経験を持ち、さまざまなソフトウェアを開発し、多くのプロジェクトに関わってきた。だがさまざまな経歴を持つ人々が集まっている同社のロボット関連部門はシアトルのダウンタウンで仕事をおり、「立ち上げスタートアップのような気分がする」という。

 Robotics Studioについては本誌でも何度か紹介しているとおりだが、簡単に復習しておくとRobotics Studioを使うことで、たとえば非同期の複雑なマルチスレッドのプログラミングをより簡単に行なうことができる(CCR:Concurrency and Coordination Runtime)。そのためロボットだけではなく、メッセージのトラフィック制御や、小包などの流通管理を行なうための並列処理プログラムなどにも応用されている。そのため10月末にはRoboticsの機能を省いたバージョンも発表する予定だという。

 Robotics Studioではモジュールを繋いでいくことでプログラミングを行なっていく(VPL:Visual Programming Language)。プログラムはそのほかC#などに吐き出すこともでき、ユーザーは、仮想ロボットに対して実際のハードウェアと同じコードを採用してプログラミングを行なえる。また、物理エンジンを使ったヴィジュアル・シミュレーションも行なうことができる(VSE:Microsoft Visual Simulation Environment)。

 トローワー氏は、KUKA社のマニピュレーターのシミュレーションや、自律ロボットサッカー競技「RoboCup」にも採用されている「Aldebaran's Nao」のシミュレーションの様子をビデオで示した。実物同様、首がガクンガクンと揺れる様子まで再現されていた。また同社では今年4月から「ROBO CHAMP」という競技会を行なっている。迷路や都市、火星などさまざまな場所を舞台にしたシミュレーションのコンペティションである。火星チャレンジではNASAの協力を得て、実際の火星のデータをもらって実行しているという。


Microsoft Visual Simulation Environmentの概要 Aldebaran Robotics「Nao」 Microsoftが今年4月から開催している競技会「ROBO CHAMP」

 ロボットの市場として特に注目している分野としては「アシスティッド・ホームケア」分野を挙げた。高齢者数が増えているからだ。なかでも、もっともはやく高齢化が進んでいる国の1つが日本である。残りの世界も同じような状況にある。トローワー氏は以下のように語る。

 「米国では今後、15年以内に60歳以上の人の数が2倍になります。高齢者人口が増えるだけではなく、寿命が延びています。これは良いニュースでもあります。長く生きたいですからね。しかし身体的にも精神面でも年をとるとできないことがでてきます。Microsoftは、ロボットに何かできるのではないかと考えました。1つは友達や家族とのコミュニケーションです。ヘルスケアや介護者との連絡もできます。PCのところにわざわざ歩いていかなくてもロボットが動いてきてくれたり。ロボットから情報を得ることもできるでしょう。天気、ニュース、メディカルインフォメーションなど。エンタテイメントも提供してくれます」

 「ROBO_JAPAN」でも、楽しく、教育やアミューズメントを提供してるロボットを見ることができたという。

 「特に高齢者を介護する用途で、自宅でのロボットの役割が大きくなるのではないかと思っています。高齢者にとってロボットが価値があると分かれば、非常に大きな市場価値が認められるようになるでしょう。例えば、家にロボットをおいておき、長い休暇をとったときに、そこにログインして家の状況が見られるようなロボットがあるといいなと思っています。出張したときにもロボットが家にいれば他の家族のところに行くこともできます。PCの前に座らせておくだけではなく、家のなかをナビゲーションすることもできます」

 こうしてプレゼンを一通り聞いたあと、質疑応答を行なった。


ロボットに興味を持ったきっかけ

――まず最初に聞きたいことなんですが、2004年秋にビル・ゲイツ氏に近藤科学の「KHR-1」を見せ、レポートを出したと伺っています。ですが、それ以前からトローワーさんはロボットに興味があったとか。そもそもどうしてロボットに興味を持ったのですか?

 子供のころからロボットに興味はありましたが、当時のテクノジーは原始的でした。ロボットを作ろうとしても、本当のロボットを作れるわけではありませんでした。ところが今では、子供にレゴマインドストームを買ったところ、実際のプログラミングまでできたのです。

 当時、いろいろなロボット・コミュニティの人たちがMicrosoftにやってきて、ロボティクスの状況を教えてくれました。ビル・ゲイツもいくつか大学をまわり、非常に革新的なテクノロジー、革新的なイノベーションを見ました。そのなかには全てロボティクスが入っていました。そして私も同じように興味を持ったわけです。

――具体的にはどんなコミュニティですか。どんなロボット技術をご覧になったのですか?

 いろんなメンバーの人たちが来ました。レゴ社の人も来ましたし、世界中の大学教授とも会いました。Microsoftとどんなコラボレーションができるのかと。もちろんABB、KUKA、iRobotといったところの人たちとも会いました。かなり幅広い人たちからコンタクトがありました。

 ですが、1つ共通したメッセージがあったのです。ロボティクスが変わりつつあり、新しい産業が出てきているということでした。これまでのロボットは製造用、生産用でした。けれども、もっとパーソナルユーズのロボットが出てきていると。

 ビル・ゲイツと私は議論しました。そして、パソコンのビジネスとロボティクスのビジネスは似ているのではないか、というところに話が発展しました。

 どういうことかと言いますと、1977年のコンピュータは、メインフレームが中心でした。それは大きく高くて、パーソナルではありませんでした。ロボットも同じです。産業用ロボットも非常に大きく高く、パーソナルではない。同じです。しかしパーソナルコンピュータが出てきて、私たちにとってコンピュータというもの意味はどんどん変わっていったわけです。

 ロボティクスでも同じようなことが起こるのではないかと思っています。どういったものが出てくるのか。そういった意味では非常にエキサイティングですし、大いに期待を持っています。価格も、だんだん手が届く値段になっています。それらはアカデミックの世界でも使えます。ハードの問題も徐々に解決していきつつあります。世界全体で見ても投資額は増えています。我々は世界中に進出していますが、1つの経済圏でロボットに投資してないところはどこにもありません。

 投資と関心。そしてテクノロジーのコストが下がってきたこと。すべてを考えると、ロボティクスには限りない可能性があると考えています。PCも進化していきます。これからはPCの技術がどんどんロボットにも使われていくでしょう。


――なぜ最初に出したソフトウェアはDevoloper Studioだったのでしょうか。

 ユーザーの数を増やそうと思いました。オープンな環境をしたいと考え、ツールと環境を提供したわけです。一番最初から非商用ということでツールは無料で提供しました。大学との研究所や趣味でも使えるようにしました。Microsoftがそのコミュニティからの要請に対応したからです。

――しかしなぜ環境提供からだったのでしょうか?

 スタートするのにはいろんな方法があると思いますが、Microsoftがこれまでやったなかでうまくいったやり方をしました。PCビジネスでも我々はコミュニィに対して開発ツールとそれを動かせるプラットフォームを提供しました。その段階では、まだ業界としては成熟していませんでしたが、そこから私たちはビジネスができるようになったわけです。まだまだ先は長い。

 家庭でロボットを買おうと思ったときは、トイか、掃除機ロボットを買うわけですね。それはまだまだ世代としては早い段階です。今後3年から5年経ちますと、PCベースのロボットが出てくるでしょう。自分で自律して動くロボットができるようになります。さらに5年から10年たつと技術的革新が出てくるでしょう。ロボットが動く、家のなかでじゅうぶんナビゲーションができるというだけではなく、自分で何かするということができるようになります。マサチューセッツの大学のロボットはそのひとつの例です。

 まだまだ課題はあります。バッテリパワー、製造技術、多くのソフトウェアなど。いまはまだまだ最初の段階にたったところだと考えています。

 これが1977年のPC業界だったとしましょう。4年ほどたってから素晴らしいハードウェアが出て、どんどん業界が進歩していったわけです。たとえばApple IIやコモドール(Commodore)などいろいろありましたが、それらは今から見ればおもちゃのようなものです。でもそれらのものは初期の段階では非常に重要だったわけです。PCコミュニティの中から創造性と関心を引き出したからです。そしてPCの業界が進んでいったわけです。

 いま、ホビーや掃除ロボット、トイなどがありますがPCと同じような状況にあると思います。数年後にはさらに進歩するでしょう。日本だけではなく、韓国、ヨーロッパなど世界中で同じような傾向があります。

 待っているのは、価値を提供できるような力強いアプリケーションです。1977年にもPCには価値を提供できるようなアプリケーションを待っていたわけです。

 1979年に表計算ソフトウェア「VisiCalc」が生まれました。それはアップルコンピュータやホビー用コンピュータでしか動きませんでした。その後、1983年に「Lotus1-2-3」が出てきました。これもPC業界に大きな貢献を果たしました。


――いまのロボットにとって表計算ソフトウェアにあたるアプリケーションはなんだと思いますか。もう登場している? それともまだ?

 まだ出てないですね。ですから業界が前へ進めない段階にあります。これもRobotics Studioを出すことへのMicrosoftにとってのモチベーションです。

 VisiCalcはMicrosoftが作ったわけではありません。最初のワープロソフトウェアもMicrosoftが作ったわけではありません。Microsoftはアプリケーションを動かすプラットフォームを作ったわけです。本当に必要な、価値のあるアプリケーションはなにかは今は分かりません。それをMSが作るかどうかも分かりません。いろいろなひとたちの創造性のなかから業界のなかにアプリケーションが生み出されるでしょう。まだ、ロボットでの価値があるアプリケーションはありません。

 ただ、こういう特性が必要なのかなということはわかっています。エンターテイメント、コミュニケーション、インフォメーション。先ほど、高齢者の話をしました。ここはたぶんロボットのために必要なアプリを提供する市場になるのではないかと思います。もう1つは教育を刺激する技術になるのではないかと思います。たとえばロボットは数学やサイエンスを教えるための非常に適した技術です。教育分野にロボットが価値があることは、ロボット自身が証明するようになるでしょう。


ロボットは人とのインタラクションを変えていくもの

――実際のRobotics Studioのユーザーにはどんなロボット開発ユーザーが多いのでしょうか。

 いろいろな人々がいます。はじめてプログラミングをするような学生もいれば、進んだ研究をしている教授や学生もいます。商業的なソフトウェアベンダーもありますし、ロボット以外の分野やエンタープライズでも使われています。「タイコ(Tyco)」や「マイスペース(MySpace)」などの会社です。Robotics Studioは多角的な分野で使われています。1つの市場のために作ったわけではありません。全体のマーケットがカバーできるように作りました。Windowsと似ています。Windowsのマーケットは1つとはいえません。みんなが使っています。

 Windowsはコンピュータとのインタラクションを変えたという意味で重要だったわけです。おなじようにロボットは、コンピュータと人とのインタラクションを変えていくことになるでしょう。たとえばGUIのインターフェイスに革新的なイノベーションが必要だったように、ロボットでも新しいイノベーションが必要になります。技術と向き合う新しいやり方をロボットが適用すると思います。キーボードとマウス以外のインターフェイスです。ビジョンや、さわったり、五感を使うインターフェイスです。PCができるところ以外の部分を改善することになります。業界にとっては、共通基盤を作り上げることが必要になります。その上で各業界が創造性を使って、それぞれ作っていけばいいわけです。

 それを行なうためにツールキットを使うことができます。いままでは1つのシステムでロボットが動かされていたわけですけど、いろんな業界をまぜてやっていくという形に変化させていくことが可能です。

 例をお見せしましょう。バンクーバーのほうで立ち上がったばかりの企業で、Braintechという会社があります。ABBのために視覚認識システムを作りました。このソフトウェアは最先端のものです。そして、MicrosoftのRobotics Studioを使って、視覚認識のライブラリを今は研究でも使えるし、ホビー用途や学生でも使うことができるのです。これまでは非常に進んだ業界でしか使えなかったテクノロジーです。それを学生も使える。これまでは専門家しか使うことができなかった技術を子供でも使える。そうすると、非常に素晴らしいことが起きるのではないかと思っています。たとえば子供がPCにアクセスすることで新しいものが生まれてきます。そういったことを加速することが重要です。MicrosoftのRobotics Studioで、すべてが解決するわけではありません。コミュニティがそれぞれ抱えている問題を解決しています。そこで共通プラットフォームを使うことができるわけです。パワフルツールを使って簡単に。今はサンプルが出ているので、それを使うこともできます。


――いま視覚認識ソフトウェアの話が出ましたが、Microsoft自身が積極的にソフトウェアを開発していくことはないのですか?

 いまのところはありません。画像処理のライブラリは既に2つの業者が作っています。コミュニティに任せたいと思います。Microsoftのなかでもビジョンテクノロジは研究していますので可能ですけど、それだけでは問題は解決しませんので。あくまで今はプラットフォームとツールに特化しています。どういったものが価値あるアプリケーションになるのか。そういったところを探っていきたいと思います。

――ロボット専用リアルタイムOSが欲しいという人もいると思いますが、そちらはどうでしょう。

 「リアルタイム」という言葉は、使う人によって解釈がちがう面白い言葉です。リアルタイムといったときはある程度のパフォーマンス保証が要求されます。ロボットがやるべき仕事において、必ずしもリアルタイム性が必要とは限らないのではないでしょうか。効率よく並行的に情報を処理していくことができればいいのだと思います。これからはPCがマルチコアになっていきますし、それがベースになっていきますから、ノンリアルタイムのものでもリアルタイムのもののパフォーマンスに近づけていくことは可能です。Windowsもリアルタイムのシステムではありません。ですが、ガーベッジコレクションが起きたときの問題を防ぐことができます。計算力が増えていくので、リアルタイムはそれほど大きな問題ではないと思っています。

 タイムクリティカルな、つまり時間が重要であるとき、処理能力が限られているとき、リアルタイム性が問題になってきます。産業、オートメーション分野では重要な問題です。ですが、PCベースのテクノロジーで作られたロボットではそれほど重要ではないのではないでしょうか。あくまでパラレルな処理が必要な部分の効率に焦点をあてています。リアルタイム性についてはまだ優先順位が低いです。

――つまり、あくまでアプリケーション層の開発に焦点をあてたいということですか。

 そうです。


クラウド・コンピューティングはロボットにとって必然

――最近はクラウド・コンピューティングが話題になっています。クラウド・コンピューティングとロボットを組み合わせることで、どんなアプリケーションや可能性が考えられるとお考えですか。

 ロボティクスにはクラウドコンピューティングの技術が非常に重要だろうと思っています。クラウドでもローカルなコンピュータでもサービスを行なうことができます。たとえば問題があったときに、それを解決するための処理パワーをクラウドを使って増やすことができます。クラウドによってこれまで非常にプロセシングパワーを必要としていたものでも、ロボット側の負担を増やさずに処理することが可能になります。ロボットだけでソフトウェアを動かすつもりでアプリケーションをデザインすることは不十分になるでしょう。今後成功するロボットはネットワークに繋がることになります。ネットワークでの処理能力を活用できるからです。ローカルのネットワーク、クラウドの外のネットワークも使えるようになるわけです。

 例えば、「Photosynth」というテクノロジーをMicrosoftは持っています。写真から3Dモデルを作ることができるものです。ただ、処理に時間がかかりますし、多くのマシンを使います。空間のなかでロボットをナビゲーションするときにはこういう技術が有効になります。ただ計算にはコストがかかりすぎます。それはクラウドでやればいいでしょう。

――たとえば、ロボットのオフライン学習はクラウドでやるとか?

 そうです。そしてローカルに戻してまた処理をするわけです。もう1つメリットがあります。いま家にロボットがあるとしましょう。クラウドベースの学習サービスを使うとします。そして壊れた。交換する必要があります。でも、新しいロボットが来たときに前のロボットがやっていたところまではやってほしいわけです。ロボットのナレッジベースはクラウドにバックアップがありますからそれが使えます。クラウドからのインフォメーションサービスもあります。クラウドも重要ですが、クラウドへの接続が非常に重要なわけです。ロボットが隔絶したかたちでは成功しないと思います。ホームロボットの成功の鍵を握るのは「接続」です。


――ホームロボットが提供したら面白いインフォメーションサービスとはなんでしょう。ロボットならではのものは何かありますか? 先ほど天気予報やニュースと仰いましたが、それならばPCを見れば十分だと思います。ロボットが提供できる価値とはなんでしょうか。

 私は、ロボットはやはりPCの別の形だと思っています。ロボットだからこそ提供できるサービスというものは、パッと思い浮かびません。むしろ、PCが提供しているサービスを、もっと利便性を挙げたかたちで提供できるのがロボットだと思います。わたしはPCのところまで歩いていかなくても、向こうからやってきてほしいわけです。

 ロボットが成功すると言った意味は、そのテクノロジーが特別に分離しているということではありません。たとえば、仰るとおりニュースや天気予報はケータイでもPCでも見られます。でもだからといって、そのうちどれかを取って残りを捨てることはないでしょう。状況ごとに使い勝手がいいものを選びます。

 ただ、PCでも提供できるけれど、ロボットのほうが簡単だろうという状況はあるかもしれません。たとえばバケーションに出ているときに自分の家を見てみたい。それはPCからはできないけれど、ロボットからは可能です。PCだとそれがある部屋しか見えませんから。ロボットならば歩けます。スイッチがオフになっているかどうかの確認もロボットをその場所まで連れて行けばいいわけです。

 ロボットだけしかできないことをやるよりは、PCではできない、できても難しいことをロボットがやるようになるでしょう。


――サーバーをリセットするアームを持ったロボットが欲しいというジョークは時々聞きますね。

 ロボットの手や腕ができるだろうという話はしませんでしたが、昔はそういった話は全くありませんでした。今はできます。将来は無制限にいろいろなことができるようになるでしょう。そこに制限がかかるとすれば、ハードウェアの制限ではなくむしろソフトウェアの制限です。ロボット掃除機ではなく、掃除機を使うロボットが買えるようになるでしょう。皿洗い機に入れたりとか、洗濯物を取り出したり服をたたむといったこともできるようになるでしょう。そういう段階までくれば、ロボットだけができて、他のものでは難しいなというアプリケーションを思いつくようになるかもしれませんね。その段階ではロボットの家庭での需要がすごく増えるだろうと思います。

――日本ではRobotics Studioが普及しているという実感は今のところありません。日本だけではなく海外も含めて、Robotics Studioのユーザーを増やすためには何が必要だとお考えですか。

 PCベースのプラットフォームがもっと必要になると思います。まだ、購入できるロボットの多くは8bitや16bitのCPUを使っているものが多いので、PCベースのロボットがもっとどんどん出てくるといいと思います。Microsoftはパートナー企業ともいろいろ話していますが、ハードウェアをどれだけ早く変えられるのかという話をしている段階です。ロボティクスのハードウェアはまだ成熟していません。

 たとえばApple IIに、WindowsやMac OS Xを動かすところを想像してください。8bitのシステムで今日のOSと同じものを動かすのは無理です。まだまだハードウェアが成熟する必要があるのです。

 もう1つあります。日本においては、Microsoftが進出する前から進んでいるものがあります。これまで為されてきたことを考えると、我々は後発です。この市場ではまだ2年に過ぎません。Windowsも登場から5年以上かけてやっと主流になってきました。まだまだ初期段階にいるということができます。


創造性のある自由な環境を提供することでロボット業界を活性化

――最後に、今まで見たロボットで、もっとも感銘を受けたロボット、あるいはロボット技術があったら教えてください。日本だけではなく海外のロボットも含めて。

 マサチューセッツAmherst大学のロボットがすごいなと思いました(動画)。2輪でバランスをとっていますし、胴体のところで回転することもできますので、2つのアームの動きのコーディネーションもとれている。ただハードウェアの問題はまだあります。それだけではなく、どこでも役に立つようなことをできるソフトウェアはありません。

 他の市場でもすごいと思ったロボットがあります。iRobotの「Roomba」です。Roombaは300万台以上売れています。これも非常に素晴らしい。他の技術も素晴らしいですよ。タカラトミーの「i-SOBOT」もすばらしいと思いました。3年前は非常に高い技術だったはずですが、それが300ドル以下で手に入る。ですが技術はさらに良くなっています。より安く、より良いものが手に入るようになっているわけです。どんなに早く技術が安くなっていくかを示す1つの例です。あとは「PLEO」。PLEOはソニーの「AIBO」と似た特徴を持っているロボットですが、AIBOは2,000ドルでした。PLEOは350ドルです。

 もう1つは、レゴマインドストームです。今は32bitになっていますね。IRセンサやBluetoothがついています。おもちゃですが高い技術のものを提供しています。32bitのプロセッサやBluetoothを搭載したおもちゃで子供が遊んでいるのはすごいことだと思います。技術はどんどん安くなるのです。

 ホンダのASIMOや、トヨタのロボットもすごいと思います。トヨタのロボットのデモは面白い。しかも彼らは技術だけではなく、それを出しうる流通チャネルを持っています。


 あまりうまく説明できませんでしたが、素晴らしいと思ったロボットは他にもいくつもあります。そこがこの業界の素晴らしさです。常にイノベーションが起こっています。DARPA(米国防高等研究計画局)の「Grand Challenge」も一番最初に始まったときは、誰も参加したくなかった。2004年のときは、車はスタックしてしまった。ところが翌年は4つのチームがコースを完走しました。その後、さらに課題を難しくし、砂漠から街中を走らせる「Urban Challenge」が始まりました。6つのチームがきちんと完走しました。そういったところも非常に素晴らしいと思いました。解決できない問題はだんだん少なくなっているのです。

 というわけで私は、ロボットの市場を非常に楽観的に見ています。単なる投資ということだけではありません。これまでの投資は、技術を生み出す思考のパワーに対して集中的に行なわれてきました。このような分野は他にないので素晴らしいと思っているのです。

 最初のポイントに戻りますが、Microsoft Robotics Developer Studioを作った目的は、できるだけ市場で自由に創造性があるものを生み出す、そのための自由を提供することでした。たとえば専門家だけが入手するのであれば、業界はそんなに早くは発展しません。でも全員がアクセスできるのであれば非常に早く業界が発展するわけです。

 その証明の1つがインターネットです。誰でもインターネットを使えます。開発者でなくても。誰でもインターネットの上にコンテンツを乗せることができます。YouTubeもそうですね。誰でもプライベートなビデオをインターネット上にのせることができる。技術が使えることで、インターネットも成功したわけです。

 これはMicrosoftが一番最初にスタートしたときに似ています。Microsoft BASICは、専門的なプログラマのような知識がない人でも簡単にコンピュータに触れるようにした点が面白かったわけです。今後、ロボティクスでもこれが重要になります。ロボティクスを子供でも使えるような技術にする。そうすると、誰でも創造性を発揮して使えるようになります。そこから価値のあるアプリケーションに繋がっていくわけです。そうしたことでロボティクスが成功できるわけです。


URL
  Microsoft
  http://www.microsoft.com/
  Microsoft Robotics
  http://msdn.microsoft.com/en-us/robotics/default.aspx

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2008/10/23 15:20

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