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通りすがりのロボットウォッチャー
男の憧れか? 女性型ロボット

Reported by 米田 裕


 久々に人型ロボットの登場である。それも見た目が女の子となれば、いきなりテンションも上がろうかというものである。

 ムフーと鼻息も荒いのである。

 でもまー、ロボットにとっての性別はいまのところ関係はないわなぁ。ロボットにとって性ごとの役割があるわけでもないので、これは人間側の趣味といえるだろう。

 男の研究者、技術者であれば、作るロボットは女の子タイプにしたいと思っているに違いない。

 それでも、ロボットの開発には莫大な金がかかるので、そう簡単には作れない。でも、いろいろとこじつけて作ってしまいましたー! というのが産総研のHRP-4Cではないだろうか?

 最初に目にしたのはNHKの夜7時のニュースのエンディングまぎわの映像だった。年老いた母親などは、見たとたんに「気色悪い」などと言っていたが、僕は「うわー、やったなぁ」と快哉を叫んでしまった。

 2年前、2007年のSFワールドコンベンション会場で行なわれたシンポジウム『サイエンスとフィクションの最前線、そして未来へ!』で、産総研の梶田秀司さんが、女の子のロボットを作っていると言っていたのが思い出された。

 テレビのナレーションが流れる前に、女の子ロボットだったら産総研のHRP-4じゃねーのと判断したが、ビンゴだった。でも実際にはHRP-4Cという型番だったのね。

 このCは何? と調べたら「サイバネティック」の略だそうだ。サイバネティックスといえば、自動制御学のことで、サイバネティック・オーガニズムといえば「サイボーグ」となり、機械で身体の器官を置き換えたり補強をした人間ということになる。

 HRP-4Cは「サイバネティック・ヒューマン」という造語で呼ぶそうだが、全身を見たときに、最初に感心したのが、その身体のシルエットだ。


より人間の体型に近づいたボディ

 ホンダのASIMOや産総研のHRP-2、HRP-3など、等身大に近い二足歩行のロボットを見てきたが、人型ということは人型だけど、その身体各部のバランスやシルエットは、実際の人間とはかけ離れていた。

 肩関節は盛り上がり、四角い胴体。そしてとくに違うと思わせていたのが股関節部分と足首だ。

 ASIMOでは、股関節部には半球状の部分が見えているが、実際には球状なのだろう。そして、駆動のためのモーターのスペースのためか、横に平べったい大腿部となっている。

 HRP-2(プロメテ)では、股関節部は、片持ち構造となっていて、スペース的にやはり場所をとる構造となっていた。

 人間のように、腰から下へとスラリとしたラインではなかった。

 それがHRP-4Cでは、腰部分から大腿部へのラインが人間に近い。実際にはロボット的機構があって、それをプラスチック成形されたパーツや伸縮素材で囲って見えないようにしているのだろうが、ロボット臭さが薄まり、かなり人間的だ。

 足と足首も、ただの四角い形態の足と、モーター軸まる見えの足首ではなくなり、より人間に近い形になっている。

 足首部分は特許出願中とのことで、くわしい機構はわからないが、大きな進歩といえる部分ではないだろうか。

 それでも、まだ足は大きく、身長158cmの女の子としては大足だ。

 体重はバッテリ込みで、43kgとかなり軽量化されている。

 HRP-2が身長154cmで58kg、HRP-3が身長160cmで68kg、ASIMOが身長130cmで54kgとのことだから、かなり軽いことがわかる。

 人間と同じ空間にいるロボットの場合、転倒した場合に人間が下敷きとなれば怪我をすることもある。体重が重ければ、それだけ下敷きになった場合の危険も大きい。

 できるだけ軽くすることは重要だろう。

 HRP-4Cの外観は、頭部と手部分がシリコン製(?)の柔らかい素材で、胴体はFRPかなんかの成形パーツのようだ。

 頭部は、アクトロイドで習得したノウハウでできているようだし、実際に頭部のデザインと機構、手については株式会社ココロが担当したようだ。

 映像を見た人によっては、ロボットの胴体にリアルな人の顔が乗っているので「気色悪い」と思う人もいたようだが、過去に見たことのある、アインシュタインのリアルな頭部を乗せたASIMOっぽい身体の某国のロボットよりはかなり洗練されていると感じた。

 見たときに、心の一部に「なぬ?」というひっかかりがないわけではないが、まずまずの出来というところだろう。


HRP-4Cには何も見えてないのでは?

 ロボットウォッチャーとしての通りすがりもんの寂しさとして、実際のロボットを見られる機会はあまりに少ないことがある。

 テレビでの報道映像やインターネットでの動画で見ることがほとんどだ。そうした映像を見て、考えをめぐらし、機構や機能について想像し、資料にあたって解決できるものもあれば、まったく不明のまま終わることもある。

 ロボット開発は世界でしのぎを削っている状態だから、発表しても詳細についてはわからないようにしていることも多い。

 HRP-4Cを見て、最初に思ったことは、視覚はあるのかということだった。

 頭部は表情を作るための可動部があり、目も動く。そのため、内部にはかなり複雑な機構があるに違いない。

 そこへ視覚を得るためのカメラは入っているのだろうかと思った。

 産総研のHRPシリーズでは、カメラを2台以上搭載して空間認識や位置の検出をしていると記憶している。

 その昔(うわー、すでに昔か)、ブッちゃんこと出渕裕氏がデザインしたHRP-2では頭部にカメラを4台搭載していた。それを全部頭部の中に入れると頭がでかくなりすぎるので、頭部とは別にインカム状に見える張り出しを顎の左右に配置して、頭部を小さく見せるデザインにしたということだった。

 今回HRP-4Cにカメラが搭載されているとしたら、眼球以外の部分にも搭載されていないとHRPシリーズで培ってきた空間認識を応用できないんと違うかと考えた。

 頭部や胴体にカメラらしいものはないか探してしまった。

 見える部分にはなかったので、髪の毛の中かとかいろいろと想像したが、後に発表された当RobotWatchの記事で、現在のところ、視覚処理モジュールは搭載されていないということがわかり、納得した。

 今のところ、頭部は表情を作る表示装置の役割と、音声認識のために使われているということだ。

 となると、歩くことは事前にプログラムされた歩数で方向転換をしたりするようになっているのか、それとも、舞台袖の見えない場所からラジコンで動かしているかということになるだろう。

 『鉄腕アトム』では、アトムの頭部に電子頭脳は入ってなくて、頭部がなくても活躍できたが、あれはいったい、どうやって外界や空間を認識していたのだろう? ものすごく不思議だが、とんでもなく科学の進んだ時代のお話だから「これでいいのだ」と納得していた。

 その後『アストロ球団』では、心眼でボールが見える野球選手まで現れてのけぞったものだが……。

 それはさておき、現時点でのHRP-4Cの頭部は、飾りプラスアルファなものであるわけですな。

 その顔は、産総研の女性社員5人の顔から平均的な顔を割り出し、それに人形風味を加えるなどして、完全に人間に近づける方向からは少しずらしたということである。

 いやー、どこかで見たことあるなぁという気がするのだが、いったいどこで見たのやら? 平均値ということで、いろいろな人に似た部分があるということなのだろうか?


二足歩行には乗り越える壁がある

 そして、次に歩行についてはどうなのと見ていると、やっぱり腰を落として膝を曲げて歩いてきた。

 現在のロボットの歩き方の基本的な歩行形式だ。これは、ホンダのP2が発表されたときからあまり変わってない。

 腰を落として膝を曲げた状態が、外界からの応力にすぐ対応できる形なのだろう。二足歩行をするロボットはたいていこの形で歩いている。

 早稲田大学の「WABIAN-2」は、腰を落とさず、膝を伸ばした状態から歩けるロボットだが、ときどき体勢が不安定になることもあるようだ。

 歩行の制御という観点からは、膝を曲げて歩くという方法が定番化しているのだろう。

 サッカー選手を見ていても、ディフェンダーは、腰を少し落として膝を曲げている状態が基本姿勢だという。相手選手がどう動こうとも瞬時に反応できる体勢だからだ。

 ROBO-ONEなどを見てると、そうした姿勢を思いっきり極端にして、ほとんどしゃがんだ状態のロボットもよく見かけるが、あまりにしゃがんでいると二足歩行という感じがしないなぁ。

 HRP-4Cも腰を落として、腕は真横よりやや後ろの位置で固定したまま歩いてくるので、おっかなびっくり歩いているようだ。

 スカートで隠してしまうと人間らしく見えたかもしれないが、まだまだ歩行に関しては、機械としての歩行を習得した段階で、人間のように歩く段階までは進化してないのだと感じた。

 ホンダのP2が発表されたのが1996年末。人間サイズでなめらかに二足歩行する姿に、これでロボットの歩行の問題は解決されたと勘違いするほどの出来のよさだった。

 それから丸12年が経ったわけだが、歩行に関しての12年分の進化は、それほどなかったというのが現在の姿といえるかもしれない。

 ホンダ社内ではP2発表までの間に、10年かけて歩行の基礎を築いた。それから考えると、22年の月日が経っていることになるし、大学での二足歩行ロボットは、1960年代から研究されているから、すでに50年近い年月が経っていることになる。

 50年あれば何でもできる。元気があれば何でもできる、だぁー! と、時間が経てば技術は進歩していくと信じられているが、50年はあっという間の時間であることも事実だ。

 二足歩行も、安定して歩くことができることが証明され、公開された理論をもとに、ある程度同じ歩行ができるレベルにまで全体の底上げはされたが、まだ人間と同じには歩けない。

 走る、ジャンプするということはまだ実現してないし、人間らしく歩くという部分でも、まだまだなんだなぁと思う。

 HRP-4Cは人型で人間に近いために、腕を振って歩かないと不自然に見えてしまうが、腕を振ることは、重心位置が刻々と変化するので、歩行の制御も難しくなるのだろう。

 いやー、ホントにロボットってむずかしいッスね。

 だから見飽きないということもあるし、つぎに出てくる物は何かという期待感を持ち続けられる。


エネルギー補給用に求められる新技術

 HRP-4Cもやはり電力で動くが、バックパックのように背中に電池を背負ったりしていないで、電池を体内に内蔵しているにもかかわらず、人並みのスリムな体型になっているところが素晴らしい。

 ニッケル水素電池を腰の部分に搭載しているとのことだが、容量的に小さいためか、稼働可能時間は20分とのことだ。

 20分は短い。近所へ買い物へ行ってもらうと帰ってこられないぐらいの稼働時間だ。ウチから最寄りのスーパーマーケットまでは徒歩で片道12分ほど、スーパー内で歩き回り、商品をさがして帰ってくると40分以上は歩きまわることになる。

 これでは買い物から帰ってこれない。

 もっと高性能のバッテリができたとしても、1日動かすことは難しいだろう。

 そこで最近注目しているのが、ワイヤレス充電だ。

 電気は電波という形にすれば、真空中でも伝達させることができる。電磁放射というそうだ。しかし、全体へ広がってしまうと伝送効率はものすごく悪い。

 かといって、電波に指向性を持たせて送信すれば、間に遮蔽物があれば遮られるし、人間や動物といった生体であれば、電波によって危険な状態となる。

 電子レンジは、マイクロウェーブという波長の短い電波を使って水分を含んだ物質を加熱するものだが、それと同じことがおきてしまうのだ。

 街中で電波で熱せられてはあぶなくてしょうがない。

 そこで、現在有力視されているのが、電力の送信側と受信側を電磁的に同じ周波数で共振させる手法を利用することだという。

 共振させている周波数が同じである2つの物体は、エネルギーを効率的に交換できるという。

 しかも、間にある他の物体との相互作用は非常に弱いとのことだ。

 MIT(米マサチューセッツ工科大学)では、磁気的な共振を利用し「非放射電磁界」という特殊な空間を作り出し、電力の送受信を仲介する実験に成功している。

 日常的にある物質に対しては、磁気的な相互作用は弱いために、電力を転送する間に生体があっても、影響は少ないという。

 こうした機構が街中やスーパーなどの店舗に装備される日はやってくるだろうか?

 家庭にも装備されれば、ロボット自体に搭載する電力源は、必要最低限稼働できるレベルになるだろう。

 いつでもどこでもワイヤレスで充電して動くロボットとなればいいわけだ。

 物語やマンガの世界ではロボットが活躍している21世紀。その21世紀になって8年が過ぎた。そろそろ二足歩行だけではない飛躍したロボットの姿を見たいと思うのだが、社会全体のインフラの変化も必要となってくると、現在の経済危機状態では、まだまだ待たないといかんのかねぇ。


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米田 裕(よねだ ゆたか)
イラストライター。'57年川崎市生。'82年、小松左京総監督映画『さよならジュピター』にかかわったのをきっかけにSFイラストレーターとなる。その後ライター、編集業も兼務し、ROBODEX2000、2002オフィシャルガイドブックにも執筆。現在は専門学校講師も務める。日本SF作家クラブ会員



2009/03/27 01:19

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