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Urban Challenge現地レポート
米国の無人ロボット車レース-優勝はカーネギー・メロン大学

~完全自律制御車はここまできた!

優勝したカーネギー・メロン大学のロボット車「Boss」のゴールの瞬間
 米国防総省高等研究計画局(DARPA)の主催による、完全自動制御の無人ロボット車レース「Urban Challenge(アーバン・チャレンジ)」の決勝が11月3日、カリフォルニア州ビクタービルの軍事基地跡で開催された。11台のロボット車が模擬市街地の中で、定められたチェック・ポイントを順番通りにできるだけ早く回るレースで、このうち規定の6時間以内に完走できたのは4台。カーネギー・メロン大学のロボット車「Boss(ボス)」が優勝し、賞金の200万ドルを獲得した。複数のロボット車が同時に街中を走るのは世界初めてで、互いにどのように振る舞うのかが最大の見ものだったこのレース。現地からその様子をリポートする。

 11月3日の米国西海岸時間の午前7時半。アーバン・チャレンジの開会式が始まった。
米国防省傘下の研究機関であるDARPAのトニー・テザー局長は次のように語った。「今日のレースでいったい何が起きるのか、全く予想がつかない」。


開幕式であいさつするテザー局長
 テザー局長の気持ちを理解するために、少しこのレースの歴史を振り返ろう。米国議会は約6年前に、「2015年までに軍事用地上車両の3分の1を無人化するべし」とのゴールを国防省に課した。これは1人の軍人を育てるためのコストが年々上昇しているため、米政府として可能な限り戦地での死傷者を減らしたいという考えに基づいている。

 国防省はこのゴールを達成するためには、迅速に米国内外の英知を結集する必要があると判断し、2004年に砂漠の中を無人ロボット車が駆け抜けるレース「Grand Challenge(グランド・チャレンジ)」を開催した。ところがDARPAの期待をよそに、このレースは1台も完走できないという無惨な結果に。そして翌年の2005年、賞金を200万ドルに倍増して第2回グランド・チャレンジを開催。大方の悲観的な予想に反して見事に5台が完走し、初出場だったスタンフォード大学が優勝した。初回レースに最長距離を走行したカーネギー・メロン大学(CMU)は、第2回には2台のロボット車を参加させ、いずれも完走したが、順位は2位と3位で、惜しくも賞金を逃した。

 これで砂漠の中を長距離、無人で走行できることは証明できた。しかし、「軍事ミッションはたいがい、市街地で始まるか市街地で終わる」(DARPA)ため、市街地の中を無人で走れるロボット車の開発を次の課題に決めた。

 世界中から89台が参加表明したが、このうち35台が最終予選に相当する「NQE(National Qualification Event)に出場する権利を獲得。6日間に渡るNQEの審査では、各ロボット車が1台ずつ、プロのレーサーが運転する他の車に混じって交差点の通過や車線変更などのテストを受けた。当初は20台までが決勝に進めるはずだったが、NQEをパスできたのは11台。そして、決勝では初めて、ロボット車同士がいっしょに走行するため、「何が起きるか分からない」のだった。

【決勝進出チームとレース結果】
チーム使用車ロボット名最終成果
カーネギー・メロン大学Chevy TahoeBoss優勝
スタンフォード大学Volkswagen PassatJunior準優勝
バージニア工科大学Ford Hybrid EscapeOdin3位
ペンシルベニア大学Toyota PriusBen完走
マサチューセッツ工科大学Land RoverTalos完走
コーネル大学Chevy TahoeSkynet完走
Oshkoshトラック自社製軍事用トラックTerraMax途中失格
Intelligent Vehicle SystemsFord F-250XAV-250途中失格
Team AnnieWayVolkswagen PassatAnnieWay途中失格
CarOLOVolkswagen PassatCaroline途中失格
Central Florida大学SubaruKnight Rider途中失格


そして、レースは始まった

 テザーDARPA局長の予想は的中し、レースは出だしからハプニングが起きた。まずはプロのレーサーが運転するフォードTaurusが37台、スタート地点となった広場を出発した。この後に続いて、CMUが11台のロボット車の中で1番に出発するはずだったのだが、スタートの時間になっても、扉が開いたまま、車の周りに人だかりができている。そのうち、2番目のはずだったバージニア工科大学が先に出発し、続いてスタンフォード大学、ペンシルベニア大学と次々に出発した。


スタート前に問題が発生したCMUの車
 各チームにはレース開始の24時間前に、「Route and Navigation Definition File(RNDF)」と呼ばれるファイルが渡されている。これはコースとなる模擬市街地の地図情報で、多数のチェック・ポイントの場所が示されている。決勝当日は、車の出発5分前にチームに「Mission Definition File(MDF)」がメモリー・スティックの形で手渡され、それをすぐに車の中のコンピューターにダウンロードする。

 MDFはミッションの内容、つまりどのチェック・ポイントをどういった順番で回るかといったリストで、ロボット車はそれをRNDFと照らし合わせて自ら走る道順を決めなければならない。1つのミッションは6-7のサブ・ミッションに分かれており、一連のサブ・ミッションを完了したらピットに戻り、次のミッションを取得する。ミッションは3件、最終的に合計19のサブ・ミッションを成し遂げ、ゴールとなる。

 各ロボット車の後にはプロのレーサーの運転による追跡車が1台ずつつく。つまり、最も多い時でロボット車と人間が運転する車の合計59台が模擬市街地を同時に走行する格好だ。追跡車に乗っている運転手は、自分が追跡しているロボット車が他の車に追突しそうになるなど危険な場合に、当該ロボット車を遠隔操作で緊急停止するスイッチを押す任務を担っている。

 8台目として出発したIVSの車は、デルファイ、フォード、ハニーウェルの3社の混成チーム。ピットを出発直後にどういうわけかハンドルを左に切り、別のピットに激突しそうになったところを、緊急停止スイッチで食い止められた。その後、IVSは再挑戦の許可を得て、最後に出発し、コースに出ることができた。

 一方、一時は「棄権か」と危ぶまれたCMUだが、無事に10台目として出発。どの車よりも勢いよくスタートを切った。後から分かったことだが、CMUのピットのすぐ近くに開会式の模様を映し出す大型受像機があり、その信号がCMUのロボット車のGPSシステムをダウンさせたという。大型受像機を切ったらGPSは復旧し、CMU側の問題ではなかったため、このアクシデントは減点にならなかった。


スタート直後に停止させられたIVSのロボット車 【動画】CMUが勢いよくスタート

交差点が見所

 各ロボット車は、6時間以内に3つのミッション遂行のために約60マイル(約97km)を走らなければならない。ここはもともと空軍基地だったのを陸軍が軍事訓練に使うようになった場所で、中央区域には家屋や建物もある。周辺の道は舗装されていない。この敷地の要所要所に合計約100人のDARPA職員が配置され、ロボット車がカリフォルニア州の道路交通規制法に則って安全に走行しているかをチェックする。違反があれば、交通違反切符を切られ、減点となる。


今回のコース

 記者や観客が実際にロボット車の走行ぶりを見学できるのは5カ所。1つはサブ・ミッションが終わるたびにロボット車が戻って来なければならない環状交差点だ。ここでは、ロボット車がストップ・サインで一時停止し、行き来する他の車に注意しながら、道に交わらなければならない。

 もう1カ所は駐車場。ロボット車はミッションごとに決められた駐車スペースに停まらなければならない。以下の動画はコーネル大学のロボット車が駐車するところ。同大学のロボット車はセンサー類をバンパーの下に隠していて、他にくらべてすっきりしていた。


【動画】ペンシルベニア大学のロボット車が環状交差点に入るところ 【動画】コーネル大学のロボット車が駐車するところ

 あとの3カ所はピットから遠くて足を運びにくく、その他の場所はもちろん入れなかったので、DARPAの航空機が上空から撮影する映像を会場テント内の大画面スクリーンを通じて楽しむしかない。

 11台すべてがスタートできたのは午前8時半過ぎだったが、午前9時段階ですでにいくつか問題が発生していた。11チームのうち、「Team AnnieWay」と「CarOLO」の2チームはドイツからの出場で、いずれも有名技術系大学のチーム。どちらのロボット車も、スタンフォード大学と同じフォルクスワーゲンのPassatを使用していたが、「CarOLO」の車が未舗装道路から飛び出し、動きが取れなくなっていた。DARPA職員のシャベルによって救出され、いったんはコースに戻ったものの、その後、マサチューセッツ工科大学(MIT)の車に衝突しそうになり、退場。一方、「AnnieWay」の車は広いフィールドの前でなぜか考え込み、長時間の停止。そのまま失格となった。


3つの大画面に映し出されたコースの映像 未舗装道路から飛び出し、動きが取れなくなった「CarOLO」チーム

 一番おもしろかったのは四つ角にストップサインのある交差点。日本では馴染みがないが、カリフォルニアでは信号機の代わりにストップサインのある交差点があり、法律上はストップサインのあるラインに最初に着いた車が一時停止した後に優先的に進める。ただ、現実には2-3台がほぼ同着になる場合が多く、私も初めてカリフォルニアに住むようになったときには、慣れるまでこうした交差点ではドキドキしたものだ。


【動画】ストップサインがある交差点での一幕
 右の動画は交差点での一場面。ナンバー13の「Knight Rider」が交差点で長時間、立ち止まってしまった。後ろから来たナンバー26の「Skynet」は待ちくたびれて追い越そうと反対車線に入った。そこへ交差点を右に曲がったナンバー15の「XAV-250」がやってきて、危うく衝突しそうになった。その後、私のカメラには撮れなかったが、「Skynet」が走り去ってから、まだ停止したままの「Knight Rider」をスタンフォード大学とCMUの車がきれいに追い越す場面があった。道中の停止車をどのタイミングで、どうやって追い越すかのプログラミングは今回のレースのカギを握っていたので、この映像が映し出されると会場から拍手が湧き起こった。


残り6台

 スタート前に会場の一番人気だったOshkoshの大型トラックは、コース内の建物に激突して退場。「最も低価格のロボット車」として評価の高かった「Knight Rider」はその後、民家に突入して失格し、出だしつまずいたIVSは交差点でも立ち往生して、退場した。レース開始から3時間がたって、残り6台となった。


Oshkoshの大型トラック コース内の建物に激突しそうになって退場

 MITは今回のアーバン・チャレンジが初参加だったが、出場車全体の中で最多のセンサー数を誇っていた。主要センサーのLIDAR(ライダー、Light Detection and Ranging)が1台、レーダーが16台、2Dスキャナーが12台、カメラが6台。これらのセンサーによる大量のデータを処理するためにIntelのクアッドコア・プロセッサーを搭載したノート型パソコンを10台使っていた。Land Roverの屋根にはエアコンまで載せており、車に追加した機具の総重量は900kgを超えるという。ちなみに、優勝したCMUはデュアルコアのノート型パソコンを10台、準優勝のスタンフォード大学はクアッドコアのノート型パソコン2台を使っていた。

 12時半。この日、最初で唯一のロボット車同士の衝突が起きた。停止したコーネル大学の車をMITが追い越そうとしたところ、急にコーネル大が動き出したのだ。あまりに急の出来事で緊急停止スイッチが間に合わなかったようだ。ただ、どちらのセンサーも無事で、両車ともレースを続行できた。


出場車両で最多のセンサーを搭載したMITの車両 コーネル大学とMITの衝突事故。双方ともに損害は軽かったため、レースは続行された

 CMUとスタンフォード、バージニア工科大学はさすがに前のグランド・チャレンジに参加した経験があることもあり、他の車と比較して走りが断然滑らかで、私が見た限りでは人間が運転しているのとほとんど変わらなく感じた。「レースの後に、参加したプロのレーサーたちに話を聞くと、彼らはあたかも無人車が生き物であるかのように語っていた」(テザーDARPA局長)という。

 1時45分に最初にゴールしたのはスタンフォード大学。間もなくCMUがゴールし、3位にバージニア工科大学が続いた。残り3台も完走したが、このうち制限時間の6時間を守れたのはペンシルベニア大学だけだった。

 今回のレースは時間を競うだけでなく、DARPAは違反チケットの数や種類などすべてを考慮した上で勝者を決めるとしていた。このため、結果の発表は翌日に持ち越しとなったが、レース終了直後に記者に囲まれたCMUの中心人物、レッド・ウィッテイカー教授は「うちの車はスピードを意識して最適化した」と強調していた。


【動画】バージニア工科大学のロボット車の走りぶり 最初にゴールしたスタンフォード大学の「Junior」 インタビューに答えるCMUのウィッテイカー教授

最後はスピードが勝因

 結果的に、最初にゴールした3台はどれも交通違反がなく、「3台のパフォーマンスは同等に優れており、合計走行時間で順位を決めることになった」(テザーDARPA局長)。走行時間がスタンフォード大学よりも約20分短かったCMUが優勝し、賞金の200万ドルを勝ち取った。2位のスタンフォードが100万ドル、3位のバージニア工科大学が50万ドルを獲得。CMUにとっては、2年前のグランド・チャレンジの雪辱を果たした格好だ。

 CMUの平均速度は毎時14マイル(22.5km)だったという。


200万ドルの小切手を受け取るCMUのウィッテイカー教授 優勝したCMUのチーム、車にもメダル 記者会見するCMUのウィッテイカー教授(左)とスタンフォード大学のトルン教授(中央)、バージニア工科大学のレインホルツ教授

 授賞式の後の記者会見で、DARPAのテザー局長は次のような“秘話”を披露した。「私は(最終予選に相当する)NQEを見て、CMUには『少しaggressive(攻撃的)すぎないか』と注意し、スタンフォードには『あまりにもconservative(慎重)すぎないか』と言ってやったのだが」。

 このコメントに対し、スタンフォードのチーム・リーダーであるセバスチャン・トルン教授は記者会見後、「人間だって、運転の速い人と遅い人がいる。6時間のレースで1位に20分遅れたことは全く気にならない。しかしレースは最終的にスピードを競うものであり、CMUに当然、勝つ資格がある」と語っていた。スタンフォードの車は、各サブ・ミッションを終えて環状交差点に戻ってきた際に、余計にもう1週、交差点を周回するようプログラミングされていた点が、時間のロスにつながった1つの理由という。


レースを機にビジネスも

 このレースを取材して一番の感想は、「3年半でここまで進歩するのか」ということだった。2004年の第1回グランド・チャレンジでは、1台も完走できなかったのみならず、最長走ったCMUの車でも走行距離はたったの12kmだったのだ。しかも今回は、砂漠のレースと違って障害物が動いている。パソコンの能力が3年間で高まっているのは当然だが、センサーの高度化、センサーから得られる大量のデータを処理するためのソフトウエアの改良が欠かせない。過去のレースで培った研究成果はすべて公開されており、「お互いから多くを学べた」(スタンフォード大学のトルン教授)のが大きい。

 DARPAのレースを起点に、新しいビジネスが生まれている点も印象的だ。例えば、完走した6台のうち5台が屋根に載せていた、障害物を検出するためのLIDAR。音響機器のサブウーファーのメーカーである
ベロダイン(Velodyne)社が、創業者の興味からグランド・チャレンジに出場するために開発した高性能LIDARを製品化したものだ。

 64本のレーザーを使ったユニットが回転し、周囲360度の3次元モデルを形成できる。今回のレースでは各チームに75,000ドルで販売したが、今後は製品群をそろえ、軍事・車両用だけでなく、ロボット業界に広く売り込みたい考えだ。

 また、3位のバージニア工科大学では、グランド・チャレンジに参加した学生などがソフトウエア開発のベンチャー企業、TORCテクノロジーズを設立し、今回のアーバン・チャレンジでもロボット車の開発に深く関わった。

 DARPAのテザー局長によると、「次のレースについては未定」。CMUのウィッテイカー教授は、「車同士が情報をやり取りして複数の車がチームとなって競うレースや、夜間や雨、雪といった悪天候でのレース、24時間の耐久レースなんてどうだろうか」と提案していた。


URL
  DARPA
  http://www.darpa.mil/
  Urban Challenge
  http://www.darpa.mil/grandchallenge/


( 影木准子 )
2007/11/08 18:16

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