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北九州市立大学が「手術用鉗子ロボット」開発


手術用鉗子ロボットと山本郁夫教授。取材は北九州市立大学の特別室で行なった
 北九州市立大学国際環境工学部山本郁夫研究室では、この度、産業医科大学との共同研究で「手術用鉗子ロボット」を開発した。

 公式発表前に特別に取材が許可されたので、新しく開発された手術用鉗子ロボットについてレポートする。


鯛ロボットの推進システムを使用した手術用鉗子ロボット

 北九州市立大学国際環境工学部山本研究室と言えば、「弾性振動翼推進システム」を使った魚ロボットで知られており、特に鯛ロボットはそのリアルさで知られ、海外からも注目されている。


学術研究都市ひびきのにある北九州市立大学国際環境工学部 2009年2月にロボスクエアで公開された鯛ロボット 2009年3月に北九州市小倉北区で開催されたロボットイベントで、フランスの「チャンネル5」のインタビューに答える山本郁夫教授

 その魚ロボットの推進に使われているものが、尾びれを動かす弾性振動翼推進システムだ。そして今回開発された手術用鉗子ロボットの駆動にも、その弾性振動翼推進システムが使用されている。また手術用鉗子ロボットが開発されることになったきっかけも、鯛ロボットのデモだったそうだ。

 日本外科学会会長だった長崎大学の兼松隆之教授が鯛ロボットのデモを見て、そのなめらかな動きに感動。またその推進システムが外科手術の何かに応用できるのではないかと直感した。

 そこで兼松教授は鯛ロボットの開発者である山本郁夫教授に、2008年5月に長崎市で行なわれた「第108回日本外科学会定期学術集会」でロボットについての講演を依頼。これに応えて山本教授は「ロボット工学の最前線」という題目で講演を行なった(内容は山本教授が今まで製作に携わってきたロボットの紹介だったらしい)。

 第108回日本外科学会定期学術集会で、この講演を聴講した産業医科大学第一外科の山口幸二教授は、魚ロボットに使われている弾性振動翼推進システムに興味を持ち、すぐに山本教授にコンタクトを取った(最初の話し合いは2008年6月とのこと)。

 なお、北九州市にある産業医科大学は、北九州市立大学国際環境工学部のある学術研究都市「ひびきの」から車で5分ほどの距離にあり、「近い」ということもコンタクトを取った理由の1つらしい。

 産業医科大学の山口教授は、山本教授に弾性振動翼推進システムを使った手術用鉗子ロボットの製作を依頼。北九州ロボットフォーラムの「市内発ロボット創生事業」の中の事業として予算が付き、開発が開始された。

 北九市立大学、九州共立大学、有限会社テックピーアール、木原鉄工所、財団法人北九州産業学術推進機構ロボット開発支援室が参加した「医療用ロボットハンド研究会」で開発が進められた(これに産業医科大学、バイオシグナル株式会社、ひびきのロボットクラブが協力した)。

 山本教授を始めとする医療用ロボットハンド研究会は、実際に手術の現場を見学させてもらうなど産業医科大学の全面的な協力を得て開発を進め、2009年3月に試作機が完成した。それが今回の手術用鉗子ロボットだ。


手術室を見学する山本教授(中央)(写真提供:北九州市立大学) 医療器具のレクチャーも受けていた(写真提供:北九州市立大学)

腸管手術に使用される手術用鉗子ロボット

手術用鉗子ロボットのシステム。周りにあるのは制御用のPCで、中央にあるのが手術用鉗子ロボット本体
 今回開発された手術用鉗子ロボットは、腸管手術時に腸管を把持するという極めて限定的に使用されるロボットだ。

 腸管手術では、手術の間、腸管を鉗子で把持し続け、また腸管内部の内容物が切断部分から漏れ出して細菌感染を引き起こさないように鉗子で挟み込む必要がある。しかも患者の血圧が上昇すると、腸管内の圧力も上がるので、鉗子の挟み込みを強くしなくてはならない。だが、鉗子の挟み込みを強くすると今度は腸管のその部分の組織が壊死してしまう危険性が生じる。

 そのため絶えず腸管を把持している鉗子に気を配らねばならず、手術スタッフにとって大きな負担となっていた。その負担を解消しようというのが、今回開発された手術用鉗子ロボットの目的だ。

 手術用鉗子ロボットは、弾性振動翼システムを使った可動する先端鉗子部分、先端鉗子部分を動かすためのモーター、モーターを制御するためのアンプ、システム全体を制御するためのコンピュータ(普通のタワー型パソコンを使用)から成っている。


実際に使われている腸管把持用鉗子と並べてみたところ。腸管把持用鉗子は段階的な力でしか腸管を押さえられない 上から見たところ。なお、鏡は単なるデモ用

心臓部のモーター 手術用鉗子ロボットの制御プログラム。簡単な操作で扱えるようになっている

 弾性振動翼推進システムを使った先端鉗子部分は、フレキシブルに開閉する。金属鉗子に比べて挟み込む力が柔軟であり、把持している腸管にダメージを与えにくい。

 先端鉗子部分を動かすためのモーターは、安全性も考慮し、産業用の高価なモーターを使用している。手術用鉗子ロボット自体の構造の単純さもあって、壊れにくく長時間の連続使用も問題ない。


先端鉗子部分。弾性振動翼推進システムは上部の黒い半月部分に使用されている 腸管に見立てたパイプを挟んでいるところ。当初は下部も弾性振動翼推進システムを使う予定だったらしい。今は歪みゲージを下部に取り付け、腸管を確実に挟んでいるかどうかをシステムに理解させる方針のようだ

【動画】腸管に見立てたパイプをつかんでいく先端鉗子部分 試しに指を挟んでみたところ。全く痛くない

 また手術中の患者の血圧を測定し、そのデータを監視することにより、先端鉗子部分の挟み込みの力を自動的に変えることができる。従って手術中、腸管を把持している鉗子に対して手術スタッフは余計な心配をしなくて済むことになる。それらのことにより、腸管手術における手術スタッフの負担を減らし、また患者の安全性も高めることができる。


「血圧の変化があった」と想定したデータを入力すると、先端鉗子部分が反応する 【動画】「患者の血圧が変化」というデータを読み込ませ、それに反応する先端鉗子部分

 手術用鉗子ロボットはまだ試作品で、実用化に当たってはもう少し改良をする必要があるという。

 たとえば先端鉗子部分は必ず手術の前に煮沸による消毒をしなくてはならない。そのため、先端を簡単に取り外せるアタッチメントタイプにする予定とのこと(弾性振動翼推進システムは煮沸しても問題ないらしい)。また、現在はデモが主な目的なため台に固定されているが、実際の手術で使いやすいような手術用鉗子ロボットの固定装置を製作する必要があるともいう。

 今回開発された手術用鉗子ロボットは、使用場面が限定されているロボットだ。しかし、それゆえに実用的であり、最終的な改良を加えれば実際に医療現場で使われていくことだろう。また手術用鉗子ロボットを小型化し、他の手術で使用できるようにしていく発想もあるという。


手術用鉗子ロボットと改良された新型鉗子
 開発された経緯(ロボット開発現場とは全く違う分野からの要求による開発)や、全く想定しなかったロボット技術の使い方(移動用として開発されていた弾性振動翼推進システムが、鉗子の開閉に使われる)など、ロボットの実用化について今回の事例は1つの指針になるのではないだろうか。

 それからこれはロボットとは直接関係ないが、手術用鉗子ロボット開発の過程で「患者を傷つけず使いやすい鉗子とは何か」を追求した結果、外科医師にとって使いやすい金属鉗子が開発され(医療現場には使いやすい金属の道具への要求があっても、金属加工技術はない。それに対してロボット開発チームは金属加工技術を持っていた)、現在商品化を目指している。これもロボット技術と異業種がコラボレーションしたことによる副産物だろう。


URL
  北九州市立大学国際環境工学部
  http://www.kitakyu-u.ac.jp/env/
  産業医科大学
  http://www.uoeh-u.ac.jp/JP/index.html
  財団法人北九州産業学術推進機構
  http://www.ksrp.or.jp/fais/

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( 大林憲司 )
2009/04/16 14:34

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