ゼットエムピーのロボット教材を教育現場で活用!
~第1回 実践! ロボット教育・研究フォーラムより
●ロボット教育は技術と技能の高度化人材育成に貢献
【写真1】「第1回 実践!ロボット教育・研究フォーラム」。ロボットや制御の専門家がたくさん参加していた |
7月22日、東京・北青山の機械産業記念事業財団(TEPIA)において「第1回 実践! ロボット教育・研究フォーラム」が開かれた【写真1】。このフォーラムは、ロボットを活用した教育・研究の進展を目的に開催されたもので、ゼットエムピーのロボット教材「e-nuvoシリーズ」を教育現場に活用するユーザーの事例が紹介された。
まずゼットエムピーの谷口恒氏(代表取締役社長)【写真2】が「ロボットは次世代を担う人材育成の一助となるもの。ロボット技術へのニーズの高まりとともに、8年間で約300校に1,500台のロボット教材が納入された。今後もロボット技術に精通する人材を育てるために、教育・研究現場でのロボット活用を広く公開していきたい」と挨拶した。
続いてユニファイ・リサーチの五内川拡史氏(代表取締役社長)【写真3】が登壇し、「ロボット教育の可能性」をテーマにフォーラム全体を見通す講演を行なった。五内川氏によれば「近年、産業用ロボットに対する人材育成の要請が高まっており、現場では生産システムの発案能力・総合能力・運用技能や、新しい技術の習得が望まれている」という。同氏は、大手のロボットメーカー・ユーザー、中堅企業におけるロボット導入の考え方や技術トレンドなどを示した【写真4】。
【写真2】ゼットエムピー 代表取締役社長 谷口恒氏の挨拶。本フォーラムの趣旨などを説明 | 【写真3】ユニファイ・リサーチ 代表取締役社長の五内川拡史氏。東京大学 産学連携本部 共同研究員でもある。かつて本誌のコラムも執筆されていた | 【写真4】大手企業と中小企業でのロボット導入に対する考え方や要請技術などには差異があることがわかる |
たとえば大手ロボットメーカーは「中量中品種向けロボットで知能化が進展している」とし、それに伴って大企業ユーザーもロボットをうまく活用しているが、「中小企業はロボットの維持・運用能力、正確な加工条件などが不足している」と指摘。また中小企業の場合、限られた予算内でロボットを導入する必要があり、仕様の見極めや多品種少量生産への対応を重視する傾向が強いという。
産業用ロボットの活用には、人がロボットに動作を教示する「ティーチングプレイバック機能」が重要となるが、人の脳の働きをシミュレーションして活用するような新しい動きも出ている。また情報を伝える「メディア型ロボット」や「エージェント型ロボット」、ロボット同士が互いに情報交換を行なう「群ロボット」のニーズも高まっているという。五内川氏は「今後はロボットが人の一部になる可能性も出てくる。ロボットの利用シーンは確実に広がっていくだろう」と説明した。
【写真5】ロボット教育は、高度技術の人材育成に貢献する。要素技術の横断と、現場の技術・技能、さらに数学、理学、心理学、哲学などの広い視野も必要になる |
さて、このような幅広い利用シーンでロボットを活用するためには、なんといっても教育が大切だ。ロボット教育では「ソフトウェア」「センサー」「半導体」「メカトロニクス」など、さまざまな要素技術を横断的に理解するだけでなく、現場における設計能力や、生産・運用技術なども求められ、それらを統合していく力も必要だ。さらに五内川氏は専門領域だけでなく、「数学、理学、心理学、哲学などの視野から、諸科学の知見を機械知として置き換えてロボットに適用することで、逆に機械知が諸科学へとフィードバックされるようになる」とした【写真5】。
ロボット教育が技術・技能の高度化に対応できる人材を育成し、知能化された高度なロボットへの進化を加速する。そして、このようなロボット教育の実践分野に、ゼットエムピーのe-nuvoシリーズも大きく貢献できるというわけだ。
●学生の反応がよい、e-nuvo Wheelの倒立制御実験
【写真6】成蹊大学 理工学部エレクトロメカニクス学科 柴田昌明准教授。e-nuvo BASICとe-nuvo Wheelを学生実験に採用したという |
次に成蹊大学の柴田昌明准教授(理工学部エレクトロメカニクス学科)【写真6】が「e-nuvo BASICとWheelを用いた学生実験」をテーマに同校の教育成果について発表した。
成蹊大学は、3年次前期の学生実験の1つに、自動制御とマイコン入出力に関するテーマを用意し、ここでゼットエムピーの「e-nuvo BASIC」と「e-nuvo Wheel」を利用しているという。週1回×2コマ(180分)の時間割で3週を1セットとして実験テーマを設定し、「ライントレーサー」「ロボット制御」「倒立台車の制御」「演算増幅器」(OPアンプ)、「パワーエレクトロニクス」「ラピッドプロトタイピング」など9つのテーマから4つを選んで学習させる形だ。このうちe-nuvoを利用するテーマは倒立台車の制御で、ひとり1台ずつe-nuvo BASICとe-nuvo Wheelが与えられ実習を行なうそうだ【写真7】。
具体的な内容としては、第1週でe-nuvo BASICを用いて、モータ、ポテンショメーター、エンコーダーなどの動作確認や、開発環境の使用方法を習得させる。第2週で同じくe-nuvo BASICを用い、マイコン-パソコン間のシリアル通信や、タイマ割り込みに基づくLED定時点灯、エンコーダーによるパルスカウント、P/PD/PID制御によるモータ位置制御の実習などを行なう。そして第3週では、e-nuvo Wheelを用いて、倒立状態の姿勢制御や、倒立状態での前進・後退動作の制御系設計、実機応答の確認、極配置に基づくゲイン計算などを行なうというもの。これらは、実験報告と考察をすべてレポート課題としてまとめて提出させるそうだ【写真8】。
また柴田准教授は実習を行なう上で、独自の指導テキストを執筆することで工夫を凝らしたという。もちろん付属テキストも充実していたが、授業時間を考慮して必要な課題だけにフォーカスして再編したそうだ。また倒立台車の制御は、現代制御理論をベースにした制御系設計が一般的。とはいえ学部3年生では難しいため、古典制御から説明することで理解できるようにしたという【写真9】。
【写真7】9つのテーマが用意されているが、このうちe-nuvoを利用するテーマは倒立台車の制御。ひとり1台ずつ実機が与えられ、実習を行なった | 【写真8】実験報告と考察をすべてレポートとしてまとめ、課題を提出させるという | 【写真9】学部3年生でも対応できるように、古典制御から理論を説明することで理解できるようにしたという |
柴田准教授は「本実習によって、すべての学生がロボット制御に関わる装置や開発環境の扱い方に慣れ、e-nuvo BASICからe-nuvo Wheelの制御までを段階を踏んで到達できた。特にe-nuvo Wheelの倒立制御が成功したときは学生の反応がよく、大きな達成感を得られたと思う」と述べ、e-nuvoシリーズを用いた学生実験の成果を強調した。
●独自プログラムによるe-nuvo WALKの歩行実験や競技会の開催も!
【写真10】近畿大学 理工学部機械工学科 原田孝准教授。e-nuvo WALKで機械工学系の創成教育プログラムを実施 |
ゼットエムピーでは二足歩行ロボット教材として、「e-nuvo WALK」も販売している。「e-nuvo WALK ver.3を用いた機械工学系の創成教育プログラム」をテーマに講演を行なったのは、近畿大学の原田孝准教授(理工学部機械工学科)【写真10】だ。
同大学では、平成20年度よりe-nuvo WALK ver.3を導入し、学部1年生を対象とした100人規模の創成教育プログラムを機械工学教育の一環としてスタートした。機械工学科の基礎ゼミにおいて、90分×6回、10人×10グループに分けてプログラムを実施。原田准教授は、e-nuvo WALKを教材として採用した理由について「機械工学の基本である物理や力学にこだわる教育をしたかった。e-nuvo WALKは、下肢のみを持つ12自由度のシンプルな構造で、機械工学の力学教育に格好の教材だ」と説明する【写真11】。
具体的なモーション作成には、まず近畿大学で開発したオリジナルソフトを利用した。このオリジナルソフトはロボットの姿勢/重心位置を計算・表示するもので、Excelを用いてデータを入力するとロボットの模式図が出るようになっている【写真12】。そこで倒れないポーズをつくり、次にゼットエムピーのモーションツール「Motion Editor」などでポーズを入力。さらにマイクロソフトのMicrosoft Robot Studioを利用して、物理シミュレーションも実施。一連の実習において、特に実ロボットをシームレスに動かせる点がよかったという【写真13】。
各学生は、まず二足歩行についてパラメータを変更し、片足上げ、ハイキック、静歩行、動歩行などの実習を行なう。レポートの提出はないが、製作日誌を付けさせ、それを採点の対象としたそうだ。またモチベーションを高める課題を与え、6週目にはリンボーダンスやハイキック、屈伸運動をさせ、さまざまな複雑な動きでバランスを取らせる「ロボリンピック床運動」の競技会を開催した【写真14】。パワーポイントによる見どころのプレゼンテーションと実演技で競技を行ない、プレゼン、芸術点、技術点、審査員点の合計で評価したという。
原田准教授は「ロボットに興味を持って機械工学科に入学してくる学生は多い。しかし、具体的に何がしたいのか答えられる学生はほとんどいない。今回の教育プログラムによって、ロボット技術の一端を垣間見て、2年生以降の専門科目に対する学習意欲が向上することを期待している」と述べた。
●制御の楽しみを知るためにe-nuvo WHEELを導入実験として利用
【写真15】慶応大学 理工学部 物理情報工学科の足立修一教授。e-nuvo WHEELのカリキュラムを監修している制御理論の専門家 |
午前中ラストの講演では、慶応大学の足立修一教授(理工学部 物理情報工学科)【写真15】が登壇し、制御理論家の立場からシステム制御工学やモデリング、同大学の制御教育などについて紹介した。
足立教授は、車輪型ロボット教材・e-nuvo WHEELのカリキュラムを監修しているが、e-nuvoとの出会いは2006年の機械学会関東支部大会でのことだったという。大学で研究室を立ち上げるに当たり、制御工学の教育研究用として面白い実験装置を探しており、e-nuvoに目が留まったのが始まりだった。その後、専門の制御理論面でゼットエムピーにアドバイスをするようになり、同社の教則本などを執筆することになったそうだ。
慶応大学の物理情報工学科は、応用物理系と電気電子系が融合した学科で、簡単に言うと現実世界(物理)と仮想世界(情報)をリンクさせ、それをモデリングや制御によって結びつけていく目的があるという【写真16】。いま制御の世界はモデルベースドコントロール(MDC:Model- Based Control)による設計が主流になりつつあるが、「もともとシステム制御工学は他の学問と異なり、横断的な概念思考の学問である」と説く。それは制御に関わる分野や対象が制限されないということだ。足立教授は「システム制御工学は動き(ダイナミクス)があるものすべてに対して適用できる学問。ダイナミクスは機械系であれば動力学、電気系であれば動特性であり、その動きを数学的に微分方程式で表現できる」とし、制御の面白さを強調した。
次に足立教授は、これまでの制御理論の流れについて簡単に整理して説明した【写真17】。いわゆる「古典制御」(PID制御)は現在でもよく利用されているが、1960年代ごろから研究が始まったものだ。その後、「現代制御理論」(状態空間法)が台頭し、次に1980年代ごろから「ロバスト制御」(H∞制御)が登場した。これは周波数領域の考え方が導入され、いわば古典制御の後継者的な存在となるものだった。そして1990年代から「モデル予測制御」の研究がスタート。こちらは、時間領域における設計手法を取り入れた現代制御理論の後継となるものだ。
【写真16】応用物理系と電気電子系の学問を融合させた物理情報工学科の立ち位置。現実世界(物理)と仮想世界(情報)をリンクさせ、それをモデリングや制御によって結びつけていく | 【写真17】これまでの制御理論の流れ。ロバスト制御は古典制御の流れをくみ、モデル予測制御は現代制御の後継となる。したがってモデル予測制御の理解には現代制御理論が必須だ |
そして現在はモデル予測制御による最適制御の時代に入ったという。いまモデル予測制御はプロセス制御系のみならず、自動車産業などのメカニカルシステム制御でも注目を集めるようになり、現代制御理論はモデル予測制御を学ぶ上での前提条件となった。今回のe-nuvo WHEELの制御もモデル予測制御キーがキーポイントになっており、不安定なシステムを安定化する制御として効果的だ。では、なぜモデリングが重要なのだうか? それはモデリング自体が、対象システムの振る舞いを特徴づける単純化されたモデルを構築するプロセスであり、「対象の本質的な部分に焦点を当て、特定の形式で表現したもの(近似)だからだ」という。
次に足立教授は現在の教育についても言及した。一般的な教育の基本は相手の目を見てコミュニケーションできる少人数制が理想で、教員が学生の名前を覚えられる30名程度が望ましい。とはいえ、いまの大学では少人数教育は難しいのが実情だ。理工学系では学生が研究室に配属され卒研を始めるか、あるいは授業における実験が少人数教育の場となる。同大学の物理情報工学科では2年、3年で学科に必要な線形代数や、フーリエ解析、ラプラス変換などの数学を学び、その後で古典制御から現代制御の初歩を学ぶ。また3年ではサーボ系や倒立振子の実験を行ない、モデリングと制御に関する選択科目も用意している【写真18】。
しかし制御に対する学生のイメージはそれほど芳しくないそうだ。そもそも制御工学は扱う数式が多く、抽象的で難解な議論が中心だからだ。そこで制御工学の教育では、抽象的な制御理論と具体的な制御実験をバランスよく配することが重要になり、e-nuvo WHEELのようなロボットが一役買うというわけだ。とにかく学部生のうちは制御という学問が面白いことを伝えられればよいので、その後押しとして利用しているそうだ。
ただし、学部生の講義や演習においては、あくまで手計算による理論展開を中心とし、MATLAB/Simulinkのような便利なツールはあまり使わないことにしているという【写真19】。足立教授は「手計算やCプログラミングなどで苦労したあとでMATLAB/Simulinkを使わなければ、その有り難味もわからず使う意味がない」と指摘。そして実際にMATLAB/Simulinkを本格的に利用するのは、研究室に配属されてからになるという。いま足立研究室では、e-nuvo WHEELを制御対象にして導入実験を行なったり、外乱オブザーバーによる安定制御や、dSPACEの実機テストを無線化するなど、新しい卒論テーマも検討しているそうだ【写真20】。
また足立教授は、現在の制御分野でキーワードとなる「カルマンフィルター」に関する話題についても触れた。もともとカルマンフィルターは1960年に提案された古い理論だが、再び注目されるようになった。米国のアポロ計画で採用され、広く知られるようになったカルマンフィルターは、「究極のモデルベーストアプローチであり、対象モデルがわかれば、フィルターと観測データに基づいてさまざまな状態を推定できる」という。ハードセンサーから少量の情報を抽出してモデルをつくり、それをソフトセンサー(状態推定器)として利用するなど、モデリング技術の発展によってカルマンフィルターを利用できる装置が登場した。現在、さまざまな産業分野にカルマンフィルターが適用され、線形から非線形まで新しいカルマンフィルターの展開も広がっている。
最後に足立教授は「いま世の中は大変な不況だが、実は不況の時こそ、制御の出番だと思っている。調子がよいときは何でもイケイケどんどんで進められるが、調子が悪いときには制御によってシステムを改善することが重要になる。企業の制御開発・研究者の活躍を期待したい」として講演を締めた。
●部品の買出しから始める芝浦工業大学の創成科目製作実験
【写真21】芝浦工業大学 工学部 工学部長および電気工学科教授の水川真氏。e-nuvo BASICのカリキュラム教本を総監修 |
午後のトップは芝浦工業大学の水川真教授(工学部長 工学部電気工学科)【写真21】が「エンジニア教育のための教材開発-芝浦工大&ゼットエムピーの事例-」をテーマに、ロボット開発事例とエンジニアリング教育の取り組みについて紹介した。水川教授はゼットエムピーのe-nuvoシリーズ用のカリキュラム教本なども総監修している【写真22】。教本開発では、同大の安藤研究室・水川研究室で実施しているマイコンゼミの経験が反映されているという。
もともと芝浦工業大学では、小学生から大学生までの幅広い層を対象としたロボット教材とプログラムを開発しており、この一連の活動に対してグッドデザイン賞(新領域部門)を受賞するなど、ロボット教育の実績が高く評価されている【写真23】。プログラムの種類は「小中学生向けロボットセミナー」「高校生向けライントレースロボット講座」「大学1年次製作実験」「大学3年次ゼミナール」などがあるが、本講演では主に電気工学科1年次の創成科目製作実験と、大学3年次のゼミナールについて言及。
水川教授は「いまは企業・大学の新人のほとんどがスキル不足。製品がユーザー化してしまった結果、中身を知らない人が多くなったからだ。モノ離れによって道具を使えない人も多い。モノづくり教育と体験が重要になっており、手を動かすことやモノづくりに興味を引いてもらうために、独自の教材とカリキュラム、プログラムを開発した」と説明。そのような中で、創成科目製作実験では毎週3コマ(4.5 時間)×45回で完結するカリキュラムを実施している。選択科目だが、最近は在籍者数の95%が受講する人気科目だ。
【写真22】水川教授が監修している、ゼットエムピーのe-nuvoシリーズ用カリキュラム教本の一例 | 【写真23】グッドデザイン賞(新領域部門)を受賞した芝浦工業大学の開発カリキュラム。小中高校向けから大学・社会人向けまで幅広い教材とプログラムを用意 |
具体的な内容はライントレースロボットの製作がメインだ【写真24】。秋葉原での電子部品の買出しから始まり、電子部品を使いこなせるようにユニバーサル基板を用いた手配線を行なうことで、回路部品の選択の幅を広げている。CPUにPICマイコンを利用し、初心者に配慮して部品ピッチを2.54mm規格以外は2倍間隔とすることで、はんだ付けを簡単にする工夫も凝らした【写真25】。
一方、ソフトウェアに関しては、マイコン動作を理解し、将来のロボット開発に必要な組込み系ソフトに対応できるようにアセンブラで開発するそうだ。ただし初心者が対象であるため、すべての命令と機能セットを利用せず、使用する命令も限定しているそうだ。また、あわせてC言語による同一アルゴリズムのコーディング例も併記し、通常のプログラム開発への導入を図っているという。
一方、3年次ゼミナールではマイコン制御による自律ロボット製作を通じて、知識の関連付けとシステム開発における問題解決の方法論を学習する。FPGAやPLCでハードウェアの勉強もさせ、マイクロマウスやライントレーサーに実装するH8マイコンの学習と自由課題をこなすそうだ。
水川教授は「ロボット/メカトロ教育のために、わかり易く教えやすい指導者教育プログラムを開発することが重要」とし、同大の教育・教材情報を共有することで、対象・年齢層別に教材をシリーズ化・体系していく方針だ。このほかにも「RTシステムを実現するための基盤技術として、今後RTミドルウェアとモデルベース設計が重要になってくる」と述べ、個々の部品を1からつくるのではなく、コンポーネントとしてインテグレートする必要性についても説いた【写真26】。
●新しいカーロボティクス・プラットフォームで導入コストを削減
【写真27】ゼットエムピー 技術開発部 部長の安藤秀之氏。新しいカーロボティクス・プラットフォームについて解説 |
次にゼットエムピーの安藤秀之氏(技術開発部 部長)【写真27】が登壇し、「これからの安全・環境技術の研究開発をサポートするカーロボティクス・プラットフォーム RoboCarのご紹介」というテーマで、リアルタイム画像認識などの環境認識機能を持つ新製品「RobotCar」について紹介した。具体的にRobotCarの基本機能から、ハードウェア・ソフトウェア、開発環境、用途まで詳しく解説した。
近年、知能化された次世代自動車は自律移動ロボットとさまざまな技術を共有しており、カーロボティクス分野での研究や教育プラットフォームのニーズが高まっている。そのような背景のもと、大学や企業などの制御理論学習や開発プロセス教育向け市場に向けて投入されたのが、このRoboCarだ【動画1】。
RoboCarは高性能な1/10スケールカーの車体に、自律移動ロボット技術を適用したもので、画像処理系にステレオカメラ、センサー系にエンコーダー、ジャイロ1軸、加速度センサー3軸、赤外線測距離センサー、レーザーレンジファインダーを装備。一方、車体の駆動系には、DCモータと専用ドライバー、メインコントローラー系には500MHzのCPUボードと512MBのメモリー、OSにLinuxを採用。通信系は無線LAN機能を有している【写真28】【写真29】。
またRoboCarは、MATLAB/Simulinkなどのモデルベース開発ツールを用いた高度な制御理論の実習に向いているという。組込みシステム開発の基礎学習、要求仕様から、制御系設計、シミュレーション、実装、テストまでの開発プロセスの体験や、現場での課題解決能力、システム全体を見通す判断力、問題を発見するPBL(Project Based Learning)などの向上に効果を発揮する。プラットフォームとPCがあれば実習をすぐにスタートでき、導入コストを大幅に削減できるメリットもある。RoboCarの主な用途には、障害物回避アルゴリズムの検証、自動運転や群制御・インフラ協調の研究、自動車と人間のインタラクションに関する研究などが考えられるという。
安藤氏は、RoboCarの機能を説明するために、いくつかのデモを実施した。たとえば、ステレオ画像で人間を検出して距離に応じて色を分ける距離計測【写真30】や、レーザーレンジファインダーによる障害物回避走行【写真31】、RoboCarに搭載されたカメラで白線を検知し、外側の白線に沿って走行するレインキープ走行のほか、Wiiリモコンをハンドル操作のように使って、Bluetooth経由でRoboCarをコントロールする「遠隔操作走行-Wii操作」、赤外線測距センサーで25cm手前の障害物を検知して停止する「障害物検知」なども紹介。さらに未公開の「遠隔操作走行-ドライビングシミュレーター」【写真32】についても披露した。
安藤氏は今後の展開について「RoboCarに搭載した画像認識モジュールを単体として販売し、移動体や監視システムなどで採用されるようにしたい。また高度な画像アプリケーションを開発し、従来と異なるロボット関連分野にも進出したいと考えている。このほか屋外用で利用する1/8スケール程度のプラットフォームの開発も検討中」と述べて講演を終えた。
●e-nuvo WHEELを用いて、ハイレベルな2つの協調制御を確認
【写真33】東京工業大学大学院 理工学研究科 助教の畑中健志氏。e-nuvo WHEELを用いて、ハイレベルな2つの協調制御を実現した |
東京工業大学大学院の畑中健志氏(理工学研究科助教)【写真33】は、自身が研究している先端研究レベルでのe-nuvo WHEEL利用例として「モバイル倒立振子e-nuvo WHEELを用いた協調制御」をテーマに、複数ロボットの協調制御実験システムや改良プロセスについて紹介した。
そもそも協調制御とは、ネットワークでつながれた複数のロボットに協調・協力させ、集団として1つの目的を達成する制御を指す。自然界では、鳥や魚の群れ行動、捕食動物の狩猟行動などで見られるように、至るところに協調制御が行なわれている。また工学的にも、近年はセンサーネットワークや複数ロボット集団などの組込システムへの関心が高まっており、移動ロボットによる環境保全、危険物の探索、施設の監視、防災など、幅広い応用が期待されているという【写真34】。
畑中氏は、協調制御アルゴリズムとして、複数のロボットを分散配置することを目的とした「被覆制御」と、ロボットの位置と姿勢を同期させることを目的とした「位置姿勢同期制御」に着目し、モバイル倒立振子ロボット・e-nuvo WHEELを制御対象にした実験システムを開発した。
被覆制御とは、各ロボットが近傍に自分の位置を送信し、自身の「Voronoi領域」(担当領域、縄張り)と、その面積・重心を計算することで、各ロボットを重心に向かわせる方法だ。一方、位置姿勢同期制御は、位置・姿勢ともに近傍との平均値に向かわせる方法である【写真35】。これらの制御を複数のe-nuvo WHEELを用いて実現するために、畑中氏は2つの実験システムを考案したという。
1つは、各ロボットがGPSやコンパスを搭載している状況を模擬したもので、各ロボットが絶対座標系でどの位置にどの向きで存在するかを知るシステムだ【写真36】。フィールド上部にカメラがあり、その画像情報をPCで処理し、抽出情報をもとに制御入力を計算。それを無線通信でロボットに送信する仕組みだ。当時はe-nuvo WHEELに通信機能がなかったため、LANTRONIX社の「Wiport」を利用した。また電源もバッテリ搭載型に改良して、コードレス化を図ったという。
ロボットが受け取った入力情報はシリアル通信でCPUボードに送られ、内部ループコントローラー(二輪車特性補償+倒立振子安定化補償+電流制御)の目標値信号としてフィードバックされる。この実験システムによって、各ロボットが時間の経過とともにフィールド内に分散配置される被覆制御の様子を確認できたという【動画2】。
もう1つの実験システムは、ロボットに取り付けられたセンサーだけでデータを収集するもので、各ロボットは他のロボットとの相対情報のみで入力を決定することができる【写真37】。自身の内界センサーのみをベースに行動を決定するため、自然界の協調行動をシミュレートするには、このシステムのほうが現実的な手法となるという。ここでは天井カメラの代わりに無線カメラを用いて画像をPCに送信するが、そのほかは前述の被覆制御システムと同一構成だ。本システムを姿勢同期実験に適用した結果、初期状態で異なるロボットの姿勢が、時間経過とともに同期する様子を確認できたという【動画3】。なおカメラは特徴点の画像情報を計測するが、単純に画像処理により相対位置姿勢を計算するものでなく、画像からそれらの情報を推定する視覚オブザーバーを用いたという。
●Maple Simによるe-nuvo WHEELのモデルベース開発
【写真38】サイバネットシステム アドバンスソリューション統括部 モデルベース開発推進室 技術グループの岩ヶ谷崇氏。Maple Simによるモデルベース開発例を説明 |
次にサイバネットシステムの岩ヶ谷崇氏(アドバンスソリューション統括部 モデルベース開発推進室 技術グループ)【写真38】が、「Maple Simによる数式モデルを用いたモデルベース開発」をテーマに、プラントモデリングから実機検証までの一連のソリューションについて紹介した。
モデルベース開発とは、構想・設計・試作・検証といった開発プロセスを数理モデルに基づき実施する設計手法で、プラント(制御対象)/コントローラー(制御系)のモデリングを行ない、そのモデルを基に解析・シミュレーションを実施するもの。その結果が良好ならば、モデルから組み込みコードを自動生成し、実機にソフトウェアを実装するという流れになる。モデルベース開発のメリットは、シミュレーションによって仮想実験が行なえるため、試作開発の回数が減り、その結果としてコストを低減できる点だ。また試行錯誤ではないシステマティックな設計が行なえるため、手戻りも少なく、勘や経験といった属人性を排除することが可能だ。さらに限界性能が掌握できるため、性能や安全性も向上する。
具体的なe-nuvo WHEELの制御開発の流れは、まずWHEELの物理的なプラントモデルからMaple Simを利用してモデルの線形化と解析を行ない、それをエクスポートしてMATLAB/Simulinkに取り込み、コントローラー設計とシミュレーションを実施するというもの【写真39】。その後、実装用モデルを作成し、Speedgoat社のリアルタイムシミュレーターに実装し、実機検証を行なう【写真40】。
前述のプロセスでMaple Simが主に担当するのはプラントモデル開発の部分になる。MapleSimは、自動車業界などで注目を浴びているモデルベース開発ツールの1つで、GUIによる直感的な操作で簡単に利用できる。複数のライブラリーからブロックを選んでワークスペースへドラッグ&ドロップして、ブロックを結線することでモデリングが可能だ【写真41】。Maple Simの大きな特徴は、数式ベースで機構・電気・熱・制御・信号など複数の物理領域にまたがるプラントモデリングとシミュレーションが行なえる点だ。
従来のプラントモデリングでは、あらかじめプラントの動特性を数学的に(微分方程式として)正しくモデル化し、その方程式モデルを信号フローによって記述する必要があった。実はこの計算の導出過程は手計算や研究者の暗黙知に頼ることが多く、ボトルネックとなる部分だった。そこでMaple Simでは、この複雑な微分方程式を自動生成し、冗長な変数を取り除いたり、数式を非線形から線形に近似したり、低インデックス化して、簡略化したプラントモデルを提供する役割を果たす【写真42】。
さらにMaple Simの生成モデルはMATLAB/Simulinkブロックとしても対応する。前述のように線形化された数式から、数式オブジェクト、伝達関数や状態空間のオブジェクトが生成され、状態空間マトリクスが算出される。このマトリクスをMATLAB/Simulink側へ取り込んで、最適レギュレーターの設計を行なってから、状態フィードバックゲインを求め、シミュレーションが行なえる。もちろんコントローラーの挙動は線形モデルだけでなく、非線形モデルにも対応する【写真43】。また、このシミュレーションはMATLAB/Simulink上のみならず、Maple Sim上でも可能だ。シミュレーションを行なった結果がアニメーションとして表示され、可視覚化された挙動として見られる【写真44】。
実機検証はSpeedgoat社の検証用ハードウェア「Real-time target machine」を利用する【写真45】。ここではMATLAB/SimulinkでSimulinkモデルを作成し、「Real-time Workshop」でコードを生成後、「xPC Target」を使ってコードを実装することになる。ターゲットマシン内にはI/Oモジュールが配置されており、それらを経由して実機とのインターフェイスをとる形だ。
岩ヶ谷氏は、倒立二輪ロボット制御の実機検証として、e-nuvo WHEELのSimulinkモデル【写真46】を作成し、実機検証する様子を示した。ターゲットマシンにはディスプレイが接続されており、モデル内の信号の挙動を確認できるようになっている【写真47】。
最後に岩ヶ谷氏はモデルベース開発の課題と方向性についても触れた。モデルベース開発では、モデルを詳細に定義すればよいというものではなく、逆に詳細すぎるとシミュレーション計算コストが掛かり、算出されるコントローラーの次数も高くなるし、全体の見通しも悪くなる。「何事もバランスが大事で、アプリケーションに合わせて、モデルの詳細度を決める必要がある。今回のようなe-nuvo WHEELの制御設計ではコントローラーの次数が重要になるので、それに合わせてモデルの詳細度を決定すべき」とした。
またモデルベース開発では、詳細なモデルで多数のシミュレーションを繰り返し、最適な制御パラメーターを算出するというようにシミュレーションに目が行きがち。だが、実際にはモデル化の誤差もあるし、シミュレーションだけでは設計できないという事実もある。この点を踏まえ、岩ヶ谷氏は「モデルベース開発の目的は、簡略化されたモデルでプラント(制御対象)の本質的な仕組みを理解することだ。モデルベース開発でなければ見過ごしてしまうプラントの挙動を確認し、プラントの限界性能を把握できる」と説明し、講演を終えた。
●RoboCarやセンサー実験用の教材が加わり、ラインアップが充実
【写真48】ゼットエムピー 営業部 部長 西村明浩氏。e-nuvoの製品全般について紹介した |
最後の講演は、ゼットエムピーの西村明浩氏(営業部 部長)【写真48】が登場し、「ロボットを活用したエンジニア育成ソリューション ゼットエムピー e-nuvoシリーズのご紹介」をテーマに、e-nuvo製品全般について触れた。
e-nuvoシリーズは、大学、高専、工業高校といった教育機関だけでなく、自動車、家電メーカーなど、教育・研究現場で広く活用されており、経済産業省の「今年のロボット大賞2008優秀賞・中小企業基盤整備機構理事長賞」を受賞しているロボット教材の草分け的な存在だ。従来からの車輪型ロボット教材「e-nuvo WHEEL」、モータ制御学習キット「e-nuvo BASIC」、二足歩行ロボット教材「e-nuvo WALK」、アーム型ロボット教材「e-nuvo ARM」に加え、オールインワンタイプ・センサー学習教材「e-nuvo SEN」やカーロボティクス・プラットフォーム「RoboCar」もリリースし、全6種類の教材が揃っている【写真49】。
西村氏は、このうちの「e-nuvo SEN」についてデモを交えて詳しく説明した。e-nuvo SENは、20種類の着脱式センサーと3種類のアクチュエーターを搭載し、1台でセンサー入力から出力までの実験に対応するユニークな教材だ【写真50】。超音波・湿度・電流・明るさ・ 温度・赤外線・ポテンショメーター・プッシュボタン・リミットスイッチ・ ソーラーセル・磁気・ガス・傾き・圧力・マイク・近接スイッチ・測距などのセンサーを着脱でき、LCD、LED、7セグメントLEDでセンサー値を表示したり、DCモータ、RCサーボモータ、ステッピングモータをセンサーに合わせて動作させることも可能だ。またブレッドボードも付属し、回路を組んで、さらなる理解を深めることもできる。
このほかにも西村氏は、同社で実施している企業研修メニューについて触れた。古典制御・設計実習、現代制御・センサー、組込みC言語実習/モータ制御:基礎編、組込みC言語実習モータ制御:PID制御器実装編があり、要望に応じてカスタマイズ研修にも対応するという。最後に西村氏は「今後もロボット技術を使って、楽しく便利な製品と、教育、産業に貢献できるソリューションを生み出していく」とし、講演を締めくくった。
2009/8/28 18:39