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日伊共同研究拠点「ロボット庵」が開業
~「身近なロボット」シンポジウムレポート


イタリア大使 マリオ・ボーヴァ氏
 3月23日、「日本におけるイタリア2007」の一環として「身近なロボット」と題されたシンポジウムがイタリア文化会館にて行なわれた。

 早稲田大学は2003年にヒューマノイドとホームロボットの日本イタリア共同研究室「ロボ・カーサ」を発足させ、大久保キャンパスに設置している。名目上の共同研究室ではなく、相互に人材や情報のやりとりを行ない実質の研究が行なわれているという。

 今回逆に、イタリア側に新たなヒューマノイド・生物医学ロボット工学の日伊共同研究所「ロボット庵」を開くことになり、合わせてシンポジウムが開催されたもの。

 はじめにマリオ・ボーヴァ(Mario Bova)イタリア大使が挨拶に立った。大使は、ロボット工学やナノテクそのほか先端科学技術分野において日本とイタリアは既に密接な協力関係にあると述べ、「継続こそが力。継続がより大きな力をもたらす」とシンポジウムを開会した。


日本とイタリアにおけるロボット工学の誕生と未来

日本学術振興会監事 井上博允氏
 最初に、「日本とイタリアにおけるロボット工学の誕生と未来」と題したセッションが行なわれた。

 始めの講演者は日本学術振興会監事 井上博允氏。「ロボティクス:過去、現在、未来」と題し、「ロボット」という言葉がテクニカルタームになっていなかった1965年ごろから今日に至るまで、東京大学での井上氏自身の研究歴を交えて講演を行なった。

 井上氏は「人工の手」で手探りでピンをはめたり、力制御を行ないながらクランクを回す研究から始めた。コンピュータを使った制御の走りだ。ロボットには手や知能、目など多くの技術が必要であり、また、それを1つにまとめあげなければならない。井上氏はステレオビジョンやオプティカルフローの研究を例にロボット技術の課題を説明した。

 後にHRPのリーダーを務めた井上氏だが、最初は人間型ロボットには興味はなかったという。だが研究生活の最後には人間型ロボットを作るのもいい、と思ったのだと語った。

 井上氏らの研究室ではロボットを人間型のコンピュータだと捉えて研究を行ない、歩行にはあまり重きをおかなかった。井上氏は著名なロボット研究者であるMITのマーク・レイバート氏がロボットを操縦したり、ロボットがビジョンでボールの動きを目で追って歩行する様子などを紹介した。

 井上氏の最終講義のときには、ロボットH7がクランクを回すデモが行なわれたという。単に立ってクランクを回すだけではなく、腰を入れて回す、歩きながら回すなどいろいろな回し方が披露されたそうで、それは「学生たちからもらった最大のプレゼントだった」と語った。

 また研究プラットフォームとして使われているロボット「HRP-2」での実験の様子を見せ、ロボットの研究もロボットを作ることなく即座に実行できるようになった、将来のロボットは車よりもずっと安くなると述べた。


 HRPでは産業として役に立つロボットアプリケーションの技術的問題点の研究も行なわれた。また、東大・池内研究室での試みのように、人間の踊りのような動きをこれまでにない形で保存することもできる。

 2005年の愛知万博(愛・地球博)では30億円ほどの金額が投じられ、ロボットプロジェクトが行なわれた。実用化ロボットプロジェクトでは半年間の実証実験、プロトタイプロボット展では2週間、65種類のロボットが未来の街並みをイメージしたスペースのなかで展示された(過去記事参照)。

 日本は少子高齢化時代を迎えている。今後25年間で労働人口が1,300万人減少する。介護を受ける人は500万人増える。いっぽう、高齢者だが労働意欲のある人は1,000万人増えると考えられている。彼らを機械でサポートできるのではないかというのがロボット工学の一番大きな課題だという。ロボットは高いQOLを与え、パートナーとなる機械になる可能性があり、それを実現するなら大きな工業が誕生することになる。21世紀は自動車産業とコンピュータ産業が融合したかたちでロボットが産業にならないと危ういという。

 ロボットの発展の形は、いわゆるロボットのほか、インテリジェントな空間、またインテリジェントな車といったかたちで発展していくのではないかという。要素技術はいずれも共通しており、21世紀には大きな産業になるはずだと述べた。イタリアは良いデザインの機械を作っているので、そこに期待したいと述べた。最後にITとRTを融合したIRTがもっとも有望な分野であると強調し、東大のIRTプロジェクトを紹介した(過去記事参照)。「ロボットは社会をよりよくし、人とパートナーシップを共有することが求められている」とまとめた。


1969年当時のロボット研究の様子 井上氏が研究開発してきたロボットの歴史 ロボットをジョイスティックで操作するマーク・レイバート氏

【動画】クランクを回すロボット 研究用プラットフォームとして用いられているHRP-2 愛知万博でのロボット

聖アンナ大学院大学 パオロ・ダーリオ氏
 聖アンナ大学院大学(Scuola Superiore Sant'Anna)のパオロ・ダーリオ(Paolp Dario)氏は、まず、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏が「サイエンティフィック・アメリカン」誌(日本版は「日経サイエンス」)で、ホームロボットが家庭にやってくる、と述べたことを紹介した。イタリアでも徐々にそのような考え方が受け入れられつつあるという。

 続けて、イタリアのロボット研究の概略を幅広く紹介した。ロボットはオートメーションの延長として始まった。イタリアでは1970年代から開発が始まり、世界で3番目の産業用ロボット生産国となっている。また宇宙ロボット分野でも実績があるという。

 '80年代末から'90年代はじめにはロボティクスの国家プロジェクトも行なわれた。産業用ロボット、海底用、宇宙用、手術用や医療用ロボットなど多くのロボットが開発されたという。ヒューマノイドは重要視されていなかった。だが近年、障害者支援用ロボットの開発に力が注がれるようになってきた。ヒューマノイドというよりは家具のようにデザインをした移動マニピュレータが開発されている。

 ロボットは機械仕掛けの人形から始まった。ダヴィンチは1495年に人間型ロボットのアイデアを出しており、イタリアもこれからヒューマノイド研究に加わろうとしている。また最近では異分野横断的なプロジェクトがヨーロッパで始まろうとしているという。イタリアは国際会議でも存在感を示しており、そのなかでリーダー的な存在になれるのではないかとダーリオ氏は述べた。「ニューロロボティクス」の研究もイタリアでは盛んに行なわれているという。200人以上の博士を集めた神経科学とロボティクス、ナノテクの研究の中心となるような研究所も設置されているそうだ。

 ダーリオ氏は「イタリアは学際的な分野で研究を進めているパイオニアとなっている」と述べた。人間をさまざまな機能の融合と考えてバイオロボティクスの研究を進めているという。サンディーニ博士は人間の認知発達研究のためにロボットを用いている。また、医療用カプセルやリハビリ用ロボットなどの研究例も紹介した。

 イタリアではロボットの開発発展に脳神経科学を応用しようという研究は非常に盛んで、例として「うつぼ型ロボット」や、手の動きの研究を紹介した、

 またイタリアはロボット倫理の研究も盛んだという。ロボットは社会にどのように受け入れられるか、技術者はどのように技術倫理を考えるべきかといった研究テーマだ。21世紀の学際的なエンジニアはどのようにあるべきか、考えているという。

 イタリアはロボティクスにおいて大きな役割を果たしており、今後はサービス、安全、治安、清掃の分野に乗り出していくという。またヒューマノイド分野や介護分野の市場規模も大きなものだと期待されているそうだ。

 ダーリオ氏は、イタリアの伝統と技術を日本と結び、単に技術だけではなく問題の分析も共同で行なうことで助けになるだろうと講演をまとめた。


イタリアのホームロボット研究。人間には似せないようにしているそうだ ダ・ヴィンチによる人型ロボットのアイデア 認知発達を調べるためのロボット

【動画】ウツボ型ロボットの研究 ゴミ箱ロボット ヒューマノイドの市場も軽視しているわけではないという

勲章を授与された早稲田大学総長・白井克彦氏
 ここでイタリアと学術交流を行なってきた早稲田大学総長の白井克彦氏に対して、イタリア大統領から勲章が授与された。白井氏は音声合成の専門家でもある。白井氏はこれを機会にさらに交流が深まっていくことを期待したいと語り、「ロボカーサ」設立等について触れた。特に情動表出ロボットには共同研究の成果が大いに活かされているという。

 「イタリアと日本がお互いに影響しあい、それが全ての科学コミュニティに影響をもたらすことを祈りたい」と述べた。


ロボットと人間:人間のような身体、頭脳、感情をもつヒューマノイドロボットの開発

大阪大学 浅田稔教授
 次のセッションは「ロボットと人間:人間のような身体、頭脳、感情をもつヒューマノイドロボットの開発」。5人の講演が行なわれた。

 大阪大学の浅田稔教授は「共創知能(Synergistic Intelligence)」の研究について講演した。共創知能は、ロボティクス、神経科学、発達科学などの研究成果を合わせ、われわれ人間がどのようなものであるかを理解すると同時に、それを新しい設計論とすることを目指している。核になるのが認知発達ロボティクスである。人間の場合は他者と関わりながら、埋め込まれた能力が発達していく。環境的な要因と、ロボットそれ自体の構造によって知能の実現を目指すのが認知発達ロボティクスである。

 問題はどこから埋め込みでどこから発達によるものなのかである。大きなテーマの1つに言語獲得がある。シンボルがどこから発達するのか、その本質は何か。赤ちゃんは能動的に自分で環境に働きかけることで発達していくと考えられるようになっているという。共創知能のプロジェクトではロボティクスの研究者と脳科学の研究者が共同でこの謎に挑んでいる。

 1つの例として、浅田氏は、赤ちゃんが言葉を獲得していく過程を研究するためのロボットを紹介した。赤ちゃんは自分自身の声の出し方を知らない。だが母親のマザリーズと呼ばれる呼びかけを聞いているうちに、それと似たような音を返すようになる。それを自己組織化するニューラルネットワークで真似たものである。機構は人間ののどとは似ていないが、似たような声を出すようになる。さらに赤ちゃんは母親の唇も見ている。その唇の形の動きも真似られるという。

 従来の神経科学はできあがった脳の研究をしているが、赤ちゃんの場合は大人の脳と同じ部位で処理しているとは限らず、脳の発達の計算モデルを立てながら研究を進めていくことが難しいが、そこに一番興味を持っていると述べた。


母子のやりとりで母音発音を学ぶロボット 【動画】赤ちゃんが唇の動きを真似るように、唇の動きも模倣できる

名古屋大学教授 福田敏男氏
 「イタリアの大いなる友人」とチェアから紹介された名古屋大学の福田敏男教授 は「ヒューマンサポート工学」と題して講演した。

 ロボット工学はナノからマクロまでさまざまなスケールを扱う技術である。応用分野も衣食住、健康、安全安心など多岐にわたる。ヒューマン・マシン共生とは、ロボットに重いものを持たせて人間が方向だけ指示するとか、多数の人間と多数のロボットの協調、義手義足、さらには生体内でのロボットなど人間との融合技術のことを指す。物理的、技術的、情報的にサポートすることを目指している。特にロボットは情報だけではなく物理的支援ができる点がITとは違う。

 福田氏は医療応用の例として、1/100mm精度で作られた動脈瘤のモデルを使い脳血管手術の評価を行なうための人間のシミュレータロボットを紹介した(過去記事参照)。

 また、顔ロボットの研究や、枝渡りを行なうロボットを使ったシナリオを自ら作り出すロボットが今後は必要だと述べ、環境に応じてさまざまな移動形式を取り入れたマルチロコモーションロボットについて紹介した。同じロボットが、あるときは4足、あるときは枝渡り、あるときは2足で歩くといったことが必要だという。

 またさらに分子、細胞、組織や器官のレベルの知見を取り入れ、工学の分野で構築しなおしたバイオロボティクス研究の一端を紹介した。福田氏はナノデバイスやバイオチップ、人工網膜などの研究を行なっている。これからのロボットは技巧サポートやバイオ、ナノなどいろいろな技術が必要となっていくという。スケールは違うしスケール効果はあるが、ロボット工学は非常に応用が広く、基本的な制御技術は共通しており違和感がない、そこが一番面白いところだと語った。


ヒューマンマシン共生 マルチロコモーション・ロボットの提案 将来は細胞に手を入れるシステム・セル・エンジニアリングへと医療は発展する

早稲田大学・高西淳夫教授
 早稲田大学の高西淳夫教授は、「ヒューマノイド・ロボットと情動脳科学」と題して講演した。高西氏はまず、日本で最初のイタリアレストランが意外なことに新潟で始まったことを紹介して講演を始めた。

 愛知万博では多くのロボットが一般の人を楽しませた。また日本では多くのパートナーロボットが登場し、注目を集めている。早稲田大学の故・加藤一郎氏は「鉄で歩く機械が二本足で歩くわけがないからやめろ」といわれていた時代から研究を進め、早稲田大学では今日、100人を越える研究者が集まるヒューマノイド研究所が運営されている。イタリアとは「ロボカーサ」というかたちで共同研究が進められている。また、COE、スーパーCOEプロジェクトでもロボット関連プロジェクトが進められているなど、研究が盛んに行なわれている。

 高西氏は「針供養」の様子を紹介した。日本人にとっては当たり前の風景である。しかし、使った道具に感謝をするというメンタリティは欧米に比べて特殊だという。また音の認知が日本人と欧米人で違うのではないかという研究は、一般にもよく知られている。これは人種や民族で違うわけではなく、日本に幼いころから居住すると、そのように発達するのだという。日本には12,000くらいの擬音語(オノマトペ)があるが、英語には3,000くらいしかない。これがどのような意味を持つのかもまだ分かっていない。将来、脳研究が発展すれば分かってくるだろうという。

 高西氏は人間型ロボットで脳科学や人のメカニズム研究に貢献できないか、そうすれば高齢者社会を支える医療機器開発にも役立つのではないかと考えているという。

 早稲田大学のWABIAN-2は、日立製作所の高齢者や障害者用の歩行支援機のテストを行なったりしている。最近は脳梗塞で片麻痺になった人の動作を真似る研究を行なっているという。そのほかロボット技術を社会に役立てるために人を乗せて歩行できる二足歩行ロボットそのほか、また、ロボットに対する人の脳のアクティビティ研究などを紹介した。高齢者の生きがいをサポートすることを目的にロボットの研究を始めたところだという。


早稲田大学のヒューマノイドたち ロボットを使った、歩行補助機械の評価実験の様子 公道でのロボット歩行実験

ロボットで脳梗塞患者の動きを模倣する研究も始まった 子どもたちをWL-16に載せるデモも行なっている 【動画】WL-16に乗るテムザックの高本社長

ジェノバ大学 ジューリオ・サンディーニ氏
 ジェノバ大学のジューリオ・サンディーニ(Giulio Sandini)氏はヒューマノイド研究のアプローチと進行中のプロジェクト「グリンプス」の開発について述べた。

 サンディーニ氏は、以下のように語った。ロボットは身近に出現しつつある。だがロボットの「マインド」、ロボットの知能はまだ足らない。何が足らないのか。大きな障害は不確実な環境での頑健性や学習能力、社会的な知性、基本的な知覚能力などである。そこで研究の目標は人工的なインタラクションシステムの構築である。前もって設計されたシステムに知能的な可能性を与えるのは難しい。システムは環境と相互作用して自発的に知能を獲得していくことが期待される。しかしこのような相互作用能力を持たせることは難しい。たとえば人間と目を合わせてスキルを学ぶことができるロボットはない。不確実な環境のなかで人間のように活動できるロボットを開発することが目的である。

 たとえば鉛筆と傘があったとすると人間はそれぞれに違う行動をする。人間の認知はアクションと結びついている。ものとの相互作用は人間の記憶のなかに刻み込まれている。

 サンディーニ氏は「Babybot」というビジョンハンドシステムを紹介した。ロボットはビジョンで物体を認識し、手の把持力を調節する。発展させたのが「James」で、これはマニピュレーションのスキルを学習していく自由度7の腕を持つロボットだった。

 「RobotCub」は多くのラボと共同研究を行なっているプロジェクトだ。現在、「iCub」という身長104cm、53自由度、触覚センサーを全身に持たせたヒューマノイドを開発中だという。

 将来的にはライフサイエンスと材料科学、ロボティクスを融合してヒューマノイドテクノロジーとして研究を学際的に進めていく。そのためには国際的な協力が必要だと述べた。


Babybot James RobotCubコンソーシアム

53自由度、全身触覚を持ったロボット「iCub」を開発中 頭部は表情を持たせる

ロボットの上半身 全身

早稲田大学 橋本周司教授。早稲田大学ヒューマノイド研究所所長
 「少し先のことを考えてみたい」という早稲田大学の橋本周司教授は「ロボットを育てる」という演題で講演した。

 橋本教授は、機能と構造が一体となっている「からくり」はデザインの極致だと考えているそうだ。人間と相性のいいロボットを作るためには、トップダウンで組み込んでいくやり方と、作るのではなく育てる、ボトムアップのやり方がある。いまや機械は複雑化している。コンピュータはコンピュータの助けなしでは作ることができない。またソフトウェアの世界では、不完全な製品を出荷することが当たり前になってしまっている。作ったものを完全にテストすることは不可能な時代になっている。完全さよりもある程度使えることがより重要になっている。そこで新しい作り方、環境のデザインを模索しているという。

 どういうことか。細かいところを作ることはあきらめ、目的を持って作るというよりも、できたものをどう使うかという知恵のほうが重要だと橋本氏は語る。その例が「農業」である。農業は環境は作るが作物そのものをコントロールすることはできない。「焼き物」も同様で、環境はコントロールできるが、直接、製作物をいじることはできない。これは「作る」というより、「育てる」というほうが適当だという。

 具体的には、メタな学習アルゴリズムは作るが細かいコードは書かない、といった手法が考えられる。もしロボット自身が生き延びる戦略を学習することができるようになれば、ロボットの構造が変わったときにも自分で新しい戦略を編み出してくれることが期待できる。

 橋本氏は一例として、太陽電池を使った芝刈りロボットを示した。効率は悪いが、自分で充電しながら、ある程度芝を刈ってくれるというものだ。自律的に歩行パターンを学習するロボットや、自動的にアッセンブルする研究も行なっている。

 また化学反応を使ったロボット開発の研究も行なっている。知能系も化学反応を使い、知的な動きを使うシステムを構築したいと考えているという。橋本教授は、ゲルに化学反応系を組み合わせた例を示し「ケミカル・ロボティクス」の可能性を示した。

 最後に、これからはロボット倫理や、アシモフの「ロボット三原則」を越えるロボットを作ることが必要になるのではないかと述べた。アシモフの3原則は人間が中心となっている。だが、それはある意味では誤りで、将来のロボットは、それを超えていかなければならないという。人間は自分たちで物を作ってきたが、これからは少し引き下がって自分たちはどういう存在なのか考えるべきであり、3原則を乗り越えない限り、本当の意味でのパートナーとなる人間型ロボットは作れないだろうという。


早稲田大学でのロボット研究の歴史 太陽電池を搭載し自分で充電しながら動くロボット 【動画】ケミカルロボット

人間のためのロボット:ロボットシステムの生物医学的応用

聖アンナ大学院大学 パオロ・ダーリオ氏
 次のセッションは「人間のためのロボット:ロボットシステムの生物医学的応用」。

 聖アンナ大学院大学のパオロ・ダーリオ(Paolo Dario)氏は、人間を医療現場で助けるロボティクスについて講演した。かつて作家アイザック・アシモフはSF「ミクロの決死圏」である種の予言をした。将来の外科手術は現在のような開腹手術から、内視鏡ロボットを経て、細胞手術へと進化していくだろうという。現在の内視鏡はまだ痛みを伴うが、まるごと内視鏡ロボットを身体内に入れてしまえば無痛手術が可能になるという。次の段階がバッテリや制御装置、駆動装置をまるごと内蔵したカプセル型の内視鏡である。

 現在、ダーリオ氏が開発中のカプセル型内視鏡には8つの足がついており、それを動かすことで前進していく。今後はカプセルの中にさまざまな医療機器を入れていく予定だ。

 2番目のテーマはサイバネティックな人工器官だ。脳からの指令を受けて動くだけではなく、義手から脳へ信号を返すことでまるで本当の腕のように動かすことができる。人体とのインターフェイスはさまざまなものを検討中で、今年の夏ごろから実際に義手をつけたテストを行なっていく。その結果、人間の脳がどのように義手に適応していくかも調べていくという。

 この「神経ロボティクス」研究はリハビリにも応用できる。認知・運動機能をラボで研究し、その結果をフィードバックしていくのだ。ウェアラブルなバイオミメティクな器具や、クランクを回すことで運動と認知能力を維持する器具(MIT-MANUS)などを使って、脳の可塑性を刺激するといった戦略を考えているという。実験の結果、ロボットはリハビリセラピーに非常に有効であることが分かったという。今後、外骨格型のリハビリ機器なども実験していくという。

 またTACTという加速度センサーなどを内蔵した子供たちのおもちゃを使うことで、子供たちにこれらの機器を使ってもらうことで、発達障害を早期発見するという研究も行なっているそうだ。

 ロボットを医療現場に入れることは、医者側から効果が懐疑的に見られることはあるが、患者からの評価はむしろ高いという。


腸内を半自律的に動く無痛内視鏡ロボット 開発中の足付きカプセル型内視鏡 将来のカプセル型内視鏡(イメージ図)

サイバネティック義手の開発も行なっている サイバーハンド 神経とのインターフェイスは検討中

神経ロボティクス研究を「神経外骨格」アームへと発展させた例 ニューロリハビリテーションへの可能性

早稲田大学 藤江正克教授
 高齢者の支援、手術の支援という視点で研究を進めている早稲田大学の藤江正克教授は、手術支援ロボットについて講演した。藤江氏も映画「ミクロの決死圏」について言及した。あれは現在のテクノロジーを用いれば可能なのではないかと考え、「ドラッグデリバリーロボット」を最終ターゲットとして開発を進めているという。

 藤江氏はマスタースレーブ手術ロボットの様子を見せた。動いている心臓に合わせてロボットを動かすことで、術者の視点からは止まって見えるように制御することができる。今後はさらに、内部へ侵入できたかどうかをロボット自身が物理モデルを使って確認しながら、力と位置を制御する手術ロボットへと発展させているという。

 また、最近は針を差し込んでガンを焼き切るという手術が行なわれているが、臓器は針を刺すと変形する。医師はその様子を感じて施術を行なうのだが、ロボットが同じ事をするためにはどうすればいいか。いまでは肝臓のダイナミックな特性をモデル化することで、そのモデルをロボットにとりこみ、ロボットがたくみに針を刺すことも可能になっている。基本的には器官の物理特性をモデル化することが重要だという。

 人間とロボットの仕事の切り分けだが、事前にアルゴリズムが分かるものはロボットが行ない、突発的な予測していなかったものに対しては医師が判断する。またリスク判断は機械ではなく術者が判断するべきだと考えているという。藤江氏は「この分野は機械工学がもっとも貢献できる分野だと考えて研究をすすめている」とまとめた。


ロボットを使って豚の心臓を手術する様子 【動画】心臓の動きに合わせてロボットを制御することで精密な手術が行なえるようになる 臓器のモデルを構築、それを使ってロボット手術を行なうことも可能になっている

早稲田大学 生命医療工学研究所助教授 岩崎清隆氏
 早稲田大学 生命医療工学研究所助教授の岩崎清隆氏は再生工学の最先端について講演した。心臓弁は心臓に4つあり、逆止弁のような働きをしている。人工的な臓器はあるがまだ課題があるため、できれば生体が望ましく、再生させられるものならそれが望ましい。そこで高分子材料に細胞を撒き、再生させたものを使うという手法が検討されている。器官を構築したあとに足場材料から植えた細胞を取り除くことで拒絶反応を起こさないようにする。

 岩崎氏は細胞を植える手法、取り除く手法について述べた。岩崎氏らの技術を使えば足場の構造や強度を維持したままで細胞だけを取り除くことができる。これは世界でも岩崎氏らの技術以外ではできないものだという。

 現在、これをブタで試しているところで、移植3カ月後に取り出してみたところ、移植組織のなかに細胞が入ってきており、移植した組織が受け入れられ、再生を促していることが分かった。また超音波エコーで見たところきちんと機能していることが確認できた。将来はブタの体内から取り出した弁に細胞を取り除く処理をして、人体内で使えるようになることが目標だという。

 岩崎氏はネズミの背中に耳の形を作ったことでバーカンティ(Vacanti)教授のところに留学していたが、そこでは人工的に拍動し、血圧・心拍数コントロールを行なえるデバイスで、溶ける高分子材料に細胞を播種したものを培養したところ、生体内の血管そっくりのものを作ることに成功したという。再生工学技術がこれまでの講演のような低侵襲手術技術と組み合わされば、患者にやさしい医療ができるのではないか、とまとめた。


再生工学の可能性 岩崎氏らの研究技術は他の臓器にも応用可能 人工的に作られた血管

東京大学 佐藤知正教授
 東大の佐藤知正教授は、「環境型ロボットシステム」について講演した。視点は2つあるという。ロボットそのものが環境であり、環境が人間にサービスを提供するというシステムである。佐藤氏は「ロボティックルーム」を作り研究を行なってきた。人間の行動・履歴を知り、人間の行動に適合する環境型のロボットシステムである。部屋自体がロボットになると、人間を取り囲んで、拘束することなく共生サービスを行なえる。センシングしたデータを蓄積していけば行動履歴を分析できるようになる。

 部屋全体で数百のセンサーがあるが、各種センサーはモジュールとなっていてミドルウェアにつながることで大量のセンサーデータを溜めて活用できるようになっている。異質なセンサーデータを抽象化して1つのデータベースに入れるシステムも構築されている。

 たまった行動データから何ができるのか。佐藤教授は行動要約の結果を示した。この要約を使うことで、隠れマルコフモデルが作られ、それぞれの尤度を計算する。その尤度のベクトルを距離で表現して計算することである程度行動が推測でき、自動的に分類できるようになる。モデルを事前に与えるのではなく、大量のデータのなかから主だった行動が自動的に抽出され、分類されるところがポイントだという。普段の生活がある程度予測できるようになるので、逆に異常な行動があったらそれも分かる。

 もう1つの視点は、環境型ロボットが、いわゆるロボットを助けることができるというものである。常に人間を見ていて、その人が必要なサービスがわかると、使えるコンポーネントを探し出してそれを集めて人にサービスを提供するというものを佐藤氏らは「ハイパーロボット」と名づけている。トータルとしては人間を支援するシステムだが、単体のロボットのインフラとしても使われるわけだ。その成果が先日の21世紀COEの成果として公開された「実世界ショールーム」だ(過去記事参照)。

 プライバシーに関しては、監視されることが嫌だということは、それだけ重要な情報だということだろう。そこはリスクとベネフィットの問題である、難しい問題も抱えながら、このようなことが可能であることを示すことが研究者にとっては重要なのではないかと述べた。


ロボティックルーム1。病室をイメージしていた ロボティックルーム2。センサールーム 行動要約

愛知万博でデモされたハイパーロボット 自然な人間のサポートが目標

人間のためのロボット:ロボットシステムの生物医学的応用

JAXA宇宙ロボット推進チーム事務局長 小田光茂氏
 次のセッションは「人間のためのロボット:ロボットシステムの生物医学的応用」。3人が講演した。

 まずJAXA宇宙ロボット推進チーム事務局長の小田光茂氏は宇宙ロボットの概要を述べたあとに、どんな宇宙ロボットが必要とされているか述べた。

 宇宙ロボットは活動する場所で分けると、船外活動用(EVA)、船内活動用(IVA)、ロボット衛星用、惑星探査用に分けられる。

 国際宇宙ステーションには日本のJEMRMSを含め、3つのロボットアームが使われる予定だったが、ヨーロッパのアームはシャトルの遅れなどの問題で中に浮いてしまっている段階だ。日本のモジュールは今年の末から来年にかけて打ち上げられる予定になっている。船内活動ロボットについては、船内は狭いため、現状ではロボットを持ち込まれると困るというのが現状だという。

 ロボット衛星は衛星のメンテナンスを行なったりするためのものだ。月惑星探査用というのはいわゆる探査ローバーだ。探査ローバーは意外と少なく、実際に持ち込まれたものはルノフォート、アポロで使われた月面車、火星にいったソジャーナ、それとマーズイクスプロレーションローバーの4つしかない。

 では今後どんなロボットが必要なのか。日本でも月探査計画が進められている。また将来は月面基地建設も夢見られている。そのための場所選びや建設は、ロボットの仕事になる。また、小型の探査機のニーズもある。小惑星イトカワを探査した「はやぶさ」、搭載されていた「MINERVA」はその例だ。MINERVAは590gだったが、もっと小型のロボットをたくさん積むという選択肢も検討されている。

 また有人宇宙活動支援ロボットも検討されている。宇宙飛行士はもっとも貴重なリソースなので、それをロボットでサポートしようというものだ。だが、人間と機械が共同して作業するメソッドは、まだ地上でも確立されていない。しかし、やる意味は大きく、研究を行なう価値は十分あるという。

 軌道上に大きな構造物を作ったり、複数の衛星を組み合わせて使うというアイデアもある。そうなるとロボット技術が必要だ。小田氏は「宇宙ロボットは熱真空や振動、無重力、証明条件、制御の時間遅れなど特殊な環境条件はあるものの、制御技術は何も変わらない。新しいロボット技術のフィールドを求めている人は是非参加してほしい」と述べ、JAXAのシンポジウムについて宣伝した(過去記事参照)。


宇宙ロボット 国際宇宙ステーションの「きぼう」モジュールのロボットアーム 月惑星探査ロボットの方向性

ヴェローナ大学 パオロ・フィホリーニ(Paolo Fiorini)氏
 「災害地でのロボット」について講演したヴェローナ大学のパオロ・フィホリーニ(Paolo Fiorini)氏は、最初にヴェローナ大学の研究室について説明した。外科的手術のアシストをするロボットや人命救助するロボットの研究を行なっているという。

 ロボットは災害時には、まったく違った環境で活動しなければならないため、リアルタイムに環境情報を収集し適応する能力が必要である。そのためには学習能力も必要となる。いままでも機械学習するロボットはあったが、正確なデータをロボット自身が収集することも必要である。フィホリーニ氏は、自分の不完全な知識を、ロボット自身が周囲を探索することで付け加えていくパラダイムが重要だと述べた。

 ロボットは、知覚スキル、推論スキル、モータースキルを基本として、環境の情報を獲得し、最終的には環境に対する洞察を獲得していく。そして仮説やモデルを更新していく。シグナルから仮説を立ててそれを実行していく。フィオリーニ氏らは、実験ループを特に担当して行なっている。ロボットは自分で仮説を立て、それを「実験」していく。未知の環境において、ロボットが実験を使って学んでいくわけである。今後、2年間、より複雑な事例を学ぶことで、どれだけのことが可能か確かめていくという。


ヴェローナ大学のロボット研究 XPEROというEUのプロジェクトが走っている

仮説を立ててそれを実験でロボットが検証していく 実験ループの研究開発を行なっているという

東京工業大学 広瀬茂男教授
 東工大の広瀬茂男教授は、地雷除去ロボットについて講演した。ロボットに期待されているものは3Kであり、地雷除去はその典型だという。地雷除去はまず地雷原を囲みこみ、それを大型機械で除去していくことから始まる。だが2割~3割の地雷は残ってしまう。そこで最終的には手で除去しなければならない。

 最初はエンドエフェクタ(手先のツール)を切り替えられる歩行ロボットで地雷除去することを考えた。そして開発されたロボットが「タイタン9」である。ロボティクスの一分野としては面白いものができた。

 しかし、2002年にアフガニスタンに実際に行ったところ、近い将来に砂漠のような環境で実現するためには、非常に頑健でメンテナンスも簡単、自律的なロボットは必要とされてないことが分かった。そこでより実用性の高いものとして考えられたのが、バギー車を使った地雷除去システム「GRYPHON」である(過去記事参照)。センサーはイタリアのチェアーズ社のものが使われている。

 昨年1月からは地雷原で実際に活動する試験を行なった。今年の末には製品化を目指しているという。


地雷除去には3つのステップがあるという タイタン9 GRYPHON

産業から見たロボット工学

トヨタ自動車株式会社パートナー開発ロボット部 太田康裕氏
 最後のセッションは「産業から見たロボット工学」だ。

 トヨタ自動車株式会社パートナー開発ロボット部 太田康裕氏は、ロボットの安全性に関する、ISOでの活動について述べた。なお太田氏の講演は以前の記事でもレポートしているので合わせてご覧頂きたい。

 リスクはハザードの酷さや頻度で判断される。それが許容できないレベルであれば工学的に対応し、あるリスク以下になったら運用側で対応することになる。産業用ロボットにおいては、カテゴリー3以上の基準が用いられており、ロボットの場合は、センサー類は2重化が必須となっている。サービスロボットの場合は人間のそばで働くので、もっと高い安全性が求められると考えられる。

 ISOでは、サービスロボットの安全性はTC184のサブコミュニティ2と呼ばれるグループで議論されている。2006年から4年間議論し、2010年を目指して規格化していく予定だ。なおサービスロボットは人に対して有益なサービスを提供するものと定義されており、玩具ロボットや軍事ロボットは含まれていない。たとえばアームは先端部では250mm/sec以下で動かさなければならないことになっている。

 トヨタは4つの方向性でロボットを開発している。介助犬ロボット(介助用デリバリーロボット)開発については、自動車の衝突安全技術における技術を応用している。また、関節の挟まれ、転倒、感電、やけど、ボディの素材、電磁波影響などに対して、本質安全設計、予防安全、衝突安全の「3ステップメソッド」を適用して安全性を検証している。


ISOの構造 リスク・アセスメントのプロセス トヨタが開発中の「介助用デリバリーロボット」

 次に日本とイタリアそれぞれの会社からのアピールが行なわれた。

 テレロボット社のダビッド・コルシーニ氏(David Corsini)は同社の活動について講演し、日本の研究機関や企業との提携を訴えた。テレロボット社は、1992年に創業されたメカトロ開発会社である。現在の社員は18名。海軍用の機械から監視用デバイス、製造ラインのような、郵便物仕分け機械まで、さまざまな分野の機械を作っているという。また、先ほど紹介した「iCub」などのロボットも作っている。プロトタイプだけではなく、大量生産にも対応できるので、日本の企業や大学でイタリアでのパートナーがほしい人はコンタクトをとってほしい、と述べた。同社が日本でプレゼンテーションを行なったのは初めてだという。

 テムザックの高本陽一氏は大型ロボット「援竜」や警備ロボット「アルテミス」、大型ショッピングセンター「ダイヤモンドシティ・ルクル」に納入された買い物同行ロボットなどを紹介した。春から夏の間に、新型を導入する予定だという。また留守番ロボット「ロボリア」、その宣伝のために「KIYOMORI」を百貨店で一般のお客の前で披露したこと、会津若松市の病院に案内ロボットを販売したこと、大学と共同で研究開発を行なっていることなどを、たて続けに紹介した(それぞれのロボットについては本誌で過去にレポートしているので、そちらをご覧頂きたい)。

 当初病院案内ロボットはより高度な障害物回避技術の導入を提案したが逆に病院からそれは困るといわれ、カラーテープ読み取りナビゲーションにしたという経緯についてふれ、「F1を開発するのはいいが売るのは一般車のほうがいいんだなと痛感した」と述べた。


テレロボット社 ダビッド・コルシーニ氏 同社が製造しているメカトロの例 同社が大学研究室から発注を受け「iCub」を作っている

テムザック社 高本陽一氏 テムザック社のロボットたち 同社の「KIYOMORI」は早稲田大学から技術移転を受けて製造されたロボット

 半導体売上高世界第5位のSTマイクロエレクトロニクス社のヌンチィオ・アッバーテ氏(Nunzio Abbate)は、身の回りの機械の多くに同社のコンポーネントが使われていると思う、と講演で述べた。ただし日本でのシェアは4%にとどまっている。ロボット関連の部品モジュールも多く扱っており、ヘルシンキ大学とは共同でワーキングパートナーロボットを開発した、多くのソリューションを提供できると同社商品をアピールした。

 そのほか同社製品が使われている火山探査ロボットや、オレンジ収穫ロボットなどを見せ、われわれは顧客の成功とわれわれ自身の成功を祈っていると述べた。


STマイクロエレクトロニクス社 ヌンチィオ・アッバーテ氏 ヘルシンキ大学のサービスロボットにも同社の技術が使われている オレンジ収穫ロボット

パネルディスカッション:人間とロボットの共生に向けた教育

聖アンナ大学院大学 チェチィーリア・ラスキ氏
 続けて、パオロ・ダーリオ氏の司会で、パネルディスカッションが行なわれた。初めにチェチィーリア・ラスキ(Cecoloa Laschi)氏が、ロボットを使ったエデュテイメントについてプレゼンテーションを行なった。

 ロボットは身近な存在になりつつあるが、まだ受け入れられるためには課題もある。午前中の講演でも触れられた「MOVAID」は、ロボットに介護をアシストさせるプロジェクトだった。当時はロボットによる介護というものがイメージされにくかったという。

 ロボットをどうやって受け入れてもらうか。そのために機能性をアピールしたほうが良いと考え、ヒューマノイドのようなかたちではないものをラスキ氏らはデザインした。その結果、ユーザートライアルの前に比べて後ではポジティブな意見が増えた。アメリカでも同じような結果が出ているという。

 2002年にスイスで開かれた万博での調査結果も合わせると、ヨーロッパではロボットの受け入れにあまりポジティブではないものの、機能には評価があると分かったという。ロボットをもっと身近に感じてもらうためには教育が必要だと述べ、日本でも週刊「マイロボット」(デアゴスティーニ)として販売された教材「I-Droid」を紹介した。世界5カ国で販売されており、イタリアでは小学校でも教材として導入されているという。


ロボットによる介護支援「MOVAID」プロジェクト MOVAIDプロジェクト体験前後のロボット評価の違い

ロボット教材「I-Droid01」 世界各国で販売されている

名古屋大学 生田幸士教授
 続いて名古屋大学の生田幸士教授が子供たちの教育のためのロボットと題して、マイクロマシンや理科離れについて話した。

 生田氏らは愛知万博では内視鏡微細手術を行なうマイクロフィンガー、腹腔内手術を行なうハイパーフィンガーという2つの手術ロボットを出した。そのときに単に見せるだけではなく、子供たちにはハイパーフィンガーを使ってキャンデーをとるという展示を行なった。子供たちは、これが手術ロボットであるということは覚えていないだろうが、ロボットを操作した、ということは一生忘れないだろうと思う、と述べた。生田氏自身が'70年の万博での展示に強い記憶を持っていることから行なった展示だと述べた。

 生田氏の研究室はマイクロマシンを作っているが、それについてはお台場の日本科学未来館で実際に体験させている。これは子供たちだけではなく、学生たちのプレゼンテーション能力向上、トラブル克服能力向上にも役立っているという。

 最後にウォルト・ディズニーが考えた、エンジニアとイマジネーションを足した造語「イマジニア」という言葉を挙げて、生田氏は話をまとめた。


ハイパーフィンガー 生田研究室で作られた「マイクロマシンアート」 子ども達の教材としてのマイクロマシン

パネルディスカッションの様子
 井上氏はパートナーロボットに実際に求められる仕事は、ちょっと手を貸すといったもので十分なのだろうと述べた。そのロボットが大きな産業となるためには、さまざまなロボットに関するコンポーネントやサービスを提供する会社が相互に関係しあいネットワークを形成することが重要だという。

 井上氏は「単にロボットは1つのアプリケーションを作るだけではなく、1つの大きなエンドユーザーの使う商品になるのではないかと考えている、ロボットテクノロジーは切り替え時に来ているのではないか」と述べた。

 この後の質疑応答、議論では、ロボットの外見に関する話題などがのぼった。アンケート結果を見る限り、イタリアではヒューマノイド型ロボットの受け入れには抵抗感があるようだという。それに関しては「やはり機能が重要だ」といった意見や「教育を通して若い世代にロボットを理解してもらい、拒否感を取り去ってもらいたい」といった意見が出た。

 なお「I-Droid01」は世界で11万5,000個くらい売れているという。井上氏は、日本ではロボコンなど、もの作りを通した教育の題材としてロボットが注目されていると述べた。

 このあと予定ではイタリアと結んだビデオカンファレンスや、イタリアでのヒューマノイド・生物医学ロボット工学日伊共同研究所「ロボット庵」開業式の中継が行なわれる予定だったが、回線の調子が悪く、中止となった。

 イタリアの「ロボット庵」では、今後、イタリア版の「WABIAN2」作りそのほか各種研究が行なわれる予定だ。早稲田大学 高西教授は「『ロボ・カーサ』と『ロボット庵』で、相互の関係を持ちつつロボット技術を発展させていきたい。ロボット庵はイタリアでの共同研究の本拠地になってもらいたい」と述べた。


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( 森山和道 )
2007/03/26 20:48

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