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大盛況の「とよたこうせんCUP」レポート
~ロボカップにつながるサッカー大会が愛知県豊田市で開催
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大盛況の「とよたこうせんCUP」レポート
~ロボカップにつながるサッカー大会が愛知県豊田市で開催


今大会のポスター
 2009年3月14日(土)、愛知県豊田市の豊田工業高等専門学校にて、二足歩行ロボットによるサッカー競技会「とよたこうせんCUP」が開催された。学校内で行なわれた競技会とは思えないほど多くの観客が見学し、ボールの行方に歓声を上げた、盛り上がる大会だった。


ロボカップ小型機リーグ「SSL

 無線操縦による二足歩行ロボットのサッカー大会は、定期的に開催されている「KONDO CUP」や、2007年、2008年と2度開催されている「ROBO-ONE Soccer」が知られている。一方、自律動作する二足歩行ロボットのサッカーは、世界大会を5連覇したTeam OSAKAが参戦していた「ロボカップ」が有名だ。

 今回の「とよたこうせんCUP」は、同じ“二足歩行ロボットサッカー”というキーワードを持ちながら、これまでまったく別々に活動していた、この2ジャンルを結びつけて開催された、初めての大会だった。

 というのも、このイベントは、昨年のロボカップジャパンオープンの記事でも触れていた小型機リーグ「SSL Humanoid」の前段階として、「SSL Humanoid」のルールから自律動作に関するルールを除いた形で、無線操縦の二足歩行ロボット同士がサッカー競技を行なうというものだったからだ。

 ロボカップにおいては、ハードウェアよりもむしろ“頭脳”の部分が重要視されることも少なくないが、小型機リーグの全方向移動機体に慣れていた人々にとっては、まずきちんと動く機体を作るというところが先決。そしてこの大会は試験的な部分も多く含んでいるので、主催者側からもパスワーク(協調動作)であったり、戦略であったり、自律ロボット同士の競技に活きるものが見られるといいなという希望があったようだ。

 全部で8チームがエントリーしたが、会場を提供した豊田高専の小型機リーグチーム「KIKS」のヒューマノイド班「KIKS_H」を筆頭に、大阪電通大学の「ODENS」、中部大学の「OWARIBITO」といった、小型機リーグの有力チームによる二足歩行ロボットのサッカーチームが見られる一方、KONDO CUPに第1回から参戦を続けている「RFCバンブーブリッジ」、ROBO-ONE Soccerで上位に食い込んだ「G-TRES」などの、無線操縦競技に実績のあるサッカーチームもあり、さながら「交流戦」といった風情になっていた。


会場の様子 休憩時間には「KIKS_H」の予備機を使った体験操縦も行なわれていた

KONDO CUPとは微妙に異なるルール

フィールドの概要。ボールは転がりやすいが、球形なのでボールの転がり方を予測しやすい。感覚をつかめばかなり正確にパスができそうだ
 初めての大会なので少し詳しくルールを説明しよう。

 フィールドは4,050×3,025mm(縦×横)。ちょうど小型機リーグのフィールドを半分にしたもので、表面は小型機リーグのものと同じカーペットとなっている。ゴールの幅は1,000mm。KONDO CUPのKHRクラスフィールドの3,900×2,100mm(同)と比較すると、幅が1m近く広いくらいで、あとのサイズは似通っている。ただ、ボールは硬式テニスボールになっているので、ぬいぐるみボールのKONDO CUPより転がる距離がだいぶ長い。

 ルールの原型は小型機リーグのもの。しかし、もともと違う規格のロボットに対するルールということもあり、細部で変更が加えられている。もちろん、自律動作に関するルールは今回適用されていない。

 KONDO CUPやROBO-ONE Soccerと大きく違うと感じたのは、「ダブルタッチ」と呼ばれる、ゴールキックやキックイン、フリーキックでボールを蹴ったあと、他ロボット(敵味方は問わない)に触れないうちにキッカーがもう一度触れてしまう反則と、「マルチプルオフェンス(マルチプルディフェンス)」という、ゴールエリア(本物のサッカーだとペナルティエリアにあたる)内へ同時に複数の攻撃側(守備側)が入る反則の2つ。どちらも小型機リーグのルールだ。

 ルールについての詳細は「SSL Humanoid」の公式サイトに最新版があるので参照してほしい。


4チーム×2リーグで行なわれた予選

 予選は前後半なしの5分1本勝負。4チームずつ2リーグに分かれて戦い、勝利数の多い順で1位と2位がトーナメントの準決勝に進む。

 予選グループAには、ホストチームの豊田高専「KIKS_H」を筆頭に、同じくロボカップ小型機リーグで活躍する「OWARIBITO」、4機のエイチ・ピー・アイ・ジャパン(HPI)製G-ROBOTSが組んだ「G-TRES」、KONDO CUPにも遠征した実績を持つ、地元「RFC愛知」が入った。

 Bリーグには、関東から唯一の遠征チームとなった筆者の所属する「RFCバンブーブリッジ」、昨年のロボカップジャパンオープン小型機リーグで2位となった「ODENS」のほか、二足歩行ロボット格闘大会などで活躍する機体がメンバーに含まれている「大同窓際族」と「ガッテダーJr」が組み込まれた。

 Aリーグではオープニングゲームに登場した「KIKS_H」が、終了間際にフリーキックからこぼれたボールを押し込んで「RFC愛知」を下し、1-0の好発進。一方、小型機リーグのライバルである「OWARIBITO」は、チーム名こそ違うがROBO-ONE Soccerにも出場していた「G-TRES」に0-2の敗戦。対照的な立ち上がりとなる。Aリーグ3戦目は1勝同士でぶつかった「KIKS_H」と「G-TRES」だったが、どちらも譲らず0-0のスコアレスドロー。その後この2チームは互いに最後の一戦を勝利し、2勝1分けで最終成績が並んだが、「OWARIBITO」戦で3得点した「KIKS_H」が得失点差で1上回り、1位で準決勝に進んだ。


【動画】「OWARIBITO」対「KIKS_H」 【動画】「G-TRES」対「RFC愛知」。「G-TRES」のスピードが良くわかる

 Bリーグのオープニングゲームは、「大同窓際族」対「ガッテダーJr」。どちらも格闘競技会には参加したことがあるが、サッカーに慣れていないチームということもあってかスコアレスドローでのスタート。2戦目に登場した「RFCバンブーブリッジ」は、不慣れなカーペットでいまいち安定しないモーションに苦しんだが、新設計した足裏の効果もあって大塚氏の宗0郎が守備に攻撃に大活躍。「ODENS」に対して2-0で勝利を収めた。「ガッテダーJr」戦では、1-0でリードした終了間際に前述した「マルチプルディフェンス」の反則を取られてPKを与えてしまい、同点とされたものの、センターサークルからの再開直後に宗0郎がキックオフシュートで、値千金・残り3秒での決勝ゴール。最終戦の「大同窓際族」戦も2-0で勝利し、1位で準決勝に進んだ。2位は「ガッテダーJr」戦に1-0で勝利し、1勝1敗1分となった「ODENS」が入った。


【動画】「大同窓際族」対「ODENS」戦 【動画】「RFCバンブーブリッジ」対「ガッテダーJr」。終了間際の反則でPK→同点→キックオフゴールの流れに注目

決勝トーナメント

【動画】「KIKS_H」対「ODENS」。決勝点のPKは予選でも見せていた“伝家の宝刀”
 準決勝の緒戦は、小型機リーグのチーム同士でもある、Aリーグ1位「KIKS_H」対Bリーグ2位「ODENS」。両チームともにパスをつないだり、ボールの行き先を読んで動く場面があり、会場が沸くシーンも。拮抗した試合展開の中で、前半終了直前「ODENS」に反則があり、「KIKS_H」はPKを得る。このプレーで前半終了というPKを落ち着いて決め、1-0で折り返す。

 後半は「ODENS」がゴールまであとボール1個のところまで迫るが、あと数cmが遠く、最後までゴールを割ることができずに終わった。


【動画】「RFCバンブーブリッジ」対「G-TRES」。宗0郎とまりんのマッチアップは両オペレーターがのりうつったようだった
 もう一方の準決勝は、無線操縦の二足歩行ロボットサッカーの経験チーム同士といえる、Bリーグ1位「RFCバンブーブリッジ」対Aリーグ2位「G-TRES」。じつはこの顔合わせは昨年のROBO-ONE Soccerの1回戦でもあったため、お互いに手の内がわかっている対戦でもある。

 無駄な動きのように見えてフェイントになっていたりと、お互いが二足歩行ロボットサッカー経験チームのいいところを出した試合になり、前半は終了間際まで0-0のまま。だが、そこで「G-TRES」のエース、まりん(水色のクマ)が立ち上がれなくなり、フィールドから出されると、ゴールキックから数的有利をいかした宗0郎が蹴り込んで「RFCバンブーブリッジ」が先制。後半はボールがめまぐるしく動く展開になったが、ほぼ1対3の状態になりながら、ボールを高めにキープする宗0郎の動きを「G-TRES」のオフェンス2機は突破することができず、1-0で「RFCバンブーブリッジ」の勝利となった。


【動画】3位決定戦「ODENS」対「G-TRES」
 3位決定戦の「ODENS」対「G-TRES」は、0-0のまま突入した後半も終了近くなったところで、ゴールエリア近くのフリーキックからごちゃつき、こぼれたボールがまりんの前に。まりんはそのままサイドステップで走りこみ、決勝点をゲット。「G-TRES」が1-0で勝利した。オペレーターのかつ氏は「“ごっつぁんゴール”でした」と笑っていたが、常に攻める「G-TRES」全体の姿勢があるからこそ呼び込んだ決勝点だろう。


fighting-γのピッチ軸ジャイロは右側の状態で胴体内に浮いていた。本来は左側のようにケースに入っている
 決勝はホストチームの「KIKS_H」と、唯一関東から遠征してきた「RFCバンブーブリッジ」となった。

 じつは「RFCバンブーブリッジ」はこの日予選リーグからずっとキャプテン・石井氏のfighting-γが転倒を繰り返している状態で、苦しい戦いが続いていた。石井氏はなんとかプレーを続けていたのだが、予選リーグ終了後からメンバー3人で原因を究明してみた結果、「どうやらジャイロでは?」という結論に。チェックしてみると、ジャイロはケースから基板が飛び出している状態だったことが判明した。これではジャイロが効くどころか、むしろ不安定になってしまっていただろう。果たして、ジャイロをスーパーサブ・間野井A一郎から臨時提供されたfighting-γは、同じ機体とは思えないほどの安定を取り戻したのだ。

 後顧の憂いがない状態で臨んだ決勝戦は、開始直後から「RFCバンブーブリッジ」の一方的な展開に。「KIKS_H」もボールを奪おうと動き回るのだが、宗0郎とfighting-γの間で面白いようにボールが動き、セットプレーや流れの中からクロスが入ってのゴールなど、前半で5-0と大差をつける。後半にも2点をくわえ、最終的には7-0という、この日最多得点を記録して、「RFCバンブーブリッジ」が優勝を飾った。

 「KIKS_H」は、インサイドキックでパスをしたり、ボールに固まらずにパスを待ったりといいプレーが随所に見られたが、無線操縦でのサッカーに慣れていないぶん、不利だったようだ。もっとも、前半で5点取れたバンブーブリッジが後半は2点どまり(1点はオウンゴール)に抑えられているように、試合慣れするごとにどんどん強くなっていったのは間違いない。今大会で「二足歩行ロボットのサッカー」のヒントを数多く拾ったということなので、本来のフィールドである自律ロボット同士の戦いの場でどんな試合を見せてくれるのか、楽しみにしたい。


【動画】決勝戦、「KIKS_H」対「RFCバンブーブリッジ」。2点目と最後の7点目のセットプレーは自画自賛したくなる出来 【動画】小型機リーグの特徴である、天井のグローバルビジョンから見た、2点目のセットプレー。少し暗いが、頭上のマーカーが映っている 【動画】7点目のクロス→シュート。マルチプルオフェンスを避けるため、fighting-γはエリアギリギリで待って、シュート

“勝利の美酒”ならぬ、“勝利のウィルキンソン”で乾杯。豊田高専の競技会で優秀な成績を収めたメンバーにはコレが振舞われるのが伝統なのだという。こういうのいいですね ジンジャエールのビンを前にバンブーブリッジのメンバー4名で記念撮影。「4」がキャプテン・fighting-γ。「19」が宗0郎。「5」が筆者のあずさ2号F型。背番号がないのが間野井A一郎 優勝商品としていただいた、豊田高専・末松校長先生の企画設計による「指南車」模型。販売もしているそうです

 プレーしてみるまでは感覚がわからなかったが、実際にプレーすると最初に挙げた「SSL Humanoid」由来の2つのルールは、実はサッカーらしい競技を行なうために大きな役割を果たしているようだ。従来の二足歩行ロボットサッカーで目立った、ゴール前のごちゃついた場面は少なくなるし、ゴール近くに近づけるオフェンスは1機なので、自然とそこにパスを供給しなければならなくなる。だからこそ、もともとパスワークを得意としていたバンブーブリッジが勝ち上がることができたのだろう。


大会後のカンファレンス

 大会終了後には、協賛のロボットショップ「RT」によるキットベースでのサッカーロボット作成のコツが紹介されたあと、参加チームの中から「ODENS」「G-TRES」「RFCバンブーブリッジ」が、それぞれ二足歩行ロボットサッカー競技についての講演を行なった。

 「ODENS」は、昨年のジャパンオープンから始まった「SSL Humanoid」がどういった競技なのかを主に解説。

 「G-TRES」は、自チームで採用している「G-Robots」をロボットサッカーにあわせて改造しているポイントを紹介。また、自律ロボットへの対応も可能にする機器構成のアイデアも発表していた。

 この日優勝した「RFCバンブーブリッジ」は、自チームの経験から得られた二足歩行ロボットサッカーの戦略を紹介。2050年に人間のワールドカップチャンピオンと試合をするというロボカップの目標をかんがみて、まずは自律の二足歩行ロボットで無線操縦の二足歩行ロボットに勝利することから始めては、という提言を行なった。


「ODENS」の発表から。小型機リーグと同様、頭上のマーカーでチーム分けと個々の機体の区別をつける方式。転んだとき(真上のカメラからはマーカーが見えなくなる)にどうするかが問題という話もあった 「G-TRES」の発表から。このほかにも「G-Robots」を自律化するために必要なアイデアを複数披露していた 試合の合間に、宗0郎の機体コンセプトを聞きにくる方も。どうやってそんな速い横歩きを作ったのかとも聞かれました

 豊田高専の末松良一校長は、今回のイベント開催について「競技会で技術を競っていただいて、ロボットを通じての技術交流から学生スタッフもいろいろなことを学び、高専ロボコンやロボカップにつなげていって欲しいと思っています」と挨拶し、勝ち負けよりも、むしろその競技からいろいろ吸収して欲しい、そしてその競技で観客を楽しませて欲しいと述べていた。

 現在、二足歩行ロボットのサッカー競技会は関東を中心に行なわれているが、中部地区はロボカップ小型機リーグのチームが特に集中している土地柄。ぜひこの「SSL Humanoid」に通じる競技会を続けていって欲しいと思う。


豊田工業高等専門学校・末松良一校長 今回のイベントの仕掛け人とも言える、ロボットショップ「RT」の川上氏。じつはKHRクラス時代のバンブーブリッジに唯一の失点をつけた人でもある 参加者・参加機体全員集合

URL
  とよたこうせんCUP
  http://gijyutsu.toyota-ct.ac.jp/TKCUP/index.html


( 梓みきお )
2009/04/14 11:34

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