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いよいよロボットが完成! ロボット競技会も開催

芝浦工大「大人のためのロボットセミナー」レポート(4)
Reported by 井上猛雄

 「大人のためのロボットセミナー」第3回目では、セミナーの総まとめとして、製作したロボットによる競技会が催された。今回のレポートでは、競技会に向けての準備と競技会の模様についてお伝えする。

 まず競技会へ向けの前準備として、製作した8脚歩行教材ロボット「SPIDER」のハードウェア(機構部)とソフトウェアの調整が行なわれた。前回までは、ロボット本体とワンチップマイコンボードは分離したままの状態であった。ここで、マイコンボードをロボット本体に搭載して、自律型ロボットとする。

 ロボット本体の上部に、ワンチップマイコンボードと電池ボックスを設置する【写真1】。マイコンボードは回路がショートしないように、2本のスペーサを介して中空に浮かせる。ボードの向きは、PICライタ用コネクタを接続しやすいように外向きに配置する。また、電源ボックスは両面マジックシートを利用し、簡単に脱着できるようにしておく。

 次に、ギアボックスのモータとワンチップマイコンボードのコードを結線する【写真2】。以上で、ハードウェアの準備作業は終了だ。完成したロボットは【写真3】のようになる。あとはメカとプログラムの細かい調整をして、競技大会へ向けて準備を整える。


【写真1】ロボットの上部にはスペーサ取り付け用の穴が格子状に空いている。ここにスペーサを取り付けて、ワンチップマイコンボードを浮くように設置する。電池に単三電池×4本を利用しているが、よりパワーを求めるならニッケル水素電池などを使えるように改造するとよい 【写真2】ワンチップマイコンボードとモータのケーブルをはんだ付けで接続する。はんだ付けが難しい場合は、いったんモータをギアボックスから取り外してから作業する

【写真3】ついに8脚スパイダーロボットが完成! 汗と涙と愛の結晶だ。まるまる3日間をかけて製作したため、喜びもひとしお。筆者が個人的に難しいと感じたところは、メカの組み立てと、その微調整だった

競技会に向けて、複合的な走行プログラムに改造する

 競技会用の走行プログラムに関しては、教材のCD-ROMに添付されていたソースを利用し、製作したロボットの特性に合わせて改造して使う。下記に、C言語で書かれた競技会用の複合走行プログラムを示す。プログラムでは、直進走行、右旋回、左旋回、後退、wait(時間待ち)といった関数をつくっておき、これらをMain関数で呼び出して実行する形だ。

□競技会用走行プログラム
http://robot.watch.impress.co.jp/static/2006/08/02/program.htm


 Main関数では、まず初期設定として、入出力ポートを設定し(TRISAおよびTRISBレジスタに設定値を書きこむ)、動作確認用のLEDを点滅させる。そしてメインの走行処理に入るという流れである。デフォルトのプログラム走行は、前進約30cm→90度時計まわり(cw)→前進約30cm→90度反時計まわり(ccw)→後退30cmという設定になっている。

 ただし、走行距離についてはあくまで目安であり、ロボット機構部の個体差やギア比などによって変わってくる。それぞれの関数に書かれているForループのパラメータを変えたり、関数の実行順序を入れ替えたり、あるいは新たに関数を付け加えながら、競技会用の走行コースに合わせていく必要がある。

 走行コースに適したプログラムができたら、前回紹介したPICライタ【写真4】を利用して、オンボードでの書き込みを行なう【写真5】。何回かの走行テストを経て、走行コースに合った最適なパラメータになるようにチューニングしていく。


第2回目で紹介したエフテックのPICライタ。これを用いて、競技会用の走行プログラムをPICのEEPROMに書きこむ 【写真5】オンボードでのプログラムの書き込み。PICライターを介して、PCとロボット(ワンチップマイコンボード)を接続

【動画】実際の競技会コースにて、走行テストを行なう。8脚のメカニカルな動きが面白い

いよいよ競技大会が開催。ゴール達成者が5人も!

【写真6】競技会ルールについて説明する安藤助教授。スタート地点からゴールまでの距離は150cm。途中で2つの円筒ポールが立っているので、うまくすり抜けながら、ゴールまで近づけるようにプログラミングしていく
 さて、競技会の前に、今回の競技ルールについて簡単に触れておく。コースは【写真6】のようになっている。スタート地点からゴールまで150cmの距離があり、50cmの地点と100cmの地点に円筒ポールが立っている。これをうまい具合にすり抜け、あるいは勢いよくなぎ倒して? 最もゴールまで近づいたロボットが優勝となる。詳細のルールは以下のとおりだ。

・ロボットはスタートからゴールまで任意のコースで走行できる
・持ち時間は2分間。時間内であれば、何回でもトライが可能
・走行した中でベストの距離を記録とする
・ゴールの中心からロボットの基板上にあるトグルスイッチの距離を測定して記録とする

 SPIDERロボットは自律型のため、リモコンで操作せずに、あらかじめPICに書き込まれたプログラムによってシーケンス動作を行なうようになっている。マイコンボード上のスタートボタンを押したら、あとはロボットが自動的に走行する仕組みである。今回はロボットにセンサ類を搭載していないため、ロボットが障害物を認識して、それを避けたりすることは残念ながらできない。したがって、スタートする位置が少しでもズレたり、障害物のポールに接触したりすると、目標のゴール地点から大きく外れてしまうこともある。そのため、実際に競技コースでロボットをテスト走行させて、プログラムを少しずつ変更していく必要がある。

 また、製作したロボットによっては、ゴール地点まで進む距離が微妙に変わってくる。というのも、前述したとおりロボット自体にいろいろな個体差や機構上の癖が出てくるためだ。たとえば、両足を同時に動かしていても、機構部の微妙な誤差によって、進行方向が左右のどちらかにズレてしまうこともある。

 その個体差を吸収するために、プログラムのパラメータを書き換えていくのだが、実際には床の摩擦や、電池の消耗度によって、動きが変化してくるため、あまり走行の再現性はない。実は見た目以上に、ゴールに到達することは至難の技を要すると言える【写真7】【写真8】。

 とはいえ、今回の競技会では5人もの参加者が見事にゴール地点に到達した。関係者によれば、これはセミナー始まって以来のことだという。そのため急遽、決勝戦が行なわれることになった。優勝者は決勝戦でも完走を果たし、競技会の盛り上がりも最高潮に達した。セミナーの最後には、競技会の優勝者と優秀者に対し、表彰状が贈られた【写真9】。また、参加者全員にも修了証が記念として贈られた【写真10】


【写真7】競技会の模様その1。参加者は25名。2チームに分かれて競技を行なった。一人の競技持ち時間は2分間で、何回でもトライできる。「あれ、ロボットがゴールから外れてしまった」 【写真8】競技会の模様その2。なんとロボットがポールに衝突してしまった。こういう不測の事態も自律ロボット競技の面白いところだ。「がんばれ! ロボット君」と、子供も熱い声援

【写真9】競技会の優秀者表彰式および修了証授与式(写真)の模様。「なるべく無駄な動きをプログラムしないで、あとはメカに任せるように心がけた」と優勝者の弁。氏のロボットは、なんと2回ともゴールに到達した 【写真10】今回のセミナー参加者全員に贈られた修了証。ロボットのイラストが刷られているファイルもうれしい

要素技術を楽しみながら学ぶロボット製作は技術教育の原点

【写真11】芝浦工業大学 工学部 電気・情報系 電気工学科の安藤助教授。研究室ではロボット教材の開発・研究などを行っている
 今回のレポートの締めくくりとして、ロボットセミナーで講師を務めた芝浦工業大学の安藤助教授【写真11】に、ロボット教育の取り組みと、その成果について話を伺った。

――教育プログラムとしてロボット教材を開発したきっかけは?

 もともと研究室で「ロボットの教材開発」を研究テーマとしてきたという経緯がありました。そのような流れの中で、ロボットセミナー用の教材についてもサポートしていくことになりました。このSPIDERロボットによる「大人のためのロボットセミナー」は、今回で4回目の開催になります。毎年1回だけ開催されているのですが、とても好評であるため、今年は後期にも開催されるようです。

――大学の授業でもロボットの製作実習があるそうですが。

 芝浦工業大学の電気工学科では、大学1年の後期に、PICを利用してロボットを製作する実習を授業に取り入れています。その授業では「ライントレースロボット」を半年間かけてつくるように指導しています。秋葉原で必要な電子部品を購入するところから始まり、ひとりで1台のロボットを完成させるというものです。

 最近では授業にキットなども取り入れ、ハードウェアだけでなく、プログラミングに費やす時間を増やすようにしています。基礎となるアセンブラ言語から学んで、実際にモータをまわしたり、回転速度を変えたりしながら、ステップアップ式で学べるような教材をつくっています。


――ロボットが教育にもたらすものは?

 秋葉原でわざわざ部品を揃えたりすることは面倒なので、当初は学生に実習が受け入れられるか心配していましたが、実習が終わってみると「実はこういった経験がとても面白くて役にたった」という感想を抱いている学生が多かったようです。

 物を作りながら技術を学ぶことは、座学で勉強するよりも、はるかに学習効果があると思います。実際に目の前に動くものがあるため、やりがいが出ますし、モチベーションもあがるようです。ロボットは、技術を学ぶ上でも、センサ入力、モータ出力など、さまざまな要素技術が盛り込まれているため、最適な教育材料になると感じています。

――今後のセミナーのロボット教育に対する取り組みについて教えてください。

 セミナーに参加していただいた方のいろいろな意見を取り入れながら、教育プログラムを改良していきたいと思っています。今回の「大人のためのロボットセミナー」では、電子工作からロボット製作、さらにプログラミングまで網羅しているため、盛り沢山の内容になっています。今後は、「初心者向け」、「上級者向け」など、参加者のレベルに応じたセミナーも検討する方向で考えていきたいと思っています。

 今回のロボットセミナーに参加して、個人的にとても有意義な時間を過ごせた。3日間という短い時間ながら、マイクロコンピュータの技術から、電子部品の基礎知識、ロボットの組み立てや機構部の仕組み、さらにC言語によるプログラミングまで、すべてを網羅した充実した内容であった。

 実際にロボットに興味があっても、ワンチップマイコンの内蔵フラッシュメモリにプログラムを書き込む環境などを整えることは、ある程度の技術的なバックボーンがない限り、自力ではかなり難しいだろう。そういった開発環境まで含めて学べた本セミナーは、参加者にとって大きな収穫となるものだったと思う。

 ロボット技術は、機械要素、コンピュータ、プログラミング、制御技術、センサ技術など、さまざまなテクノロジーが集結した総合的な技術である。このような総合技術を、学生のみならず、子供も大人も肌に触れながら体感できるような時代が到来している。ロボットを通じたモノづくりの喜びが、さらに深い知的好奇心の世界へと我々を誘ってくれるのだ。


URL
  芝浦工業大学
  http://www.shibaura-it.ac.jp/

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2006/08/02 00:04

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