● 二足歩行ロボットキットの“セカンドインパクト”
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近藤科学「KHR-2HV」
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先日、突如として発表され、Robot Watchでもレポートした近藤科学の「KHR-2HV」だが、多くの人は、まず価格に驚いたのではないだろうか。
10自由度を越える、いわゆる「人型」ロボットキットのうち、これまでの最安値は、ハイテックマルチプレックスジャパン「ROBONOVA-I」の98,000円。続くのがヴイストン「Robovie-MS」の99,750円という情勢だった。これらのキットが世に出たときは「ついに10万円を切った!」と衝撃を受けたものだが、今回発売されたKHR-2HVはオープンプライスながら、ロボット専門店であれば実勢価格で税込み89,985円と、一気に最安値を更新してしまったのだ。
しかし、価格に注目が集まった反面、機体そのものは「KHR-1」のイメージを引き継いでいたので、はっきりとわかる違いが見えにくかった。そのため、単純な後継機・ディスカウント版ととらえている人もいるかもしれない。
しかし、実際に製品に触れてみると、KHR-2HVはただの“マイナーチェンジ版”ではない。今回は、KHR-2HVがどんなキットなのか、KHR-1と比べて何が変わったのかを徹底的にチェックした。
● 大きく変わったのは足と胴の構造
まずは全体的なところからチェックしよう。外観で大きく変わったのは、足と胴体だ。
KHR-1(以下、「1」)は「フトモモ」にあたるパーツに2つのサーボが配置されているのに対し、KHR-2HV(以下、「2」)は「すね」のパーツに2つが配されており、その組み合わせ方も異なっている。
設計者である吉村浩一氏に聞くと、「1」の足構造は少なくとも2年前にベストと考えて選択した構造だったという。しかし、「1」で得られたデータや、2年間でアクチュエータ(サーボ)が進化したことを含めて設計をしなおした結果、現在のベストとしてこの足構造になったということのようだ。
「1」のフトモモは、サーボの底面だけがアルミのブラケットにねじ止めされており、出力軸側は固定されていない。ユーザーがインシュロックで固定したり、後に対策パーツが発売されるなど、「1」唯一の弱点と言っていいパーツだった。
対して、「2」のすねは両側からサーボを挟み込むつくりになっており、単純に手で触っただけでもわかるほど、強度が上げられた。同時に「1」のフトモモのブラケットは1パーツで6回曲げる工程の多さに加え、「自分しか曲げられない」(吉村氏)という複雑な形をしていたのだが、「2」は2パーツになったものの、片方は一枚板、もう片方もコの字状に2回曲げるだけの簡単な(そして品質管理のしやすい)パーツになった。
構造が変わったことで、「1」のノーマル状態では不可能だった“完全にしゃがむ”姿勢が取れるようになったのは、モーションの幅を広げるという意味でも大きい。ひざから下の重量物が増えてはいるものの、特に動きが悪くなったようには感じられなかった。
胴体の構造変更は、「1」が胴体内にバッテリを収納するのに対し、胴体外に配置するようになったことに伴うものだ。胸部分に納められたことでカバーがとりつけられ、“ハト胸”なシルエットになった。また、動かしてみた印象だが、「1」よりも前に重心が移るぶん、姿勢が良くなっている(胸を張れる)効果もあるのではないだろうか。
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左がKHR-2HV、右がKHR-1。公称値で高さが13mm、幅が9mm大きくなっている。実物を見ると、数値以上に大きく感じられる
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足のアップ。サーボを平行にずらしていた「1」に対し、「2」はL字型に配置されている
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「2」は完全にしゃがむことができる。右の「1」と比べると、可動範囲が段違いになっているのがわかるだろう
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下が標準のケーブルがついている788HV。かなり長いが、コレでジャストサイズ
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それ以外の構造は、「1」に準ずる形で構成されている。全身で17自由度(頭1/腕3×2/足5×2)なのも同様だ。
サーボそのものは、すでに「1」のオプションとして発売されているKRS-788HVであり、10.8V仕様(最大12Vまで対応)、トルクが10kg・cm、スピードが0.14秒/60度と、サーボの能力自体は特に変わっていない。ただし、両足首のロール軸/ピッチ軸に配置された計4つのサーボには、約15cm長いケーブルが取り付けられている。
● アームパーツはすべて樹脂製に
「1」は基本的にアルミの板金パーツで作られていたが、「2」はサーボを接続する“アーム”部分がすべて樹脂製に置き換えられている。
樹脂製の利点は、まずコストダウンできることだ。型さえ起こせば、同じ品質のものが大量に生産できる。しかも今回「2」についている樹脂アームは、すでに発売されていた「サーボアーム700A(4セット入りで1,680円)」と同じものなので、新たな開発費はかかっていない。
ユーザー側にある利点としては、一定レベルの衝撃までは変形・破損しない点である。「側転」などの派手なモーションを何度も行なったり、競技会で格闘・転倒すると、負担のかかるアーム部分が金属だと、やはり曲がってしまうのだ。樹脂であればたわむことはあってもすぐに元に戻り、変形することはない。
もちろん強い衝撃を加えれば割れてしまうが、逆に割れることで衝撃を吸収できるので、1個で5~6,000円するサーボモータを壊す心配は少なくなるだろう。
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「1」の肩部分。アルミのアームからプラスチックのサーボホーンを介し、サーボにつながっていた。3本のビスが使われている
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「2」の肩部分。樹脂製のアームが直接サーボホーンの役目も持ち、直接つながっている。ビスは1本で、取り外しも楽
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ゆがんだ「1」のアーム。こうなってしまうと、今まで順調だっモーションが再生できなくなったりもする
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● バッテリ
標準装備のバッテリは、10.8V-300mAh。「1」は6V-600mAhだったので、電圧は二倍弱、容量はちょうど半分になる(この高電圧化がHV=ハイボルテージという意味だ)。「1」のオプションとして発売された「HVコンバージョンキット」に付属していたバッテリと同じもので、旧コンバージョンキットを持っている人であればそのまま流用できる。オプションとして発売されていた大容量版(800mAh)も搭載可能だ。
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赤いほうが「1」の6V-600mAh、緑のほうが「2」の10.8V-300mAh。厚みは多少増えたが、長さはほぼ2/3。重さも97gだったものが71gまで減っている
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大容量版は胸カバーいっぱいになる。122gもあるので、モーションによっては修正が必要かも
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● マイコンボード
ロボットの頭脳に当たるマイコンボードも、新型に改められた。型番は「RCB-3J」で、今後市販される予定の「RCB-3」の機能を一部削ったものになっている(といっても削られているのはシリアルサーボへの対応や上級者向けの設定であり、「2」のパフォーマンスには大きな影響はない)。
RCB-3Jの特徴は、「1」の標準マイコンボードであるRCB-1と同じ大きさでありながら、制御できる軸数が倍(24軸)になったことだ。「1」の時にはRCB-1を2枚使用して17軸を制御していたのだが、RCB-3は1枚だけで済んでしまう。
ボード上には5Vのアナログポートも3つ用意されており、「1」用として発売されていた加速度センサなど、市販のセンサ類をつなぐ事ができるし、無線用の送信機・受信機は6Vの「1」で使っていたものがそのまま使える。
バックパックそのものは同じパーツなので、中はこれまでよりもずっとスッキリした。空いたスペースは無線の受信機やセンサーなどを収納する空間として有効活用できるだろう。
ソフト面では、モーションの作りやすさ、わかりやすさが格段にアップしたことが大きな違いだ。プログラムが一切わからなくてもロボットを動かすことができるし、オリジナルのモーションを作ることもできる。
モーション作成画面は文字通り「白紙」の状態。データシートと呼ばれる白い部分に各ポーズをあらわす「POS」や数値や判断基準を入れ込む「SET」、条件分岐させる「CMP」といったオブジェクトを置き、それぞれを矢印でつないでいくことでモーションが完成する。
「POS」の中身は各サーボごとにスライドバーが設定された従来どおりのスタイルなので、ポーズの作り方そのものは変わっていないが、それをモーションにする過程がわかりやすくなったというわけだ。もちろん、「1」の特徴でもあった、サーボを手で動かしてデータを取り込ませる“教示機能”にも対応している。
付属のCD-ROMには22個のモーションがすでに収録されているので、買って組み立てるだけですぐに遊ぶことができる。
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左がRCB-1、右がRCB-3J。大きさはまったく同じで、見た目は端子の数ぐらいでしか違いがわからない
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キットに付属するサンプルモーション。キックや突きなど、“実戦的”なモーションもある
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【動画】モーションの作り方(例)。ポーズを1つ1つ置いていき、それをつないでいけば完成、と言う手順だ(もちろん実際には各ポーズでサーボの数値を設定しなければならないが) |
【動画】「条件分岐」を行なうときの作り方(例)。複雑なプログラムを組まなくても、ボード上に配置していくだけでできてしまう(これも数値設定は行なっていない) |
【動画】付属のモーションの1つ“突き”の動作 |
● 細かい改良点
他にも「2」の各所には、近藤科学にとって初めての二足歩行ロボットキットだった「1」から得られた改良点が散りばめられている。
たとえば、ロボットの基本姿勢であるホームポジションの設定は、付属するサンプルモーションの再現性にもかかわる重要な調整項目だ。「1」では“トリム調整”という、微妙な感覚が要求される設定方法だったのだが、「2」では見た目ではっきりとわかるように、フレームにガイド用の印を付けている。
また、先述した足首のサーボだけケーブルが長いものになっているのも、地味だが大きな改良点だ。延長ケーブルはどうしても抜けやすく、競技会では「ケーブルが抜けたためにタイム」というKHR-1を見ることもあるが、その心配もなくなった。
ケーブルにかかわるもので言えば、サーボからマイコンボードまでを導くケーブルガイドパーツも改良され、より回転軸に近い部分を、スムーズに配線することができるようになった。「1」のケーブルガイドのように、それ自体がケーブルを傷つけてしまうようなこともなさそうだ。
肩関節をサポートする“アームサポーター”が組み込まれていたり、足の裏が大きくなっているなど、「1」の発売後にオプションとして好評だったものが標準装備されている。
そして、「1」ではRS-232C(シリアル)ケーブルでしかロボットと通信できなかったのだが、「2」にはUSBからシリアル信号で通信できるアダプターが添付され、コンパクトノートでも機体の設定が行なえるようになるなど、ロボット単体だけの改良ではないのもありがたい。
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各軸のアルミフレーム穴が見えるだろうか。その穴と樹脂アームのマークをあわせるだけで、ホームポジションになる
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「1」の背中カバー内。延長コードのコネクタが見える
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改良されたケーブルガイド。軸のすぐそばを通るので、動いたときの長さの変化量が少ない
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● 次世代の標準機となりえるか
「1」が登場したときには、ホビーロボット市場そのものが「ないも同然」という状況だったために、驚異的なペースで売れ続けたと言う経緯がある。しかし現在は複数のライバルキットが同じような価格帯にひしめいているから、そう簡単にはアドバンテージをとることはできないかもしれない。「2」が発表されると言うニュースを耳にしたとき、そう考えた。
しかし実際に触れてみた「2」は、そんな考えをあっという間に忘れてしまうような強烈なインパクトがあった。実勢価格で4万円近くの値下げが行なわれていながら、内容はHVやRCB-3JのGUIソフトウェアなど、“これから”の二足歩行ロボットの仕様に先鞭をつけるようなものであり、同時に「1」から2年分の進化をしっかり織り込んだチューンナップ版と言っていいものだったからだ。
さらにオプションパーツが充実していくということなので、今後のラインナップにも注目していきたい。
■URL
近藤科学
http://www.kopropo.co.jp/
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