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「ロボットを活用したエンジニア育成ソリューション ZMP e-nuvoシリーズの紹介」
~「今年のロボット」大賞2008 受賞者講演会【4】


安藤秀之氏(株式会社ゼットエムピー 技術開発部部長)
 大阪産業創造館において2月5日(木)~20日(金)に、ロボット・フェスタ2009が開催され、ロボットを展示するロボットショールームロボットテクノロジー展が実施された。当期間中には、「今年のロボット」大賞2008の受賞者講演会も開催された。

 2月18日は、中小企業基盤整備機構理事長賞を受賞した株式会社ゼットエムピー(ZMP)の技術開発部部長である安藤秀之氏が「ロボットを活用したエンジニア育成ソリューション ZMP e-nuvoシリーズの紹介」と題して講演した。

 「e-nuvo」シリーズは、機械、電気電子、制御、ソフトといった多様な技術の融合であるロボットの特徴を活かし、産業界がエンジニアに求める工学要素を網羅した教材である。基礎から順を追って高度な実践技術力を習得できるよう、4種類のロボットで構成され、学習支援カリキュラムも提供されている。国内では理工系大学や工業高専のほか、自動車、家電等のメーカーでの納入実績がある。

 安藤氏は「e-nuvo」シリーズ開発の目的と、各製品の特長、使用事例を紹介。多くのロボット教材がある中で、同シリーズが高い評価を得ている理由を語った。


ZMP e-nuvoシリーズ 「ロボット大賞2008」中小企業基盤整備機構理事長賞 受賞 大阪産業創造館

ロボット技術やサービスで、楽しく、便利なライフスタイルの創造

株式会社ゼットエムピー。3つの分野で事業を展開
 株式会社ゼットエムピーは、文部科学省所管の科学技術振興機構北野共生システムプロジェクト研究成果を元にして、2001年1月に設立した。創業理念に「ロボット技術やサービスで、楽しく、便利なライフスタイルの創造を提案」を掲げており、ロボット教育事業をはじめ、さまざまな事業を行なっている。

 同社は、主に3つの事業分野を柱としている。1つ目はRT製品開発・販売で、これがメイン事業となる。将来的に家庭用ロボットが普及してきた時を想定したビジネスを展開しており、一般のユーザー向けにロボットを提供していくという。

 2つ目に、RTソリューション開発・販売として、教育関係のロボットを提供している。同社の売り上げは、この分野の比重が大きいそうだ。「教育分野に製品を提供しているおかげで、ビジネスがうまく回っている」と、安藤氏はいう。

 3つ目は、ロボット検定・講習会、教材・カリキュラム販売がある。この分野で同社が取り組んでいるのがロボット検定だ。これは英語の検定試験のように受講者のレベルを測ることを目的とし、いわゆるロボット関係の技術者に限らずさまざまなエンジニアを対象とし、将来のもの作りに携わる人を育てるために立ち上げたという。

 こうした3つの事業分野を念頭において、これまでの技術、製品開発の歴史を振り返ると、大きくわけて2つの流れがあると安藤氏はいう。

 まず同社のホームロボット事業製品として、「nuvo」という家庭用二足歩行ロボットと自律移動音楽プレーヤーロボット「miuro」がある。この「miuro」は、「ロボット大賞2007」で最優秀中小・ベンチャー企業賞(中小企業庁長官賞)を受賞した。

 こうした製品があり、ロボットが機械、電気電子、制御等の多様なテクノロジーの融合であることから、エンジニア教育の教材として提供するようになった。この教材は、e-nuvoシリーズとして「e-nuvo BASIC」「e-nuvo WHEEL」「e-nuvo ARM」「e-nuvo WALK」の4種類のロボットから成り立っている。一見すると全く違うロボットに見えるが、同じようなCPU基板とテクノロジーを使ってトータルにロボット学習ができるように構成されている。


「e-nuvo」シリーズの概念

 「e-nuvo」シリーズは、前述のように4つの種類がある。まずモーター制御学習キット「e-nuvo BASIC」でロボット工学の基本となる制御を学ぶ。

 「e-nuvo BASIC」は、組込プログラミングの基礎を学ぶカリキュラムとして、モーター制御基礎編、PID制御実装編、PID制御器の設計と実習の3つを用意している。主に、組込エンジニアの育成に使用されることが多いそうだ。ブレッドボードを使った基本回路の演習、H8 CPUを用いたプログラミング演習、モーター制御の基本を理解、CPLDを活用したハードウェア設計の基本学習を理解できる。


「e-nuvo」シリーズ製品群。教材とテキストを組み合わせて実践的な内容となっている ロボット工学の基礎教材「e-nuvo BASIC」

 「e-nuvo」シリーズは、これをベースに少しずつ発展させて、より複雑なことが理解できるようになっている。ユーザーのニーズに従って2つの方向性が用意されている。

 1つ目の車輪型ロボット教材「e-nuvo WHEEL」では、倒立振子型ロボットで現代制御を学ぶことができる。「e-nuvo WHEEL」は、大学関係からの評価が非常に高いという。何が受け入れられているのかというと、カンタンなシステムで現代制御、古典制御を理解し、理論をロボットに実装して試すことができる点だそうだ。倒立振子ロボットの「e-nuvo WHEEL」は、セグウェイなどと同じ原理で現代制御を学ぶカリキュラムになっている。

 ユーザーは、MATLAB/Simulinkの習得で、学習内容をより実践的な範囲に広げることができる。倒立二輪から、ライントレース、倒立振り子実験など、応用範囲が大きいこともポイントが高い。

 2つ目の「e-nuvo ARM」は、2軸で幾何学を学ぶシンプルな機構になっているのが特徴だ。アーム型ロボットを用いて機械設計スキルを養成。MATLABを活用した行列演算など解析ツールの使い方を理解できるのがポイントだ。

 そしてこれらの技術を集大成し、運動モデルをきちんと考えて二足歩行ロボット教材「e-nuvo WALK」に繋がっていく。工学知識を駆使し、二足歩行ロボット工学系全般を理解していないと「e-nuvo WALK」を扱うことが難しいと安藤氏はいう。

 「e-nuvo WALK」には、ロボットミドルウェアとして、マイクロソフトのRobotics Studioを使用している。そのため、マイクロソフトから「e-nuvo WALK」の貸し出し依頼もあるそうだ。

 Robotics Studioをミドルウェアに使うことで、シミュレータ上の動きと実機の動きを比べることができる。本格的なロボット開発と同様に、まずはシミュレータで確認してからロボットにデータを送って実装するという流れが体験できるのがポイントだ。


車輪型ロボット「e-nuvo WHEEL」 アーム型ロボット「e-nuvo ARM」 ロボット工学教材の集大成として二足歩行「e-nuvo WALK」がある

 「ビジネス的なポイントとして言えるのは、製品と実習カリキュラムをセットにし、教育としてしっかりした教材になることをコンセプトとした」ことだと安藤氏は強調した。テキストの作成には、芝浦工業大学水川教授、慶応義塾大学の足立修一教授といった制御関係の先生方に支援を得て、教材として成り立つものとした。その結果として、大学や高専・工業高校といったユーザーのニーズをしっかり捉えたものとなっているという。

 これらの技術が最終的にどのような技術に役に立つのかを示したのが、ホームロボット事業製品の「miuro」と「nuvo」になる。二輪型音楽ロボット「miuro」は、音楽プレーヤーの機能を持ちながら人の後をついて回ったり、画像で自分の位置を確認して障害物を避けたり、ネットワークを介して映像を送ったりコミュニケーションしたりする機能を搭載している。

 車輪型ロボット教材「e-nuvo WHEEL」で二輪の技術が分かっていれば、miuroに繋がるということがはっきり見えている製品となる。また二足歩行ロボットは、すぐに実用となるようなものではないが、将来的に市場へ出てきた時にすぐに役立つ技術となる可能性がある。学習内容が近未来のリアルな技術に繋がっていることが、大学等の教育ニーズとぴったり合っている。


ロボット教材「e-nuvo」シリーズ導入のメリット
 安藤氏は、MATLAB/Simulinkを用いた高度な制御理論の実習用ツールを用意したことを教材導入時のメリットとして強調した。教育機関にとっては、ツールを学生に覚えさせるためのプラットホームとしてロボットを活用できるという。

 同社は、こうした製品の一部は部品としても提供している。ロボットを組み立てて、ソフトをインストールする過程で組込システム開発の基礎を分かりやすく学習できる。また、仕様、要件を明確にし、制御設計シミュレーション、実装、テストに至る開発プロセスを一気通観して体験できる。実践的な学習のため、産業ユースの機構に役に立つカリキュラムになっているそうだ。

 さらに付け加えると、「ロボット」という分かりやすい題材を用いた実践的教育という点では、新入社員研修などで、複数名で実習を行なうことによりチームワークの向上に役立つのも利点だという。

 経済性の点では、小型軽量のロボットとPCがあれば実習をスタートできるため、研修環境導入コストを削減できるメリットがあげられる。また、研究目的のプラットホームとしては安価である。小型ロボットのため、机上でカンタンに機械・電気・ソフトの実験学習ができるという融通がきく点も評価されているそうだ。

 ロボットを教材とした場合の学習効果は、開発当初から想定していたが、ユーザーからのニーズを確認したことで、よりe-nuvoシリーズの位置づけがはっきりしてきたと安藤氏は言う。


産業界のニーズにあった実践的な教材

 安藤氏は、新市場開拓のポイントとして産業界のニーズと技術がうまくマッチングした点を強調した。

 産業界には、モデルベース設計/開発で使用するツールや開発手法、CPUやラピッドプロトタイプ環境などのデファクトスタンダードとなっている製品を使った効率的な開発、開発工程の標準化による品質保証といったニーズがある。

 一方、ロボット技術には産業界と同様の工学的要素が網羅されている。すなわち、組込システムに必要なC言語や電子回路、制御機器設計に必要な古典制御、現代制御、そして、機械設計でCAD、数値解析でMATLAB/Simulink等の技術が必要となる。ロボットを教材にすることで、電子回路、組込システム、ソフトウェア、制御システム設計といったさまざまな工学的分野にまたがったロボット工学を統合的に学び体験できる。「このマッチングがうまく働いているからこそ、ロボットを活用したエンジニア育成ソリューションとして、e-nuvoシリーズが上手く回っている」という。

 自動車関係や重工では、要件定義を左上におき、制御設計から開発まで行ない、折り返して右上の品質を確認・検証する段階へと進むV字開発がよく使われる。ロボットを教材にした場合もそれと同様に、製品仕様、制御系設計、実装までアプローチしている。これが現場の開発とうまくマッチしている。こうした開発の流れを学ぶことができる点について、産業界からも高い評価を得ているそうだ。


産業界のニーズとロボット技術がマッチし、教材として優位性を確立 ロボット技術には複数の工学知識が含まれている 産業界のV字開発と同じ経験を学習の中で体験できる

 こうした評価の結果として、「e-nuvo」シリーズは大学や高専・工業高校等約300ユーザーへの納品実績がある。教育機関以外にも、自動車関係や電気関係を中心とした大手メーカー60社、また台湾、韓国をはじめとする海外、官公庁にもユーザーがいる。

 教育現場への導入事例として、近畿大学がe-nuvoを授業に取り入れ人材育成に活用したことを紹介した。近畿大学では16体のe-nuvoを導入し、1チーム約10名前後でロボットのモーション開発を行なった。これは、幾何学、運動力学、逆運動力学等を理解していなければできない課題だったと安藤氏はいう。

 学生がハードな扱いをしても、e-nuvoは十分に耐えて動いている点を強調。また、e-nuvoはシミュレータが実装されているため、こうした多数のグループ授業がやりやすくなっている点が実証された。

 安藤氏は、実際に使われたユーザーからの生の声として「PCシミュレーションだけで学ぶよりも分かりやすい」「カリキュラムやサンプルプログラムの附属が学習に役立つ」といった意見を紹介した。ロボットが教材だと学生が興味を抱きやすく、授業のモチベーションが上がるという声があるという。また「nuvo、miuroといった最終製品までの繋がりが分かりやすい」といった点も評価が高いそうだ。

 一方、産業界からは「ロボットは多くの要素を網羅しているため、役に立つ」「自動車のECUと同じCANバスに対応しているため、実践的な研修が可能」「Simulinkを使っているので、あえて企業側で研修をしなくても、学生時代に理解してもらえる」といった評価が多いという。エンジニアは専攻分野に閉じ籠もりがちだが、ロボットを教材にすると幅広い分野の勉強ができるため、視野が広がるというメリットがあるそうだ。


企業、大学をはじめ官公庁にも納品実績をもつ 近畿大学理工学部が教材として採用し、1年生が競技会を実施 教育現場や産業界から寄せられるユーザーの声

今後の事業展開

 同社の今後の事業展開としては、第一に、エンジニアのスキルレベルを把握し、企業における人材採用・育成の指針となる「ロボット検定」の立ち上げがあるという。これはすでに株式会社ゼットエムピー、株式会社FRI、株式会社パソナテックの3社で「ロボテスト」という会社を立ち上げ展開している。

 2008年8月には、α版を20校500名程度で実施、2009年2月には各地出張や土日を使いベータ版を実施した。夏からは、正式版実施を予定しているそうだ。

 次に、自動車分野でのロボティクス推進を目指し1/10スケールのカー・ロボティクスプラットフォームを開発中だという。これは画像処理や外界センサーにフォーカスを移し、情報系技術をターゲットにしている。miuroやnuvoでは、音声認識や画像処理による室内マップで自分の位置を認識しているが、そうしたセンサー技術を応用して情報系をカバーしていくという。これは今後、ロボット技術と自動車技術の融合が進んでいく方向性を考えた上での新たな取り組みとなる。

 カー・ロボティクスプラットフォームには画像処理ボードや、CCDカメラ、加速度センサー等を搭載、ソフトリアルタイムで動くLinuxのCPUを採用している。Wi-Fiアダプタをつけて、無線LANでPCやほかの車と通信をすることができる。外界センサーとして赤外線の側距センサーがついており、これはユーザーのアイデアでセンサー位置を変えることができる。自律システムができるものとして提供していく予定。

 これまで同社の製品は比較的メカに重点を置いていたが、「カー・ロボティクスプラットフォームは情報処理系のニーズをつかみ始めている」と安藤氏はいう。情報処理系教育関係の方は、メカは外から買ってくることが多い。カー・ロボティクスプラットフォームは、そうしたニーズに合致している。研究に使いやすいので、受け入れてもらいやすいだろうと考えているそうだ。

 最後に安藤氏は、「ロボットにとって非常に大事なのはセンサーそのものである」と述べた。そこで韓国製の教材を日本仕様に変更し、オールインワンタイプ・センサー学習教材「KMC-SEN」として同社が販売していくことにしたという。これは、超音波センサー、湿度センサー、電流センサー、アルコールセンサー等20種類のセンサーと端子アダプタなどが同梱されていて、センサー特性を試すことができる。

 加速度センサー、温度センサー等よく使われるセンサーだけではなく、いろんなセンサーを試し知識を広げたい方から問い合わせが多いそうだ。同社としては、工業高校・高専をターゲットにしていたが、思いがけず企業からの問い合わせが多かったという。1月の終わりから受注を開始したところ、2週間で必要ロットが埋まったので、現在は韓国に発注中。次ロットの発売も決定しているそうだ。

 安藤氏は、「ロボットをきちんと理解するための基本はセンサーであることを押さえていきたい。このセットで補完できるようにしていきたい」と語った。


エンジニアのスキルを把握、人材育成の指針とするための「ロボット検定」を立ち上げる 自動車分野でロボティクスを推進するための教材「カー・ロボティクスプラットフォーム」を開発 重要な要素技術であるセンサーの教育教材

 質疑応答で、受講者から子供向け学習教材を展開する予定について質問があった。安藤氏は、「現在のシリーズは、工業高校・高専以上を対象にしている」と前提した上で、中学・小学校の年齢層を対象とした場合、価格がネックとなる。また同社が出しているものは産業向けになっているため、扱っている技術が高く現時点ではマッチングしないと思われる。しかし将来的には考える必要があると、社内の検討事項になっていると述べた。


URL
  ロボットラボラトリー
  http://www.robo-labo.jp/
  今年のロボット大賞
  http://www.robotaward.jp/
  ゼットエムピー
  http://www.zmp.co.jp/

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( 三月兎 )
2009/04/09 18:54

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