12月20日、東京・青山のTEPIAにて、「今年のロボット」大賞2007の発表と表彰式が行なわれた。今年は特に顕著な成果を収めたロボットとして、ファナック株式会社による「2台のM-430iAのビジュアルトラッキングによる高速ハンドリング」が選ばれ、「今年のロボット」大賞(経済産業大臣賞)として経済産業大臣から表彰された。産業用ロボットを、食品業界などにも展開している点が評価された。
「今年のロボット」大賞とは経済産業省が昨年設置した賞で、ロボット市場の創出に貢献したロボットを表彰する制度。主催は経済産業省、(社)日本機械工業連合会、(独)中小企業基盤整備機構、日本経済新聞社で、(財)機械産業記念事業財団、(社)日本ロボット工業会、(社)日本ロボット学会、(社)日本機械学会が協力している。
「今年のロボット」大賞は、サービスロボット部門、産業用ロボット部門、公共・フロンティアロボット部門、部品・ソフトウェア部門の計4部門からなる。
第二回目となる今年は、82件の応募の中から13件のロボットを「優秀賞」として選出した。なおこの賞の「今年」とは「2006年9月1日から2007年8月31日」のことで、そのうち「日本国内で活躍したロボット」が対象となる。
当日は大賞を獲得したファナックの「高速ハンドリングロボット」とあわせて、
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受賞者と甘利明 経済産業大臣
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・「最優秀中小・ベンチャー企業賞(中小企業庁長官賞)」として株式会社ゼットエムピーの自律移動音楽プレイヤーロボット「miuro」
・「日本機械工業連合会会長賞」として松下電工株式会社の無軌道自律走行ロボット「血液検体搬送ロボットシステム」
・「中小企業基盤整備機構理事長賞」として株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズの超小型高精度高出力トルクACサーボアクチュエータ「RSF-3B」
・審査委員特別賞として九州大学、株式会社日立製作所、株式会社日立メディコ、瑞穂医科工業株式会社、東京大学、早稲田大学の共同開発による「MR画像誘導下小型手術用ロボティックシステム」
がそれぞれ選ばれ、そのほか「優秀賞」を獲得したロボットともども、全部で13件が表彰された。
報道関係者対象のプレゼンテーションでは、経済産業省製造産業局 産業機械課長の秋庭英人(あきば・ひでと)氏が「選に漏れたなかにも優秀なものが多数あった。来年度以降も応募していただくことを期待している。一般公開では日本の優秀なロボットを多くの方に見て頂きたい」と述べた。
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ファナック「2台のM-430iAのビジュアルトラッキングによる高速ハンドリング
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「今年のロボット」大賞を取ったファナックの「2台のM-430iAのビジュアルトラッキングによる高速ハンドリング」は、コンベア上を高速で流れてくる物品を正確にピッキングする垂直多関節ロボット。毎分120個以上の処理能力を持ち、24時間稼動できる。産業用ロボットでありながらコンパクトな大きさに収まっており、酸やアルカリ洗浄液に耐える素材・表面処理、ダブルシールによる防塵防滴性能を施し、洗浄性、耐薬品性、清潔性を要求される食品・医薬品分野で活躍できるようになった点が高く評価されて「今年のロボット」大賞となった。
なおこの高速ハンドリングロボットは国立科学博物館で開催中の「大ロボット博」でも展示されているので、見たことがある読者も少なくないだろう。
ファナック株式会社代表取締役社長 稲葉善治氏は今回の受賞に対して「大変名誉なことであり、産業界で活躍しているロボットたちも喜んでいるだろう」とプレゼンテーションで挨拶し、以下のように続けた。
「産業用ロボットは1980年に大きく飛躍して本格的にマーケットが立ち上がり、ロボット元年と呼ばれた。いまや産業用ロボットは色々なタイプに分かれて活躍している。多くのロボットはプログラムされたとおりにしか動けないと思われているが、2000年代に入ってからはビジョンや力のセンサーが飛躍的に発展し、これらを搭載した『知能ロボット』が登場した。より人間に近い作業が実行できるようになっている。
今回大賞を受賞したロボットは、そうしたビジョンセンサーを内蔵し、自分でコンベアに流れている品物を見つけてトレイに箱詰め作業ができる。産業用ロボットは半分くらいが自動車産業で使われているが、マーケットでも用途の拡大が切望されている。今回のロボットは産業用としては非常にスリム。食品や医薬品の製造工程で使われることを前提としているからだ。大量の品物が流れてくる現場で、ロボットは自分でコンベア上の品物を見つけて箱詰めできる。ビジョンのほかの技術的特長としては高速ピッキングが挙げられる。メカ的な工夫としては、基本の3軸にそれぞれ2台のサーボモータを使って高速かつ連続で駆動できる制御技術を開発した。
食品現場ではグリスを嫌う。そのためピッキング部分ではプラスチック歯車と金属歯車を組み合わせて使うことにより無潤滑で動かすことに成功している。シールもしており、洗剤で丸洗いすることも可能だ。一台のロボットのピッキング能力がこれまでは毎分60個くらいだったのが120個くらいまで速度をあげられた。さらに複数台を同時に動かすことができる。2台以上のロボットを協調させて、それぞれのロボットが自分の分担を持って作業分配して動作できるソフトウェアを開発した」
稲葉氏はこのように、喜びを熱く記者会見で語った。
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【動画】ファナック「2台のM-430iAのビジュアルトラッキングによる高速ハンドリング」
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IRビジョンによりコンベア上の物体をトラッキングする
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上に見えるのがカメラ
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ロボットの概要
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甘利明経済産業大臣がロボットの動きを見学
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ファナックのメンバーで記念撮影
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miuro
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「最優秀中小・ベンチャー企業賞(中小企業庁長官賞)」の自律移動音楽プレーヤーロボット「miuro」に関しては、本誌ではこれまで何度もご紹介しているとおりである。音楽にあわせてダンスしたり、部屋のなかの指定場所まで自律移動させられるロボット音楽プレイヤーで、高い音質と、移動する音楽プレイヤーで音楽を楽しむというリスニングスタイルを提案した。
株式会社ゼットエムピー 代表取締役社長の谷口恒氏は「当社ではロボット技術を身近な家電製品につけて付加価値をつけ、毎日使ってもらいたいと思って音楽ロボットを製作した。音楽は世界共通。音楽をキーに日本発世界のホームロボットを発信していきたいなと思っている。いま銀座のアップルストアで限定モデルを発売しているが評判いい。家庭用ロボットは売れて市場を作ることで評価を受けなければならない。引き続き、ZMPを応援いただくようよろしくお願いしたい」と述べた。
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工場の様子
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甘利明経済産業大臣にmiuroの仕組みを説明するZMP社 谷口恒氏
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血液検体搬送ロボットシステム
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「日本機械工業連合会会長賞」を獲得した松下電工株式会社の無軌道自律走行ロボット「血液検体搬送ロボットシステム」は、病院内搬送ロボット「HOSPI」を発展させたもので、最大10台のロボットを自動運転させられる。ロボットは固定設備とのドッキング、自動移載技術、そして自動充電システムを備えており、24時間稼動できる。2006年10月に臨床検査会社である株式会社ビー・エム・エルに15台が導入され、稼動している。
入社以来ずっとロボットを手がけているという松下電工株式会社生産技術研究所 副参事 北野幸彦氏は、受賞の喜びを以下のように述べた。
「長年にわたって何回かプレス発表をしてきたが、趣旨はいつも、国全体でロボットを工場以外のところで活躍させようということ。ロボットが教えたとおりの繰り返し作業しかできないのでは工場の外に出すことができない。自分で考えて判断できる、すなわち自律ロボットでないと身近なところで働くことができない。そのことに気づいて新しいロボットの開発を始めて10年くらい経つが、今回このような賞を頂き、やっと実現できるところまでたどりついた。特徴は自分で考えて動けるところだ。さらに10台のロボットがチームワークを持って動くことができる。それぞれのロボットが考えて動き、人間が手を出さなくても24時間働けるシステムだ。障害物回避で人に怪我をさせることもない。当初の夢が実現できた。
また、産業としては毎日使われるものでなければならない。そこに重点を置いた。先見性のあるお客様に恵まれて、毎日使ってもらっている。さらに今回はその点を認めて頂いて賞をもらった。大変嬉しいし、今後さらに市場を広げていきたい」
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血液検体搬送ロボット。こちらが後ろ側
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10体のロボットが同時稼動できる
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検体を自動移載できる
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松下電工株式会社生産技術研究所 副参事 北野幸彦氏
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小型高精度高出力トルクACサーボアクチュエータ「RSF-3B」
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「中小企業基盤整備機構理事長賞」を獲得した株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズの超小型高精度高出力トルクACサーボアクチュエータ「RSF-3B」は、直径8.5mmの円周に、人間の髪の毛よりも細い0.042mmの歯を200枚切った世界最小のハーモニックドライブを使用したサーボアクチュエーターである。直径13mmで長さ4cm、最大30cNmのトルクを出せる。
株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ メカトロニクス本部長の谷岡良弘氏は、「ロボットという大きなくくりのなかで、アクチュエータは大きな要素の一つ。ロボット大賞を受賞して光栄に思っている。ハーモニックドライブはシンプルな減速機。産業用から徐々に普及してきた。顧客からの要求に従って開発を進めてきた。減速機の効率をあげるために開発してきて小型化に挑戦し、今回受賞したRSF-3Bができた。その結果、このような賞が受賞できたことは大変励みになる。小さいことをメリットとして指の把持機構を製作してデモでお見せしているが、それ以外にもFAなどへの活用を目指している。これからも世の中のためになる製品を作っていきたい」と語った。
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【動画】小型ながら500gの重りを回せる
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【動画】「RSF-3B」を使ったハンドのデモ
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【動画】ハーモニックドライブの仕組みを示す模型
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ギアヘッド部
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ステータでもこれまでにない高密度巻き線を実現
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株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ メカトロニクス本部長 谷岡良弘氏
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MR画像誘導下小型手術用ロボティックシステム
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審査委員特別賞として選ばれたのは九州大学、株式会社日立製作所、株式会社日立メディコ、瑞穂医科工業株式会社、東京大学、早稲田大学の共同開発による「MR画像誘導下小型手術用ロボティックシステム」。磁気共鳴画像診断技術(MR)下で微細な手術を行なう際に、それを支援するロボットシステムである。実用になったときの社会的インパクトが大きく、このようなものを進めていくべきだという意見が審査委員たちから出て、今回の受賞となったという。
九州大学大学院医学研究院先端医療医学教授、九州大学病院 先端医工学診療部部長の橋爪誠氏は、「皆さんご存じのとおり日本の治療機器メーカーは世界に比べると劣勢で、ほとんどの医療用器具は海外メーカーのもの。なんとか日本から世界に向けて治療機器を製品化して出すことが重要だ。今回、体にやさしく安全な治療機器を開発した。このようなシステムは世界でも初めて。今回受賞した審査委員特別賞は『はやく製品化して、世界に出せるものにしろ』という励ましであると理解している。これからも努力していきたい。また、この受賞を契機にして、国民の皆様にも知っていただき、治療支援技術を製品化し、世界に発信することに関心を持っていただき、関係各位にご支援いただき、開発が促進されるように広がっていけばと思っている」と述べた。
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【動画】立体画像を見ながらマニピュレータを操作する様子
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スレーブマニピュレータには金属部品が使われていないためMR使用環境下で使える
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さまざまな術具を取り付け可能
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システム概要
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九州大学大学院医学研究院先端医療医学教授、九州大学病院 先端医工学診療部部長の橋爪誠氏
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なお、優秀賞を獲得した13件のロボットは以下のとおり。会場内では各ロボットも展示されている。上記以外のものを写真と動画でご紹介する。
【サービスロボット部門】
1) MR 画像誘導下小型手術用ロボティックシステム
(九州大学、株式会社日立製作所、株式会社メディコ、瑞穂医科工業株式会社、東京大学、早稲田大学)
2) 教育用 レゴ マインドストーム NXT
(レゴジャパン株式会社レゴエデュケーション)
3) 小型ヒューマノイドロボット HOAP
(富士通株式会社、株式会社富士通研究所、富士通オートメーション株式会社)
4) miuro(ミューロ)
(株式会社ゼットエムピー)
5) 無軌道自律走行ロボット「血液検体搬送ロボットシステム」
(松下電工株式会社)
【産業用ロボット部門】
6) 2台のM-430iAのビジュアルトラッキングによる高速ハンドリング
(ファナック株式会社)
7) 連結式医薬品容器交換ロボット
(株式会社ツムラ、富士重工業株式会社)
【公共・フロンティアロボット部門】
8) 血管内手術の技術トレーニングのための超精密人体ロボット イブ
(ファイン・バイオメディカル有限会社、名古屋大学)
9) 消防ロボット
(株式会社小松製作所、株式会社アイヴィス、株式会社アイデンビデオトロニクス、株式会社サイヴァース、株式会社マルテクニカ)
【部品・ソフトウェア部門】
10) HG1T/HG1H 形小形ティーチングペンダント
(IDEC株式会社)
11) 国際標準準拠の RT ミドルウェア(OpenRTM-aist-0.4.0)
(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、独立行政法人産業技術総合研究所、社団法人日本ロボット工業会)
12) 超小型高精度高出力トルク AC サーボアクチュエータ
(株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ)
13) ロボット・FA 機器向けオープンネットワークインタフェースORiN
(株式会社デンソーウェーブ)
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IDEC株式会社の小型ティーチングペンダント
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「HG1H」の利用例
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同社の小型ティーチングペンダントを使うことで9割の開発コストを削減可能
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【動画】富士通の小型ヒューマノイドHOAP3の歩行。これまでの出荷台数は130
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富士通によるヒューマノイド開発の歴史
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HOAPは研究開発プラットフォームなので改造されることが多い。ベースにしたロボットの例
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レゴ・マインドストームNXT
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【動画】レゴ・マインドストームNXTのデモ
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株式会社デンソーウェーブによるORiNのブースと活用例
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ORiNの歴史
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RTミドルウェアのブース
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RTミドルウェア
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RTミドルウェアのコンセプト
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富士重工業とツムラが共同開発した連結式医薬品交換ロボットのコンセプト
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【動画】連結式医薬品容器交換ロボット
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コマツそのほかが開発した消防ロボットに搭載されているマルチカメラ
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消防ロボット。車体下部にカメラが搭載されている
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内部に8つの小型カメラがあり、150度程度のパノラマ画像を生成している
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無人化施工を行う無人機にも使える
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ファイン・バイオメディカル有限会社の「超精密人体ロボット イブ」
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血管内手術の技術トレーニングのためのトレーニングに用いる
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【動画】リアルな人体のように動く
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なお、21日(金)と22日(土)には受賞ロボット13件を一般公開する「今年のロボット」大賞展がTEPIAにて開催される。入場は無料。
21日には記念シンポジウムも開催され、各受賞ロボット開発者のほか、トヨタ自動車株式会社パートナーロボット部の高木理事、本誌にも寄稿しているロボットジャーナリストの影木准子氏が講演する。
■URL
「今年のロボット」大賞
http://www.robotaward.jp/
■ 関連記事
・ 今年のロボット大賞2006が決定(2006/12/22)
( 森山和道 )
2007/12/21 00:02
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