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今年のロボット大賞ロゴ
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12月21日、東京・青山のTEPIAホールにて「今年のロボット大賞」記念シンポジウムと表彰式が開催された。
「今年のロボット大賞」は、今年活躍し、将来の市場創出への貢献度や期待度が高いロボットを、審査委員会で選定して表彰するもの。第1回となる今年は152件の応募から、サービスロボット部門、産業用ロボット部門、公共・フロンティアロボット部門、中小企業・ベンチャー部門の4部門で合計10件が優秀賞として選ばれていた。
21日にはその最終審査の結果として「今年のロボット」大賞(経済産業大臣賞)1件、「中小企業特別賞」1件、そして審査委員特別賞1件が選定され、それら3点を含む優秀賞10点と併せて表彰された。
「今年のロボット」大賞は富士重工業株式会社、住友商事株式会社による「ロボットによるビルの清掃システム」、中小企業特別賞は近藤科学株式会社のホビーロボット「KHR-2HV」、審査委員特別賞は、セコム株式会社による食事支援ロボット「マイスプーン」となった(各ロボットの詳細は下記)。
なお優秀賞を獲得したロボットは下記の10点。
● サービスロボット部門
・アザラシ型メンタルコミットロボット「パロ」(株式会社知能システム、独立行政法人産業技術総合研究所、マイクロジェニックス株式会社)は、医療福祉施設や一般家庭でのセラピーを目的としたロボット。全身に面触覚センサをもち、なでられると鳴き声をあげる。これまでに国内累計800体が生産されているという。
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アザラシ型メンタルコミットロボット「パロ」。おしゃぶりを加えているのは充電中
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パロの内部構造
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パロを抱く開発者の産総研 知能システム研究部門 知的インタフェース研究グループ 主任研究員 柴田崇徳氏
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食事支援ロボット「マイスプーン」
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・食事支援ロボット 「マイスプーン」(セコム株式会社)は、手の不自由な高齢者や障害者の食事自立支援を目的としたロボット。あご、あるいは足などで操作するジョイスティックを使って、トレイのなかのさまざまな食べ物をすくって食事することができる。操作モードは手動、半自動、自動から選ぶことができる。社会福祉法人日本身体障害者団体連合会(日身連)の「食事支援福祉機器助成事業」の対象機器となっており、販売価格(標準セットで399,000円)のうち9割を日身連が助成し、購入者は一割の自己負担(39,900円)で済むようになっている。
・ロボットによるビルの清掃システム(富士重工業株式会社、住友商事株式会社)は、エレベータにも自律で乗り込んで各フロアを清掃することができるロボットを使った清掃システム。実際に晴海トリトンスクエアや六本木ヒルズなど、10棟ほどの高層ビルに導入されている。
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富士重工の清掃ロボット。左はハードフロア、右はカーペット用
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ロボット前面パネルを外してもらった。ダストボックスがある
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普通の家庭用掃除機と同じフィルターが入っている。誰でも扱える
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後面の操作パネル。左右のハンドルは人力で移動するときのためのもの
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【動画】掃除の様子のデモ
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● 産業用ロボット部門
・人共生型上半身ロボット(DIA10)・腕ロボット(IA20)MOTOMAN-DIA10/MOTOMAN-IA20(株式会社安川電機)は、自由度15軸をもった人間の代替を目的とした人間型産業用ロボット。搬送や組み立てを目的としており、既に300体ほどが稼動中だという。ニーズがあればさらに腕を付け足すことも可能だという。
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人共生型上半身ロボット(DIA10)と腕ロボット(IA20)
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人共生型上半身ロボット(DIA10)
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背面
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・人の能力を超えた高速高信頼性検査ロボット(株式会社デンソー)は、ビジョンを使って高速で目視検査を行なうことができるロボット。高速移動時の軌跡を予測しながら全ての検査箇所を通過する一筆書き経路を自律的に計算、必要なタイミングでストロボ撮影を実現する制御技術を開発し、人間を超える「動体視力」を持たせることに成功した。人間以上の性能(検査作業全体で人間の1.6倍の速度を実現)を持つことから、品質保証分野において十分な競争力があるという。国内外のラインで64台が稼働中。
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高速高信頼性検査ロボット
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【動画】動作デモ
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● 公共・フロンティアロボット部門
・遠隔操縦用建設ロボット(国土交通省九州地方整備局九州技術事務所、株式会社フジタ)は、人間の代わりに危険地域でのパワーショベル操作を可能にするロボット。パワーショベルの通常座席を取り外して設置して、遠隔からジョイスティックを使って操作を行なう。これまでの販売実績は9台。
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遠隔操縦用建設ロボット
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遠隔操縦装置
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・深海巡航探査機「うらしま」(独立行政法人海洋研究開発機構)は、高圧低温の環境となる深海において探察活動が行える無人探査機。閉鎖式燃料電池を深海ロボットとして初めて使用した。
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「うらしま」1/5モデル
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内部を見ると、ほとんど「動く燃料電池」だ
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● 中小企業・ベンチャー部門(部品含む)
・移動ロボット用の小型軽量な測域センサ URGシリーズ (北陽電機株式会社)は、サービスロボットや自動搬送ロボットなどに用いることができる小型軽量・低価格な環境認識センサー。レーザー光を使って検知物までの距離を測定する。
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測域センサURGシリーズ
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応用例の一つ、屋外ゴミ箱交換ロボット「T1」(富士重工業(株)
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応用例の一つ、筑波大学の「ビーゴ」。研究教育用自律ロボット
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・KHR-2HV(近藤科学株式会社)は、17軸の可動軸を持った小型2足歩行ロボット。本誌読者には説明の必要はないと思う。実売9万円以下の低価格でホビーロボットを実現し、多くの人にロボットに接する機会を提供した点が評価された。
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【動画】KHR-2HVを操縦する甘利経済産業大臣
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【動画】KHR-2HVでシュート
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・はまで式全自動イカ釣り機(株式会社東和電機製作所)は、「しゃくり」と呼ばれる熟練漁師の技術を数値化して再現した釣りロボット。1971年の発売以降、改良が続けられており、現在のモデルは船自体のロール運動による揺動補正、イカがかかったことを検知できる負荷検知機能などのほか、漁探との連動機能などを持つ。これまでの年間最高売上台数は1万台。いまでも年平均2,000台売っており、業界では今やこのロボットなしにイカ釣りを行なっている漁船はない、といえるほど普及しているという。
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はまで式全自動イカ釣り機
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制御画面
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● 記念シンポジウム
「ロボットが築く新たな市場と未来社会」をテーマとした記念シンポジウムの様子をレポートする。
まず、経済産業省製造産業局長の細野哲弘氏が主催者挨拶に立った。細野氏は「日本は既にロボット大国。世界の4割、36万台のロボットが稼動している。経済産業省はロボット分野に期待している。成長戦略大綱の中でも触れたように、日本のイノベーションの中核を担うひとつだと考えている。人口は昨年から既にマイナスに転じている。単に少子化だけではなく高齢化も進み、人口構成も変わる。労働者人口は今は総人口の2/3あるが、50年後は半分になる。ロボットは生産現場だけではなく、広くサービス分野でも活動を広げていくことが期待される。労働環境がよくないところで人力でやっていたところを置き換える、または労力が非常にかかる分野でもロボットの力を借りるのは自然な流れ」と述べた。
具体的な取り組みとして、「ロボットビジネス推進協議会」の立ち上げについて「できるだけたくさんの所見を集約することと、ファイナンスや保険などのインフラを整える必要がある」とふれた。もうひとつの取り組みがこの「ロボット大賞」で、「現場で活動している関係者へのメッセージとしたい。合わせて、ロボットにはこういう利用価値があるということを是非知ってもらいたい」と趣旨を述べた。
続けて、工学院大学学長で、審査委員長をつとめる三浦宏文氏が講評を述べた。今回の「ロボット大賞」には、のべ152件の応募があったという。応募の多さと分野の広さが日本のロボット分野の広さを示しているとし、審査は、社会的な価値、ユーザーの観点、技術的な先進性から行なわれた。
サービスロボット部門では、現実の社会や生活環境の中でロボットがどのように役に立っているか、安全性が考慮されているかを特に評価のポイントとしたという。産業用ロボットでは、製造用ロボットが確実に進化していることが実感でき、公共・フロンティア部門では、人間の活動領域を超えて活動できるロボットが登場した。中小企業ベンチャー部門では、独自の技術を生かして、顧客を明確にすることで事業化している例が多かったと述べた。
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経済産業省製造産業局長 細野哲弘氏
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工学院大学学長 三浦宏文氏。「今年のロボット大賞」審査委員長
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大賞として選ばれたのは、富士重工業株式会社と住友商事株式会社による「ロボットによるビルの清掃システム」。評価されたのは、人とロボットの役割分担を明確にした上で、ロボットを導入することでコスト削減を提案する、新たなビジネスモデルを考えだしたこと。また夜間作業を行なえること、着実な実証実験の積み重ね、安全性確保など事業化の壁を乗り越えてきたことが評価された理由だという。
中小企業特別賞は、近藤科学の「KHR-2HV」が選ばれた。青少年から高齢者まで幅広いユーザーを得て、ロボットとユーザーの距離を縮めたこと、教材としてのロボットの評価を高めることに成功したこと、中小企業ならではのアイデアを生かしたビジネスモデルを構築できたことが評価点だった。
審査委員特別賞にはセコム株式会社の「マイスプーン」が選ばれた。ユーザーの食事支援用として高い評価を受けていること、社会的意義が高い点も評価されて、特別賞となった。
最後に三浦氏は「ロボット産業が発展し、より豊かな生活が実現することを願う」と講評をまとめた。

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セコム株式会社 開発センター メディカル1チーム 石井純夫氏
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続けて3件の受賞者から、特別講演が行なわれた。まず始めに、セコム「マイスプーン」の開発を行なった、同社の石井純夫氏が演題に立った。
セコムではマイスプーンを'91年から開発してきた。開発の一番のポイントは、ユーザーだけではなく、リハビリのエンジニア、作業療法士、デザイナーたちとの共同体制で開発にあたった、プロジェクト体制にあると述べた。
開発において難しかったポイントは3つあったという。1つ目は操作装置、2つ目が食べ物を掴んで口にまで運ぶハンド、3つ目が安全対策だった。ユーザーからは「自分のペースで食べることがこんなに快感だったとは」、「介助者と向き合って食事したいと思っていた」、「介護されるほうも気を遣うのでロボットがあるといい」というユーザーの声をもらっているそうだ。
また、上述のように今年の4月から助成が得られるようになって、およそ4万円で購入できるようになった点も特徴だ。福祉機器先進国であるヨーロッパでも高い評価を得ているという。
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開発の経緯
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開発プロジェクト体制
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開発プロジェクトメンバーたちと甘利経済産業大臣
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食べられる盛りつけ
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デザインは「機械」から「食器」をコンセプトとしている
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利用者の内訳
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中小企業特別賞を獲得した近藤科学は、ラジコン部品メーカーとして41年の歴史を持っている。近藤社長は、10年前からロボットを作りたいと考えるようになり、ROBO-ONEなど自作ロボット開発の動きを契機にロボット開発に参入したと経緯を語った。当時はホビーロボットもコスト、技術的敷居、共に高かったが、それをなんとか引き下げられないかと考え、ホビー用ロボットキット「KHR-1」を開発し、その後発展させて、今回受賞した「KHR-2HV」に至った。
KHR-2HVは、サーボモーターの塊である。価格を安くすることがホビーでは重要なので、安いサーボを使えばコストは下げられる。しかし安いサーボはトルクが小さい。だからロボット全体の重量を軽くし、コントローラーも軽量化することで、トータルコストを下げることに成功した。難しかったモーション作成も、一般人向けに「教示システム」を開発した。KHR-2HVでは学校向け教材市場を開拓するために、さらにコストを下げて10万円を切る価格を実現した。
近藤社長は、ハードばかりではなくて、ユーザーに商品を楽しんでもらうことを目的として、ソフト面でも、ロボットマニアが集まる場所として「ロボスポット」を秋葉原に作ったことを紹介し、今後もイノベーションとユーザーのスキルアップのためにオプションを展開していき、日本のものづくりに貢献したいと語った。
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近藤科学・近藤博俊社長。手に持っているのはKHR-2HVとコントローラのRCB-3
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製品の内容
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富士重工業株式会社戦略本部クリーンロボット部部長 青山元氏
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最後に、「今年のロボット大賞」を受賞した住友商事株式会社ビル事業部長の井上弘毅氏と、富士重工業株式会社戦略本部クリーンロボット部部長の青山 元氏が登壇した。「ロボット清掃システム」は、富士重工業のロボット技術と、ビルのインフラ面を整備した住友商事それぞれの融合によって成立している。
まず青山氏が、開発背景として少子高齢化による労働力不足があると述べた。富士重工の目標はサービスロボット市場の創出だという。基本は仕事ができる、役に立つ、売れるロボットの開発だ。富士重工業の掃除ロボットは徹底的に実用を前提に開発されている。例えば横幅は、エレベータの片開きドアを通れるように設計されている。
ロボットが人間に勝つには、清掃エリアを確保することだ。清掃エリアを確保するにはエレベータによる垂直移動しかない。そのときに晴海トリトンスクエアの話が住商から入ってきたのだという。
まず開発では、まっすぐ走ることを重視した。まっすぐ走る、とまる、曲がるは車の開発でも基本だ。また航空機用のコンピューターで有限体積法による流れ解析を行ない、小型のノズルを開発した。しかし、ロボット単体の機能をいくら向上させて売れなかった。ロボットを市場導入するうえで重要なことは、徹底的に市場を分析することであり、あくまで清掃を主体としたロボットを設計し、最小限の機能のみを搭載した。単品販売では商売にならないので、コンサルティングのような形で、清掃システム業務の一環としてロボットを導入するという形で仕事を請け負っているという。
青山氏は「需要がなくてもフィールドがあれば人間に勝てる。需要はフィールドをどう確保するかで創出することができる」と語った。
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清掃ロボットの構造
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納入先の例
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サービスロボット導入においてはサービスプロバイダーとの連携が不可欠
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光伝送方式により5社のエレベータと通信ができる
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安全対策面などのノウハウは今後、ロボットビジネス推進協議会で公開していくという
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ニーズよりもフィールドが重要だという
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住友商事株式会社ビル事業部長 井上弘毅氏
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どうして清掃ロボットを導入するに至ったのかについては、住友商事株式会社ビル事業部長の井上弘毅氏が述べた。なお井上氏と青山氏は同い年だという。もともと晴海トリトンスクエアは21世紀最初の大規模開発として、新しいものをつくっていこうという意欲が満ちていたそうだ。そこで住商では、総合商社としてメンテナンスやランニングコストの面でロボットだけではなく、さまざまな技術を導入することを提案した。
しかしなぜロボット清掃だったのか。それは井上氏が、たまたま羽田で実験段階で動かしていた清掃ロボットを見たことから始まったという。それまで何社かと検討したがうまくいかなかったが、富士重工とはたちまりうまくいったという。青山氏と井上氏が同い年だったこともあり、とにかく気があったのだそうだ。
住友商事では汚れをどうコントロールするかについてのノウハウを持っており、それは、基本的に共用スペースにカーペットを引き、そこで汚れを落としてもらう、ということだという。だからそのぶん、カーペットをひいた共用スペース部分は汚れる。そこの清掃をロボットにやらせるというのが現在の掃除ロボットだ。
ロボットならば夜間に屋内の電気をつけることなく掃除を行なうことができる。実際に、本当に見えない汚れがとれ、カーペットの性能がより長く維持できるようになったという。現在のロボットは、2万平方メートルを夜中に1人の人間が監視するなかで清掃作業を行なっている。余計な人間が入らないので、セキュリティも向上する。
究極の目的は、より広い面積を掃除し、共用ゾーンだけではなく専用ゾーンのなかもきれいにすることだ。そのためには重さも軽くしないといけないし、ものが置いてあるところを掃除するとなると、もっと小さいロボットを開発する必要もあるとまとめた。
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富士重工業と住友商事のパートナーシップ
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ビル清掃のポイントからロボット清掃の優位性を発見した
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カギは「ロボットと人の最適役割の設定」
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● パネルトーク

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パネラーたち
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このあと、審査委員たちによって、パネルトークが行なわれた。まずはじめに産業技術総合研究所 知能システム研究部門 副部門長の比留川博久氏が、「今回、優秀賞に選ばれたロボット10点は、ちゃんと売れているものばかり。全て何らかの工夫が行なわれている」と述べた。
たとえば低コスト化して市場がなかったところに市場を作ったり、人命尊重やフロンティアでの活躍など高い効用がある、これまでになかった能力と競争力を持つ産業用ロボット、市場を研究し細かいところまで検討されて設計されている、などである。
このあと各パネラーがそれぞれ意見を短く述べた。進行役は三菱UFJリサーチ&コンサルティング政策研究事業本部 大阪本部 研究開発第2部 主任研究員の美濃地研一氏。
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産業技術総合研究所 知能システム研究部門 副部門長 比留川博久氏
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三菱UFJリサーチ&コンサルティング政策研究事業本部 大阪本部 研究開発第2部 主任研究員 美濃地研一氏
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国立科学博物館 主任研究官の鈴木一義氏は、マイスプーンの「機械から食器へ」という点について触れ、人とロボットの最適役割分担が重要だと述べた。ロボットだけではなく、現状の機械は必ずしも使いやすいものではない。いっぽう日本人はロボットに対して愛着を感じる。それは道具に対する愛着と同じだという。「ロボット化は機械の道具化」であり、「日本社会はそういうことをやっていけるのではないか、ロボットが私たちに合わせてくれるようになっていくだろう」と語った。
作家で東北大学 工学研究科 特任教授の瀬名秀明氏は、「今年のロボット大賞」という名前ではあるが、今年だけではなく、これから役に立つことが期待されているのだろうと話を始めた。瀬名氏は、人の役に立つロボットとは、人間と役割分担できるロボットだと考えたという。つまり、安心と信頼、任せられるところは任せられるロボット、そのようなロボットと共に歩んでいくのが、「われわれ人間とロボットの未来なのかなという気がする」と語った。また、「ロボット産業が豊かになる未来は、ちょっと先に夢を感じ取れるような社会になっていくこと。3つの会社はそういうところを見せてくれたのかなと思う」と述べた。現状は、ロボットが使える場所をひとつずつ見つけていってる段階だと捉えているという。
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国立科学博物館 主任研究官 鈴木一義氏
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作家 瀬名秀明氏
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株式会社アイ・バーグマン 代表取締役の関口照生氏は写真家。世界各地で少数民族の写真を撮っているという。関口氏らの世代だと、ロボットと聞くとやはり手塚治虫を思い出すという。それらは、ロボットが人間を超えてしまった世界を描いている。だからロボットというと人間よりすばらしいものだと思ってしまいがちだ。「しかし自然を大事にしながら足で生きている人たちを見ていると、それほど高度なものが必要なのか、やはり人間が主体のほうがいいのではないかと思う」という。
しかしそうはいっても健常者ばかり、若者ばかりではない。また過酷な労働を代替してくれるロボットがあれば役に立つ。ロボット化で人間にやさしく平和利用ができるのではないか、その両サイドを守って審査にのぞんだという。
「利便性よりも人間にやさしいロボットが出てきてもいいのではないか」と強調し、また、国レベルの支援がないと進まない部分もあるようだが、その面では「昔、電柱を立て鉄道をひいたように国と企業が一緒になって開発していく必要がある。社会整備に関してインフラ整備を進めるために予算整備をしてほしい」と述べた。
雑誌「宣伝会議」編集長の田中里沙氏は「役に立つものとは『売れるもの』のこと。だからそこまでもっていかないといけない」と述べた。受賞したロボットは社会的必要性とユーザーのニーズに対して先進技術が使われているものが選ばれている。いまは市場を作る時代なので、対象ユーザーのことを懸命に考えないとヒット商品は生まれない。研究分野でも学際という言葉があるが「際」の部分から新しいものが生まれるが、「ロボット」は言葉としてもまだ曖昧で広い概念を含んでいる。サービスとプロダクトの線引きも難しい。そのなかで、何のためにどんな役割を果たすべきか、きちんと考えていたものが選ばれているという。
アメリカのマーケティング学者ジェローム・マッカーシーが'61年に提唱した製品(Product)、価格(Price)、プロモーション(Promotion)、流通(Place)からなる4P概念についても触れて、「一方的な考えではアイデアが出ない。市場に出してからの軌道修正も重要。色々な人の知恵を使わないといけないし、改良改善のために情報発信が重要」だと述べ、「なるべく情報公開してもらうと、ロボット市場の発展も加速化するのではないか。ロボット大賞を通じて多くの人が興味をもってくれる、それがきっかけになるといいなと思う」と語った。
「こんなスペックがある」ではなく、「こんな価値を生活に提供できるロボットですよ」という形で提案することが重要だという。
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写真家の関口照生氏
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「宣伝会議」編集長 田中里沙氏
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株式会社アールティ 代表取締役の中川友紀子氏は、自社のことをロボットをキーワードにした広い意味でのサービス業をしていると紹介した。「いまロボットは技術の歴史から見て若い段階にあり、20年前のIT業界と同じ状態。若い方、年配の方もロボットを作ることに興味をもちはじめている」と述べた。たとえばトイレのウォシュレットのように「なくてもいいけどあったら手放せない技術」としてロボットが家庭に入っていくといいなと考えているという。
明治大学 理工学部 学部長の向殿政男氏は、安全の専門家の立場からコメントした。ロボット普及のためには安全安心が非常に重要であり、人の幸せのために入ったものが人を不幸にしてはいけない、と強調した。技術者は本質安全設計の考え方を学び、「サービスロボットで日本が制するなら安全原理をちゃんと突き詰めるべきだ」と語った。
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株式会社アールティ 代表取締役 中川友紀子氏
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明治大学 理工学部 学部長の向殿政男氏
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産総研の比留川氏は、ロボットビジネスの今後について、「今回、受賞したロボットはどれもある程度売れているものなので、このなかにヒントがある」と述べた。たとえば富士重工の青山氏らの話は、ある意味、ビジネスにおいては「当たり前」の話である。しかし、これまで「当たり前の話」は、むしろ最先端ロボットの研究現場ではあまり検討されていなかった。そこをきちんと詰めているロボットがあまり少なかったので、モノになっていなかった。しかし、今は「パフォーマンス」を見せる時代から、役に立つロボットを考えられる時代になりつつあるという。
また、もう1つ今回のロボットの共通点として、それほど大きく売れているわけではない、せいぜい年間数億円規模であるという点を挙げ、「いまは大きな市場を狙ってはいけない」と述べた。
これに対して三菱UFJリサーチの美濃地研一氏は「小粒ではあるがピリリと辛いロボットが揃っている」と受けた。
● 表彰式
この後、表彰式が行なわれた。表彰式には経済産業大臣の甘利明氏も出席し、「今年のロボット大賞」の趣旨のほか「技術を通じて国民生活が向上していくことを願っている」と挨拶した。
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経済産業大臣 甘利明氏
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大賞を受賞した掃除ロボットを見学する甘利氏
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大賞トロフィー
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■URL
今年のロボット大賞
http://www.robotaward.jp/
ニュースリリース
http://www.robotaward.jp/release20061221.pdf
( 森山和道 )
2006/12/22 14:44
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