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実用的なロボットで顧客に「価値」を提供する ~iRobot社会長 ヘレン・グレイナー氏インタビュー
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Reported by
森山和道
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iRobot社会長 ヘレン・グレイナー氏
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お掃除ロボット「Roomba」や軍事ロボット「Packbot」で知られるiRobot社の共同設立者で現在は会長職を務めるヘレン・グレイナー氏がプロモーションのために来日した。取材の機会を得たのでインタビュー記事をお届けする。
技術的詳細よりもiRobot社としての考え方を中心に、3つの点について話を聞いた。1) Roombaについて、2) 今後の家庭用ロボットビジネスについて、3) ロボットビジネス全体について、である。
なお「Roomba」の累計出荷台数は250万台以上、そのうち日本市場向けは4万台(2007年9月末時点)とのことである。2004年から「Roomba」の日本国内ディストリビューターになり国内マーケティング・販売を手がけるセールス・オンデマンド株式会社 営業企画部マネージャーの佐々木千恵氏によれば、国内でRoombaが本格的に売れはじめたのは一昨年度くらいからだという。
● Roombaについて
――日本には床に直接座る文化があります。そのため日本の家庭の床には欧米の家庭よりもいろいろなものが置かれています。掃除ロボットには不利な環境です。そのため、日本では技術好きなgeekからも掃除ロボットの有効性は懐疑的な目で見られています。この課題に対する考えをお聞かせください。
私たちはそのような課題を念頭に置いて、新世代のRoombaを出しました。ケーブルやカーペットのフリンジにも絡みにくい技術を採用しています。ソフトタッチバンパーを使ってものにぶつかる前に減速することもできます。
私は高校生時代に、交換留学生として日本の家庭にホームステイしていたことがあるんです。その家庭のなかでもRoombaは動けると思います。
また、前の世代のRoombaに比べて騒音はかなり静かになっていますので、その面でも受け入れられやすくなっていると思います。人は家にいるものですからノイズは問題ですよね。
――確かに音はだいぶ静かになりました。いっぽう、日本の家においては、Roombaは少々底面積が大きいのではないでしょうか。特に充電中です。その大きさのものが床を占領しているのは日本の室内においては問題だと感じます。
確かにRoombaは自動で充電ステーションに戻っていきますが、そこに繋げなくても、ケーブルで直接電源アダプターにつないで充電することもできます。そのときはカウンターのようなどこか別の場所にも置けますよ。自動充電機能は、人間がいちいち充電を気にしなくていいので気に入っています。私のケータイも充電器に戻っていってくれるといいんですけれど(笑)。ビジネスパートナーであるセールスオンデマンド社を通じて日本市場の情報も取り入れて、新世代のRoombaは出来上がっています。
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昨年10月より国内販売が開始されている「ルンバ570」
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こちらはスタンダードモデルの「ルンバ530」
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――たとえば充電ステーションで縦置きできたらいいと思うんですが、どうでしょうか。
いいアイデアですね(笑)。私たちはシンプルにしたいと考えているんです。シンプルにすることで信頼性も耐久性も高まるからです。お客様の目からすればとにかくクリーニングがきちんとできればいいということだと思いますから。
――日本の市場でどのように売り上げを増やしていくおつもりですか。プロモーション戦略があればお聞かせください。
先ほどの、縦にして充電できるようにすればいいという意見は非常にいいと思います。そうすればスペースもとらないし、狭い部屋でも使えるということですよね。よくわかります。日本でロボット工学を学習している学生がそういうものを作ってくれるといいですね。
いま日本の市場は、北アメリカ以外ではナンバーワンなんです。国際市場の中でも急成長しています。プロモーションに関しましてはセールス・オンデマンドと一緒にやってますから、これから宣伝広告も増やしていきますし、インフォマーシャルや印刷物、ウェブなどを通じて露出を増やしていこうと思っています。デモンストレーションもしてRoombaの機能を知ってもらいたいと考えています。
――日本の学生たちにも作ってもらいたいというお話が先ほどありましたが、RoombaのAPIは公開されているのでしょうか。
第2世代からRoombaはオープンインターフェイスになっておりまして、モーターやセンサーの中身が見えるようになっています。技術オタクの人たちはRoombaをいろいろ改造していますよ。オープンインターフェイスですからシリアルプロトコルで何がどうなっているのか見ることができます。
ですが日本に限らず99.9999%のお客様は、とにかく、Roombaを家に持って帰って掃除をしてくれればいいとおっしゃる人たちなんです。プッシュボタンを押すだけで、自分でプログラミングをするとか、設定をする必要があるわけではないわけですから。
――ほとんどのお客は、自動機械としての機能を求めているわけですね。
そうです。
● 今後の家庭用ロボットビジネスについて
――今後、掃除以外にはどんなロボットを考えていますか。
掃除ロボットはほんの一つのタイプです。究極の目標は家に自律性を持たせることです。既に床を掃除したり、プールを掃除したり雨どいを掃除したりするものがあるわけです。他に考えられるアプリケーションとしては、人の世話をする、他の家に住んでいる人と人とを繋げていくようなものがありえると思います。
――「Connect R」のことですよね。
そうです。
――ConnectRをiRobot社が発表したとき、なぜiRobot社がウェブカメラをアプリケーションに選んだのか、不思議に思いました。というのは、ウェブカメラそのものも商品としてありますよね。またそれをロボット化したものも既にロボットベンチャーから商品化されています。しかし、あまり成功しているようには見えない。なぜiRobot社がウェブカメラロボットを選んだのかお聞かせください。
一番最初に私たちがトライしたのは2000年ですが、成功しませんでした。価格も高すぎたんです。お客様にトライしてみようと思ってもらえるためにはやはり手ごろな価格でなければなりません。それによってお客様に便利さを提供できるものでなければなりません。
テレビ電話会議システムもありますが、それには向こうがこちらをコントロールする力がありません。だからインターネットを介してコントロールできるウェブカメラを商品化したわけです。たとえば遠いところに住んでいる親戚と話をするとかペットと遊んだり、本を読み聞かせることもできますし、出張中も家にいるように話せます。いわゆる技術オタクの人がRoombaをハックしてインターネットに接続できるようにしたこともありましたよ。
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Webカメラを搭載した見守りロボット「Connect R」
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使用イメージ
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――コントロールする力がロボットカメラにはあるというのはどういう意味なのか、もう一度お願いします。
まず高速回線でとにかくインターネットにつなぎますよね。ロボットが見ているものを、あなたが見たり聞いたりできるわけです。動かしたいところにどこへでもロボットを動かせる。遠くにいながら、そこに自分はいなくてもいるかのようにすることができるわけです。
――日本でもロボットとウェブカメラを組み合わせたような商品を作っている会社はありますが、ビジネス的にはあまり成功していません。また、それだけではなく日本にはiRobot社のように成功したロボットベンチャーがありません。どうしてだと思いますか。
iRobot社では戦術的に、まず、手ごろな製品を作ろうとして、テクノロジーの開発をします。技術のための技術の開発をしたわけではないんです。単に床掃除や雨どい掃除だけではなく、イラクやアフガニスタンのような非常に危険なところでもロボットは仕事できます。爆弾処理のような、以前は人間の兵士が危険を犯してやっていた作業をロボットがやることで人命も助かるわけです。ロボットはそういう仕事をすべきだと思います。ロボットに関しては戦術的に、コスト効果があるものを作らなければなりません。
私たちも最初の8年間は素晴らしいロボットであるということを証明するためだけに作っていました。いまは何百万人の人がロボットを使ってくれて、しかも人命を救ってくれる。それは私たちへのご褒美だと思っています。
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雨どい清掃ロボット「Looj」
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プール清掃ロボット「Verro」
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――さきほどプラクティカルと仰いました。日本の会社はまだ十分に実用的なロボットをつくれていないということでしょうか。
私は日本のロボット会社すべてを知っているわけではありません。ですがおそらく、そういうことにトライしていないのかもしれません。そういうロボットをデザインするにしても、企業の宣伝のためであるとかブランド認知度を上げることが目標になっており、販売が目的になってはいないのではないでしょうか。ですがiRobot社がロボットを作るときには「売れるロボット」でなければならないと思っています。
私たちはロボットに特化した会社ですから、ヘリコプターや車を作ったり、音楽技術を売りにすることはできません。ですから、あくまでお客様のニーズは何なのか、お客様はどれだけの金額であれば払ってくれるのか、そこにフォーカスをあてています。つまりお客様にどれだけのバリューを提供できるかということです。
――日本では「ロボットなど役立たずだ」という人も少なくありません。
そういう言葉を聞くと私は驚いてしまうんです。アメリカでロボット関連の記事を読むと、日本のロボットについて書かれているものが多いですし、非常にクールだと思います。昨年行なわれた国際ロボット展(iREX)にも参加しましたし、科学博物館にも行きました。素晴らしいロボットがたくさんありました。
ルンバはやはり、家につれて帰ってもらうロボットです。そしてとても忙しい方、ペットを飼ってらっしゃる方、高齢でなかなか掃除をできない方のお手伝いができればと思っています。
――iREXに出展されていた日本の会社で「この会社は面白い」と感じた会社はありましたか。
たくさんありました。ですが具体的にどこの企業かは申し上げられません。将来、私たちの会社で取り組みたいなと感じた技術もありました。何よりイベントとしてとても大規模でしたので興奮しましたし、とても面白かったです。
● ロボットビジネス全体について
――今後、ロボットビジネス全体は、どれくらい大きくなるとお考えですか。
私たちの昨年の売り上げが2億5,000万ドルでした。これはロボット本体とロボットサービスのみであがってきた収益です。世界でRoombaは250万台以上販売してきました。でも米国世帯のなかでルンバが使われているのは1~2%程度です。他の海外市場ではこの割合はもっと小さいわけです。このルンバだけでもまだ大きな市場があると思いますし、一つの製品だけでもどんどん市場に浸透していきたいと思っています。掃除だけではなく兵士や警察官をサポートするロボットを作っていきたいと思っています。
ロボットはこれからどんどん不可欠なものになるでしょう。「3D」という言葉があります。「ダル(つまらない)、ダーティ(汚い)、デンジャラス(危険)」です。人々は多くのロボットを使うようになるでしょう。
たとえばなぜ人間が掃除機を引っ張っていかないといけないのでしょうか。洋服を洗うために手を洗いますか? 掃除機を引っ張りまわすのはオールドファッションです。
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爆発物の処理などで活躍する「PackBot EOD」
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掃除だけでなく、兵士や警官など危険な仕事にあたる人々をサポートするロボットも作っていく
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――へレンさんご自身は、どんなロボットがほしいですか。
私はとにかく家事をしてくれるロボットがほしいですね。自分がやりたくない家事――窓やトイレの拭き掃除、ベッドメイキング、ゴミ出し。将来そういうことをしてくれるロボットができるといいと思います。疲れることには時間を使いたくありません。ロボットがやってくれればその時間で、読書や、ペットとの散歩や、子供と遊んだり、好きなガーデニングや料理をする時間ができてくるでしょう。たいていの人は掃除ってあまり好きじゃないんじゃないでしょうか。
――いまの技術の延長で可能になると思いますか。ベッドメイキングはかなり難しいのではないかと思いますが。
難しいですね。アプリケーションを選んでいくときにはテクノロジーと価格をうまくマッチングさせていく必要があります。私はロボットを作ってきた経験が長いんですが、複雑である必要はないんです。複雑であったとしても、作るのはたいしたことではないんです。ですがお客様が払ってくださる価格に対して、いかに価値を提供するか。それが重要だと思います。
――ロボットを作るうえで、多くのアプリケーション、家事などが用途としてあると思います。その中からどうやって自動化する部分を切り出すのでしょうか。「この部分を自動化しよう」と判断する基準はありますか。
わが社には他の企業にないほどの数のロボットエンジニアがいます。世界でもベストだと思っています。優れたマーケティング担当者もいますし、お客様と一緒に仕事することで、どんなアプリケーションがほしいですかという問いかけもできます。だから問題は技術とのマッチングです。そこがとても難しいところですがiRobot社はうまくやっていると思います。でもそこに至るまでに何年も失敗がありました。
Roombaにフォーカスをあてたことで、世界で多く受け入れられています。まさに「スイートスポット」をヒットさせたわけでしょう。価値と価格のマッチングがうまくいったからです。
――お客さんにバリューを提供するということですよね。
そうです。単に掃除の能力だけではなく「価値を提供する」ということです。3段階のクリーニング能力も価値を提供するということの一環です。ロボット技術によってどこにでも動けますし、セールス・オンデマンドを通して、日本の顧客に対してはサポートも提供できるし、日本のお客さまに対しては一年間のメンテナンスを保障しております。
――価値を提供できるロボットを開発するために必要なことはなんだと思いますか。
まず、ロボット技術の知識、そして開発アプリケーションに関する知識、そしてクリーニングに関する知識です。一番最初は産業用掃除ロボットとして開発していました。もろもろの知識に加えて、ニーズにあった機能をロボットの中に組み込む知識やルールといったものが必要です。
――プロジェクトを成功させる秘訣は? 本誌の読者には各メーカーのロボット技術者たちもいますので。
小さくて情熱にあふれたチーム、そしてお客様のニーズやロボット製品を本当に大切だと思っているチームメンバーたちが秘訣ではないかと思います。最初にRoombaを開発したチームも、いまの新世代のチームもそうです。日本のセールス・オンデマンドのチームもそうです。セールス・オンデマンドのチームは、日本の市場のニーズを我々に教えてくれています。
ですから、小さい人数だと成功なんてしないよというのはウソです。小さい人数であるからこそ、情熱があって成功できるんです。
――iRobot社そのものは、今後どういう会社になることを目指していますか。少数精鋭の開発会社でいくのか、それとも大きな会社になっていくのか、いろいろな姿がありえると思いますが……。
両方になりたいですね(笑)。将来は、ロボット会社として成功して残るところは少数に限られるでしょう。私はiRobotは業界のなかでリーダーとしていきたいと思っています。やはり情熱を持っていく、これはこれからも維持していかなければなりませんし、「The Robot Company」、これこそがロボットカンパニーと呼ばれる会社になりたいと思います。
いずれにしても分野はどうであれ、マーケティング、ブランディング、物流、経理、すべてにおいて情熱を持った人がいる会社にしていきたいと思います。
国際的なビジネスは、まだ初期的な段階だと思いますがこれから伸びていくと思います。いろいろなところに拠点を持った、世界的な会社でいたいと思います。
――プライベートな質問です。11歳のときに映画「スターウォーズ」を見て、そのなかに出てくる「R2D2」に感動してロボットを作りたいと思ったとか?
そうです。当時はビジネスをスタートしようとは思わなかったんですけれども。
――その後、MITを卒業後、今日に至るわけですね。いつごろから、どうして、ビジネスをしようと思ったんですか?
ダークサイドに惹かれたんです。ジョークですよ(笑)。
ロボットを作るうえでは、機械工学、電気、制御、センサー、人工知能などの技術が統合されて、はじめてできるわけです。企業を作るうえでも設計とかマーケティング、財務が統合されるわけです。ですからシステムインテグレーションを生かしてビジネスに行こうかなと思ったんです。
――企業を経営するのとロボットを作るのは同じですか?
いえ、同じではありません(笑)。同じくらいエキサイティングなことですが。
最初にこのロボットを作る企業をはじめたときに、それぞれに担当のプロフェッショナルをおきました。非常に醍醐味のあることだと思います。お客様の手に素晴らしいロボットを提供する。そして人命も救うことができる。
なんでもできるわけではありませんので、ビジネスを拡大するときにはいろんな分野から人を集めてきています。私は次になにをするかを常に考えているんです。次に何をするかを考えていて、私よりもその分野で優れている人がいれば、その人に任せるということです。
――日本は北米以外ではナンバーワンということでしたが、日本以外に、次に注目されている市場は? たとえば中国でしょうか?
韓国、ヨーロッパ、カナダでもがんばっています。私たちは、高い教育を受けた人たちと、人件費が高いとか人手不足だとか高齢化社会だとか、とてもとても忙しい人たちが働いている国にフォーカスをあてているんです。だから日本が北米以外でナンバーワンなんです。
――もっと伸びますか。
ええ。今年はiRobotとして伸び率20%~25%でした。日本でも伸びていますよ。これからどんどん出荷台数は増えていくでしょう。
――よくわかりました。本日はありがとうございました。
グレイナー氏自身の家には5台の歴代Roombaがあるそうだ。最新型がリビングに置かれているという。どこまでその台数が増えるのか、どんな姿になっていくのか楽しみである。
■URL
iRobot
http://www.irobot.com/
セールス・オンデマンド
http://www.salesondemand.co.jp/
製品情報
http://www.irobot-jp.com
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2008/03/14 00:03
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