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通りすがりのロボットウォッチャー
空の彼方にいるロボット

Reported by 米田 裕


 1950年代のアメリカのSF雑誌の表紙には、ロボットがよく描かれていた。それも人類の滅亡後の世界という設定だ。

 「Fantasy and Science Fiction」誌では、人類も滅亡し、太陽が赤色巨星化した世界で(となると数十億年後だ)、ロボットがステレオで音楽を聴いているなんて絵があったし、「FANTASTIC UNIVERSE SCIENCE FICTION」誌では、核戦争後の廃墟の町で、ロボットたちが空飛ぶ円盤のようなバスを待つ絵があった。

 そうした絵の背景には、米ソ冷戦時代で、核戦争の危機を身近に感じていたこともあったのだろう。人類は愚かにも核戦争で滅亡し、その後にはロボットたちの世界がやってくると、当時の画家たちは皮肉っぽい絵を好んだのかもしれない。

 このようにロボットは、人間の住めない過酷な環境でも活動できると考えられている。

 実際には放射能に対しては、現在のCPUは弱い。プロセスルールが微細になればなるほど放射線によるダメージを受けやすくなる。

 放射線対策をするか、別の新しい発想の演算装置ができなければ、核戦争後の世界にもロボットは活動してないだろう。

 しかし、人間のいない世界でロボットたちだけが活動している世界は、画家のイメージを喚起してやまない。

 かくいう俺なんぞも若い頃には、廃墟の都市をバックに、アンドロイドのねーちゃんが壊れかけていく身体のまま立っているなんてアクリル画を何枚か描いてしまった。

 人工皮膚が溶け落ち、内部のメカが見えているヌードの女性アンドロイドである。こうした絵は、SFの定番、もとい、SF的な絵を描こうと思う誰でもが、一度はあこがれる画題なのだ。

 これがうまく描ければ仕事がくる。

 そう信じて若いうちはリアル系の絵を一所懸命に練習していた。それがいまや、この連載のタイトルのような絵である。進歩なのか退化なのか(笑)。


火星で活躍するロボットたち

 それはさておき、今、この時にも人類のいない場所で、けなげに活動しているロボットたちがいる。

 それはNASAが火星に送り込んだ「スピリット」と「オポチュニティ」だ。

 「スピリット」と「オポチュニティ」は、マーズ・エクスプロレーション・ローバーという長~い名前のついた、車輪によって火星の表面を移動する探査機である。

 「スピリット」は2003年6月10日に打ち上げられ、2004年1月3日に火星の赤道付近にあるグセフ・クレーターに着陸。「オポチュニティ」は同じ2003年7月7日に打ち上げられ、2004年1月24日に、火星のグセフ・クレーターの反対側にあるメリディアニ平原に着陸した。

 この2つのローバーは、6つの車輪と背中には大きな羽のような太陽電池ユニットを持ち、潜望鏡のようなカメラを頭部に持っている。

 操縦は地球からのリモートコントロールで行なわれるが、地球と火星との電波の往復時間は長いときで40分以上となる。そのため、人間の指示がなくても自律走行ができるようになっている。

 火星に送り込まれたローバーたち、「スピリット」と「オポチュニティ」の保証行動期間は90日だった。ところが、その期間をはるかにすぎた現在でも、ローバーたちの活動は続いている。すでに火星でスピリットは1,400sol以上、オポチュニティも1,300sol以上も活動しているのだ。

 火星の1日は約24時間40分。地球の1日と区別するためにsolという単位が火星の1日に使われる。火星の公転周期は687日とのことなので、ローバーたちは、火星で2回ほどの年越しをしていることになる。

 地球時間では5年目を迎えたが、これだけ長い期間に渡って動いていけるとは計画をたてたNASAでも考えてなかったようだ。


ゆっくり考えゆっくり動く

 それだけ長い時間があれば、ローバーたちはかなり移動したと考えがちだが、実際にはスピリットが7.5kmほど、オポチュニティは11.5kmほどの移動だ。

 これは自律的走行とも関係がある。地球からの遠隔操縦で動くのだが、その場に石があったり、溝があったりするのかは地球からでははっきりとはわからない。こけたりしたらそこでアウトだ。そこで、高度に自律的に判断し障害物を避けることになっている。

 地球からのコマンドで、まっすぐその先へ行けと命令されても、10秒は行動し、20秒間は止まって周囲の状況を把握するのに使うのだ。

 ということで、進行速度は秒速1cm程度になる。時速に直しても36m/hとなるから、時速0.036kmということだ。なかなか進まないのも納得できるだろう。

 こうした移動速度になるのは、ローバーの頭脳の性能にあるのかもしれない。CPUには32bitのコンピュータであるPowerPC系の耐放射線型RAD6000チップが使われ、メインメモリは128MBあるとのことだが、ハード的には、今からかなり昔のコンピュータであるのに間違いはない。

 RAD6000は、その昔Macintoshに使われていたPowerPCの元となったPowerアーキテクチャを持つRS/6000の耐放射線型タイプだ。処理能力は20MIPSとのこと。MIPSとは100万命令毎秒のことで、1秒間に100万回の計算を何回できるかという数値だ。

 1994年に発売された、PowerPCを搭載した初めてのMacintoshであるPower Mac6100/60MHzのMIPS値は約60MIPSというから、RAD6000はその3分の1の性能ということになる。

 2003年に打ち上げられたローバーたちであるが、コンピュータは1994年製のものより低い性能なのは、確実性を求めた「枯れたシステム」を重要と考えたからだろう。そして、演算性能を落とすことによって、低消費電力化をめざしたのかもしれない。ローバーでは限られた電源しか使えないからだ。

 OSに使われているのはVxWorksという米WindRiver社のリアルタイムオペレーティングシステムだ。航空・宇宙・防衛の分野で広く使われている信頼性のあるOSとのことで、32MBのメモリで稼動し、稼動中に再起動することなくRAMの内容を書き換えられるとのことだ。

 こうしてローバーは、ゆっくりちびちびと周りの状況を解析処理して進んでいく。

 「ぼ、ぼくは頭が悪いんじゃなくて、ゆ、ゆっくりと考えるんだな」とローバーはのんびりと構えているのかもしれない。

 そのおかげか、ローバーは数々の奇跡ともいえる出来事に助けられている。


システムと幸運に支えられたローバー

 2004年にスピリットからの信号が途絶えた。パソコンでいうフリーズの状態となったわけだ。原因は画像をストックするフラッシュメモリ内のファイルが数多くなり、サブシステムのメモリオーバーロードとなったためだという。これは稼動させたままRAMを修正できるOSによって、OSのアップデートとフラッシュメモリの再フォーマットで修復できた。

 同様のアップデートはオポチュニティにも施された。こうしてトータルで数十テラバイトにおよぶデータを地球へと送ってきているのだ。

 さて、火星には大気がある。その組成は大部分は二酸化炭素で、気圧も地球の100分の1だが、砂嵐が起きたり、砂塵が舞ったりするには十分だ。

 この砂塵がローバーたちの背中の太陽電池に積もり、活動に必要な電力を得づらくなっていった。

 内蔵の2次電池がどんなものかはわからないが、今年で5年目に入るのだから、電池の寿命もそれほどないかもしれない。

 そのオポチュニティは、到着した2004年に砂嵐により、砂塵が太陽電池に積もり、活動ができなくなる危機に陥った。

 状況がわかっても地球からではどうしようもない。行って太陽電池を磨くわけにもいかないのだ。電力は低下していき、オポチュニティの活動は終わるかと思われた。

 ところが、その年の12月、いつの間にか太陽電池パネルが磨かれてきれいになり、また活動ができるようになったのだ。

 これは日本でもニュースになり、「火星人がやった」だの「サンタクロースのプレゼント」だとネットでも話題になった。

 火星のお姫様が助けてくれたなんて考えるのはSFファンの脊椎反射だ。エドガー・ライス・バローズの「火星のプリンセス」は、日本では武部本一郎氏のイラストで絶大な人気がある。

 そのお姫様、デジャー・ソリスがオポチュニティの太陽電池パネルをパタパタと掃除したなんていう想像をするとニヤニヤとしてしまうが、実際には、小型の竜巻によって砂塵が払われたのではないかということだ。黙々と働いていれば、いいことがあるよということかもしれない。


 それにしても火星の環境は苛酷だ。気温は平均でマイナス63度、最低でマイナス140度、時には時速400kmにもなる砂嵐が吹き荒れる。太陽からの輻射も地球の半分ほどだ。

 そこにいるローバーたちも、長い年月で消耗している。スピリットは車輪を1つ失い、オポチュニティもモーターが動かなくなり、車輪の一部とロボットアームが使えないという。

 それでも、火星表面に自分の車輪の轍をつけて移動している写真を送ってきたりするのだから、たくましいと思う。

 NASAはまだローバーたちが動くので、ミッションを2009年まで延長した。他の惑星上にあり、黙々と動くロボットはマーズ・エクスプロレーション・ローバーたちの2台だけだ。

 もし、今すぐに、何かの異変で地球人類が滅亡するとしたら、マーズ・エクスプロレーション・ローバーのオペレーターは最後に何を指示するだろうか?

 人類もいなく、帰る場所もなく、ただ火星の表面を動き続けるマーズ・エクスプロレーション・ローバーを考えると、自然と冒頭に書いた50年代のSF雑誌のイラストを思い出してしまう。いつかは地球文明の代表として宇宙人に発見されるかもしれない。

 昨年12月より地球へ接近している火星は、今の時期はおうし座にあり、21時ごろに南中し、マイナス0.8等星と、まだオレンジ色に輝く星として見えると思う。

 そのオレンジ色の星を見ながら、その地表で活躍している2台のロボットに思いを馳せてほしい。

 砂嵐のときには寝てやりすごし、晴の日にはお日様に背を向けて電力を貯めこみ、夜には放射性同位元素のわずかな温かみで寝て、昼間は文句もいわずに動き続ける。さふいうものが火星にいるのだ。


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米田 裕(よねだ ゆたか)
イラストライター。'57年川崎市生。'82年、小松左京総監督映画『さよならジュピター』にかかわったのをきっかけにSFイラストレーターとなる。その後ライター、編集業も兼務し、ROBODEX2000、2002オフィシャルガイドブックにも執筆。現在は専門学校講師も務める。日本SF作家クラブ会員



2008/01/25 00:18

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