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通りすがりのロボットウォッチャー
小さな変化だが大きな一歩

Reported by 米田 裕


 ホンダのP2が発表され、いきなり二足歩行ロボットが現実のものとなったのは、1996年の12月だ。

 そうしたことからか、一時期は12月になると新しいロボットや、すでに世に出たロボットも改良されて進化した姿を見せてくれた。12月はロボットの月だったのだ。

 12月が近づくと、ロボット研究者たちはそわそわとしていたらしい。

「今年の〇社は走るらしいぞ」
「〇〇研究室ではジャンプさせたみたいだぞ」
「〇〇のところは空を飛ぶらしい」
「〇〇省では合体変形が……」
「ホンマかいな?」

 こうして、さまざまな噂や憶測が飛び交い、ロボット研究者たちは毎年12月になるのを心待ちにし、「すごいもの」を発表しようとウズウズとしてすごしていたのだ。

 それがいつの間にか、新ロボットの登場もなく、さびしく年末を迎える時代が続くようになった。あの素晴らしいロボット登場の日々よもう一度と思っていても、現実はさびしーっ! のだった。

 こうして近年は、ロボットに関しては、12月はたそがれたようにただ過ぎていくだけだった。

 それでも昨年からは、経済産業省による『今年のロボット』なんて賞もはじまったりして、少しは年末にロボットを盛り上げようという雰囲気も出てきた。


ライバルが引っ張るロボット開発

 だが、一時期の熱気にはほど遠い。ひとつにはライバル同士の競い合いがなくなったためと思える。

 その昔、ロボット開発の両雄といえばホンダとソニーだった。機種でいえばASIMOとQRIOとなる。この2つが、12月になると「走った」だの「跳んだ」だのと大騒ぎを起こしていたのだ。

 しかしQRIOの撤退により、その競争も一方的に終わってしまった。その後のASIMOも、なんとなく元気がないというか、12月になってもなんの発表もない年もあった。

 だが、これは次のステップへと進むための、じっと我慢の時期だったのだ。その次のステップとは、実用化である。その実用化には自律的な知能が不可欠だ。

 ASIMOのデモを見に行くとよくわかるのだが、動き自体は脇にいるオペレーターによってコントロールされている。録音された音声にしたがって、タイミングごとに動きのコマンドを送っているように見えた。

 ASIMOは自分で考えて動いていると思って見ている人も多いが、実は大きなラジコンだったのだ。もちろん歩行の制御は自律的に行なっているわけだが。

 デモを数回見てしまうと、その仕組みがわかり、なぁんだと思ってしまう。まだまだ思い描いているロボットには遠い存在に見えた。しかし、水面下では次の段階へと研究が進められていたのだ。


新ASIMOはまだおっとりと動く

 今年の12月、久々にという感じで新ASIMOの発表があった。秒進分歩といった速い進歩を続けているロボット界のことなので、久々という感じがしたが、実際には2年ぶりぐらいのことだろうか。

 今年のASIMOは、外見的には小さな変化だが、その内面は実用ロボットへと大きく踏み出したものだった。見た目の派手さこそないが、その変化は実は大きいと思える。

 複数台が連携して動き、人間に道を譲ったり、人の動きを邪魔しないようになっていたのだ。そして、自分で充電器へと接続をしにいく。これは大きな進歩だ。

 ASIMOの1回の充電量の電力では、45分ほどしか動けないそうだが、自分で充電をするようになると、動きっぱなしでない限り、充電を繰り返して行動できる時間が増える。

 複数のASIMOが連携して動くのなら、充電をしているものと、動いているものの組み合わせで、実質的にはいつでもASIMOは動いていることになる。

 居酒屋なんかへ行くと、ホールに一人しか店員がいないと、いくら呼んでもなかなかやってこないが、これが二人、三人となると、呼ぶとすぐにやってくる。そして酒を注文しすぎて二日酔いで苦しむことになるのだが、それは関係ないか(笑)。

 複数のASIMOがいることによって、居て欲しいときに「そこ」にいるようになったわけだ。

 しかも、たくさんのASIMOが歩き回っていれば、邪魔になることもあろう。ぶつかるかもしれない。そこに人間を巻き込んでしまえば、社会で働くロボットとしては失格だ。

 なので、立ち止まる。進路を変える。道を譲るなどの行動を、自律的に判断して行なえるようにした。これらは、個々のASIMOの中のソフトウェアと、ネットワーク化されて、部屋全体を把握している外部のソフトウェアとの連携で行なわれる。

 このソフトウェアの進歩により、知能を持つように見えるようになったが、実用化にはまだまだ時間がかかりそうだ。判断ひとつをするにも、少し時間がかかる。何かを頼んで返事をするまでの時間、動き出すまでの時間、安全を確認するまでの時間、これらにかかる時間は人間の何倍もの時間がかかっている。

 気の短い人なら、オーダーが通ってないと思うし、道をゆずってくれる前に人が避けて、同じ方向へ足を踏み出してぶつかるかもしれない。そうしたことは、これからの実証実験で明らかになっていくのだろう。

 まだまだロボットと接するには、気を長く持たないといけないのかもしれない。あんまりモタモタとしていると、退屈で退屈で「あぁ~」てなあくびが出るかもしれないがね。


やはり人型はワクワクするね

 それにしても複数のASIMOが歩き回っているのは楽しい。

 ホンダの上席研究員の広瀬真人氏は、「人間型ロボットは何となく見ていて楽しい」と発言しているが、たしかにそう感じる。こうしたロボットが車輪でやってきたら興ざめという気もする。

 効率や開発、制御を考えれば倒立振子による車輪走行ロボットもありなのだが、二足歩行で人型の方が魅力的だ。

 本誌の動画を見ていて気づいたのだが、ASIMOは向きを変えるときに「ガニ股」で歩く。ロボットとガニ股というのも先端と非洗練が同居しているようで、笑いを誘う。これなんかは故桂枝雀師匠の言っていた「緊張の緩和」効果だろう。

 ロボットのくせにガニ股というのは、最先端の機械が泥臭い人間の動きに似ていることがやはりおかしいし、笑ってしまう。

 それから、動くときにわりと大きな音を立てるのもわかった。『鉄腕アトム』のアニメのときに、アトムが歩くたびに「ピキョ、ポキョ」といった効果音がついていたが、ASIMOも動くときにはアクチュエーターの音が「ギュッ、ギョッ」と効果音のように聞こえる。アトムの「ピキョ、ポキョ」という音は正しかったのかといまさらながら感心してしまった。


水面下の開発は地味だが

 このところのホンダの表向きの静かな状態の裏には、実用化へ向けた熾烈な研究が進んでいたのだ。形や動作と違って、これから先の進歩はすぐにわかるものではなくなっていくだろう。

 見た目の変化や、動作の変化はわかりやすいが、それらはからくり人形と変わらない。ロボットに考えを持たせることは、研究室や各研究者たちもそれぞれの道を模索している。

 それでも、企業は製品として実用化しないと成り立たない。二足歩行のときも、まず歩かせるにはどうするかというアプローチで、研究畑以外から二足歩行のロボットを登場させた。

 知能の本質をさぐるよりも、実用的に使える判断を実装するために、それに使えるプログラムをソフトウェア化し、ロボットに自律行動をさせるアプローチをしていくのだろう。

 ロボットの改良も進むだろうが、アプリケーションとして、ひとつの完成形を見せないと、ロボットは何に使えるのか? という議論は進まない。議論の段階であれもこれもできるとなると、そこでハードルが高くなってしまう可能性もある。

 とにかく地味に見えるが、今回のアプローチでASIMOは実用化への第一歩を踏み出したといえる。その実用化には、ロボット以外のインフラも必要だと感じた。

 ロボットの中のソフトウェアだけで行動するのは難しいように思える。外部にネットワーク化された統合的なソフトウェアも必要だろう。

 そうした情報を送受信するインフラとして、近い将来に高速のワイヤレスネットワークができるだろうし、より広い地域での位置確認にGPSも必要になってくるだろう。そして、衛星を介した高速ネットワークも必要となるかもしれない。

 そうした条件がやっとそろいつつあるのが現在だ。20世紀に考えられ、空想から現実化への道をたどってきた人間型ロボットは、この21世紀初頭でやっと実用化のスタートラインに立った。そこまでの道のりにはやはり社会全体の技術の整備が不可欠だったのだ。

 昔のアニメやマンガの世界のように、一人の天才的な科学者が人間型ロボットを作ってしまうことはありえない。社会全体の技術の進歩がロボットに居場所を作るのだ。そう、携帯電話の普及の時のようにね。


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米田 裕(よねだ ゆたか)
イラストライター。'57年川崎市生。'82年、小松左京総監督映画『さよならジュピター』にかかわったのをきっかけにSFイラストレーターとなる。その後ライター、編集業も兼務し、ROBODEX2000、2002オフィシャルガイドブックにも執筆。現在は専門学校講師も務める。日本SF作家クラブ会員



2007/12/27 01:10

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