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ロボット・アナリストの視点
ロボット関連・支援産業を創る(下)

Reported by 五内川拡史

 民生用ロボットの普及には、ロボットそのものだけでなく、ロボットを生かすサービス環境の整備も重要だ。ロボットの関連・支援業務にはどんなものが考えられるだろうか。前回に引き続き、考えていきたいと思う。


(7)レンタル(ロボット派遣)

 専門業者がロボットを保有し、これをさまざまな顧客に貸し出す。ロボットを物財と考えるならレンタルという言い方が適切だが、ヒューマノイドやアンドロイドのようなロボットや、受付等の対人目的になると、擬人化して「派遣」という言い方もできる。

 現状は、ロボットの人寄せ効果を鑑みて、イベント展示や、小売店及びショールームのデモンストレーション、受付などが有望だろう。リハビリ中など特定期間だけ使われる介護支援ロボットも対象となる可能性がある。

 現状は、イベントの開催者や流通業者から各ロボット・メーカーに出展依頼がきて、そのメーカーが片手間で対応するような状況だ。効率化を考えると、今後は、ロボット派遣の専門業者がでてきても不思議ではない。

 稼働率を高めようとするなら、複数のロボットを効率よく扱うようなノウハウが必要になるだろう。

(8)メンテナンス、修理

 サポート体制の構築は必須だが負担が重い。これをどう軽減するかは経営の課題である。

 さしあたり、サポートのロジスティクスが届く範囲内に販売エリアを限定する方法がある。三菱重工業のwakamaruの販売先は、都内23区内に居住・使用する顧客に限定された。顧客管理をベルシステム24が担当し、オムロンファクトリーオートメーションが設置と保守のサポートをする、という布陣であった。

 このメンテナンス費用を顧客どこまで負担してもらえるかも、ビジネスでは重要なファクターである。販売価格にある程度織り込むのか、別途請求するのか、価格設定の戦略が問われる。

 自動車の修理工場のようにロボットの専門修理業者が、経済的に成立するかどうか、これからの課題と思われる。


(9)ファイナンシャル・リース

 ファイナンシャル・リースは、短期貸しのレンタル・派遣とは異なり、特定顧客に長期間の貸し出しを行なうものである。実質的に顧客側の設備投資なのだが、資産の所有権はリース会社のほうに残っているという形だ。金融手法としての色彩が濃い。

 一般に、業務ロボットを導入しようとすると、初期投資が重い。後年は定率償却が進み採算性が大きく向上するが、それまでの期間をどうするかだ。例えばサービス・プロバイダー(顧客企業、自治体など)が単年度予算主義を取っているとすると、初年度の設備投資が重いために、ロボット導入が許容されにくい。

 ファイナンシャル・リースの活用は、資金負担が毎年均等化し、導入が進みやすくする効果をもつ。顧客は、初期投資額を全て準備しなくてよい。リース会社の活躍が期待される。

(10)保険

 大型ロボット、あるいは実用ロボットの運用にあっては、安全確保が不可欠である。ロボットが走行する、腕を振り回す、転倒する、といった状況で、人間を巻き込むリスクがある。従って、安全規格や情報開示とともに、保険の重要性が高まってこよう。PL保険、損害保険の整備が必要となる所以である。

 ロボット・ビジネス推進協議会では、保険部会も設置して、この問題の協議を始めている。とりわけ安全問題に関しては、経産省が安全ガイドラインの素案を出し、意見募集も行なっている。

 実際の保険は、損害保険会社等が担うことになると思われるが、こうした経験豊富な企業群にとっても、これは新しいチャレンジだ。使用環境やロボットの規模・機構・使用方法などによって、安全の度合いは大きく異なる。現時点では、豊富な安全性データや事例があるわけではないので、事故の確率やダメージの度合い、保険料の設定など、これから詰めていくことも多い。

(11)情報・メディア産業(出版、Webサイトなど)

 新産業は大量の情報を生成する。PCの黎明期、アスキーやソフトバンクといった当時の新興企業は、専門雑誌の出版業務から事業をスタートした。現在は紙媒体でなくWebが活用できるので、情報伝達コストは更に低減されている。ロボット産業がニッチな状況では、Webでの情報発信は経済的にも効果的と考えられる。


(12)イベント・プロデュース

 ロボットの展示イベントは、2001年のROBODEXあたりを契機に、かなり一般化した。こうしたイベントは、愛地球博でクライマックスに達した感がある。今後は単にロボットを並べただけではなく、魅力ある企画作りをすることが重要だ。更に、企画とコンセプト作に合ったロボットの調達、会場のアレンジと設営、集客のためのマーケティングなど、イベント・プロデュースが果たすべき役割は多い。

 スポット展示に加え、常設の仕事もある。例えば、2006年にオープンした名古屋のロボット・ミュージアムは、常設展示に取り組んだもので、ベンチャー企業のジャイロ・ウォークがプロデュースを行なった。

 今後は、常設展と期間限定の特別展をうまく組み合わせて、顧客を飽きさせないということが重要になるだろう。

(13)競技会運営

 日本では多くのロボットの競技会が開かれている。サッカーや格闘技、時間を競うレースなど多様性にも富んでいる。一説によれば、地方の小さな大会まで含めると、日本全国では優に数百の大会があるとも言われる。こうしたロボット競技会を、ゆくゆくは自動車のF1のように大きな大会にしたい、というのが関係者の夢である。

 アナロジーだが、自動車レースは、20世紀初頭、自動車のプレゼンスを高めることに大きく貢献した。例えば、ダイムラーのガソリン・エンジン車開発からわずか20年後、1907年には、北京~パリ間の大陸横断レースが開催されている。当時の人々の熱狂は想像に難くない。そして、それから1世紀が過ぎてなお、カーレースはスポーツ、娯楽の有力分野として、その地位を保っている。

 競技会が集客力を高めれば、スポンサーシップや、メディアでの放映権などが、主収入として見込まれる。グッズ販売や飲食からも、ライセンス料等も期待できる。

 代表的な関連業務をいくつか列挙したが、これだけにはとどまらない。専門業者が台頭してくることで、ロボット産業の裾野も広がりをみせることが期待される。


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ロボット・アナリストの視点
ロボット関連・支援産業を創る(上)(2007/05/22)





五内川拡史
(株)ユニファイ・リサーチ代表取締役社長。野村総合研究所、野村證券を経て現職。製造業、IT産業におけるリサーチ、戦略立案、新事業立上げ支援など経営コンサルティング業務を行なう。経済産業省ロボット政策研究会委員(05)、東京大学産学連携本部共同研究員(03~現)、同先端科学技術研究センター産学官連携研究員(05)。



2007/05/28 12:30

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