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ロボット・アナリストの視点
2050年ロボットはどんな初夢を見るか

Reported by 五内川拡史

 未来のことを語るのに、新年ほど適切な時期はないだろう。お正月といえば、時節柄、今後の計画を立てたり、将来の夢を膨らませたりするのが通例だ。というわけで、今回はタイム・スケールを2050年まで引き延ばして、遠未来の科学技術におけるロボットの位置づけを考えてみたい。

 ロボットの世界で、2050という数字は、ある意味よく知られている。サッカーのロボット大会を運営するRoboCupが、「FIFA公式ルールに基づき、完全自律型ロボットのサッカーチームが、人間のワールドカップ・チャンピオンチームに勝つ」という遠大な目標達成を掲げているのが、2050年だからだ。

 ただし、今日の議論はRoboCupのそれではなく、別の角度、すなわち筆者が関わった2050年のビジョン作成プロジェクトから引っ張ってみよう。


「50年後の日本」(三笠書房)
 一昨年になるが、筆者が前職で所属していた企業と東京大学の共同作業で、2050年の科学技術を描くプロジェクトを行なった。

 そこで、大学側から15人ほど気鋭の先生方(30~40歳代前半)に集まっていただき、複数回のブレイン・ストーミングを重ね、2050年のあるべき科学技術を提案してもらった。

 その成果を基にコンピュータ・グラフィックスを作成してコンファランスを開催、その後、昨年春には「2050年の日本」(三笠書房)という書籍で出版もされている。

 方法論としては、「未来はこうなっている」という予測をするのではなく、「こんなことが科学の力でできたら便利で楽しいだろう」という目標を最初に設定し、その上で、それを実現させる方法を無理矢理(?)考え出してもらう、というターゲット・ドリブン方式を採用した。

 従って、当たるかどうかという予想ではなく、こうあるべき(すべき)というビジョン作成というほうが、より正確だ。

 出てきた内容は、軌道エレベーター、宇宙空間の三次元サッカー、宙に浮く自動走行車、動物とのコミュニケーション、テーラーメード・タイプの製品・サービス(医療、サプリ、脳科学に基づく学習プログラムなど)、地震を吸収する土センサー、バイオプラスチックから、量子コンピュータ……などなど、多岐にわたる。

 いずれも、(現時点では必ずしも予知し難いが)どのような科学的ブレイクスルーがあれば実現可能か、というところを考えていただいたので、全くの絵空事というわけではない。

 超長期の困難だが不可能ではない目標を設定するというのが主テーマで、前向きな議論の叩き台になれば一応の使命を果たしたことになる。


 詳細は書籍に譲るとして、これらのビジョンの背景にあるところを解説しておくと、やはり莫大な通信力と計算力の実現が前提になっている。

 センサーが、地球的な規模に配置され、現在起こっている事象を、リアル・タイムかつきめ細かな粒度で補足できる。それが瞬時にシミュレーションされ、次のアクションに生かされる……というものだ。

 このようなセンサーが無数に、環境に配置されれば災害や天候など、社会に配置されれば交通や流通など、個人に配置されれば医療や娯楽など、従来とは違った効率的なシステム作りができるだろう。

 そこでロボットが登場するのは、こうした情報の収集+解析から、続く物理的な作用に至るところである。

 たとえば本プロジェクトで考案されたスマートソイルが典型例だ。これは土中に無数に埋められたセンサーで、地震が起きるとその揺れを打ち消す方向に瞬時に動く。結果、広域的な耐震が実現する……というものだ。土中への注入も、センサー自ら耐震効果が高まる地層を探知してそこまで移動し、地震発生時には同期して協調運動を行なう。

 おそらくMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)で作り込まれた機構を持つのであろうから、これはある種の自律ロボットと言えなくもない。

 また別の例では、ロボット教師が登場して、生徒と相互コミュニケーションを図りながら、学習を進めていく……というビジョンも描かれる。CGでは、ロボット教師が生徒にshake handsという英語を教えるため、実際の握手という身体作用を及ぼすことで、教育効果を高めるという絵も描かれる。

 莫大な計算力と通信力はあくまで情報の世界にとどまるが、それを基にして二次元ディスプレーから三次元のリアルな世界に働きかける、というところがロボットの出番なのだ。

 その意味で、今年2007年に引き戻すと、現在の計算力と通信力は、リアル世界でロボットが活躍するのに十分なところまで達しているかどうか、が問われることになる。

 あるいは逆に、現在の計算力と通信力の水準で、サービス可能な物理的動作(作業)とは何か、と考えることもできる。今年のロボット業界に関して言えば、それを模索する一年が始まるということになりそうだ。

 さて、上述したとおり、本プロジェクトでは、科学技術上のターゲット方式を採用し、その解決に適任の先生方に集結していただいた。

 残された政治(国家など)、経済(企業、組織、生産システムなど)、社会(人と人の関係)、哲学や宗教、人間の生き方、心理、更には技術がもたらす危険性、プライバシーや倫理といった分野の提言には、また全く別なメンバーでプロジェクト・チームを組む必要があるだろう。

 機会があればいずれ取り組んでみたい、というのが、筆者のとりあえずの初夢というところだろうか。


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「ロボットの技術革新スピードを推し量る(下)」(2006/12/15)



2007/01/05 12:47

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