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ロボット・アナリストの視点 「ロボットの技術革新スピードを推し量る(下)」
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Reported by
五内川拡史
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それでは、ロボットの技術革新速度を決定する要素は何だろうか。
ロボットの特徴は、多くの要素技術が統合されている点だ。使われている要素技術は、素材、バッテリ、メカトロニクス、エレクトロニクス、ソフトウェア、通信など、多岐にわたる。従って、半導体集積度とコンピューティング能力のような、単一の要素技術で性能が向上するケースとは、条件が異なる。
結論から言えば、ロボットの場合、全体パフォーマンスは、最も改善が遅い要素技術によって決定されると思われる。
例えば、どれほど高い機動性のロボットを開発したとしても、それがバッテリの容量不足で10分しか動かないとすれば、実際の使用シーンにおいて、その性能を発揮することは難しい。あるいは、計算処理能力が劇的に高まったとして、その指示を実行するアクチュエーターが技術的、経済的(低コストで)に用意できなければ、やはり所望の作業を果たせない。
こうしてみると、最も性能向上の速い要素技術ではなく、足を引っ張る要素技術、すなわちボトルネックの方が重要なのだ。
そして、明らかにリアルな要素技術(素材、アクチュエーター、バッテリなど)は、ヴァーチャルな要素技術(コンピューターと通信)に比して、性能向上は遅い(図表参照)。
工場で使われる産業用ロボットの世界から、事例を引っ張りだしてみよう。
例えば、よく知られているのが、ファナックの自動化工場だ。ほとんど人手を介さないとまで言われるほど徹底した自動化で、メディアなどにも未来工場のモデルとして、しばしば取り上げられる。
同社の資料によると、その自動化推進の効果として、'80年代の第一世代時の人件費を100とおけば、'90年代の第二世代では約60、2000年の第三世代工場ではおよそ20へと低減した、としている。
全体として見ると、産業用ロボットは、概ね10年単位で、2倍強の生産性向上を実現したと見られる。
一方の計算能力と通信能力は、10年あれば数十倍~数百倍の範囲で性能が向上する。すなわち、インターネットの世界では、1~2年もすれば技術進歩で完成度が上がってくると予見できるから、先にどんどんベータ版を発表する、という戦略が意味を持つのだ。
ロボットは、コンピュータの世界ほど速く技術進歩するわけではないので、別な事業戦略を取らなければならない。今、大別すると、民生用ロボット産業では次の3つの戦略を取りうるように思う。
第一に、今後の性能向上速度よりも、現時点での初期値・水準に的を絞る作戦である。既存技術の組み合わせで十分応えられるニーズもあるのだが、まだそれが顕在化していないだけ、と考えるのだ。
この考え方に従えば、枯れた技術で、(例えば清掃とか搬送とか)ある特定ニーズをピンポイント攻撃することが有効と考えられる。そして、ひとたび市場性を証明できたなら、あとはリアルな要素技術ロードマップに沿って、ひたすら年率5~10%で性能を高めていく。それでも潜在的な市場が手つかずだったこともあって、当面、潜在市場の開拓速度は、技術革新速度を上回ると考えられる。
第二に、リアル面でのボトルネックを、破壊形のブレイクスルー技術で乗り越えることである。
例えば、アクチュエーターやバッテリの領域で、ロボットそれ自体に特化した要素技術を開発するという方向があるだろう。他の製品のための要素技術を転用するのではなく、ロボットの性能を最大限引き出す要素技術開発が、望まれる。モーター1つ取っても、トルク、自重、サイズ、省電力、音など全ての要素で、民生用ロボットに要請される条件は、既存の家電、精密、重電のどれとも違う。
その際の経営課題は、純然たる要素技術開発を一ロボット・メーカーがやりきれるのか、別途、産学連携など何らかの仕組みが必要になるのか、という点だ。これに関しては、別途工夫をこらす余地がある。
第三に、ボトルネック技術を極力排する方向である。例としては、家電ロボット、コミュニケーション・ロボット等があげられる。移動性やハンドといった機構部分を最小限にする一方、人間とのインターフェイスなど頭脳的なアプリケーションを志向する。これなら、時間の経過とともに、ムーアの法則を最大限活用できるかもしれない。
現時点では、どのような戦略を取ることが正解なのか、分かっているわけではない。ただし可能性としては、いずれの方向性もありうる。ロボット関連メーカーはそれぞれの目算に沿って、製品開発を進めていくことになる。
いずれにしても、このような現行技術の水準と、今後の進歩の速度を味方に付けうる企業が、大きなチャンスを掴むことになるものと思われる。
■ 関連記事
・ ロボット・アナリストの視点 ロボットの技術革新スピードを推し量る(上)(2006/12/01)
五内川拡史
(株)ユニファイ・リサーチ代表取締役社長。野村総合研究所、野村證券を経て現職。製造業、IT産業におけるリサーチ、戦略立案、新事業立上げ支援など経営コンサルティング業務を行なう。経済産業省ロボット政策研究会委員(05)、東京大学産学連携本部共同研究員(03~現)、同先端科学技術研究センター産学官連携研究員(05)。
2006/12/15 00:11
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