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東洋大学工学部 機能ロボティクス学科 松元研究室訪問記

~ロボカップからリハビリ支援、ジェットエンジン搭載飛行ロボまで
Reported by 井上猛雄

ロボカップ大会の中型リーグで優勝をつかむことが第一の目標!

ロボカップの古豪「The Orient」を指揮する松元明弘教授。ロボカップについては、自身も学生時代にサッカーの経験があるため、趣味と実益を半分兼ねているとか。「自分の体がだんだん言うことをきかなくなくなってきたので、ロボットに頑張ってもらいたい」と笑う
 東洋大学工学部に機能ロボティクス学科が新設されて2年が経った。同学科は、従来のロボット工学のみならず、人体の機能・構造から、脳の情報処理機能、心理学まで、「人間とロボットの共生社会」を想定した文理融合の新しい視点で、数多くのユニークな研究をしている。工学部 機能ロボティクス学科教授の松元明弘氏に、同研究室で進めている研究について訊いた。

 松元研では、3つの大きなテーマを柱に、最先端の研究が進められている。

 まず、いま最も力を入れているのが、「ロボカップ」がらみのテーマである。現在の研究は、車輪型移動ロボットを複数組み合わせて協調動作させる「自律分散型ロボットシステム」が中心になっている。その格好のターゲットとなるのが、このロボカップだという。Robot Watchの読者ならご存知のかたも多いだろうが、ロボカップは自律移動型ロボットを利用したサッカー競技会の祭典だ。松元研究室が出場している中型機リーグでは12×8mのフィールドを使い、最大6台までの車輪型移動ロボットがチームを組んで、相手のゴールにシュートを決める。

 松元氏率いる東洋大学ロボカップチームは、'97年に始まった1回大会から参加を続けている古豪としてよく知られている。2002年の福岡大会までは、同校と宇都宮大学、理化学研究所の合同チーム「UTTORI United」で活躍し、2003年より「The Orient」として再スタートを切った。現在、The Orientは、UTTORI Unitedで蓄積してきた「全方向移動機構」や「全方位視覚」などの技術を活かし、中型リーグ大会において上位に食い込む名物チームとなっている。

 今年の世界大会では二次予選で惜しくも敗退したものの(ベスト12)、敵がいない状態で純粋に技術を競いあう「テクニカルチャレンジ」で堂々の第3位に入賞している。松元氏は「中型リーグではあと3年ぐらいから5年ぐらい頑張って、ずばり優勝を目指したい」と語る。その目標を達成した暁には、次のステップとしてヒューマノイドロボットへと照準を絞る計画だ。

 「ロボカップでは、2050年を目標に人間のチームと戦うことになっているため、いずれヒューマノイドロボットに移行したい」(松元氏)


第3世代にあたる自律分散型ロボット。ハードウェアやソフトウェア、機構部などを大幅に改良。全方向移動可能な四輪独立駆動機構と全方位視覚センサを装備。頭脳部分はノートPC、OSはWindows を使用。 USB経由で外部入出力を得る。軽量化と信頼性が向上 第2世代にあたる自律分散型ロボット。こちらも全方向に移動できる四輪独立駆動機構と、全方位を見渡せる視覚センサを装備。頭脳部分はデスクトップノートPC、OSはWindows を使用 敵がいない状態で、純粋に技術を競う「テクニカルチャレンジ1」で、堂々の第3位に入賞。来年は優勝だ!

 現在、この自律分散型ロボットシステムの研究は、ロボカップを中心に研究課題を設定をしている。画像処理によって自己位置推定をする、通信を利用してロボット同士が協調プレイをするなど、いくつかの課題を見出しながら研究を進めているのだ。


全方位視覚センサの拡大写真。今後はラインを十分に認識し、タッチ、ゴール、センターのいずれを超えたのか、しっかり判断できるようにしたいという。ところで「俊輔」って誰でしょう? サッカーフアンなら、もちろん分かりますよね
 たとえば、自己位置推定では全方位カメラを利用し、幾何計算から位置を算出している。全方位カメラは球面状のミラーによって、ロボットの周り360度を認識できる。しかし、来年からルールが改定になり、フィールドが従来よりも1.5倍ずつ広くなる。そのため、ミラーの性質にもよるが、いまのカメラでは全フィールドをカバーできないことになる。片側のコートに行くと、反対側のゴールが見えないのだ。

 「ロボットに見えない領域をどうやって知らせるか? ということが問題になります。そこで仲間をうまく使うことになる。どこに仲間がいるのか、ほぼ分かっています。自分では見えないところを仲間同士で通信によって知らせ、いまどこにボールがあるのか判断できるように協調しなければなりません」(松元氏)

 また、このような協調動作をさせる前段階にもベーシックな課題がある。それは自己位置推定の精度を高めることだという。現在でも、自己位置推定はある程度できている。たとえば、相手がフリーキックをする際に、固定したフォーメーションで壁をつくることは可能だ。とはいえ、全方位カメラは方向に対しては正確だが、距離の精度があまり良くないため、それをどうやってカバーするかという問題があるという。

 「場所によりますが、フィールド上でロボットが認識している位置と、実位置が1mぐらいズレていることもあります。ボディ2つ分ぐらいなので、すごく大きいというわけではありませんが、それでもまだ精度が足りない。せめて50cmぐらいの精度にはもっていきたい」と説明する。

 それが実現できるようになれば、さらに凝ったフォーメーションを組めるため、リスタートの対応もよくなる。本来ならば、ワンツーパスを出し、走り込むようなコンビネーションプレイも入れたいという。

 ただし、現時点ではなかなかボールのハンドリングがうまくいかない。ボールをハンドリングするための出発点として、いまはループシュートが打てるところまでいっている。さらに最近では、相手を飛び越えてシュートをするテクニックもあり、このようなプレイを実装することで成果を上げている。


ボールを蹴り上げるキック機構(正面中央)。パワーを大幅にアップした。同時に本体を軽したために、バランスが少し崩れたらしいが、いずれ人間が蹴るようなキックができるようにしたいという。ボールは80cmぐらい飛ぶ 横方向にも滑る「オムニホイール」を4つ利用して、全方向に移動できる四輪独立駆動機構を実現。オムニホイールは理化学研究所の技術者によるアートな作品。現在はコストダウンのため市販品を使って製作しているそうだ

ロボカップで確実に勝ちをつかむために、The Orientが考えた施策とは?

 The Orientのロボットは、第2世代から第3世代になって大きく変わったという。それはロボカップで確実に勝ちにいくことを意識しているからだ。たとえば、全方位カメラは第2世代まではアナログタイプだった。

 またCPUボードも、デスクトップPC用のマザーボードを利用していた。そこにISAバスやPCIバスのボードを挿していたので、トラブルの原因になっていたという。第3世代になってからは、松下のノートPC(Let’s note LIGHT R5)に変更して、インターフェイスもUSBやIEEE 1394になった。もちろんカメラもIEEE 1394対応だ。


第2世代の自律分散ロボットを裏から見たところ。デスクトップ用のボードコンピュータ上に大きなCPUファンが鎮座している。この時点では、OSにLinuxを利用している 第3世代の自律分散ロボットを裏から見たところ。ハードウェアはデスクトップ用のボードコンピュータからノートPCに変更。OSはWindows。正面のユニットはDIO(デジタルI/Oユニット)。ケーブルの引き回しもラクに行えるようになった The Orientチームリーダ、秋元俊成氏(大学院 工学研究科 機能システム専攻 博士後期課程)。本当はハードウェアのほうが好きだが、ソフトウェアも得意なので、主にプログラム開発を担当しているという

 The Orientチームのリーダを務める秋元俊成氏は、「やはりUSBやIEEE 1394のほうがワイヤリングがラクです。それからノートPC自体にバッテリが装備されていますから、万が一駆動系の電源が落ちても、頭脳は生きているわけです。全体として信頼性が向上しました」と説明する。

 一方、ノートPCに変更したことで、OSもLinuxからWindowsになった。これにはチーム内外でも賛否両論があったそうだ。リアルタイム性などには完全に目をつぶって、プログラムを早く開発できるWindowsが選ばれた。

 「ヒューマノイドロボットなどではmsオーダで問題が出てきますが、車輪型ロボットなので時間の問題はありません。第2世代のロボットでは、画像処理プログラムを軽くするために自分たちで取り込み部分から開発していました。Windowsでは標準ライブラリを利用しているのでソフトは重くなっていますが、その部分がクリティカルに影響してくることはありませんでした。ネットワークについては、Windowsはあまり得意ではないこともあり不満が残りましたが、それでも気になるほどではありません」と秋元氏。

 そして本大会に向けて、2カ月という突貫工事でハードとソフトを変更したそうだ。プログラムはVC++で開発した。まるで何もない状態だと2カ月ではとても完成できないところだが、Linux上で走っていたプログラムのアルゴリズムをもとに移植したという。

 さて、次の大会に向けての施策だが、前述のように来年からルールが変更になるため、とても大事なものになるという。展示会場のような広くて柱のない場所で試合のシミュレーションをするため、練習場所も確保しなければならない。照明条件なども十分に考慮する必要がある。

 「もともと大会初期のころから、画像処理については、RGBではうまくいかないことがわかっていて、YUVなど違う空間で処理する必要がありました。RGB処理だと肌色が通ってしまい、苦労するチームをたくさん見てきました。適切な画像処理の空間を選ぶことと、その際のパラメータを自動チューニングするようなメカニズムがないと、照明条件の変動にはついていけないでしょうね」(松元氏)


松元研のメンバー。ロボカップ用自律分散型ロボットの開発は、キック担当、画像担当、サーバ担当など、学生7人で開発している。個々に動いていても、全体をまとめる際にうまく動かないこともあるので、あまり作業を細分化しすぎないように注意しているそうだ 【動画】ロボカップ大会用の自律分散型ロボット。協調動作をしながらボールを運んで、ゴールを目指す様子

 これについては手探りで試行錯誤することになるが、ロボカップに関して学科間で緩やかな連携をしているため、画像処理の専門家の意見を聞いて知恵を絞り解決したいという。また、他学科には、ボールの軌跡をシミュレーションする研究もある。今年、コンピューテショナル工学科の中林研がロボカップジャパンオープンのシミュレーションリーグに参加し、初出場ながら2位になった。

 「コンピューテショナル工学科では、どのようにボールを蹴れば、うまくボールを進められるのかを解析しているため、我々はそのリクエストに合うように、リアルな世界で実際に蹴りわけができる機構をつくろうと考えいます」

 来年以降、ロボカップ中型リーグにおいて、The Orientチームのロボットたちがどのような活躍をしてくれるのか、新しい展開に期待がふくらむ。


脊髄損傷患者の歩行支援用に、準受動歩行機械を開発

 2番目のテーマは準受動歩行機械である。これは、もともと脊髄損傷患者の歩行支援から始まった研究だという。松元研では、5年ほど前に歩行補助装具の共同研究をしており、脊髄損傷の方の歩行を可能にする装具を開発していた。

 膝裏部分にアクチュエータを付け、少しだけ膝を曲げられるようにすることで、歩きやすい装具にしたという。膝を曲げるためには、力を補う必要がある。この際、安全性を考慮して、後ろ側にボールネジをつけて直動式とした。外力が掛かっても、それで必要以上に曲がることはなく、少し訓練すれば誰でも歩けるようになるものだ。埼玉県所沢市の国立身体障害者リハビリテーションセンターにおいて、実験も行なわれた。

 そして、このような研究を進めているうちに、「受動歩行」の研究が他校でも活発に行なわれていることを知った。受動歩行は、脚を動かしながら斜面を降りていく玩具のように、初速を与えるだけで、ゆるやかな斜面を自然に降りていける現象。現象自体は1800年代から知られていたそうだが、まだその原理はよく分かっていないという。

 「受動歩行では、モータなどのアクチュエータがなくても、うまく機械パラメータをあわせることによって、坂道を歩くことができるのです。着地のときにエネルギーをロスしていますが、もしうまく歩き続けられるならば、坂道でも一定の速度に収束します。ただし、パラメータを合わせるのがものすごく大変。朝から実験を始めて、うまく動くようになるまでに夜ぐらいまで掛かります」と松元氏。

 これを坂道ではなく、平面歩行に応用したらどうなるのか? 平面での歩行だと重力エネルギーを動力として利用できない。そのため、重力に相当するエネルギーをアクチュエータで与える「準受動歩行式」にしたという。人が歩くときに後ろ足を蹴っていることに着目し、股関節フリーで足首だけにモータをつける装置をつくって実験をしたところ、うまく歩くことがわかった。


足首駆動型の準受動歩行機械を正面から見たところ。受動歩行を平面歩行に応用するため、足首にアクチュエータを装備して、エネルギーを与えるしくみ 足首駆動型の準受動歩行機械を横から見たところ。外側と内側にそれぞれ足があるのは、横方向に倒れないようにするため

 「歩行ロボットのプレ研究として準受動歩行をテーマにして研究を始め、ある程度めどがついたら、リハビリテーションセンターと連携しようというストーリーで展開しました。受動歩行の研究は、ロボット研究の一部としてさかんに行なわれていますが、いろいろなシミュレーションをして、歩く速さを変えられるところまでたどり着きました」(松元氏)

 さらに、この研究の一環として、この準受動歩行機械のモータを空気圧アクチュエータで代替した試作機もつくったという。この空気圧アクチュエータの特性は、人間の筋肉の特性と類似している。そのためさまざまな実験をする場合に、機械と人間の特性を両方とも扱えるため応用が利く。


膝関節つき準受動歩行機械を正面から見たところ。アクチュエータは電動式から空気圧式に変わっている。こちらも外側と内側にそれぞれ足がある 搭載している空気圧アクチュエータは、人間の筋肉と似た特性を持っているという。また空気圧アクチュエータであれば、水中での利用も可能になる

【動画】アクチュエータを使わずに斜面を歩きながら下るという歩行を受動歩行という。エネルギ効率がよく、滑らかな歩行が実現できる。「MSC.visualNastran Desktop」を利用し、受動歩行の運動をシミュレーションした映像 【動画】足首による蹴り足動作によって、歩行エネルギを供給する足首駆動型準受動歩行機械(準受動歩行)。股関節にはアクチュエータがなく、フリーのジョイントで構成されている

 「人間の特性を擬似的につくりたいときに、この空気圧アクチュエータのほうがよいのです。足に装着する際は、股関節にモータがなくても動くところがこの歩行機のポイントです。そのほか空気圧アクチュエータのメリットとして、水中でも使えることが挙げられます。これは我々の成果ではありませんが、所沢のリハビリテーションセンターと日立メディコが共同で、水中歩行の実験を行なっています。水中のため自重を支えることもラクになり、リハビリテーションとしてよいと思います」

 現在の研究では、まだ歩くだけだが、やがて走って、さらにボールまで蹴れる、そういう流れに持って行きたいと考えているそうだ。

 冒頭で紹介したように、同校の機能ロボティクス学科は「人間とロボットの共生社会」を想定した新しい視点で研究を進めている。従来のユーマノイトロボットの歩行研究とは一味違う切り口になるが、この成果もやがてロボカップの大会にも活かしていきたいという。


机上で1μm精度を実現できる「マイクロ組立て機械」を産学共同で実用化

 そして3番目のテーマは、ロボティクスユースの産業応用だ。これは横浜にあるファブレス企業のAJI株式会社と連携して研究しているもの。同社は、'80年代にダイレクトドライブタイプのスカラーロボットをつくっていたメーカーとして有名だったが、産業用ロボットの需要変化にともない、マイクロ組み立て分野へ移行を図りつつある。

 現在の微細組立て技術は、1μm精度のテクノロジーがブラックホールのように抜けているそうだ。いわゆるナノテクは100nm以下を対象としている。一方、従来の微細組み立て技術は、たとえば片もち梁の産業用ロボットでは、繰り返し精度が10μmぐらい。いずれにせよ、そこに空白地帯があったわけだ。松元氏は、この研究のきっかけについて次のように説明する。

 「この空白地帯は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)部品のハンドリングに必要な領域ですが、あまり精度が出なかったために、効率よく組み立てられませんでした。実はハードディスクのヘッドの組み立てや、光ファイバーの接合作業でも、この精度がネックになっています。必要とされる技術の根幹となる製造効率が上がらないため、その問題の解決を狙いました」


MEMS部品のハンドリング用として実用化されたマイクロ組立て機械。温度の影響も受けず、定盤や除振装置も不要。普通の机上でも1μm精度を実現できるのは驚きだ。A4サイズなので、設置面積をとらず、ハンドキャリーで運べる点もメリット
 松元研では、画像処理を利用した位置決めについての基礎実験を繰り返した。そして、その解析結果が実を結び、1μm精度を実現できる「マイクロ組立て機械」がAJIから製品として発売された。このマシンは、一見すると何の変哲もないXYテーブルのように見えるが、普通の机上でもμm精度が出るというから驚きだ。

 通常、精密な測定や組立てをする際には、温度や振動の影響も考慮しなければならない。だが、このマシンでは温度の影響も受けず、定盤も除振装置もいらず、精密な組立てが可能になるという。

 また、このマシンの最小モデルはA4サイズ。設置面積をとらず、省スペースで作業ができる点もメリットとして挙げられる。ハンドキャリーでどこかへ運んで、その場所に設置すれば、数時間後には1μmの精度が出せる。

 このような精密な位置決めができるようになった裏には、いわば「コロンブスの卵」のような発想があった。松元氏は、開発の大きなポイントとなった点について、「カメラで撮影した画像をフィードバックして、現在の状態を見ながら位置合わせできるようになったこと。さらに部品を合わせるときに、カメラで現状と目標の状態がすべて見えさえすれば、相対移動として扱える点に気づいたこと」と説明する。

 たとえば、2つの基板があり、部品を決められた場所に置くとき、両方を見ながら何回か位置補正をかける。移動はあくまで相対的なものなので、ズレが両方とも見えていれば問題はなくなる。前述のように、絶対精度でμm単位の精度ともなると温度も影響してくるが、同じ材質ならば両方とも同じ割合で線膨張するため、たとえ変形しても相対的に位置を合わせられる。これらの技術については、たとえ原理はわかっても、すぐに誰でも実現できるものではなく、やはり十分なノウハウが必要になるのだ。


ジェットエンジンで飛ぶ、ユニークな飛行ロボットの研究も開始

ジェットエンジンを搭載したユニークな飛行ロボット。まだ試作段階だが、ジェットエンジンなので、浮遊するときに空気を劈くような特有の音がするそうだ
 さらに、このほかにもユニークな研究を始めている。これはまだ学会レベルで発表する段階に至っていないそうだが、ジェットエンジンをつけて、3次元空間を飛びまわれる「空飛ぶロボット」だ。この空飛ぶロボットは、ジェットエンジンの推進力だけで浮力を得ようとしている。

 「理屈では3次元空間を自由に飛べるのです。ジェットエンジンならば外乱に強いこともあり、うまく制御できるのではないか、ということで研究を始めました」(松元氏)

 とはいえ、やはりホバリング制御は難しいという。燃料の減りが激しく(10分ぐらいの稼働で1リットルほど)、本体が軽くなるにつれて制御が難しくなる。経時変化を考慮して制御系を組込まなければならず、思ったよりも大変だということがわかってきた。

 また飛行物体なので、事故が起きないよう対策も練らなければならない。昨年、機構部を製作して公開実験をしたが、その際には上昇しすぎないようにリミッタをつけたり、本体が回らないようにガイドをつけたり、慎重に実験をしたそうだ。今後は制御系について研究を進める予定だが、全体の姿勢制御に適したセンサがまだ選定できていないため、次はこのあたりが研究のターゲットになるという。

 最近では飛行ロボットの研究もいくつか見られるが、ジェットエンジンを搭載するような大掛かりな自律システムは珍しいと思う。このような飛行ロボットが自由に飛び回る「未来の絵図」を頭に描くだけで、とても心が躍ってしまう人も多いのではないだろうか。


URL
  東洋大学 工学部 機能ロボティクス学科
  http://www.eng.toyo.ac.jp/robotics/
  松元研究室
  http://robot.eng.toyo.ac.jp/robolab/


2006/10/31 15:47

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