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「介護・福祉分野のニーズに応える、柔軟な発想を実用化する方法とは?」
~「今年のロボット」大賞2008 受賞者講演会【5】


 大阪産業創造館において2月5日(木)~20日(金)に、ロボット・フェスタ2009が開催され、ロボットを展示するロボットショールームロボットテクノロジー展が実施された。当期間中には、「今年のロボット」大賞2008の受賞者講演会も開催された。

 本稿では、最優秀中小ベンチャー企業賞を受賞した自動ページめくり器「ブックタイム」を開発した、株式会社西澤電機計器製作所の小林英敏氏(技術部長)の講演をレポートする。

 「ブックタイム」は、肢体不自由者がボタンや呼吸スイッチなどを使って自力でページをめくるための読書支援ロボットだ。中小企業が産学連携の中でどのようにシーズをさぐり、ユーザーの声を聞きながらロボット開発に取り組み実用化に至ったのか。介護・福祉分野のニーズに応じるためのノウハウを紹介した。


【動画】自動ページめくり器「ブックタイム」 小林英敏氏(株式会社西澤電機計器製作所 技術部長)

「今年のロボット」大賞2008 最優秀中小ベンチャー企業賞を受賞 大阪産業創造館

社会貢献できる製品で新規分野を開拓

 株式会社西澤電機計器製作所は、1960年に創業した。同社の事業の柱は、デジタルリーククランプ電流計、アナログテスタ、アナログパネルメータ等電機計測器の研究開発・製造販売で、近年は医療・健康・福祉機器にも取り組んでいる。

 同社の主力製品である工業高校向けのキットテスターは国内シェアの70%を占めているが、少子化の影響を受け厳しい状況になってきたという。そこで新規分野の開拓を目指したのが、自動ページめくり器「ブックタイム」開発のきっかけになった。


会社概要 取り扱い製品 新規分野の製品開発に着手

 2000年頃に、長野県県工業技術総合センターに相談したところ、信州大学繊維学部 機能機械学科の中沢賢教授のところで学生が卒業研究のテーマとした「ページをめくる機構」を紹介されたという。「新しいことをやるのなら、社会貢献できる製品を作りたい」という思いがあり、肢体不自由者の生活に役立つツール作りということで製品化に取り組むことにしたという。

 当時、長野県テクノ財団が産学官連携に取り組み始めたため、テクノコーディネータの下で研究会を発足し、ユーザーグループにも参加してもらい開発体制を整えた。開発途中で、テクノエイド協会から助成金を得ることができ、あさま福祉機器開発委員会と名称を変更し研究開発を続けたという。

 「ブックタイム」の開発にあたっては、試作・試用・評価・検討・改良のサイクルを繰り返すこととし、同社は試作部門を担当した。試作品をつくると、ユーザーグループの方に実際に試用してもらい、製品に必要な操作や動作の不具合点をチェックしてもらう。それを研究会の中で検討し改良案を出し、次の試作機に反映していったそうだ。


産学官連携により「開発研究会」を立ち上げて研究開発に取りくむ あさま福祉機器開発委員会 「ブックタイム」開発の経緯

 第4次試作機で、ほぼ現在と同じ性能・機能が実装されたという。そこでデザイナーにカバーデザインを依頼し、第1次商品化試作機として10台製作し、ユーザーグループのメンバーと協力関係にあった先生方に半年間のモニター評価をしてもらった。

 モニター評価の結果を反映した第2次商品化試作機を第31回国際福祉機器展に出展したのが2004年だ。マスコミからの注目が高く、テレビや新聞でも大きく扱われたそうだ。そして2005年に医療・福祉機器向けブランド「LIVE+PLUS」を立ち上げ、自動ページめくり器「ブックタイム」の発売を開始した。


「ブックタイム」の構造 ユーザーの意見・要望を取り入れた「第2次商品化試作機」 「ブックタイム」の特長

ユーザーの利便性と安全性を追求した商品開発

【動画】本をセットし、ボタンを押すとページがめくられる
 第4次まで試作を繰り返したのは、多くの試行錯誤があったからだと小林氏はいう。当初は、ページを押さえるのとめくるのでモータが3個あれば実現できるだろうと考えたそうだ。しかし試作をしてみると、ページを押さえる機構が非常に大事だということが判明し、最小限のモータ数で機能を実現するのに苦心したという。

 最終的には、左右の下部に1枚分離ユニットをそれぞれ搭載、左右のページ押さえと上部中央の押さえ、そしてページをめくるための機構と6個のモータを搭載した。操作のシンプル化、本のセッティングを簡易、デザイン性・安全性の向上したものを第2次商品化試作機として、国際福祉機器展に出展した。

 「ブックタイム」に本をセットする時は、書見台に本を置き背表紙固定用ワイヤーで固定する。このワイヤーは引っ張れば伸び、離せば自動で巻き戻る。ページをめくるのは、ボタン押下だけで簡単に操作できる。正面中央にある左ボタンを押せば左ページ、右ボタンを押せば右ページがめくれる。障害のある方が、口にマウススティックという棒を咥えてスイッチ操作をする時、スティックを口にしたまま本を読む苦痛を軽減するため、マウススティックホルダーも用意した。

 このページをめくる機構は、前述のように信州大学の研究テーマで扱った「1枚分離の原理」がベースになっている。簡単に言うと本のコーナー部を2本の指で押さえ、1本を固定指としてもう1本で紙を上から押さえて斜め上に移動するやり方だ。移動する指と紙の摩擦力で、1ページだけたわんで分離する。これを機械的にやる時は、ラバーをつけたローラーを使う。ページに置いたローラーを右方向に回転して、紙を座屈させている。座屈させたページの下にスクレーパーを差し込めば、ローラーを戻した時にスクレーパーに1ページが乗る。スクレーパーのロッドを左に移動すれば1ページだけめくることができる。

 このように大学で研究していた時にはローラー方式を採用していたが、ブックタイムを研究開発する中で新たにスライドアーム方式を考案し採用した。

 というのは、ローラー方式ではめくった紙がたわんだり残ったりすることがあり、ページを両側に押し広げる“しわ伸ばし機構”が必要だったこと。もう1つは、ユーザーの目の前で機械的な構造が出ていると威圧感があるため、新方式採用で解消したという。

 製品化に向けて利便性を向上するために、いくつかの機能を搭載した。その1つがスキャン機能だ。これはランプが左右交互に点滅し、ページをめくるタイミングをユーザーに知らせるものだ。ユーザーの動作スピードや好みに応じて、点滅速度を5段階に設定できるようになっている。

 他にも、ページをパラパラとめくって読みたいところを探せるように、連続めくり機能を追加した。ボタンを長く押せば10ページ分が自動的にめくられる。読みたいページが見つかれば、ボタンを押して連続動作を中断できる。


1枚分離の原理 研究開発した新技術 製品化にあたり利便性向上のため知能化機能を追加

 また、肢体不自由者が使い慣れた自分の入力スイッチを使用できるように、外部入力スイッチ接続機構を設けている。押しボタンスイッチもごく弱い力で反応する外付けボタンもあるし、呼吸器スイッチ、筋肉の動きを使ったスイッチ、瞬きスイッチなど福祉用具関係のスイッチは、ほとんど全て対応できるという。

 もちろん安全面にも配慮し、電源はACアダプターを使い電圧に十分余裕を持たせて本体を稼働させている。子どものユーザーが機械部に手を触れたりしないように裏面と前面の可動部にはカバーをつけた。万が一、稼働部に手を挟んでも、ケガをすることがないようにモータは必要な範囲で一番弱いものを選択したそうだ。また、読書中に飲み物をこぼしても、電子回路がショートしないように基板には専用のカバーを被せているという。


外部接続のスイッチを接続して操作が可能 呼吸スイッチや、マウススティックでの操作にも対応 【動画】マウススティックで本体ボタンを押して動作

【動画】弱い力でも反応するボタンによる動作例 【動画】呼吸スイッチによる動作例

安全対策 背面

販売戦略と今後の展開

 2005年2月販売開始以来、国際福祉機器展、バリアフリー展、全国脊髄損傷者連合会や日本筋ジストロフィー協会などから出展要請があれば必ず参加しているという。展示会を通じ米国の商社から引き合いがあり、米国やヨーロッパへも販売しているという。これまでに100台以上の販売実績があり、納入国は11カ国になるという。

 小林氏は、「市場化における一番のネックは価格」だという。税込み35万円は、障害のある方には高価過ぎるという声が多いそうだ。現在、もっと低価格で提供できるように、検討している。しかしすぐに対応できるわけではないので、国内へ販売する時には実機を1週間~10日くらい貸し出して使った上で、購入を検討してもらう体験販売の形式を取っている。そして「ブックタイム」を貸し出した時には、使用感想として意見・要望をいただき製品の改善に取り組んでいる。

 ブックタイムを見た健常者の方から、「寝転がって本を読む時に使いたい」という要望が寄せられることもあるが、小林氏は「あくまでも肢体不自由者が使いやすく、介護者の負担減少する製品として開発していきたい」と考えているそうだ。しかし、「安価で使いやすいものができれば自ずから一般に広がっていくかもしれない」ともいう。

 今後の取り組みとして、培ったページめくり技術の用途拡大を検討している。例えば、自動でページをめくり誌面をカメラで取り込んでデジタル化し、パソコンのディスプレイに表示する技術の研究中という。文字の大きさを自在に変えることができれば、ユーザーにとってより便利になるだろう。


販売実績 今後の展開

 小林氏は、「福祉用具は、我々が使えると思ってもユーザーには使えないということがたくさんある。ユーザーが必要とする製品でなければ売れないため、意見・要望を踏まえて、機能を実現することが大事」と述べて講演を締めくくった。


URL
  ロボットラボラトリー
  http://www.robo-labo.jp/
  株式会社西澤電機計器製作所
  http://www.nisic.co.jp/
  あさま福祉機器開発研究会 自動ページめくり機の開発
  http://kappa.shinshu-u.ac.jp/pageturner/

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( 三月兎 )
2009/04/10 22:48

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