3月18日、神戸市産業振興センターにおいて、「kobe Robot Meeting 2008」が行なわれた。主催は、財団法人新産業創造研究機構神戸ロボット研究所。
神戸市では、ものづくりの高度化と市内産業の振興に取り組むため、「神戸RT(ロボットテクノロジー)構想」を推進している。2002年に設立したNIRO神戸ロボット研究所と神戸RT研究会、およびNPO法人国際レスキューシステム研究機構が連携し、新たなRTビジネスの創出を目的として活動している。
今回の「kobe Robot Meeting 2008」では、神戸RT構想及びNIRO神戸ロボット研究所の取り組みに関する報告、平成19年度神戸ロボット研究開発費補助採択テーマの進捗報告などが行なわれた。
● 神戸RT構想及びNIRO神戸ロボット研究所の取り組みについて
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大築康生氏(財団法人新産業創造研究機構神戸ロボット研究所所長)
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まず最初に財団法人新産業創造研究機構神戸ロボット研究所の所長である大築康生氏が、本年度の活動報告を行なった。
神戸RT研究会には、現在123団体が参加している。2007年度もロボット導入事例紹介セミナーや、産業用ロボット体験スクールなどを実施。また、神戸市補助事業では、神戸ロボット研究開発費補助に3件のテーマを採択した。この3件のプロジェクトについては、別途進捗報告があった。
NIRO神戸ロボット研究所では、NEDOの21世紀ロボットチャレンジプログラム「人間支援型ロボットの実用化基盤技術開発」によって、2005年度から3カ年計画で2種類のリハビリ支援ロボットを開発している。
1つめは、脳卒中などの後遺症で片麻痺が残る患者の家庭内リハビリを支援する「上肢練習支援スーツ」だ。
例えば、左腕に麻痺が残っている場合、スーツを着用して右腕を動かすと装着したベルトの圧力センサーが右腕の動きを読み取り、空気圧で動くアクチュエーターで人工筋肉が動きを再現しマヒしている側の腕を動かす。療法士のサポートがなくても、一人で訓練を繰り返すことができ、リハビリの効果を期待できるという。
もうひとつは、MRブレーキを応用した下肢支援ロボットだ。足に麻痺を持つ患者は、歩行中に足関節角度を適切に調節できないため、足先をひきずってしまい小さな段差にもつまずきやすい。この下肢支援ロボットは、MR流体(Magneto-Rheological Fluid)ブレーキを応用して、足首の角度を自動調整することにより歩行を支援する。
これらのリハビリ支援ロボットは、被験者を募り実証実験を終了している。今後は、実用化に向けていくという。
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神戸RT構想
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リハビリ支援ロボット「上肢練習支援スーツ」。健常な腕の動きをマヒした側に伝えてリハビリの支援をする
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MRブレーキを応用した下肢装具。足首の角度を自動調整して歩行を支援する
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また、兵庫県COEプログラム推進事業提案で産官学が連携し「間接駆動型マネキンの開発」を行なっている。
神戸は、ファッションセンスがよい街として全国的に知られている。ロボットとファッションは神戸の得意分野であることから、モデルの動きを再現するマネキンロボットを開発するアイデアが生まれたという。デザイン性の高いロボットで、被服の美しさを動きで表現することを目指している。
開発後は、ファッションブランドのマネキンとして使用する他、年代別標準関節駆動のマネキンを開発し、人間工学的検証の簡易化のモデルとして使用することも検討している。
神戸ロボット研究所としては、今後も産官学のRT関連パワーを結集し、連携をより拡大していく。「その中から、自主的なテーマによる神戸地区の特長を活かしたロボット開発をおこなっていきたい」と、大築氏は語った。
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関節駆動型マネキン開発プロジェクト
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動きの中で被服の美しさを見せるのが狙い
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キャラクタロボットや、人間工学的検証への応用も検討している
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● ロボット関連提案制度進捗報告
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宮原清人氏(マーテック株式会社技術担当営業部長)
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次に、平成19年度神戸ロボット研究開発費補助採択テーマの3件のプロジェクトについて、各社から進捗報告が行なわれた。
高圧洗浄機の開発、販売経験を持つマーテック株式会社が明興産業株式会社、日本エコロ株式会社と共同で、トイレ清掃ロボットを開発している。マーテック株式会社の技術担当営業部長宮原清人氏が報告した。
このロボットは、公共トイレの男性用小便器を洗浄するロボットだ。節水、環境対応、省力の3つのコンセプトで開発している。
象を模したロボットを男性用小便器に被せ、車のコイン洗車と同じ水圧で1便器を10秒で洗浄する。下から上に向かって洗剤を吹きつけて洗い、上から下へ流すことで少ない水量で素早く汚れを落とす。消臭・殺菌のため、排水管の汚れを落とし浄化槽のバクテリアに影響がない専用洗剤を開発したという。
力強い放水と逆転の発想(ゾウ)、創造(ゾウ)性をイメージして象をモチーフにした。商品名は、ABCDを反射させてDCBAとし「ダスベエ」と名付けた。
今後、1号機が完成したら高速道路のサービスエリアで実証実験を行なう。現在開発中のモデルは100V交流電源を必要とするので、量産化に向けてバッテリを検討中。
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象をモチーフにした「ダスベエ」
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男性用小便器を覆って高圧洗浄機で洗浄する。50Lタンクで30基の洗浄が可能
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電源のバッテリ化、汚水をバキュームで吸引するなどの課題が残っている
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秋田健太郎氏(開発事業部)
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明興産業株式会社は、有限会社RTソリューションとともに住宅の閉塞空間を監視・検査するレール軌道型移動ロボットを開発している。開発事業部の秋田健太郎氏から、開発の現状と事業化に向けての課題が報告された。
住宅には、床下や天井裏など、目視で監視・点検することが困難な空間がある。そこには、柱の土台や屋根の基礎があり、住宅のメンテナンスに関わる重要な場所である。そこで簡易に監視・観察するための手段として、事前にレールを設置し、無線操縦のロボットが移動しながら監視カメラで領域内の情報をユーザーに提示するロボットを開発している。
顧客は、住宅メンテナンス会社を想定している。各住宅に事前にレールを設置し、必要な時に、メンテナンス会社がロボットを持ってきて巡回検査をし、住人に映像で確認してもらう。
レールに樹脂製のフレキラックを取り付け、歯車によってロボットが駆動する方式を採用した。開発中、住宅の床を想定し、床から300mm、幅500mmの空間を一筆書きで走行するレールを組立、試験したという。
現在、ロボットの寸法は387×258×200mm、重量がバッテリ込みで5.6kg。これを改良し、サイズを縦350mm、バッテリ込み重量5kg以下までに小型軽量化する。また、小型のCCDカメラは照明によってハレーションをおこしやすいので、改良が必要であるという。
事業化に向けて、高速道路等のトンネルや陸橋にあらかじめレールを設置し、通常時は監視カメラとして外壁を目視し、火災や事故などの非常時にマイクや照明などで避難誘導する展開も検討中。販売目標価格は50万円を想定しているという。
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レール軌道型移動ロボット。サイズは387×258×200mm、重量は5.6kg(バッテリ込み)
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ロボットの仕様。本体内部に余裕があるため小型化が可能だという
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十数パターンの住宅基礎図面をベースに、試験送稿用レールの配置を決定したという
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【動画】レール軌道をロボットが走行するデモ動画
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【動画】ロボットに搭載したCCDカメラで撮影した動画
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井辺智吉氏(有限会社ピノキオ代表取締役社長)
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最後は、壁面吸着移動方式外壁目地・クラック等のコーキングロボットの開発を行なっている有限会社ピノキオ代表取締役社長の井辺智吉氏から報告があった。
阪神間の建物は、1995年の震災で大きな被害を受けているが、応急措置としてシーラントでコーキングしてあることが多い。最近、シーラントが劣化して収縮し、ひび割れの口が開いてきて漏水するようになっている。
修繕のために、足場を組むのは費用が掛かること、足場を組むスペースがない場合もあることなどから、階上からつり下げて遠隔で壁を補修するロボットを考案した。
同社は既に壁面吸着型移動塗装ロボットを開発している。そのロボットをベースに、コーキングユニットを開発し、搭載した。コーキングを塗布するヘッド部分には、面の大きなカーブと弾力で均等に塗布できる海綿状のスポンジを採用した。コーキング剤はエアーポンプで押し出される。テスト段階で、壁からヘッドが離れている時に、エアーポンプを作動するとコーキング剤が垂れてしまう問題点が見つかっている。機械的なロックなど操作ミスを起こさない対策を検討中。今後、洗浄、検査、補修ユニットの開発に取りかかるという。
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コンプレッサーで建物の外壁に吸着し、上下に移動する壁面吸着移動ロボット
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押し出しモジュールは、ヘッド部分に海綿状のスポンジを採用。エアーポンプでコーキング剤を押し出す
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屋上などからロボットをつり下げて、一人で補修作業が可能
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【動画】コンプレッサーで吸着して壁面を移動し、アームをスライドさせるデモンストレーション
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【動画】コーキング剤をベニヤ板に塗布するデモンストレーション。クラックの位置は目視で確認する
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● RTによる防災・防犯システム開発の現状と未来
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高森年氏(NPO法人 国際レスキューシステム研究機構理事)
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NPO法人国際レスキューシステム研究機構理事の高森年氏から、RTによる防災・防犯システム開発の現状と事業化について報告があった。
IRS(NPO法人国際レスキューシステム研究機構)は、阪神・淡路大震災がきっかけとなり、先端技術による災害対応の高度化を目的に、研究者を中心に設立された産官学民による組織だ。
現在、NEDOの「戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト」(2006年~2008年)、経済産業省「次世代ロボット知能化技術開発プロジェクト」(2006年~2011年)など複数のプロジェクトを産官学と連携して研究開発・事業化に取り組んでいる。
その中で、2006年から経済産業省の地域新生コンソーシアムとして研究開発してきた「RT応用メッシュネットセンサによるユビキタス防災・防犯システム」がこの3月で終了し、まとめに入っている。
防災・防犯システムは、被害を未然に防ぐ、または最小限に抑えることが目的である。そのために、日頃から、ロボットによる探索、監視などの情報収集を行なうUS(ユビキタス・セキュリティ)エリアを構築する必要がある。
探査・監視を行なう範囲は、時間帯も空間的な条件も多岐にわたり、事前に環境条件を特定することができない。そうした多様な生活環境に対して柔軟に対応し、かつリアルタイムに情報収集を行なうために、ITやユビキタス、ネットワーク技術を活用するRT(ロボットテクノロジー)を応用して環境の情報構造化を目指したのが「US(ユビキタス・セキュリティ)エリア」だ。
仕組みとしては、固定型のマイクロセンサーユニットを分散して配置し、センサー機能を搭載した移動型ロボット群を中継点として、エリア内に網の目のようにネットワークを張り巡らす技術(メッシュネットワーク技術)だ。通信網でエリア同士を結合すれば、広いエリアまで監視・探索が可能になる。
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固定型のセンサーユニットを配置して(青点部分)、複数の移動型ロボットから送られてくるデータの中継点とする
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USエリアを構成するシステム群。固定型センサーユニットと、1次元、2次元、3次元ロボットを併用してアドホックネットワークを構成する
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USエリア内でロボットが協働して情報収集を行なう
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狭い範囲のUSエリアを連結することで、都市レベルの広い範囲までフォローすることができる
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三宮の地下街で実証実験を実施。2次元移動ロボットが地下道を探索し、被災者を発見する
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事業化に関しては、株式会社シンクチューブが、電源を入れるだけで自立的に無線LANネットワークを構成する次世代型無線メッシュルーターを製品化している。
また、1次元ロボットは応用範囲が広いと考えているという。トンネル内にレールを設置して、ロボットが定期的にトンネルの壁をチェックすれば、トンネルを通行止めにすることなく作業が行なえる。事故の発生時には、ロボットが状況を把握し照明や音声で避難路の誘導を行なうことが可能だ。
防災のためだけに設備を用意し管理することは、コストとメンテナンスの両面で難しい。平常時は防犯システムとして稼働すれば日常的に管理ができ、地震や火災発生時に防災の役に立つ。「次世代防災・防犯システム構築の課題としては、まず安心・安全な社会基盤を整え、市民の方々の理解を得なくてはシステムが産業化していかない」と高森年氏はいう。
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メッシュネットワーク技術と統合無線システムを統合することで、離島などでもコストを抑えてネットワークを形成できる
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1次元ロボットのトンネル内検査システムへの応用。平常時は壁面検査や状況監視を行なう
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異常時には、事故現場の状況を把握、光と音声で避難誘導を行なう
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■URL
神戸RT構想
http://www.kobe-rt.jp/
NIRO 財団法人新産業創造研究機構
http://www.niro.or.jp/index.php
IRS(NPO法人国際レスキューシステム研究機構)
http://www.rescuesystem.org/tmp/NEW/framepage01.htm
■ 関連記事
・ 国際レスキューシステム研究機構が次世代防災・防犯システムを公開 ~RTを応用したユビキタス・セキュリティ・エリアの事業化(2007/10/01)
( 三月兎 )
2008/04/08 00:05
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