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NBC災害で活躍するレスキューロボットたち
~救助支援活動のデモも


NBC災害の対処は、ゾーニングと除染活動がポイント

 10月7日、東京・調布の電気通信大学において、「第3回全国消防救助救急研究会~特殊災害への挑戦~」が開催された。主催は特定非営利活動法人国際レスキューシステム研究機構(IRS)、電気通信大学・危機危険管理システム研究ステーション。協力は化学災害技術研究会と東京救助救急研究会。

 第3回目になる本研究会は、大地震による震災、テロなどの特殊災害といった不測の事態に対し、全国の救助救急活動に関わる関係者がどのように取り組むべきか、次世代の救助のあり方や課題を明らかにすることを目的に開催。講演のほかに、災害時に活躍するレスキューロボットの展示や、災害・テロ救助支援活動のデモンストレーションなども実施された。


【写真1】消防職員や消防行政関係者など、人命救助のプロが集結した講演会の模様。NBCといった特殊災害での医療、大地震における初動・応援体制や消防活動など、専門的な話題が中心だった
 午前中から午後にかけて催された講演は、消防職員や消防行政関係者などの専門家を対象とし、特殊災害における医療や現状、大地震における初動・応援体制と消防活動といった話題が中心となった【写真1】。

 佐賀大学の奥村徹氏(同大学付属病院救命救急センター副センター長、付属病院安全管理室副室長)は、かつて聖路加国際病院に勤務していた頃、東京地下鉄サリン事件に遭遇。病院が被害現場の近くにあったため、数多くの被害者が運ばれ、その治療に当たった。現場を目の当たりにした医療関係者の一人として、生々しい実体験を基にして、特殊災害における医療やNBCテロ対策医療のあり方について説明した。

 NBCとは、N(Nuclear weapon)、B(Biological weapon)、C(Chemical weapon)、すなわち核兵器、生物兵器、化学兵器などの大量破壊兵器によるテロ行為の総称だ。奥村教授は、NBCテロが起きた際の重要な対処ポイントとして、危険地域の特定(ゾーニング)、原因究明のための検知体制、および医療機関への迅速な情報開示、個人防護服の用意、放射能や化学物質など除染設備の4点を挙げ、その必要性を説いた。


【写真2】NBC災害時に行なわなければならないポイントとして、危険区域の特定と除染活動がある。危険地域、除染区域、警戒区域を明確にして、除染を徹底し2次災害を防止する
 2番目に登壇した、長岡市消防本部の青柳元一氏(消防署長)は、新潟県中越大震災・中越沖地震の際の経験から、同地域にける初動・応援体制と消防活動について写真を交えて解説した。大地震では家屋の倒壊はもちろん、道路の陥没や寸断などもあり、救助活動は困難を極めたという。また、自然災害に伴って、原子力発電所といった特殊災害につながる危険性も一層高くなるため、その対応についても考慮しなければならない。「特に放射能による2次災害では、消防職員の安全性を確保しながら、対応していく必要がある」とした。

 東京消防庁の昆文雄氏(第三消防方面本部救助機動部隊総括部隊長、消防司令長)は、NBC災害における救助技術をテーマに講演を行なった。昆氏は、NBC災害時の危険区域の特定と除染活動、NBC災害の危険性、救助活動の留意点などについて説明【写真2】。NBC災害と従来の災害との大きな相違点について、「火災などと同様に厳しい環境下での人命救助という点では相違ない。しかし、環境の危険要素が異なること、救助後に2次災害を防止する除染活動が必要になることに注意しなければならない」と述べた。


NBC災害を想定したレスキューロボット訓練

 NBC災害対応の課題として、特に弊誌に関係するトピックスは、現場での情報収集活動を行なうロボットの利用法だろう。前述のように、NBC災害では現場の危険性によっては、安易に進入して情報を収集できないことが多い。そのため、レスキューロボットの開発と導入・活用に向けた動きが求められるという。

 そこで今回、本研究会はNBC災害を想定し、東京消防庁第三消防方面部隊とレスキューチーム・IRS-Uによるレスキューロボット合同訓練も実施した。IRS-Uは、ロボットテクノロジーを配備した国際救助隊を目指し、IRSの関係組織として今年の3月に発足したボランティアチームだ【写真3】。

 レスキューロボットの開発者、消防隊員が参加しており、ロボットを使って要救助者と危険物質を探し出す。その後、所轄の消防隊によって実際の救助が行なわれる。レスキューロボットを利用することで危険地域の情報を収集したり、救助にあたる消防隊員の二次災害を未然に防止することも重要な目的だ。

 さて、今回の訓練で登場したIRSのレスキューロボットは計5台ほど【写真4】。このうち2台はバックアップ用に控えており、出動しなかった。実訓練では、電通大とトピー工業が共同開発した人命救助ロボット「KOHGA3」、および「KAMUI」【写真5】、千葉工業大学ら7団体が共同開発した高速情報収集ロボット「Kenaf」【写真6】の3台が出動した【動画1】。以下、これらレスキューロボットについて見てみよう。


【写真3】NBC災害を想定し、東京消防庁第三消防方面部隊とレスキューチーム・IRS-Uによるレスキューロボット合同訓練の模様。写真はIRS-Uのメンバーによるロボットのオペレーション 【写真4】訓練で登場したIRSのレスキューロボット。前線に出るのは3台、残り2台は控えとして待機 【写真5】電通大とトピー工業が共同開発した人命救助ロボット「KOHGA3」(写真手前)、および「KAMUI」(写真奥)。いずれも走破性に優れたクローラ型

【写真6】高速情報収集ロボット「Kenaf」。ロボカップ2007アトランタ世界大会の運動性能競技で優勝しており、性能はお墨付き 【動画1】NBC災害発生。レスキューロボット、いざ、発信! まずは「KOHGA3」が先頭を切って危険地帯に向かう

 KOHGA3は、フリッパーアームによって不整地などの段差を乗り越えられる構造で、前モデルよりも走破性を向上するために、クローラのかみ合いなども工夫されている。現在のところ防塵・防水には未対応だが、コストの問題だけで技術的には実現が可能だという。マクソンの60W・DCモータによって駆動し、フリッパー部のギアにはハーモニックドライブを採用している【写真7】【写真8】【動画2】。

 KAMUIは、前方に特殊な半透過ミラー付きのカメラユニットを装備している点が特徴だ【写真9】【写真10】【動画3】。このユニットは、可視光を通過させ、赤外線を反射できるもの。通常の可視光による映像をCCDカメラで捕らえ、暗闇での映像を赤外線カメラで捕捉する仕組みだ。2つのカメラを並列に配置すると、視差が生じて映像を重ね合わせる際に処理が煩雑になるが、このメカニズムによって視差のない映像を捕らえて1つに合成できるという。

 Kenafは、全面クローラタイプのレスキューロボットで、フリッパーアーム先端が大きくなっており、瓦礫に刺さらないように工夫されている点が大きな特徴だ【写真11】。また、平地を走行する際には、フリッパーアームを下げて、重心を中央に移動させる構造になっている【動画4】。低重心で、クローラさえ滑らなければ、80度ぐらい傾けても横転しないそうだ。「ロボカップ2007 アトランタ世界大会」の運動性能競技で見事に優勝しており、その性能はお墨付きだ。

 駆動系にはDCブラシレスモータを利用し、可燃性ガスが充満している環境でも、ブラシの火花で引火する心配もないという。モータドライバ系はCANで通信してコントロールしている。センサ系としては、サーモグラフィ、パンチルトカメラ、全方位カメラ、3軸加速度センサ、ジャイロセンサなどを装備。来年には市販品として本ロボットが販売される予定もあるそうだ。


【写真7】KOHGA3の全景。フリッパーアームによって不整地などの段差を乗り越えられる構造。マクソンのDCモータによって駆動し、フリッパー部のギアにはハーモニックドライブを採用 【写真8】KOHGA3に搭載されているAXISのネットワークカメラ。このほか、センサとしては熱センサ、ガスセンサなども搭載。双方向マイクやスピーカーも備える 【動画2】KOHGA3の実訓練の模様。クローラはトピー工業との共同開発。瓦礫の山を乗り越える走破性を持つ

【写真9】KAMUIもクローラ型のレスキューロボットだ。特殊な半透過ミラーが付いたカメラユニットを装備している点が大きな特徴 【写真10】KAMUIに搭載されている特殊な半透過ミラー。これによって、可視光と赤外線を分光し、各カメラで映像を捕捉。視差のない映像を捕らえて1つに合成できる 【動画3】KAMUIの走行。訓練では、主に除染区域内(ウォームゾーン)を担当していた

【写真11】Kenafを俯瞰したところ。フリッパーアーム先端が大きくなっており、瓦礫に刺さらない。上面にコントロールボードを搭載している 【動画4】Kenafの走行性。フリッパーアームを自在に動かしながら、路面に適した走行が可能。平地を走行する際には、フリッパーアームを下げて、重心を中央に移動させて走る

 今回、訓練では控えにまわったが、レーザーレンジファインダーを搭載し、270度周囲の状況を把握しながら、地図を作る目的で開発されたロボットも興味深かった。こちらはKOHGAよりもサイズがひとまわり小さく、小回りも利く構造。災害時に駅の改札でも通れるようにしたという。

 最近のレスキューロボットは、ロボット側に搭載されたコントローラとオペレータ側のPCを無線LANで通信することも多い。災害時は電波強度を強くすることができるものの、地下街などでは無線があまり通じないことも想定される。そこで、通信事業者と協力し、700mぐらい先の現場でも通信できるように、親機となるレスキューロボットでアクセスポイントを設置しながら、アドホックネットワークを構築する計画もあるという【写真12】【写真13】【動画5】。


【写真12】マップ制作用ロボット。駅の改札でも通れるように、KOHGAよりもサイズがひとまわり小さく、小回りが利くようになっている 【写真13】レーザーレンジファインダーを搭載し、270度周囲の状況を把握しながら地図を作る。データは無線LANで送る 【動画5】マップ制作用ロボットの走行。将来的には親機となるレスキューロボットでアクセスポイントを設置しながら、アドホックネットワークを構築する計画もあるという

 さて、実際のテロ災害のシナリオは、駅・地下鉄構内で、原因不明の呼吸困難や眼の痛みなどを訴える被災者が発生したため、神経系のNBC災害が起きたという想定のもと実施された。訓練では、まずKOHGA3が出動し、階段や瓦礫を模した障害物を乗り越えて、危険地区に進入。続いて高速情報収集ロボットであるKenafも発進。現場周囲の情報をしっかりと把握して報告した【写真14】【写真15】。また、KAMUIは主に除染区域内を検索する役割を担っていた。

 レスキューロボットが活動し、危険地区のゾーニングが確定できたら、いよいよ救助隊員の出動だ。東京消防庁第三消防方面部隊が、危険地域と汚染地域にそれぞれ人員を配置、人命救助の訓練を実施。もちろん、ロボット班は継続的にレスキューロボットによって周囲の状況を把握し、もし何かあった場合には無線で救助隊員に知らせるように体制を整えている【写真16】【写真17】。

 危険現場に乗り込む救助隊員は、最も安全なレベルAの防護服を着用している。現場で倒れている救命者をタンカーで運び、さらに除染区域内で待機している救助隊員にタンカーをバトンタッチ。また、これと並行して危険物質の回収も行なっていた【写真18】。

 後方ではポンプ車、除汚車、特殊災害対策車、救助車といった4台の消防車両が控えていた【写真19】。ポンプ車は、2トンの水をタンクに蓄積でき、消火栓がない場所でも除染用の給水が可能だ。

 また、特殊災害対策車は放射線レベルの高い危険な場所でも対応できるように、車自体に放射線防護機能を備えているという。車両側面に水を注入し、窓ガラスには鉛板の装丁が可能だ。有毒ガスの現場でも、内部気圧を高めて現場に乗り込める。持ち歩き可能な携帯用測定器なども棚に整然と並ぶ【写真20】。

 一方、肝心の除汚車は合計3つのシャワールームを装備している【写真21】。2つのルームは、自力歩行ができる患者用、動けない重症者用の大きな除染ルームになっている。ここに患者が運びこまれて、除染の処置を行なった後、病院に搬送されるという流れだ。


【写真14】現場周囲の情報を把握し、瓦礫を模した木の山を乗り越えて、危険地域に向かうKOHGA3 【写真15】KOHGA3が、危険地域で人が倒れていることを映像で発見した。あとは救助隊員の出番となる 【写真16】IRS-U(ロボット班)は継続的にロボットによって周囲状況を把握。もし何かあった場合には無線で前線の救助隊員に知らせる

【写真17】ロボットからの映像例。こちらはロボットの周囲を見渡す全方位の映像。AXISのネットワークカメラを利用 【写真18】危険現場に乗り込む救助隊員。最も安全なレベルAの防護服を着用 【写真19】後方で控えている4台の消防車両。ポンプ車(手前右)、除汚車(手前左)、特殊災害対策車(中央)、救助車(奥)

【写真20】待機中の除汚車。ここでシャワーを浴びる。2つのルームは自力歩行ができる患者用(男・女)、もう1つは動けない重症者用で簡易ベッドがあるルームになっている 【写真21】特殊災害対策車。放射能のある場所や有毒ガスの現場にもある程度は対応できるという。携帯用の測定器なども棚に装備

ここまで進展してきた、救助用ロボット開発の現状

【写真22】東北大学の田所諭教授。国際レスキューシステム研究機構会長も務める
 レスキューロボットのデモ終了後には、東北大学の田所諭教授(国際レスキューシステム研究機構会長)が「救助用ロボット開発の現状」をテーマに講演を行なった【写真22】。

 田所教授は、レスキューロボットの目的として、「人間では不可能な作業を可能にすること、あるいは2次災害を防止すること、効率化・自動化がポイント」と指摘。現時点でレスキューロボットに組み込まれている技術や、具体的にどのようなことが可能になってきたのか、「運動性能を高める技術」「遠隔操縦を容易にする技術」「情報収集能力を高める技術」「情報を自律的に収集する技術」という4つのカテゴリーに分けて、数多くの事例を挙げて紹介した。

 まず運動性能を高める技術としては、人間のように速く動けないものの、狭所や危険な場所でも対応できる点がレスキューロボットのメリットとして挙げられる。田所教授は、瓦礫内5cm幅の空間や、排水パイプ、建物内の小穴などから潜り込んで、内部探査が行なえる能動型スコープカメラを開発している【写真23】。全身繊毛で覆われたスコープカメラが、30~40cm間隔で取り付けらたバイブレータの振動によって推進力を得て動く。

 また、振動だけでなく、エアを利用したものもある。東京工業大学の塚越研で考案された、土砂崩れのためのエアジェット推進器がそれだ【写真24】。エアを噴出して土砂に空間を開けながら、埋もれた人を探査することが可能だ。エアジェットを噴出する方向を変えることで、ヘッドの向きを変え、埋没した人の場所まで到達できるという。また同大の広瀬研とIRSが共同開発したヘビ型レスキューロボット「IRS蒼龍」は、倒壊家屋施設において実験を行ない、瓦礫への進入や、壁面のぼりをしている。

 レスキューロボットは狭所だけでなく、大きな段差があるような環境でも対応できる。同じく広瀬研で開発したクローラ型ロボット「HELLIOS VII」は、本体に備えたアームを利用して段差を乗り越えたり、2台のアーム同士を連結させて階段昇降をするなど、段差のある不整地での走破性を向上【写真25】。

 とてもユニークなロボットとしては、東工大の塚越研が開発した「がれき上ジャンプ投てきロボット」もある【写真26】。こちらは地面をジャンプして瓦礫を踏破できる。圧力源にはドライアイスを利用している。前述のレスキュー訓練で登場したKenafも不整地の走破性に優れたロボットで、世界一運動性能が良いという。運動性能面でのレスキューロボット技術は着実に進歩しており、将来的な要素技術に組み込まれていくものと考えられている。


【写真23】東北大学、田所研画開発した能動型繊毛スコープカメラ。繊毛の振動を推進力にする。会場でも本機が展示されていた 【写真24】東京工業大学、塚越研のエアジェット推進器。土砂崩れの際に、エアを噴出して土砂に空間を開けながら埋もれた人を探査する

【写真25】東工大の広瀬研で開発したクローラ型ロボット「HELLIOS VII」。本体アームを利用して段差を乗り越えたり、2台のアーム同士を連結させて階段の昇降が可能 【写真26】東工大塚越研のユニークな「がれき上ジャンプ投てきロボット」。圧力源にはドライアイスを利用。ドライアイスの3重点を利用すると、外部から加熱しても、気体を外部に出しても、固液の比率が変化するだけで圧力は変化せず、安定した気体が放出される

 次に田所教授は、遠隔操縦を容易にする技術についても紹介した。視覚的なアプローチを考えた場合、ロボットを見ながら、あるいはロボットに搭載されたカメラだけを利用して、オペレータが遠隔操縦することは難しい。オペレータがロボットの周囲状況を認知できないことに加えて、ロボットに何をして欲しいか、その動きを十分に指令できない点に原因がある。そこでオペレータに分かりやすく周囲の状況を把握させるセンシング能力や、ロボット自体である程度は知能化し、半自律性を高めていく必要があるという。

 たとえば電気通信大学の松野研では、鳥瞰画像によって遠隔操縦をサポートする技術を開発【写真27】。これは、ロボットのカメラ上の過去映像を止めておき、現時点で進んでいる映像を映し込んで仮想的な鳥瞰画像をつくる技術だ。外部の固定カメラからの映像と同じような映像が得られるため、とても遠隔操作がしやすい。

 また、ロボットから送られる映像を見ながら遠隔で操作すると、オペレータが酔ってしまうことがある。映像が揺れないようにする技術も開発されている。カメラに泥やゴミなど付着すれば映像自体も汚れてしまう。こうした映像の汚れを補正する技術もある。

 2次元映像だけでなく、3次元データの利用も考えられている。田所教授らは、ロボットを走行しながら3次元マップを制作し、その位置を推定したり、オペレータの空間認知を支援する操縦インターフェイスとして利用しようと考えているという【写真28】。

 また、前述のヘビ型レスキューロボットの進化版となるハイパー蒼龍IVでは、レーザーレンジファインダやマルチカメラシステム、過去映像による操縦インターフェイスなどをインテグレートした瓦礫内探査システムを搭載。瓦礫の中でも操作をしやすいように工夫を凝らしている【写真29】。ここで利用されているマルチカメラシステムでは、32個の小型携帯用CMOSカメラを利用し、四方から死角のない全方向の映像や両眼ステレオ視が得られる【写真30】。


【写真27】電気通信大学の松野研が開発した、鳥瞰画像によって遠隔操縦をサポートする技術。このような工夫をすることで、オペレータの遠隔操作性がすごく良くなる 【写真28】ロボットを走行しながら3次元マップを制作。ロボットの位置を推定したり、オペレータの空間認知を支援する操縦インターフェイスとして利用

【写真29】ハイパー蒼龍IVに搭載されている瓦礫内探査システム。レーザーレンジファインダやマルチカメラシステム、過去映像による操縦インターフェイスなどをインテグレート 【写真30】瓦礫内探査システムのマルチカメラ。四方から死角のない全方向の映像や、両眼ステレオ視が得られる

 さらに、瓦礫内に深く潜り込んでしまうと、ロボット自体がどこに行ったか分からなくなることがある。その場合に、ロボットの位置を特定できるようにフレキシブルセンサチューブ(FST)をロボットにつなげてモニタリングすることも可能だ【写真31】。これは神戸大学の大須賀研究室で開発されている技術。

 このほか、東北大学ではロボットの運動性能を高めるために、オペレータの操縦スキルをロボット側に埋め込む技術も研究している。ロボットが不整地の凹凸を自律的に判断し、乗り越え動作などをする際には、オペレータが簡単なボタン操作のみで対応できるというものだ【写真32】。

 3番目の情報収集能力を高める技術としては、センサによって人間の能力を超える情報収集を行なう点、無線技術によって地下でも通信できるようにしていく点、さらにデータベースで情報を蓄積し、後から映像やデータを再利用できるようにする点が挙げられるという。人間の能力を超える情報収集の例としては、湘南工科大の秋山研が、地中に埋もれた人命を探知するUWBレーダーを用いた技術を研究中【写真33】。


【写真31】神戸大学の大須賀研究室で開発されているフレキシブルセンサチューブ。瓦礫内に深く潜り込んだロボットの位置を特定できる。これも瓦礫内探査システムとしてインテグレートされている 【写真32】田所教授が研究している、オペレータの操縦スキルをロボット側に埋め込む技術。多数の関節があるようなロボットでは、簡易な制御方法が求められる 【写真33】地中に埋もれた人命を探知するUWBレーダーを用いた技術。湘南工科大の秋山研で開発

 また、筑波大学の坪内研では、カメラの先に小型レーザースキャナを付けて、瓦礫内空間での形状を計測する方法を開発【写真34】。壁までの距離、瓦礫内での空間状況も分かるという。無線技術によるネットワーク利用の観点からは、IRSらがロボットでアドホックネットワークを構築する研究を推進している。ロボットによって無線ルータを地下鉄などに設置し、ネットワークを拡張する技術だ【写真35】。

 レスキューロボットによって収集されたさまざまな情報を、1つのデータベースにまとめて活用しようという構想もある。それが大大特プロジェクト(大都市大震災軽減化特別プロジェクト)によるデータ統合の推進だ【写真36】。このデータベースは、「MISP」と呼ばれる災害情報伝送プロトコルによって、ネットワークを介してアクセスできるようになっている。地理情報システム(GIS)を利用し、センサ情報と位置情報を紐付けたり、ネットを介してロボットからのさまざまなデータを蓄積したり、蓄えられたデータを災害対策の専門家によって分析してもらうことが可能になる。


【写真34】筑波大学の坪内研による、瓦礫内空間での形状を計測技術。小型レーザースキャナをカメラの先に付けて、壁までどのくらいの距離など、瓦礫内での空間の状況も把握できる 【写真35】IRSによる、アドホックネットワークを構築する研究。被災地では通信が不能になっているケースも想定される。ロボットがアドホックルータを設置していく 【写真36】大大特プロジェクトによるデータ統合の技術。レスキューロボットによって収集されたさまざまな情報を、1つのデータベースにまとめ、活用しようという構想

 情報を自動収集する技術には、上空からの概観情報、あるいは専用機器を使った救助者情報の収集などがある。最近では、3次元の空間制御技術が進展している。京都大学の中西研では、エアロロボットによって3次元地形データの計測などを実施【写真37】。GPS-INS複合航法と高度制御技術を採用し、使いやすいインターフェイスによって操縦も容易に行なえるそうだ【写真38】。千葉大学の野波研でもエアロロボットによる3次元計測とマッピング技術を研究している。GPSによる完全自律の離発着、障害物の検出・回避なども可能だ。

 これらはインテリジェントなヘリコプターがベースになっているが、騒音や滞空時間が限られてしまうという問題もある。そこで気球や飛行船をベースにしたロボットも研究されている。たとえば北海道大学の小野里研では、パンチルトズームカメラを搭載した「InfoBallon-III」という気球ロボットを開発し、実証実験も行なっている【写真39】。また、IRSはケーブルによる気球制御の研究も進めており、上空からの定点観測も実施【写真40】【動画6】【動画7】。気球の場合は風に対する影響が出るため、ケーブルの長さを変化させて、風に対する安定化制御を行なう。

 このほかホームネットワークを活用して、自動的に情報を収集する技術も進展しているという。同様に、大大特プロジェクトの中で進められてきた研究で、家電製品や生活支援ロボットなどから、収集した人の情報を集めるレスキューコミュニケータが理化学研究所で開発されている【写真41】。これは外部との通信を仲介するゲートウェイ機能を持つ親機と、各部屋用のセンサを搭載した子機で構成されている。親機には部屋のマップや子機の位置、救助補助情報(住所、家族構成など)などが事前情報として登録されている。

 平常時はブロードバンドルータとして動作するが、地震災害発生を検知する機能があり、災害発生時に災害対策機関からインターネット経由で非常信号が送られ、音声などで被災者に伝えたり、逆に部屋に取り残された要救助者の情報を収集したりと、レスキューコミュニケータが人命検索用デバイスとして機能する。もし広域ネットワークが寸断されても、各家庭をアドホックネットワークで結ぶことが可能だ。


【写真37】京都大学の中西研で開発しているエアロロボット。ヘリコプターをベースにした自律ロボットで、3次元の地形データの計測などを実施 【写真38】コックピットを模した使いやすいインターフェイスによって、オペレータの操縦も容易に行なえる 【写真39】北海道大学の小野里研で開発している気球ロボット「InfoBallon-III」。パンチルトズームカメラを搭載

【写真40】ケーブルによる気球制御。ケーブルを変化させ、風に対する安定を確保し、上空から定点観測を行なう 【動画6】山古志村での気球制御の実証実験のひとこま。ケーブルを利用して、風に対する影響を制御する

【動画7】センサから送られてきた上空からの映像。災害現場の状況をモニタリングするには十分な情報量だろう 【写真41】理化学研究所で開発されているレスキューコミュニケータ。災害時に、電化製品や生活支援ロボットなどから収集した人の情報を集める

 田所教授は「このようなレスキューロボットが実用化するには、実際に救助者のプロが使ってみることが重要。最初はあまり役に立たなくても、問題点を改善していくうちに便利な道具になるはず。また、購入できないものは広がらないので、メーカーが製品化して買えるようにすることも大切」と述べた。最後に教授は、「IRS-Uの活動などを通じて、日本発の高度資機材を開発し、世界の救助のために貢献できるようにしたい。米国が世界の警察であるならば、日本は“世界の消防署”になるべき」として講演を終えた。


ユニークなレスキューロボットの展示とデモも

 会場となった電気通信大学では、レスキューロボットやレスキュー関連資器材などの展示コーナーも設けられていた。電通大の松野研究室は、今回のデモで活躍したKOHGAの1号機や、ねじ推進ヘビ形ロボット「ねじヘビ2」、「モジュラーロボット」(名称未定)を展示。

 KOHGA1号機は、8つのユニットで構成されているヘビ型レスキューロボットだ【写真42】【動画8】。先頭追従制御モードによって、オペレータがヘッド部に前後左右の指令を送るだけで、残りの後続ユニットが軌跡を追従しながら動く。前後対称の形態になっており、ロボットの両端いずれにもカメラを搭載。前後対称のため、狭所に入り込んでもバックで戻ることも容易だ。また、尾を持ち上げて「さそり」のような形態をとれる【写真43】。

 後ろにあるカメラで高所から見渡した画像をオペレータに提示できるため、遠隔操作性にも優れている。それぞれのユニットには角度検出用のポテンショメータが付いており、ユニット同士の動きや角度を、PC上でモニタリングできる点も特徴の1つだという【写真44】。

 一方、ねじヘビ2は、「ねじ推進ユニット」と呼ばれる機構要素を結合させ、全方向移動や旋回など、さまざまな推進を可能にしたユニークなロボット【写真45】【動画9】。ねじ推進ユニットには、右に回転するユニットと、左に回転するユニットがある。これを2個ずつ、合計4つのねじ推進ユニットを「左-右-左-右」の順に直列に組み合わせて利用する。

 もしロボットをまっすぐに走行させたい場合には、左-右のユニットの回転速度を同じにすれば、推進力の合力が直線方向に向くことになる。ねじ蛇2では、ねじ推進ユニット間に2自由度関節が新しく導入された。この関節の屈曲によって、円軌道やクランクなどに沿った移動が可能になった。また、前述のKOHGAに実装されている先頭追従制御モードも取り入れ、簡便な操作で細長い空間内での移動を可能にしている。


【写真42】8つのユニットで構成されているヘビ型レスキューロボット「KOHGA1号機」。前後対称で、ロボットのヘッドと最後尾にカメラを搭載。狭所に入り込んでも、そのままバックで戻れる 【動画8】先頭追従制御モードによって、ヘッド部に指令を送るだけで、後続ユニットが軌跡を追従しながら動く 【写真43】尾を持ち上げて「さそり」のような形態をとる。後のカメラで見渡した画像をオペレータに提示できるため、遠隔操作性にも優れる

【写真44】ノートPC上で、ユニット同士の動きや角度をPC上でモニタリングできる 【写真45】ねじ推進型ユニット。右ねじ、左ねじの2タイプがあり、これを左-右-左-右の順に直列に組み合わせてロボットを構成 【動画9】ユニークなねじ推進型のロボット「ねじヘビ2」。関節の屈曲によって、円軌道やクランクなどに沿った移動が可能だ

 大型ロボットを被災地に送り込んだ場合には、ロボット自身が二次災害を引き起こしてしまう危険性が伴う。レスキューロボットは小型・軽量であることが望ましい。しかし、その一方でロボットが小さいと走破能力が低くなってしまうという問題点もある。これらの問題を解決する目的で開発されたのがモジュラーロボットだ。

 このロボットは、1ユニットにつき3本の脚で構成される【動画10】。1ユニットで走破が困難な場所では、複数のユニットが結合・協力して障害を乗り越える。その後、再びユニットを分離することも可能だ。状況に合わせて最適な形状をとり、不整地を走破するというコンセプトで作られている。

 東北大学は、前述の講演で紹介していた狭所探索用能動スコープカメラを展示していた【動画11】【写真46】。またガデリウス株式会社は、患者を病院に搬送する前に、災害現場で除染することが可能な「ファスタンク緊急除染システム」【写真47】を出展していた。


【動画10】現場の状況に応じて、1ユニット3本の脚から成るモジュラーを組み合わせ、さまざまな走行と走破性能を発揮できる 【動画11】東北大学で開発している狭所探索用の能動スコープカメラ。一見するとヘビのようなロボットだが、全身が繊毛で覆われており、30~40cm間隔で取り付けらた振動機構によって、繊毛が振動して推力を発生する仕組み

【写真46】ヘッド部にカメラが搭載されており、専用の携帯型モニター映像を基に狭所を探索できる 【写真47】ガデリウスの「ファスタンク緊急除染システム」。NBC災害で汚染された患者を除染するためのシステム

URL
  IRS
  http://www.rescuesystem.org/
  東北大学 田所研究室
  http://www.rm.is.tohoku.ac.jp/
  電気通信大学 松野研究室
  http://www.hi.mce.uec.ac.jp/matsuno-lab/index.html

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( 井上猛雄 )
2007/10/12 13:30

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