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シリコンバレーのベンチャー企業、「エニーボッツ社」CEOインタビュー
~CESで公開されたテレプレゼンス・ロボット「QA」とは?

Reported by 影木准子

エニーボッツの面々、QAの隣に立っているのがブラックウェルCEO
 シリコンバレーのベンチャー企業、エニーボッツ社は、このほど米ラスベガスで開催されたコンシューマエレクトロニクス展示会「2009 International CES」で、人間と同等サイズの新しい遠隔操作型ロボット「QA」を発表した。人間の代わりに工場の点検をしたり、離れた場所にいる人とのコミュニケーションに役立つことを目的としたロボットで、同社では「テレプレゼンス・ロボット」と呼んでいる。

 同社の創業者で最高経営責任者(CEO)のトレバー・ブラックウェル氏は、米ハーバード大学でコンピューター・サイエンスの博士号を取得し、インターネット業界で大きな成功を収めた後にロボットの世界に入り込んだという異色の経歴の持ち主。同氏に新ロボットの特徴や開発の経緯について聞いた。



――QAはどんなロボットか。

 【ブラックウェル氏】QAはエニーボッツが開発した3番目のロボットで、当社の初製品だ。離れた場所にいる人とコミュニケーションをとるためのテレプレゼンス・ロボットだが、車輪に乗った移動型テレビ会議システムと考えても良い。相手がテレビ会議室に腰をすえるのを待つことなく、パソコンとネットワークを通じて自分でロボットを操作し、社内や工場内を動き回ることができる。最高時速10kmで移動可能だ。

 5メガピクセルのカメラ2台とマイクを搭載しており、高品質のビデオと音声で双方向にやり取りできる。QAの胸の液晶画面にはオペレーターの写真や映像といった好きなものが映し出せる。足元にはLIDAR(ライダー、Light Detection and Ranging)があり、まだ完成していないが、障害物を検出できるナビゲーションシステムを搭載する考えだ。

 技術的におもしろいのは、QAの首に設置されたレーザーポインターで、物を指し示すことができるようにした点だ。オペレーターはパソコン画面上で、QAのカメラがとらえた映像内の任意の場所をクリックすると、リアルな世界でもそれと全く同じ場所にレーザー光が当たる仕組みを開発した。遠隔地にいる相手に対して注意が必要な場所などを正確に指し示せることは、コミュニケーションをとる上で非常に役立つはずだ。


【動画】ブラックウェル氏の後について移動するQA 【動画】たまたま隣のオフィスを訪れていた人々に近づき会話するQA。オペレーターは同じ建物の別の部屋にいる 【動画】部屋から外にでていくQA

グループと対話するQA QAの胸の液晶画面にはオペレーターの様子などを映し出すことが可能だ

首にカメラとレーザー・ポインターが設置されている 頭の後ろにもう1台のカメラがあり背後の映像も撮れる レーザー光は点だけでなく図形で囲うこともできる

――QAの映像を見て、セグウェイのような移動方式を使っているのではないかという声が聞かれたが。

 【ブラックウェル氏】私はセグウェイの方式をよく知らないので比較することができないが、QAには我々独自の自律バランス型スクーターの技術を使っている。私は2年前にこの方式を公開したが、今回、それをさらに改良した新しいバランスシステムをQAに搭載した。


【動画】隣のオフィスからエニーボッツの実験室に戻ってきたQA 【動画】QAはしばらく使われないと自ら座って休息し、また自分で立ち上がることもできる。ただ立ち上がる時に後ろに暴走しないよう改良が必要なようだった

QAは軽くてスマート

――QAの開発で最も難しかった点は何か。

 【ブラックウェル氏】自己完結型で軽量、信頼性のあるシステムにすることだ。QAの身長は152cmだが、体重は25kgしかない。万が一、人間が足を踏まれても軽いので問題ないだろう。我々はこれまで研究用ロボットの開発に取り組んできたので、研究室内で動けば問題なかった。でもQAはこれから商品として出荷していくので、誰がどこで使ってもうまく機能し、安全でなければならない。

 QAの開発に着手したのは2008年7月で、約半年間で開発した。バランスやビデオのシステムなど、それまで取り組んでいたロボットの開発成果をある程度使えたからだ。今後、一部のユーザーとベータ・テストを行なうが、最終製品にするためにナビゲーションシステムとインターフェイスを改善する予定だ。


――QAに使われているさまざまな新技術は特許を申請しているのか。また各要素技術を他社にライセンス供与する考えはあるのか。

 【ブラックウェル氏】特許は申請しているが、まだ公開されていないので具体的には語れない。他社にライセンス供与する考えは今のところない。


――QAの発売時期と価格は。

 【ブラックウェル氏】今年の9月に出荷を開始し、価格は3万ドル程度になる予定だ。最初は近隣の顧客向けになるだろう。日本でもぜひ販売したいところだが、具体的にはまだ分からない。日本市場に関心があるのは、日本人は米国人に比べてロボットに対する恐怖心がないようだからだ。米国だとすぐにロボットが人類を征服するといった話になりがちで、日本のほうがロボットに対する考え方が健康的だ。

 QAを販売するための最大の課題は、操作方法をどこまで簡単にできるかだ。QAの利用者は出張する時間を節約するために購入するわけで、そういったユーザーが複雑なロボットの運転方法を学ぶのに時間を費やしたいはずがない。だから我々は操作をできるだけ簡単・明白にし、細部は自律制御できるように最も時間と労力を割いている。


――CESでの反響はどうだったか。

 【ブラックウェル氏】さまざまなアプリケーションを持つ潜在顧客に多数会うことができた。世界各地に社員が散らばる企業の管理職で、頻繁に出張しないでも現地社員とコミュニケーションをはかるのに利用したいという例は我々も想定していた。一方、我々が考えていなかったアプリケーションの話もいろいろあった。例えばCESのような見本市で、現地に赴かなくても会場をまわり、出展者と対話できるようになれば便利だという話があった。また、化学工場の点検など、これまで人間が行なってきた危険な作業を、できればロボットに置き換えたいという例がいくつかあった。手は使わないが、危険な作業だ。


――QAに腕を付ける予定は。

 【ブラックウェル氏】実はQAは、より大型で腕のあるロボット「Monty(モンティー)」から進化したロボット。モンティーから腕を取り除いてシンプルにしたのがQAだ。まずはシンプルだけど役立つ機能からスタートし、徐々に新しい機能を加えて行きたい。


QAは人間が手を後ろで組んでいる姿をイメージしてデザインしたという(写真提供:エニーボッツ社) ウェストが細いため、女性的な印象を受ける QAのもととなった腕のあるロボット「モンティー」(写真提供:エニーボッツ社)。ビデオ「Monty does the dishes」ではモンティーが自動食器洗い機に食器を入れる作業を見ることができる

今までにない二足歩行型ロボットを開発

――エニーボッツ社を創業した理由は。

 【ブラックウェル氏】2001年になっても身の回りの役に立つロボットが実現していないのはおかしいと思い、同年に創業した。そのころ、米国で(民生利用の)役立つロボットの開発に携わっている人はごく少人数で、良い研究はすべて日本と韓国で行なわれていた。だからこそ、米国で研究開発したいと思った。

 私は学生時代にデータ・ネットワークを専攻しており、ロボットの勉強をしていない。だから私にとっては新しいキャリアだ。最初の1~2年は多数の文献を読むのに費やし、大学院に戻ったような気持ちだった。

 そして何を最初に作るか考えた結果、ロボットの分野では歩行が最もおもしろい未解決の問題だと思った。もちろんすでに世の中には二足歩行型のロボットがお目見えしていたのだが、どれも実世界では実用的でないと感じた。だから歩くロボットを作ることにした。歩かせ方についてだが、いくつもの教科書がアクチュエータの解説で、電気モーターと油圧アクチュエータに多くのページ数を費やす反面、空気力学についてはほとんど触れずに「おそらくできないだろう」と書いてあった。だから私は空気圧を使って歩かせることに挑戦することにした。そして2001年の暮れには、空気圧シリンダーを使った二足歩行型ロボット「Dexter(デクスター)」の原型が出来上がった。


――デクスターを歩かせるのに何年かかったのか。

 【ブラックウェル氏】本当に歩けるようになるまでには5年半かかった。最初の2年は私1人で開発していたのだが、その後、機械工学の専門家であるスコット(ワイリー副社長)に仲間に入ってもらって開発に拍車が掛かった。今の社員数は4人だ(ビデオ「Dexter learns to Walk」は2年前に初めてデクスターを世間に公開したときの映像。「Dexter 3.3 Walks」は2008年初旬の撮影)。


――そして次に腕のあるモンティーの開発に取り組むことにした。

 【ブラックウェル氏】そうだ。私のビジョンは常に、腕も足もある完全なヒューマノイドの開発だった。だからアームと手の開発にも取り組みたかった。しかし足がまだ実験段階で、デクスターに腕を付けるのは心配だった。だからもっと安定した車輪型ロボットを作ることにした。


――デクスターとモンティーの開発は続けるのか。

 【ブラックウェル氏】これから数カ月はQAにフォーカスする。でも他のロボットを忘れたわけではない。最終的にはデクスターが屋外で命綱なしに歩けるデモを行ないたい。昨年夏の終わりころにはそのゴールに近づいていたのだが、QAの開発に着手して横道にそれた。

 モンティーに関しては現状でかなり満足している。没入型でアームを遠隔操作するという意味ではかなりうまく機能する。それでも細かい作業はできないし、力のある人間に比べたら力が弱いが、この実験は成功したと考えている。でもモンティーのような大きくて高価なロボットは市場化が難しい。だからQAを開発することにした。


インターネットの世界での経験をロボットに持ち込む

――あなたはロボットの分野ではいわば新参者だ。あなたの目から見てロボット業界の現状はどうか。

 【ブラックウェル氏】現状はとても良いと思う。今から10~15年前に行なわれていた研究内容を読むと、みんな部品や計算処理能力の欠如に阻まれていた。現在はロボットの開発に取り組む絶好の機会だと思う。高性能のジャイロスコープや小型モーターも簡単に買えるし、コンピューターの能力もおもしろいロボットを実現するのに十分になった。


――ロボットのハードの進歩は目覚しいが、知能の部分の開発が遅れているという意見もある。

 【ブラックウェル氏】ソフトの開発が遅れているという見方には私も同感だ。ロボットを作るのに必要なソフトの書き方をだれもまだ解明していないからだ。私はこの数年間、この点について考えてきて、いくつか答えを見つけ出した。

 私はインターネットのバックグラウンドを持つからだろうが、私の書いたコードは他のロボット研究ソフトとかなり違っていると思う(記者注:ブラックウェル氏が中心となって開発した電子商取引システムはYahoo!のオンラインショッピングモールの土台となった)。私はネット検索技術の開発に携わっていたので、ネット規模の莫大な量のデータが持つ威力を認識している。膨大なデータの中からその都度、必要なものを検索する能力というのは、しばしば非常に巧妙なアルゴリズムを事前に定めておくことよりも役立つのだ。

 この考え方が私の歩くロボットの開発に影響を与えている。ロボットが過去に歩いた歩き方のデータをすべて巨大なデータベースに蓄積しておき、それをリアルタイムで検索してその場その場で最適の歩き方を再現するのだ。転倒した時の歩行データもすべて蓄積しておく。こうした手法は、あらゆる問題に対応できるような巧妙なアルゴリズムを見出そうという従来の開発手法とは異なる。


――エニーボッツの長期的ゴールは何か。

 【ブラックウェル氏】ロボットを徐々に自立させることだ。最初から完全自律制御のロボットを開発しようというアプローチは難しい。だから最初は常に人間が遠隔制御するロボットからスタートし、そのうち半分の時間は人間がいなくても大丈夫なようにソフトを開発する。そして徐々に自律部分を増やして行きたい。


URL
  エニーボッツ
  http://anybots.com/
  2009 International CES
  http://biz.knt.co.jp/pm/ces/


2009/01/29 20:11

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