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汎用的AIをロボットに搭載、中国の大学と共同研究
~米ベンチャーのノバメンテ社CEOインタビュー

Reported by 影木准子

シリコンバレーのコンピュータ歴史博物館でインタビューに応じたノバメンテのガーツェルCEO
 米メリーランド州に本社を置くベンチャー企業のNOVAMENTE(ノバメンテ)は、人間と同等の、あるいはいずれ人間を超える知力を持ったAI(人工知能)の開発を目指している。この長期的なゴールに到達する過程で、さまざまなソフト製品の事業化を計画しており、中でも期待を寄せているのがロボットの分野。このほど中国の厦門(アモイ)大学と共同で、同社のソフトをヒューマノイド・ロボットに搭載する研究プロジェクトが始動し、これを機に世界各国のロボット向けにソフトを売り込みたい考えだ。同社の創業者で最高経営責任者(CEO)のベン・ガーツェル氏にインタビューした。





――ノバメンテはどのような会社か。

 人間と等しい、もしくは人間よりも賢いAIを開発するという長期的なゴールを持って2001年に創業した会社だ。従来のように個々の狭い領域で役立つAIではなく、幅広いタスクに対応できる汎用的なAIで、我々はこれを「Artificial General Intelligence (AGI)」と呼んでいる。AGIの土台となる当社のシステムが「Novamente Cognition Engine(NCE)」だ。

 現在の社員数は約20人で、私の住むメリーランド周辺と欧州、ブラジルに技術者が散らばっている。このうちゴールである「thinking machine」(思考機械)の開発に取り組んでいるのは3~4人。残りは米国政府や企業など各顧客向けに、自然言語処理やデータマイニング、金融データ解析といった分野に従来型のAIを活用するためのコンサルティング業務を行なってきた。つまり、コンサルティング業務で得た利益を使って、最終的な目的である思考機械を作っているのだ。ただ、今はコンサルタント会社から製品を売る会社に移行しようとしている真っ最中だ。


――それはどんな製品か。

 ゲームのキャラクターにAIの機能を与えるミドルウエア製品だ。このミドルウエアをゲーム・エンジンのバックエンドにつなげば、ゲームの中のキャラクターが新しい状況を学習できるようになる。仮想ペットに芸を教えたり赤ん坊を育てるゲームなどに使える。すでに必要なAI技術とプロトタイプはできているが、さまざまなゲーム・エンジンと簡単に統合できるようにパッケージ化しなければならない。2009年の秋には発売できる見込みだ。その後は、製品販売の利益を思考機械の開発に使いたい。


――それとは別に、開発中のNCEをヒューマノイド・ロボットに搭載する計画があると聞いたが、具体的には。

 中国の厦門大学の研究室と共同で、NCEを「Nao」(フランスのアルデバラン・ロボティクス社製ヒューマノイド)に載せるプロジェクトを始めた。オーストラリア出身のAI研究者、ヒューゴ・デギャリス(Hugo de Garis)教授(1993~1999年に日本の国際電気通信基礎技術研究所に在籍)の研究室だ。歩行や手の動き、画像処理など知覚(perception)と動作制御の部分を学生らが担当し、我々が認識力(cognition)を提供する。

 このプロジェクトは4年計画で、4年後のゴールは英語と中国語の両方で人間とコミュニケーションができ、模倣と強化学習を通じて簡単なタスクを実行できるロボットの開発だ。例えば、1人の人間がボールを投げて、もう1人がそれを取りに行く遊びをロボットに見せて、その遊びができるようになるロボットだ。遊び方を事前にプログラミングするのではなく、見せることによって教える。すでにこうしたことは仮想世界ではできるようになった。実世界で実現するためにはもちろん多くの問題があり、それらを解決して行きたい。

 問題は例えば知覚の部分で、物体認識は比較的よく理解されているが、動作の認識がまだ難しい。ロボットは人間の動きの中から必要な部分だけを抽出して、人間の体とは異なる自身の腕や足の動きに変換できなければならない。また水の入ったコップを持ち上げるという動作なら、ロボットは「こぼす」という概念をある程度理解していなければならないし、こぼれないように視覚と手の協調関係を築く必要がある。目と手の連動、手と足の連動といったことは認識力を要求するので、NCEを利用することになる。


――日本にはユーザーの行動をまねることによって家事ができるようになるロボット「まるいち」というマンガがあるが、4年後には「まるいち」のようなロボットが実現するということか。

 Naoの現在の価格は1万ユーロ(約120万円)だ。また、Naoはその頭脳となるかなり強力なコンピュータのクラスターに無線LANで結ばれ、コンピュータのハードの価格も1万ユーロくらいする。例え我々のやり方が正しくて4年後に知的なロボットが実現したとしても、すぐに家庭に受け入れられるようなものではない。製品化には、それからさらに5年はかかるだろう。もちろん製品化に必要な技術がどんなペースで進歩するかを予測するのは難しいが。


――厦門大学との共同プロジェクト以外に、ロボットの分野でNCEを使う話はあるか。

 ヒューマノイド・ロボットの研究開発に取り組んでいる企業2社と話し合いをしている。日本企業が1社、韓国企業が1社だ。どちらもヒューマノイドを近い将来、商品化する計画はないようで、研究プロジェクトとして取り組んでいるところだ。まだ話し合いを始めたばかりだが、この分野は有望だと考えている。

 ヒューマノイドを作っている会社と話し合いをして強く感じるのは、ロボットの認識力と学習について、ほとんど目を向けて来ていないということだ。それは、ロボットを歩かせたり、何かをつかませたり、物体を認識させたりすること自体が非常に難しい問題で、ロボットの学習や思考にフォーカスする余裕がないからだろう。だからこそ、我々はヒューマノイドの研究開発に欠けている部分を、NCEによって提供できると期待している。


――仮想世界がAIにとって適したトレーニング場になるという考えを持つと読んだ。

 長い間、AIのコミュニティは分裂している。AIの開発にはロボットのように身体性が重要であるという見方と、そうではなく体がなくても自然言語でチャットができるようなAIは可能だという見方だ。私は常々、どちらの考え方も誇張され過ぎていると感じてきた。思考機械の開発にはロボットの体は必要だとは思わないが、あれば便利であり大いに活用できる。特に、人間の頭脳をモデルにしたAIを開発するのであればなおさらだ。AIが人間の頭脳と同じである必要があるかどうかは別問題だが。

 ただ、ロボットの研究をしていると、知覚と作動にあまりにも時間を費やさなければならず、いつまでたっても認識力の部分に手を付けられない。仮想世界が興味深いのは、知覚や作動といったロボティクスの「コスト」の部分がほとんど無料になるからだ。仮想世界の中でロボットは動き回り、他と相互作用し、認識して行動できる。コストを無視してロボットの身体性の利点を享受できる。ただ最近は仮想世界もバラ色ではなく、弱点があることが分かってきた。


10月に開催されたSingularity Summitで講演するガーツェル氏
――その弱点とは。

 現在の仮想世界では、ロボットが何か物体を持ち上げようとした時、ロボットの3次元モデルのソケットと物体のソケットがつながるだけだ。物体の質量や、強い風が吹いているかどうかなど関係ない。だから(仮想世界が本当にAIのトレーニング場になるためには)、「Player/Stage」のようなロボットシミュレータを統合する必要があるのだ。「Player/Stage」はオープンソースのシミュレータで、ロボットと物体の間のインタラクションを仲介する物理エンジンを含む。「Open Sim」(オープンソースの仮想世界)をよく研究してみたが、こうしたシミュレータを統合することはそんなに難しくないはずだ。2人の技術者が1年間かけるくらいのプログラミングは必要だが、商取引システムを開発する作業などに比べればたいしたことではない。ただ、うちのような小さな会社で手掛けるのは無理なので、誰かがやってくれないかとオープンソースのコミュニティにこのアイデアを触れ回っている。


――だれがこの問題を解決するインセンティブを持つだろうか。

 ロボットを作っている会社がやるべきだ。例えばホンダがバーチャルなASIMOを仮想世界に導入したとしよう。バーチャルASIMOは仮想世界の中で大勢の人々とかかわることを通じて学習することが可能になる。ゲーム会社もこういったことに関心があるだろう。着用型のコントローラーで、アバターに自分と同じような動きをさせるようなゲームでは必要になるからだ。もっとも、大手ゲーム会社が専有のエンジンを作っても、私たちが使えなければ仕方ない。


――NCEをオープンソースで公開する「OpenCog」を始めた。どこまでオープンにしているのか。

 ノバメンテはゲーム会社にAIを売ろうとしている。ゲーム会社はできるだけ少数のコンピュータ上で多数の頭脳(mind)を稼動する必要があり、その部分の仕掛けと技術は当社専有でオープンにしていない。特許も申請している。一方、思考機械を作るのならば、大きな頭脳を1つだけ作れば良く、その部分をすべて公開して、オープンソース・コミュニティの力を借りながら思考機械を1日でも早く実現させたい。


――思考機械はいつ完成するか。

 我々が政府やベンチャーキャピタルなどから十分な資金提供を受けることができれば、5~10年後には4、5歳の人間の子供のレベルで機能するシステムが開発できるだろう。今のような自給自足のスローなペースのままだと15~20年はかかると見ている。実現するためのアイデアとデザインは整っているので、あとはどれだけ資金を得て何人の技術者を雇えるかにかかっている。


URL
  NOVAMENTE
  http://www.novamente.net/

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2008/12/08 11:29

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