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人間型ロボットの操縦とは?
~等身大ヒト型ロボットを操縦し続けてきた川崎重工業・蓮沼仁志氏インタビュー

Reported by 森山和道

川崎重工業 技術開発本部 システム技術開発センター 主事 蓮沼仁志氏
 HRPシリーズはこれまでもずっと人型ロボットの遠隔操縦に挑戦してきた。もともとHRPは「人間協調・共存型ロボットシステムの研究開発(Humanoid Robotics Project)」として1998年度から5カ年計画で始まったものだ。

 ホンダのP3を改造した「HRP-1S」はロボットだけではなく、ロボットが乗り込む形でさらに小型ショベルカーを操縦した。そして今回、基盤技術研究促進事業の一環として開発された「HRP-3」では、電動ドライバーでナットを締めた。デモは行なわなかったが、障害物を乗り越えたり、重さ3kg程度のものを抱えて歩行で運搬するといったことも操縦で行なっているという。

 HRP前期には、東京大学、松下電工株式会社、川崎重工株式会社の3社により、半天周スクリーンや浮動イス、力覚ディスプレイ、音声入力そのほかをフルセットで備えた「スーパーコックピット」が開発された。急ごしらえではあったもののその姿は多くの人のイマジネーションを刺激し、ロボット業界を超えて話題を呼んだ。

 その後、スーパーコックピットは裸眼立体視ディスプレイを採用したミニマムコックピットへと改良された。現在の操縦コックピットの開発は、川崎重工業株式会社が継続して行なっている。


HRP-3 Promet Mk-II
 人型ロボットは多自由度のロボットである。HRP-3の場合、全身で42自由度、腕から手先だけでも13自由度ある。この各関節角度や速度を全て指定していたらとても操縦はできない。HRP-3は「自律・遠隔ハイブリッド型全身動作制御技術」によって、例えば視野に映ったコップを取りたいと思ったときには、手先を移動させれば、残りの関節は脚部も含めて自動的にロボットのバランスを取りつつ腕を伸ばすために回転するようになっている。

 これまで、少なくとも記者会見でのデモの操縦は、いつも同じ人が担当してきた。川崎重工業 技術開発本部 システム技術開発センター 主事の蓮沼仁志氏である。もともと学生時代にもアーム型のマスタースレーブを研究していたが、会社でそれをやり続けたいと思っていたわけではなく、マイクロマシンの研究などにも携わったのち、回り回って今日に至っているのだという。

 多自由度を持ち、実際に作業を行なうことが求められる人間大ヒューマノイドの操縦はどのように行なうのか。「もちろん私だけがやっているわけではありません。メカや電装系の人たちもいる。彼らの協力があってこそ、やり続けられたわけです」と強調する蓮沼氏に話を聞いた。


――もしかして、蓮沼さんしか操縦できないんじゃないですか。

【蓮沼】そんなことはありません。基本的にどこをどう動かすかだけなので、操縦は誰でもできることです。

――そうですか。では質問ですが、多自由度を動かすヒューマノイドはどうやって動かすのでしょうか。基本的にはいくつかの自由度をまとめて、減らしていく作業になると思いますが……。

【蓮沼】そうですね。最初のHRP-1をやったときには、上半身のエグゾスケルトン型のマスターアームでした。人が動かしたらそのまま動くというものです。

――「スーパーコックピット」と呼ばれていたものですね。非常に大きな操縦装置でした。

【蓮沼】そうです。問題は、あれを実用的に動かすためにはどうすればいいか。ロボットは下半身もありますから、われわれが両手を使って動かそうと思っても、片腕でたかだか6自由度です。縦、横、高さと、それぞれの回転ですね。せいぜい両手を合わせても12自由度。それでいちいち全身を支持して動かせるかというと、それは難しいと思うんです。


ホンダの「P3」をベースに開発された「HRP-1」 HRP-1で導入された「スーパーコックピット」 半天周スクリーンを備える

 そこで考えたのは、意識して動かしたいところは人が動かすこと。たとえば何かものを掴みたいと思ったとします。われわれは手が届きにくかったら手を伸ばしたり、体をかがめたりします。あるいは机の奥にあって手が届きにくかったら机の上に手をついてバランスを取りながら手を伸ばしたりします。そういう無意識にやっている部分をロボットの自律機能として付け加えてやろうと考えました。そうすることによって、遠隔操作で足らない部分を自律機能で補えば、ロボットの全身動作が生成できるだろうと。

――ええ。

【蓮沼】しかし体の動かし方は非常に多岐にわたります。ちょっと目の前のものを取るにしても、身体を動かすのか片足を出すのかありますね。その体の動かし方を我々の意図だと考えました。ロボットを動かす前に、どういう意図で身体を動かしたいのかということを選択します。

――意図とは?

【蓮沼】届かなかったら、「身体を曲げて良いよ」とするのか、「足を動かしていいよ」とするのか、ということです。

 たとえば、足のすぐ先に溝があったとします。溝があるなと思ったら我々は足は出さないですね。だから溝があるなと思ったら、足を前に出すモードは使わない。その判断は人間が行なう。ロボットが環境を全て認識できるというレベルまでいけば、そこの判断までロボットに任せることができるでしょう。ですがこの研究で想定したのは、まったく未知な環境で、ロボットが環境を認識できないレベルでの、つまり一番ローレベルの遠隔操縦を実現してやろうと考えたんです。

 ただ、動かし方一つとってもいろいろな種類があります。いちいち選ぶのは大変なので、どうしたかというと「何を、どうしたいか」ということに着目しました。たとえば「コップを持ちたい」とします。コップは片手で持てます。両手で持つモードは出てこない。近くのコップであれば、歩くといった動作はメニューに出てこない。「何を」「どうする」ということを選択することで、選べる意図をある程度限定してやって、あとはどういう動かし方をするかをメニューで選ぶわけです。

――何が出てくるか出てこないかは、「先読み辞書」みたいなものがあるわけですか。

【蓮沼】そうですね、作り込まないといけません。

――モードにしても、ものすごい数の組み合わせがありますよね。身体で拘束されているにせよ。それを、どのように絞り込んでいくんですか。

【蓮沼】それはアプリケーションベース、つまり、やる作業から絞り込むんです。どういうものがあるかによって作り込む、どんどん積み重ねていくべきものですね。

――なるほど。現段階ではどんな場所でも動かすわけではないから、あらかじめこのような動作が必要であろうということを作り込んでおくわけですね?


【蓮沼】そうです。「基盤促」のプロジェクトのなかでやったのは、地面は平地または段差が多少あると。そういうところで、未知の環境で重量3kgくらいの荷物を運ぶという作業をターゲット作業として、それが実現できる全身動作を全て考えて、選べるようにしたわけです。

――身体動作のモードは、今回のプロジェクトの範囲の実験だと、何種類に渡るんでしょうか。

【蓮沼】具体的に数えたことはないですが、腕の動かし方、腰や上半身の動かし方、頭の動かし方が、それぞれ何種類かあるんです。それのかけ算になってきます。数十種類までは実現しています。簡単にやるだけで、100は超えてしまいます。また、モードの分け方にもよるんですが、「速く歩く」とか「ゆっくり歩く」とかまで含めると、もっと数は増えてしまいます。

 要は、我々の体の動かし方をどう考えるか。ヒューマノイドであることのメリットは人型をしていますから、「ものをとりたい」といったときに、その自律機能をどう考えるかとなったとき、実際にそこのものをとってみてと人に言うか、自分で実際にやってみることができるんです。そうすると、こんなふうに身体を動かしているんだ、とすぐに分かります。一つ一つ見ていく。

 横で観察すれば、人の動きをそのまま使えるようになります。もちろんロボットの性能もありますから制御パラメータをどうすべきかという問題はあります。ですが、どういう動かし方をするかということは、人型であるが故に考えやすいという面はありました。

――HRPの場合だと、絶対に関節が逆に曲がったりはしませんしね。


【蓮沼】そうですね。逆にもしそういうロボットであれば、そういう動きができるからということで、そこを想像しながら、この制御の仕方を適用することは可能だと思います。

――実際にそれを操縦系に落とし込んでいくというのはどうやっていくんですか。これまでの発展も含めて教えてもらえますか。

【蓮沼】HRP-1と1Sの時代は、エグゾスケルトン型で、人の上半身だけでした。それだと歩くときはまた別の操縦装置に切り替えないといけませんでした。

――あのときは没入感を重視していたので、座面も動いてましたね。実際に歩いているなという感覚はあったんですか。

【蓮沼】そうですね。あれはどちらかというと、臨場感と、誰がやってもできるということを重視していたんです。

 あれは実際に「歩いているなあ」という感じがありました。目をつぶっていると、お尻が上下に突き上げられているだけなんですが、目を開けて絵が動きながらだと、つまり加速感があると「歩いているな」という感覚がありました。遊園地の機械と同じです。

 ですからあれは本当に知らない人がちょっとつけてみても、ぽっとものを持ったりできるシステムでした。ただ、大規模で持ち運びできないというデメリットがありました。

 そこで、バックホウの操縦をやったりしたHRPの後期では、持ち運びができるマスターアームとマスターフットの操縦システムをもう一度開発しました。


作業用保護ウェアを着用してバックホウの操縦をするHRP-1S 当時開発されたばかりの操縦システム

――どうやって機能を切っていったんですか。まず大型の立体ディスプレイが小型になったのはすぐに分かりますが……。

【蓮沼】そうですね。まずは小型にするために必要なエッセンスは何かということで、検討した結果、それは「手先を動かすことだ」ということだと。別に腕に沿う必要はないということで、ああいう形のマスターアームになったんです。

 ただ、従来の設計はこういうものだったからこういうメリットがあったという比較をした上で、一番ポイントになったのが、握るところでクルクル回る、と。しかも、軽く動かせる。要は、回転中心が手のひらに来るように設計してあるんです。それと、バランスをとってあるので、どの位置で離してもそこで止まるんです。それが特徴です。

――HRP-2のときもそれを使っていたんですよね。今回、2から3へのステップではどのように発展させたんですか?

【蓮沼】基本的に装置自体のハードウェアは、このプロジェクトが始まったときに作った物から変わっていません。何が変わったかというと、全身操作の仕方のバリエーションが増えていったんです。

――というと?


【蓮沼】最初は両足をそろえたまま足を動かすところから始めました。その次に、足を一歩前に動かして、腕を届かせるようになって。それから、ものを持ちながら歩くようになって、最後に、壁や机に手をつきながらバランスをとる、というところまでいきました。

――ペダルはどのように使っているんですか。

【蓮沼】ペダルは補助的な操作です。たとえば両手を操作に使っているときに、ロボットの頭や足を動かしたくなったらどこを動かしますか、ということなんです。首を動かすとディスプレイが見えなくなってしまいます。指で動かそうと思ったら手先に装置が集中してしまって、操作がしにくいんです。

 それで空いている足を使おうということになりました。足であれば前後と横でスライドの2自由度くらいなら簡単に使えますし、また、首を振るとか、手先の開閉なら問題ありません。

――先ほどもそのように使っていたんですか。

【蓮沼】さっきはフラッシュに目がくらんでドライバーを落としてしまったんですが(笑)。ちょっと予想外でした。

――フラッシュ以前に、画角も狭いですし、おまけに、けっこうノイズが入って画面が見えないことが多いですね。

【蓮沼】そうですね、フラッシュでカメラの露出が変わってそれで目がくらんだり、人が大勢来たことで無線が乱れたこともありました。今までやったときは落とさなかったんですが、本番になって落としてしまいました。

――記者会見という場所がもつ、独特の緊張感もありますよね。

【蓮沼】そうですね。緊張もあるんですが……。緊張してたことと、見えなくてあせったんです。ちょっと、らしからぬことをしてしまいました。


電動ドライバーをつかむHRP-3 Promet Mk-II 左腕で体を支えながら電動ドライバーを操作 別のアングルから

HRP-3 Promet Mk-II発表時の操縦システム 【動画】操縦の様子

――そのあたりが人間と機械のインターフェイス設計の難しいところでもあり、面白いところでもあると思います。逆にマシンが、仮に人間が緊張していたとしても助けてやることもできると思います。そういった研究の方向性はどうでしょうか?

【蓮沼】当社がやるかやらないかではなく、今後のロボット操縦の研究の方向としての話ですが、ロボットがドライバーを持つとき、いまは人間が教えてますが、ロボットが認識して、どこを持てばいいか理解すれば、「握る」という動作の生成も自律で行なえると思います。ロボットの認識能力が十分であれば。現在の音声認識能力でも明かですが、最終的に認識結果が正しいかどうかを誰が判断するかということと同じ問題です。

――最終的には、いまの人間を助けながら作業を行なうというタスクだと、最終確認は人間が行なうことになるんでしょうか。

【蓮沼】作業内容によると思います。100%認識できる信頼性があるものであれば、ロボットに任せられると思いますし。

――なるほど。以前HRPで行なっていた板運びなどをいちいち人間が認識結果承認しながら進めるのはナンセンスですもんね。


HRP-2公開時に行なわれた、人との協調作業デモ
【蓮沼】そうですね。あれくらいだったら今ならちゃんと認識できるかもしれません。いまはあくまで一番ボトムのところで人が教えてやる。そして、この先にあるものは、人が教えていることを、どんどんロボットの自律機能に置き換えてやる。

 要は、いまは遠隔でロボットに教えている部分を自律機能に置き換えていけばいいわけです。ですから、まずはベースのロボットの全身を動かすところを自律に置き換え、次はロボットに教えているところを自律で実現できれば、その先には完全自律ロボットがあるはずです。

――目指すところは完全自律ですか。

【蓮沼】今回のロボットの場合は、そうだろうと思います。

――分かりました。少し話を戻します。今までの話は自律にしたいということでしたが、ロボット自体の動作が速くなってくると、自律にせざるを得ない部分もありますね。通信遅れや人間の操作自体が間に合わなかったりすることもあるでしょうから。そのあたりの切り分けはどのようなアプローチはどうお考えですか。


【蓮沼】ロボットの速度が速くて構わなくて人の介入を必要としない作業であれば、ロボットに対して行なう命令は「作業をやりなさい」「作業をやめなさい」だけでいいと思います。

 あくまで操縦というのは、ロボットが自律で動いているときに指示を与える、判断をするものです。あるいはロボットがセンサーのミスで変なところで止まってしまったときに復旧させるものです。

 ロボットの自律機能を研究するときに、こういう動きはロボットはできるかどうか試すために操縦するということもあります。つまりロボットのハードウェアを作ったときに自律機能を満たすだけの性能があるかどうかを試験するための自律機能をやるよりは操縦で確認するとか。そういった研究開発段階での用途もあるとは思います。

 ですから必ず操縦でロボットを動かす、作業するというわけではなくて、どんなアプリケーションにするのかによって、操縦が必要か必要でないか、どういうレベルで必要なのかといったことは変わってくると思います。

――なるほど。よく分かりました。有り難うございました。




 同社では、ロボットの腕ではなく、足首の先をマスターアームで操作して歩かせるといった操作も実現している。それでバランスを取りながら歩行させることも可能だ。たとえば、そこらじゅうに釘が落ちている場合などで、障害物を人間がカメラで見ながらロボットに直接足運びを教えることができるという。

 ロボットの知能と人間の知性。両者をどのように切り分け、組み立てるか次第で、ロボットの機能は大きく変わるのである。


URL
  川崎重工業
  http://www.khi.co.jp/
  川田工業
  http://www.kawada.co.jp/
  独立行政法人産業技術総合研究所
  http://www.aist.go.jp/

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働く人間型ロボット「HRP-3 Promet Mk-II」発表(2007/06/21)


2007/07/06 00:15

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