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ロボット・アナリストの視点 米国iRobotが2006年決算を発表
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~類似品などの影響は軽微、軍事部門が急伸
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Reported by
五内川拡史
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2月12日、清掃ロボット「Roomba」で知られる米国のロボット・メーカー・iRobotが、2006年の決算数字を発表した。13日には、投資家向けのカンファランス・コールも開催され、概況の説明が行なわれている。
結論からいうと、売上は依然として好調を持続している一方、利益は低水準となっている。
この低収益は、本業から入る資金を、全て先行投資(R&Dとマーケティング)に回しているためと考えられる。
結果、2005年の株式上場時に調達した資金はほとんど温存されており、体力的には余裕を持った事業展開と見られるのである。
まず、2006年の売上高であるが、1億8,895万ドル(日本円では、1ドル=120円換算で226億円相当)に達し、創業以来最高の数字となった。前年の1億4,196万ドルからみると33.1%の増加だ。
部門別の内訳でみると、清掃用ロボットの販売台数が、2005年の66万3,000台から、2006年には72万5,000台へと、1割増となった。
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洗剤を使った床洗浄も可能な「Scooba」
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従来のRoombaシリーズにペット用、あるいはタイマー機能が付いた新製品ラインナップを付加し、また床洗浄も兼ねたScoobaの投入もあって、販売台数が増加した。
販売ルートにおいても、米国内の直販比率が17%から22%に上昇、つれて粗利益率の上昇も見られたようである。
同社の成功以来、類似の清掃用ロボットがアジアのメーカーから発売されたりしているが、ここまでの数字を見ている限り、追随メーカーによる影響は軽微にとどまっているものと推測される。
民生用以上に注目すべきは、政府(軍事)部門の急伸だ。
こちらは、前年比で59.6%増と、清掃用ロボットを遙かに上回る伸びを見せた。主力製品の、無人探索用ロボット「PackBot」が、前年の252台から385台と大幅に増加するなど好調だ。
特に、従来の米国向けだけでなく、国際展開の可能性が示されたことが大きい。英国向けに30台、ドイツ向け18台が出荷されている。同盟国という条件付きではあろうが、市場は広がったと見ることもできる。
更に、この1月には、米軍がイラクで使う爆弾探索用のロボット100台を、1,600万ドルで受注した旨もアナウンスしている。
この結果、売上高に占める政府(軍事)及び産業向けの比率は、2005年の33.8%から、2006年40.5%に上昇している。
従来の、軍事部門は下支えで、あくまでも主力は民生用ロボットの会社、というイメージは、今や覆りつつある。おそらく軍民二本柱の会社、という姿が正しいだろう。
一方で、短期的な利益は物足りない。2006年の営業利益は前年の210万ドルから3万8,000ドルへと低下し、事実上の収支均衡決算だった。営業外収益でかさ上げして、税引後の当期利益は356万ドル(4億円強)を確保している。
売上増加に伴い、粗利益率は上昇しているが、その分、R&D、セールス&マーケティングが、前年比40~50%台の増加となっており、最終利益を食った格好だ。この点に、同社の短期利益より先行投資を重視する、という姿勢が伺える。
また、続く2007年の業況についても、会社側からガイダンスが発表されている。
2007年の上期(1~6月)の売上高はおおよそフラットであるが、下期(7~12月)には売上が大幅に伸びて、通年では19~24%増加の2億2,500万ドル~2億3,500万ドル前後を予想している。
民生用ではScoobaが好調を持続するほか、欧州での有力代理店確保と直販体制の強化を行なう。
と同時に、新製品の発売が下期に集中するため、この押し上げ効果も見込んでいるようだ。詳細は明かされなかったが、家庭用ロボットの新カテゴリー(従来の清掃シリーズの延長ではないだろう)を発表するというコメントが印象的だった。
他方、軍事用は、ソフトウェアやモジュールのプラットフォームを揃え、サードパーティーが入れるような仕組みを整える。と同時に、無人車も、持ち運び可能なSUGV(Small Unmanned Ground Vehicles)、中型のWarrior、大型のR-Gatorまでフルラインナップを揃える。
収益的には、先行投資期がつづくため、2007年も収支均衡に近い状況だが、長期の目標としては、売上高税前利益率で10%台後半の数字を出せるような収益構造を掲げている。
以下は、決算を受けての個人的な印象になるが、市場の離陸に伴い、開発速度がかなりあがってきているようだ。
同社は、2005年段階で80名のR&D要員を抱えていた。今回のR&Dの経費の伸びを見ると、120名以上の体制となっていることが推測される。
同社は、非・工業用ロボット分野で初めて、商用化とそのフィードバックによる開発、というスパイラルに入ってきた。日本のいわゆる基礎研究やプロトタイプ・レベルとは、次元の異なる段階に突入しつつある。
もちろん日本の研究者やメーカーにとって、軍事向け活用は最初から取りえない選択だが、こと優位性を信じてきた民生用の事業化に関しても、格差が開く可能性が高まってきた。
■URL
iRobot
http://www.irobot.com/
ニュースリリース
http://www.irobot.com/sp.cfm?pageid=86&id=306&referrer=83
五内川拡史
(株)ユニファイ・リサーチ代表取締役社長。野村総合研究所、野村證券を経て現職。製造業、IT産業におけるリサーチ、戦略立案、新事業立上げ支援など経営コンサルティング業務を行なう。経済産業省ロボット政策研究会委員(05)、東京大学産学連携本部共同研究員(03~現)、同先端科学技術研究センター産学官連携研究員(05)。
2007/02/19 14:36
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