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ロボット・アナリストの視点 【第1回】ロボット作りは人づくり
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Reported by
五内川拡史
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民生用ロボット産業は離陸するのか、しないのか? もし離陸するとしたら、それはいつなのか? あるいは、既に離陸の兆しはあるのだが、私たちは単にそのことに気がつかないだけなのだろうか?
本田技研工業のアシモが走り、ソニーのアイボが販売されてから既に6年が経過した。国が力を入れた愛知万博は、ロボット博覧会の様相さえ呈した。
ここ数年で、企業の試作ロボットを作っていく能力や、イベントでの集客効果は、それなりに立証されてきたと思う。
更には、こうした技術の蓄積だけにとどまらない。民生用ロボットのビジネス化の経験についても、2000年時点での手持ち材料は皆無だったが、今ではそれなりの試行錯誤の結果-失敗も含めて-が集まってきている。
そこで、ここから先、2007年から2010年は、民生用ロボット産業が産業として最初の確かな一歩を踏み出す局面に入っていかなければならないと考える。
今すべきことは、こうした経験をもとに、技術レベルと潜在ニーズの棚卸を行うこと、それに基いて事業戦略を練り直して、再度市場にチャレンジしていくことだろう。
ということで、本コラムでは、今後さまざまな角度から自由に、ロボットの産業化の条件を探っていきたいと思う。
というわけで、第1回は、ロボットが人間にもたらすさまざまな効果のうち、人づくりに焦点をあててみたい。
トヨタ自動車の社是の1つに、「ものづくりは人づくり」というフレーズがある。そのひそみに倣っていえば、「ロボット作りもまた人づくり」と言えるのではないか。
一般に、ロボットは人間の代わりを務めてくれるもの、という印象が強い。そうした発想を推し進めると、ロボットは人を駆逐するもの、疎外するもの、という認識に陥ってしまう。
かつての欧米の工場などで危惧されたことだが、ロボット導入は労働者のリストラと抱き合わせだった。
しかし、こうした認識とは全く逆に、ロボットを取り入れることがむしろ人を活かすことになる……というのもまた、(とりわけ)日本人には賛同を得られる考え方だと思われる。
昨年度、筆者らは、経産省からの委託を受けて、「ロボットを活用した製造中核人材の育成」というテーマで調査を行なった。
その調査で浮かび上がったのは、ロボットと人間の関係の在り方が、思った以上に豊穣だということである。人はロボットを作るが、ロボットも人を作るのだ。
例えば、製造現場にロボットが入ったとして、単純労働は確かにロボットに置き換えられるが、そのロボット自体の設計、構築、運用、保守は、やはり人間が行なわなければならない。ここで、人間の作業は、単純労働からロボットの活用術へと、高度化することが要求される。
あるいは、ロボットの自動化は確かに一定の生産性向上に寄与するが、そこから先はロボット性能の限界が、即、生産性の天井になるという危険もはらむ。そのとき問題を新しく定義しなおし、不断に改善していく営為は、やはり人間の手によるしかない。
時に無人化までも追求する工場現場ですら、このような人間とロボットの相互作用があるのだから、まして今後予想される人間共存・パートナー型ロボットにおいては、そのインタラクションは一層強まることになるだろう。
そこで、同調査では、「教育」という観点から、ロボットと人間の関係の分類を試みた(表参照)。
「教える」-「学ぶ」から見たロボットと人間の関係性
| | 人間に対して教える | ロボットに対して教える
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人間が~ | 人間のことを or
人間を使って | ・一般の教育 | ・動作ティーチング(プログラミング、マスタースレイブ) ・ロボットへの技能・技術移管 ・人工知能の実機シミュレーション ・極限作業ロボット(人間ができないこと)
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ロボットのことを or ロボットを使って | ・ロボットに関する講義 ・ロボットを使った実習教育 ・ロボットの操作方法習得 | ・ロボット間の協調作業の指示
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ロボットが~ | 人間のことを or
人間を使って | ・メディア・ロボット ・ロボット・ティーチャー ・エージェント・ロボット | ・人間環境・作業代替ロボット ・自律模倣ロボット
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ロボットのことを or ロボットを使って | ・故障診断 ・コミュニケーションロボット ・ロボット・アシスト・トレーニング | ・自律ロボットのネットワーク ・群ロボット制御 ・ロボット間マスタースレイブ
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一見、ロボットと教育というと、すぐにロボット組立教室のようなものが思い浮かぶ。
しかし、このような「先生」が「生徒」に対して「ロボット」を使って教える、というパターンは、多くの論理的可能性の中の1つにすぎない。
これとは別に、「人間」が「ロボット」に教え込むパターンというものも考えられるだろう。ここでは、現場の動作ティーチング(プログラミング、マスタースレイブによる入力、シミュレーション)などが現実に行なわれている。そのための職業訓練や、ソフトウェアの開発など、入力手法の改良、など人がやるべきことはたくさんある。
また、逆にロボットが人間に情報を伝達するパターンもある。故障情報を知らせてくれるというのもあるし、あるいはメディア化・エージェント化したロボットが活躍するケースもあるかもしれない。
さらには、ロボットが別のロボットに情報を伝えていく可能性もある。これによってロボットの群れが同期化したり、不測の事態にはバックアップに動く、ということもあるだろう。
いずれも、新しい技術開発を必要とするもので、人間疎外どころか、人間が背後で支えないと実現しないものばかりだ。
以上は、「教える」-「学ぶ」の関係を図式化したものだが、「伝える」-「了解する」に拡張すれば、容易にコミュニケーション全体のあり方へと、拡張もできる。
その多様な可能性において、人は、ロボットを操り、発展させるための、より高次な能力を求められるようになる。ロボットを生み出すことは、人間を疎外するのではなく、人間の価値の高度化を促す。
ここで話は原点に戻すと、結局、民生用ロボット産業が離陸するかどうかは、ロボット自体というより、それに携わる人間の側に依存している。
ロボット産業の創造は決して容易なものではないが、人が本来持っている能力を引き出すという意味では、挑戦的かつ格好のテーマだと思われるのだ。
五内川拡史
(株)ユニファイ・リサーチ代表取締役社長。野村総合研究所、野村證券を経て現職。製造業、IT産業におけるリサーチ、戦略立案、新事業立上げ支援など経営コンサルティング業務を行なう。経済産業省ロボット政策研究会委員(05)、東京大学産学連携本部共同研究員(03~現)、同先端科学技術研究センター産学官連携研究員(05)。
2006/11/20 00:04
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