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立花隆ゼミ、瀬名秀明×櫻井圭記対談を開催

~人間と機械の境界を探るキーワードが乱舞
Reported by 森山和道

 5月28日(日)、五月祭の開かれている東京大学本郷キャンパスで、「オリジナルとコピーのはざまで ─ゴーストが宿る場所─ 瀬名秀明×櫻井圭記対談」が行なわれた。東京 大学の立花隆ゼミとアニメーション製作で知られるProduction I.Gによる共同企画“INNOCENCEに見る近未来科学”の一環として開催されたもので、2時間にわたって熱い対論が交わされた。

 瀬名秀明氏は「パラサイトイブ」、「BRAIN VALLEY」「デカルトの密室」などの著作がある作家。「ロボット21世紀」ほか、ノンフィクション分野でも活躍している。今年1月からは「100年後の機械工学の先端を担う子供たちの夢を創出することを一つの目標」(東北大学リリースから)に、「SF機械工学企画担当」として東北大学機械系特任教授に着任。東北大学機械系の研究を紹介する仕事もしている。


作家 瀬名秀明氏 企画・脚本作家 櫻井圭記氏

 櫻井圭記氏はProduction I.G所属の企画・脚本作家。東京大学大学院新領域創成科学研究科修士課程でメディア環境学を専攻中からアニメーション「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」の脚本を手がけた。 修士論文は「他我を宿す条件 ~人間・ロボット間コミュニケーションの行方~」。その後続編「攻殻機動隊S.A.C. 2nd GIG」や『御伽草子』でも活躍し、現在は最新作「攻殻機動 隊 S.A.C. Solid State Society」ほかで脚本を手がけている。

 対談テーマ「オリジナルとコピーのはざまで ─ゴーストが宿る場所」とは、メディア技術が進展し徐々に人間同士が接続しつつあり、人間という「オリジナル」が、機械、ロボットという「コピー」を作ろうとしている今日、我々の存在のありようがどのように変容しつつあるのか、士郎正宗氏のマンガ原作ならびにアニメ作品『攻殻機動隊』の重要なキーワードである「ゴースト」をポイントにして考えるというもの。

 『攻殻機動隊』は人々がネットに繋がった近未来を舞台にしたSF作品。「義体」と呼ばれるサイボーグ技術が発達し、主人公達は脳を除いて、身体のほとんどを高性能な機械に置き換えている。また、ロボット技術も発達しており、人工知能(AI)を搭載したそれらは、あたかも人間のように会話を交わし、人間と区別がつかない運動性能を持つ。特にヒト型のものは「人形」と呼ばれている。

 「ゴースト」とは一言でいえば魂のようなもので、人間をはじめとした動物しか持っていないものだとされている。人間と機械の境界が曖昧になった「攻殻機動隊」の世界では、両者を区別する唯一のものあり、人が人たる所以は「ゴースト」に帰着されている。だが、それが具体的に何を示しているのかは作中でも明示されていない。


対談内容

 対談内容は、アニメ『攻殻機動隊』と、瀬名秀明氏による人工知能やヒューマノイドにおける問題を扱った『デカルトの密室』、そして新作中編集『第九の日』(ともに光文社)を中心としつつも、広範な興味を持つ2人らしく多岐にわたった。また2人ともかなりの読書家らしく、数多くの文献を引用しながらの対談となった。

 対談前半はまず映画『イノセンス』(映画「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」の続編)の一部の上映と、瀬名氏の著作『デカルトの日』が紹介されて始まった。来場者の全てが『攻殻機動隊』を見ているわけではないということで、最初は攻殻機動隊の世界の紹介と、デカルトが「フランシーヌ」と呼ぶ自分を似せた娘の人形を持っていたという逸話の紹介から始まった。


 フランシーヌの話は伝説で、事実かどうかは分からない。『デカルトの日』にはフランシーヌ・オハラという女性が敵役、かつ、自分が心を持っているかどうか、他人が心を持っているかどうか理解できず、ロボットのようになっていきたい願望を持っている人物として登場する。

 その後話題は、『デカルトの密室』における視点変更という叙述トリックとチューリングテストの関係、チューリングテストの本質、ロボット工学者森政弘氏の提唱する「不気味の谷」は実在するのかどうか、オリジナルのコミュニケーションである「会話」がコピーである「文字」に引きずられて変容しているのではないかという問題意識、『デカルトの密室』における叙述テクニック、全く同じロボットであるはずの「タチコマ」(攻殻機動隊S.A.C.におけるロボット)の個性の出し方と、それが徐々に個性を持つことの意味、そしてゴーストとは全てが記述可能な時代に必要とされて登場した概念なのではないか、といった話題について議論が行なわれた。


チューリングテストの例。判定者からはコンピュータAと人間Bが見えない状態でテキストによる会話をさせ、どちらが人間であるかを判定させる ロボット工学者森政弘氏の提唱する「不気味の谷」の例

 「不気味の谷」の指摘する不気味さは、客体化されている状態では不気味ではないが、そこに「自分」が入り込み、自分自身がどこまで機械なのかという不安が立ち上がってきたときに立ち現れる不安感なのではないかという指摘が興味深い。

 また瀬名秀明氏の『デカルトの密室』ではロボットの「ケンイチ」や、製作者で主人公である尾形祐輔、それぞれの視点で「ぼく」が語られる。また、作中で重要な意味を持って行なわれるチューリングテストの描写も工夫が凝らされている。瀬名氏は、読者の脳のなかにチューリングテスト的感覚が取り込まれていくような読書感覚を出したかったのだという。「櫻井さんもそういう感覚を脚本のなかでやりたいんじゃなかなあと共感しながら見ていたことがある」と瀬名氏は語り、櫻井氏も同意していた。

 後半は、リストを突き詰めていった最後に、なおリストに書き下させないもの、いわば、哲学者のヴィトゲンシュタインが言うところの「語り得ないもの」こそがゴーストなのではないかという話から始まった。

 その後、話題は、「人形使い」(映画「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」に登場するスーパーハッカー)には人形を動かしている意識はあるかどうか、ネット上に広がった知性の持つ自我のありよう、道具はどこまで身体の延長たり得るのか、推理小説とロボット開発における類似性、「同期」の面白さと個体において「群体」であるとはどういうことなのかといったことへと続いた。


質疑応答での様子。中央のプロジェクタでは常に2人の会話を要約した内容がテキストで表示されていた
 その後話題はさらに、言語における「人称」が思考に与える影響、外部記憶を使って引用・検索が自由にできるようになった時代のコミュニケーションとは、シャノン=ウィーバーのコミュニケーションモデルへの批判、ヴィトゲンシュタインが事後的にしかルールは見出されざるを得ないといったことの意味、社会性を持たず無垢(イノセンス)な存在である子どもと社会が繋がるときに起きること、キリスト教社会における身体の延長とペットの関係、人間はどこまで機械に感情移入できるのか、などへと展開していった。

 最後に少しだけ「20代」の頃の話をということで、櫻井氏がイギリスに住んでいたことがある影響からか狂言など「和モノ」に興味を抱いているという話が紹介されたあと、質問コーナーとなった。質問コーナーでも作品内容に関する質問だけではなく、ユニークな切り口が乱舞していた。


立花隆ゼミ

 なおこの対談は、評論家 立花隆氏による東京大学・立花隆ゼミによって主催された。立花隆氏がNHKで制作したサイボーグ技術関連番組に対し、ネットで『攻殻機動隊』の世界観が頻繁に引き合いに出されていたことにゼミ生が注目した。

 そこで、Production I.Gとコンタクトをとった際、連絡担当が東大出身の櫻井氏だったことから企画が始まったとのことだ。

 「INNOCENCEに見る近未来科学」企画責任者で、当日は司会をつとめた加藤淳氏によれば、後日、この対談の詳細なレポートが、立花ゼミが主催する科学コンテンツを中心としたウェブサイト「SCI」(サイ)にてアップロードされる予定だという。聞くことができなかった読者はそちらを楽しみに待とう。


URL
  INNOCENCEに見る近未来科学
  http://digitalmuseum.jp/sci/gis/
  瀬名秀明×櫻井圭記対談
  http://sci.gr.jp/project/gis/mayfes/
  SCI(サイ)
  http://sci.gr.jp/


2006/06/02 00:00

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