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脳とロボットを直接つなぐBMI
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ロボットとクリエイターの価値をブランド化する~ロボガレージ 高橋智隆

ロボット業界キーマンインタビュー【ベンチャー社長編】
Reported by 森山和道

ロボガレージ 高橋智隆氏
 寝室兼工房は実家の2階の6畳間。設計図なし。CADは使わない。スケッチに始まりスケッチに終わる設計手法で、樹脂を熱するカセットコンロと掃除機でバキュームフォームして作る「ロボットクリエイター」。ロボット好きに多い「なんでも作る」タイプだ。

 モノフェチで、所有欲も強い。ロボット作りそのものも楽しいが、自分が理想とした美しい完成品を手元に置いておきたい気持ちのほうが強い。気に入った靴は保存用も含めて3足買ってしまうタイプ。そしてロボット以上に好きかもしれないモノが自動車。高校生の頃から大好きだった。

 一見取っつきにくそうな風貌だが、話を聞いているとサービス精神からなのか、それとも関西系だからなのか、時々オヤジギャグが顔を出す。趣味はモーグルスキーと日本拳法。共に趣味歴15年以上だ。「極端なことが好きなんでしょうね」と笑う。これが高橋智隆氏の横顔だ。

 常に3~4件のロボット製作の案件を抱えている。これまでに制作、あるいは関わったロボットは「マグダン」、「クロイノ」、「ネオン」、「Robovie-R」、「T-52援竜」、「VisiON」、「VisiON NEXTA」、「鉄人28号」など。代表作でもある「クロイノ」は2004年末にアメリカ『TIME』誌の企画「Coolest Inventions 2004(「最もクールな発明)」にも選ばれた。「Vision」、「Vision NEXTA」はロボカップ・ヒューマノイドリーグの優勝ロボットである。最新作は女性型ロボット「FT」だ。技術とデザイン、両方のスキルを持つところに彼の独自性がある。


電磁吸着歩行の「マグダン」 「ネオン」。電磁吸着歩行を採用するがマグダンより大型で身長は40cm 電磁吸着歩行ではない歩行を実現したクロイノ

 高橋氏は、家庭用ロボットは、掃除ロボットその他の先にあるのではなく、エンターテイメントロボットの延長線上にあると考えている。最初はほとんど役に立たないかもしれない。だがやがて、調味料を持ってくるような、ちょっとした仕事ができるようになる。ヘマをしてもカワイイ奴として許してもらえる程度の仕事だ。それがちょっとずつ積み重なっていき、やがては高度な仕事がこなせるように発展していく――。それが高橋の考えるロボットの未来像だ。

 経歴を振り返っておこう。'75年生まれ。医師だった父親の仕事の都合で、子どもの頃にはカナダに住んでいたこともある。小学生時代には「アトム」ほか手塚マンガを読んだ。「ガンダム」よりはむしろ「マクロス」世代。変形機構に惹かれたそうだ。立命館高校を経て、立命館大学産業社会学部を卒業。いったん就職を志すが、結局一年間、受験勉強をして京都大学工学部に入学する。


 受験勉強中に電磁吸着歩行を思いつき、大学一年生の春休み、プラモの「ザク」を改造してロボットを制作する。京都大学の特許起業相談室で特許を取ったあとに2001年1月にはラジコンメーカーの京商から「ガンウォーカー」として製品化された。世界中で5,000体売れたという。

 関西テクノアイデアコンテストでグランプリを取ったりしつつ、ロボット工学を学び、物理工学科機械システムコースメカトロニクス研究室を卒業した。2003年4月、卒業後にロボットの技術開発・製作・デザインを手がける「ロボガレージ」を設立する。ロボガレージは京大ベンチャーインキュベーション入居第1号となった。

 ヴイストンから販売されているロボビーRの仕事を手がけるようになったきっかけはロボットイベントのROBODEX2003だった。当時、高橋氏は「ネオン」を出展した。たまたま、ロボビー生みの親である石黒教授たちのブースと、はす向かいだった。お互い挨拶をして話をすると、意気投合した。

 VisiONはヴイストンの前田氏らとの共同作品だが、前田氏と知り合ったのも、ロボビーの縁でATRに行ったときだった。「自分でロボットを作った奴がいるから見に来ないかと言われて。彼はリュックからロボットを出してきて、デモを見せてくれたんですね。すごい高校生がいるもんだと思ったら、それが自分よりもずっと年上の前田さんだった」と笑う。


 ロボガレージは法人にはしていない。売上は「2,000万円くらい」だという。高橋氏は基本的に個人で、自分1人で仕事をしている。ヴイストンの前田氏らとの時のように、誰かと組んで仕事するときもあるが、そのためにはまずお互いが一人前でリスペクトしあえるような存在、すなわち「単独でも何かを作ることができる」ような相手であることが大前提だ。

 「良くある会議だと、みんな空っぽの状態で集まったりするでしょう。そうじゃなくて、何かを持って集まらないとダメですよね」と語る。それでも、それぞれお互いの持っているものを100は出せない。せいぜい8割を出し合うことができれば上等、「1+1=2」どころか、1.6くらいが限界なんじゃないかと感じているそうだ。

 たとえばデザイン事務所や工房のように複数のデザイナーや職人で仕事を受けるやり方も考えられるのでは? と聞いてみた。だが高橋氏は、これからも人を雇うつもりはないという。経営者のモチベーションと、雇われ人のモチベーションは根本的に違うからだ。ただし、弟子を取ることはあり得るそうだ。「弟子ならば師匠のテクニックを学ぼうと、がつがつ頑張るでしょうから」というのが理由だ。


 人を雇わないとなると、売上を上げようと思ったら付加価値を上げるしかない。高橋氏は自ら「ぼったくり」と笑う。だが、真面目な話だ。より高い価値を持つプロダクトを提供する、あるいは、ロボット市場が醸成されることで、ロボットのプロトタイプ制作そのものの価値が上がるか、そのどちらかでないと、付加価値は上がっていかない。自分自身の能力が全てだ。

 ロボット自体も自分の仕事も「ブランド化」していくことが必要だという。いま高橋氏は3~5件くらいの仕事がいつも平行して走らせている。いわば売れっ子ロボット・クリエイターだ。直近の夢は、ロボットを格好良く展示してあって、食事もできるようなスペースを作ることだという。クルマのショウルームのようなイメージだ。

 高橋氏は、ロボットが誰の手にも届くものというよりは、スーパーカーのような格好いいモノ、憧れのモノになるべきだと考えている。憧れの存在になるのは、ロボットの製作者も同様だ。スーパーカーのデザイナーが憧れの目で見られるように、ロボットの製作者たちも、下の目線に降りていくよりは、仰ぎ見られるような存在でいるほうが、ロボットの将来のためにはプラスになるのではないかという。


 高橋氏が積極的に参加しているサイバーストーン株式会社の「ロボプロ」も、ロボットの価値を上げるための活動の1つだ。格闘技も、ちゃんと演出しないとただの殴り合いだ。だが照明をあてて演出することで華やかなエンターテイメントになる。ロボットイベントも同じだという。例えばロボプロには「ヴィジオン・ガール」のような通称「ロボプロ・ガール」までいる。あれも高橋氏のアイデアだ。誰もやらないので自分たちでやっているのだという。

 ロボットの外装や、見た目の動き方にこだわっているのも同じ理由だ。「中でどうコンピュータが計算して制御しているかは見ている人には関係ないですから。最終の出力結果は外装の動きです。だから外装や動きが重要なんです。それによって親しみやすさや愛着が変わってきます。愛着を持ってコミュニケーションを持てる存在だからヒト型をしているわけですし」。

 たとえ錯覚であっても、生命を持っているような、コミュニケーションできていると受け手である人間が感じられるようなロボットを創ることを高橋氏は目指している。


高橋氏の最新作となるFT 出力結果としての外装やその動きにこだわることで親しみやすさをもてる存在にしたいという

 ロボット実用化は今のロボットブームの結果なのか、それとも次の20年後にやってくるだろうロボットブームまで待たなくてはならないのだろうか。高橋氏は「いま、ぎりぎりのところですよね。手はかかっていると思うんです。なんとか今回に持っていきたいなと思って活動しているんですが」と語る。今はどこの会社がとか、ライバル視というよりは「みんなで漕がないと失速する」状態だ。どの会社がロボットを発表しても嬉しいという。

 取りあえずの将来のイメージは「食卓をテリトリーにして暮らしているロボット」である。上述したように、最初はあまり役には立たないが、徐々に役立つようになっていくロボットだ。また、それは、持っている人に所有の喜びを与えるような美しいモノでなければならない。


愛車VIPER RT/10とともに。車は昔からの趣味だという
 高橋氏は自らの活動を「サイエンスアート」だと位置づけている。研究者という立場よりも、いまのような自由な立場のほうが仕事がやりやすいという。もうすぐ初の単著が出る。題して『ロボットの天才』(メディアファクトリー)。

 最後に、高橋氏のようなロボットクリエイターになりたいと思ったらどうすればいいのかと聞いてみた。するとまず「ロボガレージ気付日本ロボットクリエイター協会に5万円おさめてくれれば(笑)」と冗談を飛ばした。もちろん、そんな団体はない。すぐに真顔でこう答えてくれた。

 「よく分かりませんが、なんでしょうね。とにかく、モノを作ることでしょうかね。『この仕事、最悪』と思いながら作っていることもよくあるんです。でも絶対に無駄にならない。『こんな仕事はやく終わらせてやる』と思いながら材料や加工を工夫したりする。それも全部、経験になって生きるんです。僕も家の塀も作ったし、ベッドと勉強机と家具が一緒になったものも作りました。捻挫したらギブスも作る。それが全部、経験値になるんです。あとは、他の分野のことを流用してくる視野の広さと、ハッタリです(笑)。それらしい理由をつけることも大事ですよ」


URL
  ロボガレージ
  http://www.robo-garage.com/
  【2006年4月10日】“世界一美しい”女性型ロボット「FT」発表(PC)
  http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0410/ft.htm
  【2006年3月31日】ヴイストン、「TVアニメ版鉄人28号ロボット」を受注開始(PC)
  http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0331/vstone.htm
  【2005年9月27日】【森山】ROBO-ONEで“走る”ロボットたち(PC)
  http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0927/kyokai38.htm
  【2003年4月5日】【森山】ROBODEX2003レポート 展示はここを見ろ編(2)(PC)
  http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0405/kyokai06.htm


2006/05/30 02:28

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