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ロボット事業の解は明確~ヴイストン株式会社

ロボット業界キーマンインタビュー【ベンチャー社長編】
Reported by 森山和道

ヴイストン株式会社代表取締役 大和信夫氏
 「ロボットって、何やったって儲かりますよ」。ヴイストン株式会社の大和信夫代表取締役は、こともなげに語る。「どこに収益を求めるか、ちゃんと絵を描いておきさえすれば良い」のだという。

 ヴイストンは産官学連携から生まれた企業である。当時は和歌山大学、現在は大阪大学大学院工学研究科 知能・機能創成工学専攻知能創成工学講座の石黒 浩教授の持つ全方位カメラ技術の特許を事業化することを目的として、日本LSIカード株式会社株式会社システクアカザワ財団法人大阪市都市型産業振興センターが運営する島屋ビジネス・インキュベータらが出資して誕生した。ヴイストンの「ストン」は石黒教授の「石」から取ったものだ。

 ベンチャービジネスコンペ大阪2000で産学連携推進賞を受賞するほか各種の賞を受賞している同社には、さまざまな賞状やトロフィーが並べられていた。今年5月には経済産業省・中小企業庁が選定する「明日の日本を支える元気なモノ作り中小企業300社」にも選ばれた。

 もともとは全方位カメラを中心としたセンサー・ネットワーク技術の会社だったが、現在は「ロボット関連技術」の会社と自らを位置づけている。もともと全方位カメラだけにこだわっていたわけでもないし、いわゆるユビキタス技術もロボット技術も一体として捉えているという。


研究用プラットフォーム用ロボット「ロボビーR」 ヴイストン社内に飾られたトロフィーや賞状など

 同社では研究用プラットフォームの「ロボビーR」や「ロボビーM」などを扱っている。これまで通算で1,500台以上、ボードでは数千以上を販売しており、現在の年商は2億5,000万円。何度か増資を繰り返し、現在はフューチャーベンチャーキャピタル株式会社から半分の出資を受けている。「2、3年後」にはIPOを目指している。

 現在、ホビーや教育・研究市場をターゲットとしているヴイストン。そこだけでも数十億円くらいの市場は十分にあると考えているが、将来はより一般的な役に立つロボット作りをしていきたい、と大和氏は語る。

 ヴイストン自体も面白い会社だが、大和氏自身の経歴もユニークだ。'63年生まれの43歳。いわゆるガンダム世代ではなく、むしろ松本零士世代で子どもの頃は宇宙船を作りたいと思っていたそうだ。私立の進学校に通っていた高校生のときに、父親の会社が非常に厳しい状況に陥った。就職を考えたが「進学率100%」を保持したい学校のすすめもあって、カネのかからない防衛大学理工学部に進学した。その後、陸上自衛隊を経て、和議に移行していた父親の産業プラントメーカーに就職したが、結局、会社は倒産してしまう。そのときに大和氏は「技術者は世の中のことを考えてない」と反省したという。

 35歳での起業を計画した大和氏は、会社の処理を手伝いながら、営業を勉強しようと考えた。車のディーラーか保険か不動産かを検討し、不動産会社に入った。当時、世の中はITバブル時代。当然、不動産も情報産業だと思っていたが、実体は非常に旧態依然としていた。そもそもPCを持っていない人が多かったなか、一人PCに向かう大和氏は「変わり者扱いだった」という。

 4年半、不動産会社で働きつつ、ファイナンシャルプランナーや宅建そのほかさまざまな資格を取ったりしながら、ビジネスプランを練った。実際に色々な会社を回った。


大阪大学大学院工学研究科 知能・機能創成工学専攻知能創成工学講座 石黒 浩教授
 そのころ、島屋ビジネス・インキュベータが「設立10周年記念事業」として、アメリカ東海岸企業視察旅行を企画した。大和氏はこのとき、日本LSIカードの故・大木信二社長とシステクアカザワの赤澤洋平社長らと知り合う。ビジネスプランを大木社長に見せたが、そのプランそのものは全く相手にされず、当時、和歌山大学にいた石黒教授が研究していた全方位カメラのビジネス化の話に巻き込まれていく。2000年の春のことだった。

 最初は社長を探しているというよりは、むしろ、営業部長を探していたのだそうだ。だが話が進むに連れ、「社長は誰にするのか」、「どうせなら若いほうが良い」ということで、当時37歳の大和氏が社長を務めることになった。それが2000年8月である。

 話を聞いていると、なるほどこうして大和氏の独立精神と起業へのベクトル、着実なビジネスプラン選びの考え方が形成されていったのかもしれないなと合点がいった。前述したように、同社は最初から、全方位センサーだけを対象として捉えていたわけではなかった。科学技術を使って何か感動を与えていく――。最初からそれが企業理念だったという。

 では、なぜロボットに参入することになったのだろうか。きっかけは2003年4月末、ゴールデンウィーク前のことだ。同社に最初から参加していた前田武志氏が、小型ヒューマノイドロボットの脚を持ってきたのである。前田氏自身がラジコン部品を使って自作したものだった。

 片足部分だけだったが、既にバッテリを積んだ状態で屈伸することができた。これを全身分完成させるためにラジコン用のサーボモーターを買うカネをくれというのである。それまでの実績から「前田は会社に損をさせることは言い出さない」と考えていた大和氏は、カネを出すことに決めた。といっても大金ではない。10万円少々である。会社の出費としてはささやかと言っていいだろう。

 そのときは仕事も多忙な時期だったという。ところが前田氏は、大和氏にデモを見せた数日後には、ロボットの全身を作り上げ、ゴールデンウィーク後には歩かせていた。大和氏は「えーっ、こんなのが個人で作れるの?」と驚いたと当時を振り返る。その驚きがビジネスに繋がるきっかけになった。

 もっとも、このときの経緯について前田氏自身は「あとづけで格好いいこと言ってるだけですよ」と笑う。前田氏自身は、ロボットをビジネスに結びつける方法があるとは考えていなかったそうだ。


ヴイストン株式会社取締役の前田武志氏
 話が少し横へそれるが、前田氏の経歴も面白いのでご紹介しよう。前田氏は、学部のときには制御理論を学び、大学院では全方位センサーの研究を当時基礎工学部システム工学科助手だった石黒氏のもとで行なっていた。

 卒業後、ゲームベンチャー「ゲームのるつぼ有限会社」の立ち上げに参加。「るつぼゲームス」としてゲームソフトの移植などに従事したあと、2000年には「やはりロボットがやりたくなって」、石黒氏に誘われて国際電気通信基礎技術研究所(ATR)で開発が始まったヒューマノイドロボット「ロボビー」開発に携わる。毎日ATRに通っていたが、当時前田氏はATRに籍があったわけではなく、いわば「愚連隊」の一人として参加していた。そしてその流れでヴイストンに取締役として参加することになったのだという。

 だが、ロボット自身が商品に成り得るとは、前田氏自身は全く思っていなかったそうだ。そこはやはり、大和氏の手腕がものをいったのだろう。

 何にせよ、こうして誕生したロボットが、2003年8月に開催された第4回ROBO-ONEに登場して準優勝を決め、参加者の間で話題をさらったロボット「OmniHead」である。なお当時の開発記録は今も前田氏自身のホームページで日記として見ることができる。

 同社はこのロボットを改造して自律型とし、ロボットによるサッカー大会「ロボカップ」にも参加した。当時、ロボカップ2005が大阪市で開かれることが決定し、大阪市はロボカップで優勝をめざせる関西発のチームを作ろうと関西の企業や大学を対象に公募を行なった。同社はそれに対して阪大・石黒研究室やロボガレージの高橋氏らとも協力して「TeamOSAKA」を結成して応募した。エントリーしたのは2002年大会から正式種目となった「ヒューマノイドリーグ」である。公募に通った理由としては、当時既にOmniHeadが完成していたことも大きかったのではないかという。


第4回ROBO-ONEにOmniHeadで出場した前田氏 A-Doと戦うOmniHead

 2004年には頭部に同社の看板製品でもある全方位センサを搭載した「VisiON」が完成。リスボン大会で優勝を決めた。その後2005年にはさらに発展させた「VisiON NEXTA」でエントリーし、2連覇を飾った。大和氏らは2004年11月19日には、ロボット自体をキャラクターとして売り込むためのプロモーションや、イベントを行なうための団体「ロボプロ」を運営するための会社、サイバーストーン株式会社を立ち上げた。

 こうして、いわば前田氏の趣味として始まったロボットをビジネス化していくことが同社の転機となったのである。石黒教授も前田氏もロボットがビジネスになるとは思っていなかったが、ロボットが好きだった。大阪という土地にヴイストンがあったことやさまざまなタイミングが合致したこと、それをまとめあげてハンドリングしていく大和氏の腕があってのことだ。話を聞いていると、孟子の言葉「天の時は地の利に如かず。地の利は人の和に如かず」が浮かんできた。


ロボットビジネスの将来

TVアニメ版鉄人28号ロボットを手にする大和氏。昨年は実写映画版の同機を200体完売した
 大和氏は「受益者からお金を取るだけがビジネスモデルではない。何をお客さんに提供できるか。『人がロボット好きなのはなぜか』と考えると、案外、どういうものを造らなくてはいけないかという解は明確」だという。では、ロボットビジネスの将来はどういう方向なのだろうか。

 5月に著書を一冊上梓した。『ロボットと暮らす 家庭用ロボット最前線』(ソフトバンク新書)と題された本だ。前半ではロボットとは何か、産業用ロボットとサービスロボットの違い等について考察が述べられている。中盤は現在の各社が出しているロボットの紹介と課題、大和氏自身の評価だ。ロボット市場は拡大市場であり、ニッチが生まれ続けており、ベンチャーが参入し生き残っていく可能性が高いという。

 いっぽう、ソニーは2006年1月にロボット事業から撤退を発表した。このことも本書では触れられており、このことは「家庭用ロボット開発を10年遅らせることになるだろう」と述べられている。

 後半では、大和氏の考えるロボットの未来像が描かれている。大和氏は、家庭用ロボットは、少なくとも近い将来においては歩くどころか移動機能を持つ必要はないと考えている。基本的にコミュニケーション機能だけを持った、エージェントのような機能を持つデバイスがあればそれでいいという。

 大和氏が「マイロボット」と呼ぶそのエージェントがいる場所は、携帯電話のなかである。そのなかで人間1人1人に常に付き従い、ユーザーの動向や好みを把握する。それがまず普及すべき「ロボット」だという。

 「道具を越えるための方法」の1つがロボットだというのが大和氏の意見だ。感情移入できる部分があること。親和性の高さこそがロボットの特徴だという。いや、むしろ、親和性が高く感情移入できる携帯電話こそが近未来のロボットだというのが大和氏の意見である。

 機械と機械、人間と機械、人間と人間を繋ぐための、親和性の高いインターフェイス。「情報社会のアクセスポイント」が、ロボットの機能だというのが大和氏の描く未来像だ。それを違和感を感じないように、感情移入しやすいようデフォルメしてデザインすることも重要だという。「人が心地よく思う形」があるという。

 そうして、コンシューマ向けにはいったん「頭脳」部分だけが投入されて、荷役などの仕事を行なうロボットはビジネスの世界で徐々に導入されていくという形で普及していくのではないかと考えている。ここ5年、10年は、ロボットの機能もなかなか十分なものにならない。だが人間が「ちょっと駄目な奴だけどつきあってやろうか」と思えるようなプロダクトになれるかどうか。そこが、ロボットの将来の普及における問題だ。

 ヴイストンは、ロボットの製作も全て内製化してコストダウンしている。「お祭りは一通り終わって、淘汰の時代に入っているのかなという気がする」と語る。ロボットに注目が集まり、当初の想像以上に多くのプレイヤーが集まった。それは「誤算だった」という。あまりに過剰な期待が集まったり、さまざまなプレイヤーが参入すると「市場が荒れる」からだ。だがそれもそろそろ終わりではないかという。


同社内の工房の様子 ロボット製作は基本的に内製とすることでコストダウンを図った

 「市場の立ち上がりは少し遅いので、マーケットに向かわずに仕事してきたところは苦労するでしょうね。そして、モノづくりより情報系が先にいくだろうなというのが私の考えです。そのタイムラグは、しわ寄せが来るだろうなと見ています」

 ヴイストンは、全方位カメラにこだわっていたわけでなかったのと同様、ロボットだけにこだわっているわけではない。これまでも収益力がないと判断した技術開発はやめてきたし、自社の持つ技術をうまく示して世の中に役立てるものができれば、別にロボットでなくてもいいという。だがしばらくはロボットが、技術をうまく示す「口」として役に立つだろうと考えている。

 いっぽう、ロボットのキャラクターをビジネスにするサイバーストーンのビジネスも非常に好調だという。ロボットに何をお客さんが期待しているか、そしてロボットに何ができるのか把握しているので、イベントをうまくプロデュースできるのだという。こちらではロボットのキャラクターを立て、ロボットをコンテンツとするノウハウを蓄積していっている。

 ロボットの未来を感じてもらいたい――。現状で押さえるべきことを的確かつ確実に押さえつつ、未来を見据えて逆算して動いている。そんな会社だという印象を受けた。


URL
  ヴイストン
  http://www.vstone.co.jp/
  【2006年3月31日】ヴイストン、「TVアニメ版鉄人28号ロボット」を受注開始(PC)
  http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0331/vstone.htm
  【2005年9月21日】第8回ROBO-ONE in 飛騨高山開催(PC)
  http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0921/roboone.htm
  【2005年6月28日】ロボカップ2005記者発表会(PC)
  http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0628/robocup.htm
  【2004年2月4日】【森山】二足歩行ロボット競技大会 第5回ROBO-ONE開催(PC)
  http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0204/kyokai21.htm
  【2003年8月19日】【森山】第4回ROBO-ONE観戦記【本戦編】(PC)
  http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0819/kyokai12.htm


2006/05/30 00:44

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