3日目のセミナーは、東工大の広瀬教授による講演と、東大IRT研究機構機構長の下山氏が司会をつとめるパネルディスカッションが行なわれた。広瀬教授はこれまでのヘビ型ロボットなどのシーズ研究とその応用研究例を紹介。最後に、ヒューマノイドではなく、さまざまな賢い機械に囲まれた社会が理想であると述べた。ロボット社会の将来はむしろロボットが消えていく社会だという。
パネルディスカッションでは、ITと結びつくことでロボット単体ではなくシステムを作りソリューションとして機能することの重要性が強調された。富士通の内山氏からは各種技術がロボット以外の分野で活用されている例が紹介された。三菱重工業の長島氏からは家庭向けに販売されたこともある三菱重工業の「wakamaru」が、いまは新しい切り口を探るためにオープン化し、プラットフォームとしてさまざまな業態の会社に活用されている例が示された。
いずれにしても、技術先行のロボット単体だけでは、一般の人のニーズに応えることはできないということに研究者たちも気づきはじめており、コンテンツやサービスのプロバイダーたちに期待すると同時に、プロバイダーたちが望めばロボットのハードウェアそのものは提供できる環境は整いつつあるようだ。とはいっても現状のロボット技術でできることは限られている。その限られた能力をいかに、どんなシチュエーションで使いこなすかが問題だ。抽象的な場所ではなく、具体的なシーンをターゲットにした技術開発が必要だろう。
● 人に役立つロボットとは
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東京工業大学大学院機械宇宙システム専攻・教授 広瀬茂男氏
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まず東京工業大学大学院機械宇宙システム専攻・教授の広瀬茂男氏が「人に役立つロボットとは」と題して講演した。
広瀬教授といえばヘビ型ロボット(索状能動体)である。この日もまずヘビ型ロボットの利点と応用、スケートのような移動とヘビの移動の類似性について述べ、「ACM III」、「ACM-R1」など70年代に作成したロボットについて紹介した。ACM-R1は坂道を上がることもできる。広瀬教授によれば、ヘビはいわば陸上を「泳いでいる」ことで移動しているのだという。
また触覚センサを使って迷路のように曲がりくねったところを反射的なものに絡みつくような制御をすることで進んでいける様子や、左右に曲がる節と上下に曲がる節を組み合わせてそれぞれで波を起こすことで自在に動く様子、サイドワインダー(ガラガラ蛇)のように体を押し付けながら横移動していく様などを示した。またヘビは体の一部を浮かすことで、力学的に非常に効率が良い動き方をしているという。それもロボットで実現している。いまだにヘビにはさまざまな発見があるそうだ。さらに最近「ヘビもやったことがない移動方」も発見しており、そのうち学会で発表予定だという。
そのほか伸び縮みするミミズのような動きをするロボットも開発している。2005年の「愛・地球博(愛知万博)」のときに出展されたスムーズに水中を泳ぐことのできる水陸両用ロボット「ACM-R5」の動画を示した。広瀬教授は研究初期のころは渋谷にあったヘビ料理屋でシマヘビを1,500円で買って来て実験した話なども紹介し、会場の空気を和ませた。
現在、MITと海中ロボットの研究をしており、先日もタヒチの海で動かしたという。5mくらいならば海中でも電波は届くそうだ。ただ画像情報を送るのは難しいので光ファイバーを繋ぐことを検討しているという。
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ヘビ型水陸両用ロボット「ACM-R5」
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関節の構造
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ヘビ型ロボットのそのものはシーズ研究である。応用に至るまでの道のりを広瀬教授は紹介した。まず最初に、ろくろ首のようにヘビ型の長い首を移動ロボットにつけることを考えたが、そうなると制御が難しい。そこで上皿天秤のように平行四節リンクを使うこと、補償バネを使った自重補償機構を考えて作ってみた。「ロボットは作ってみなければ話にならない」からだ。うまく動いたが、ばねが重くなってしまう。だが、ばねではなくカウンターウェイトを使って引っ張っても同じことはできるはずである。重りにはコンピュータやバッテリを使うことができる。その後、機構をさらに改良して、鎌首をもたげるヘビのように自在に動く多関節アームができた。
このコンセプトを使って空圧シリンダーを多関節アームのフレームとしたロボットを作った。実際に日産自動車の生産ラインで使われており、現在も継続的に改良中だという。広瀬教授はカルロス・ゴーン賞を受賞したそうだ。
またレスキューロボットにもヘビ型ロボットの研究は応用されている。瓦礫を踏破できるロボット「蒼龍」である。災害現場では繊維性のゴミが多数ある。普通のクローラを動かすと絡んでしまって動けなくなる。蒼龍のクローラはトピー工業と共同で開発したもので、薄い板にゴムをつけた特殊なものを使っているという。
普段は床下点検などの用途として一般の企業に使ってもらい、いざというときには減災に使うというのが広瀬教授の考えだ。「価格の高いロボットを1つ2つ作ってもダメで、社会構造をうまく変えていくことが必要だ」という。しかしながら、まだまだ低価格化することは難しいことがわかったというのが、現時点での結論だそうだ。
他の実用化されたロボットとして階段でも安定して登れるクローラ型の「TAQT Carrier」という乗り物の例も示した。これも数台は売れたがなかなか難しかったという。そのほか、JCO事故を受けて作られた原子力発電所の防災ロボットなども紹介した。現在は東北大にて保管されているそうだ。当日ブースでも展示されていたレスキュー用ロボットのヘリオスシリーズはそれをさらに実用化させたものともいえるロボットで、腕の機能とフリッパーとしても使える移動機能を組み合わせたクローラ型ロボットだ。
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自重補償するヘビ型多関節アーム
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【動画】空圧シリンダーを使ったアームの動き・その1
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【動画】空圧シリンダーを使ったアームの動き・その2
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クローラ型のレスキューロボット・ヘリオスシリーズ
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蒼龍
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TAQT Carrier。実用化はされたが難しいところだという
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脚式では、広瀬教授はクモ型のロボットを開発している。サイズが大きくなると必要な足の太さはどんどん太くなる。また大きくなると重力の影響もどんどん大きくなる。だが機構を工夫することでそれをカバーすることもできる。広瀬教授は1980年代に行われた、パンダクラフ機構を使ったオハイオ州立大学での「アダプティブサスペンションビーグル」の研究事例などを紹介した。バイクのエンジンを搭載し、昆虫のように3本ずつ足を動かすことでバランスを保って移動していくロボットだ。
広瀬教授が数年間、研究を進めているのはアンカーロックボルト工法でかためられた法面の修復用ロボット。斜面をワイヤーと足でのぼっていく半自律ロボットだ。今年の1月には南アルプスにて実験を行ない、来年夏には発表できるのではないかという。
もう一つは地雷探査だ。建機にフレイル(からざお)を使った方式では全部の地雷はとれない。最終的には人間が調べなければならない。それを助けるロボットだ。初期は脚式が良いのではないかと考えていたが、いまはバギー車を使ったロボットを作っている。バギー車の良いところは開発という目で見ると非常に安価であることだという。ただJSTのプロジェクトは今年の春終わってしまうので、スポンサーを探している段階だそうだ。
このほか、宇宙探査用の3輪ローバーや、親ロボットと子ロボットからなる分離合体するロボットなどを紹介した。子ロボットが親ロボットの車輪になっているもので、子供ロボットだけでも動く。アームをひきずりながら動くことで逆にモーメントが出せるのだという。子供ロボットを親ロボットがいつも載せているだけなら余分な荷重になってしまう。そのためこのようなロボットを考案したという。ただこちらは、日本の宇宙探査そのものがなかなか現実化しないので足踏み状態だそうだ。
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バギーを使った地雷処理用ロボット・グリフォン
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【動画】タイタン11号機
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車輪になる子ロボットと親ロボットからなるローバー
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最後に広瀬教授は研究室で開発中のロボットをまとめたCGビデオを見せ、今後のロボットについて展望した。
広瀬教授は、ヒューマノイド研究には懐疑的・批判的であることもよく知られている。この日も反対意見を述べた。大きな理由は、発生学的な制約を受けている人間の形はもともと最適でないことである。ものを削るなら手よりもフライス盤を使うほうがいいというわけだ。生物をヒントにしていても、目的に応じて形を変えるほうがいい。改札のハサミをパチパチと素早く処理する機械よりもSuicaのほうが良いし、アイロンをかけられるロボットを作るよりも、アイロン不要の線維を開発したほうがいいだろうというわけだ。技術進化の流れにヒューマノイドは反しているという。
広瀬教授は、「技術的にできるからやるのではなく、本当に必要かどうかを考えることが重要だ」と強調した。「僕が望む社会はすべての機械がロボット化していくことで、使いやすく効率的で安全になった社会である。ヒューマノイドが街を歩いているような社会ではない」とまとめた。
広瀬教授の考え方は本誌でのインタビューでも詳述している。合わせてお読み頂きたい。
■ 関連記事
・ ロボット業界キーマンインタビュー 東京工業大学 広瀬茂男教授(2006/09/01)
・ 東工大ロボット展示会「先端ロボットの世界」開催(2006/07/24)
● パネルディスカッション:情報技術(IT)とロボット技術(RT)の融合『IRT』で新産業を
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東京大学情報理工学系研究科研究科長 下山勲教授
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3日間続いたセミナーの最後に「情報技術(IT)とロボット技術(RT)の融合『IRT』で新産業を」と題したパネルディスカッションが行なわれた。司会兼パネラーは、東京大学情報理工学系研究科研究科長の下山勲教授。そのほかのパネラーは、株式会社富士通研究所取締役ストレージ研究所長の内山隆氏、三菱重工業株式会社神戸造船所技師長の長島是氏がつとめた。
まず最初に、下山氏が少子高齢化社会におけるIRTについてプレゼンテーションした。2055年の日本の総人口は8,993万人、高齢者率は41%になると考えられている。少子高齢化自体は人口動態からほぼ確定している未来だ。世帯構成も変化する。標準的なファミリーは減り、単身要介護が増えてくる。
そうなると労働力が不足してくる。社会保障費は増大し、家事重負担世帯が増加する。そこにIRTがアシストするテクノロジーとして何かしら対応できるのではないかというのが下山氏らの主張だ。他にも社会制度を変化させるといったオプションも考えられるが、技術的な解決方法もあるのではないかという。
下山氏はスウェーデンにある、脊椎に損傷を受けた人のリハビリ施設を視察したときの模様を紹介した。実際に現場で「ここでIRTは必要とされるのか」と質問すると、「ハイテクで解決できるものもあるのではないか」と答えがかえってきたという。たとえばお風呂やトイレなどプライバシーに関する部分は機械のほうがありがたいという。
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2055年の日本の総人口は8,993万人に
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2055年の日本の高齢者率は41%になる
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IRTを少子高齢化社会における問題解決ソリューションの1つに
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「IRT」とは、「IT」と「RT」を融合した言葉だ。具体的には、人が乗っているなど人間と密着した、かつインターネットと繋がっているようなロボットをイメージしている。たとえばロボットが食器洗い機を使っているとする。食器洗い機を交換したときには、ロボットはそのメーカーのサイトから新しいマニュアルをダウンロードする。こうすれば人がロボットに新しい機械の使い方を教えなくてもいい。インターネットと結びつけることでロボットは便利なものになりえるという。
「インターネットに接続したヒト密着型ロボット」ができることは色々あるという。1つはパーソナルモビリティ。もう1つは食器洗い機やカプセル内視鏡のような賢い道具。それから人間の使っている道具をそのまま扱えるヒューマノイド。場所場所にふさわしい形がありえるという。
東京大学ではIRT研究機構を立ち上げ、世界のほかの国とも連携して研究を進めている。成果製品は東京大学から直接ではなく、メーカーを通して出て行くことになる。やがてはロボットの中古市場や保険など、ロボットの社会基盤が徐々にできていくと考えられる。その上にのせるコンテンツを作るのが大学の仕事なのではないかと考えているという。
下山氏は「ロボットも、『ドンガラ』だけが出て行っても買ってもらえない。どうやったら買ってもらえるようになるのか考えることも大事な仕事だ」と述べ、さまざまな研究例を示した。なおヒューマノイドを使った研究も紹介されたが、ヒューマノイドがそのまま家庭に入るとは思っておらず、しかし要素技術を開発するために買えるロボットはヒューマノイドだから使っているとした。
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IT+RT=IRT
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インターネットに接続したヒト密着型ロボットの応用範囲
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実用へのビジネスモデル
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● 富士通によるIRTへの取り組み
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株式会社富士通研究所 取締役 ストレージ研究所長 内山隆氏
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富士通の内山隆氏は、まず富士通の研究開発用ヒューマノイド「HOAP」シリーズ、サービスロボット「enon」、ホームロボット「MARON」などを紹介した。HOAPはモデルを使わずニューラルネットワークで制御を行なった。MARONは留守宅の状況をカメラで確認するといったロボットだ。
「enon」は流通業界で使ってもらうことを想定したロボットで、各種安全性試験も行なっている。モーターの出力は80W以下に抑えられており、子供の指先がはさまったりしないように機構も工夫されている。ショッピングセンターイオン与野店では実際に運用中だ。フリーな環境で人と一緒に動いているため、センサーが壊れても安全な設計がなされている。子供に人気があるため逆に、腕にぶらさがれても壊れないような設計になっているという。enonは湯河原にある西村京太郎記念館にも2007年9月から導入されており、西村氏の著作のクイズや案内などを行なっている。
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富士通のロボット
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enon
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ショッピングセンターやミュージアムで使われている
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次に富士通のIRT技術について。内山氏は同社のビジョンLSIの発展を中心に紹介した。いまのビジョンシステムはステレオで物体を見て移動体をリアルタイム検出することができるので、ロボットだけではなく監視システムにも使うことができる。また「VPS(Virtual Product Simulator)」という宇宙空間でのロボット開発効率をあげるためのシミュレーション技術も紹介された。このソフトウェアは配線や柔軟物も扱うことができ、ものを実際に作る前に製造上のミスを防ぐことができる。環境配慮設計などにも使うことができるため、年間10億円くらい売り上げているという。
そのほか、ロボットの関節技術を何度も曲げ伸ばしする必要がある携帯電話のヒンジ機構に使ったり、歩行ロボットの歩行パターン生成アルゴリズムを使うことで歩数計の精度を高めることができたという。内山氏は、これらもロボットからのスピンオフ技術だと考えていると述べた。
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ビジョン技術の応用
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VPS(Virtual Product Simulator)
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VPSの応用範囲
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歩数計の精度向上に歩行ロボット制御技術を応用
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下山氏が先に述べたように今後は少子高齢化が進み、老々介護時代がやってくる。認知症も大きな問題となる。そこで富士通では、認知症の高齢者向けパートナーロボットの研究を行なっているという。研究中の鼻部ビジョンカメラで顔認識などができるクマ型形状の擬人化ロボットが紹介された。
現在、IRTのほか、経済産業省の次世代ロボット知能化プロジェクト、ロボットサービスイニシアチブ(RSi)などで、ロボットの新技術開発とソフトウェア標準化の活動を行なっている。RSiでは9月に「RSNP2.0」を公開したばかりだ。内山氏は、日本ロボット学会が経済産業省から委託を受けて作成した、2050年に向けた「ロボット分野アカデミックロードマップ」についても紹介した。
ロボットサービスビジネスの課題も挙げ、基盤となるソフトウェアを準備することで、多様なサービス、体系的なサービスを可能とすることが重要だと提言した。車を大衆化した「T型フォード」ならぬ「T型ロボット」が必要だとし、「『ロボット1台いくら』というビジネスから、情報系も含めたソリューションビジネスへと変えていくことが重要だ」と述べた。
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認知症高齢者向けのロボット
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富士通研究所で研究中のクマ型パートナーロボット
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【動画】愛らしい動き
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次世代ロボット知能化プロジェクト
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RSiの活動
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2050年に向けたアカデミックロードマップ
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内山氏の提言
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プロダクトからソリューションへ
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ユビキタス端末と連携したソリューションの例
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● 「wakamaru」の新たな取り組み
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三菱重工業株式会社神戸造船所技師長 長島是氏
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三菱重工業の長島是氏は、まず最初に2005年に行なったパートナーロボット「wakamaru」の販売事業について「ものの見事に失敗したと思っている」と述べた。そして家庭には結局、「1台も売れなかった」と認めた。なお後ほど質問したところ、しばらく使ってもらったあと、総合的に判断して売却しなかったという面もあるようだ。
ロボットは人に見せれば「かわいい」と言ってもらえるが、買ってもらえないという。おまけに100人に聞くと100人とも望むものが異なる。100人のうち30人が同じ答えをするのであればその機能の実装を目指せばいいが、全部違うとなると全部の機能を備えないと買ってもらえないことになる。そこでもう1回次世代サービスロボットへの取り組みを見直そうということになったという。
だが究極は「鉄腕アトム」という点は変わってないようだ。また世の中の情勢として、社会、人間のなかでロボットが役立っていく時代は来るはずだと考えているという。そこに何か社会的な貢献をしていくことができないかと考え、いったん家庭用をあきらめて、新たな取り組みへとなったのだという。長島氏は「ロボットがもっと近しい存在にならないといけない。アニメのロボットから現実の存在にならないといけない」と述べ、現在のwakamaru活用の模様をビデオで紹介した。
wakamaruの特徴は音声認識とある程度の自律機能である。それをベースにさまざまな展開をすることが望ましい。また、これまでの取り組みから来る知名度もある。だが、どういうコンテンツを提供すれば使ってもらえるようになるのかは三菱重工業だけでは答えが出ない話なので、実際のノウハウを持つ各業種の専門家たちにコンテンツを作ってもらうことにしているという。たとえばショッピングモールでの活用においても、コンテンツは集客手法や動線に詳しい専門家たちに作ってもらっているそうだ。
ロボットを活用してもらいたいという人にオープンなやりかたでwakamaruを提供して、多くの人に使ってもらいたいと考えているという。使い方に関しては各業種の人に任せて、そこにwakamaruというハードウェアを提供するとうやり方だ。たとえば幼稚園に関してはチャイルド社、大型店舗向けでは伸和エージェンシー、会社の受付ではピープルスタッフ、イベントや展示会ではダイワラクダ工業株式会社がそれぞれコンテンツ・サービスを作り、三菱重工業が一緒に運用している。長島氏は苦笑しながら「客寄せパンダとしては使われているので、それがいまの実力かなと思っている」と語った。
wakamaruは基本的に人とコミュニケーションするロボットだ。wakamaruというプラットフォームをベースにいろんな人が利用する中でロボットとの距離が縮まることをねらっているという。
また、それぞれのロボットが異なるソフトウェアを使っているため、現状では互換性がない。サービスロボットのソフトウェアも階層的で、ある程度標準化されたものにすべきだという考えのもと、技術・ソフトウェアの外部提供を試行している。そのような取り組みを続けながら各技術や安全性を高め、それぞれの技術を発展させていくねらいだ。
IRTにおいては、ロボットのセンサーだけであれこれやるには限界があるため、環境側のセンサーと協調する研究を行なっている。「ちょっと気の利いたロボットサービス」を実現することがねらいだ。
ただロボットの技術的な側面は、対象が決まればやがては解決されていくと考えられる。だが普及させるためには、実フィールドでの本当の要求をひろいあげ、それを具体的な技術に落とし込んでいくことが必要になる。東京大学IRTは東京大学の知の結集なので、社会学や経済学の知識にも期待しているという。
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wakamaruの新たな取り組み
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幼稚園、大型店舗向け
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受付案内、イベント貸し出し
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ROBO_JAPAN会場でもデモしていた旭光電機との取り組みや、ロボット演劇にも挑戦中
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技術・ソフトウェアの外部提供
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IRTでの取り組み
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● パネルディスカッション
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司会兼パネラーをつとめた東京大学情報理工学系研究科研究科長 下山勲教授
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パネルディスカッションでは技術的課題とマーケット、そしてセキュリティやプライバシー、安全性などの課題について意見交換が行なわれた。
まず最初に東大・下山教授は、仲間内では「スピードは知能だといっている」と述べた。止まりながらのったりのったりではなく、速く動くと賢そうに見えるからだ。そして研究のなかで、技術的な課題がいくつか見えてきたという。1つ目は、取りあえずいまのロボットは全自動・自律でなくてもいいのではないかということ。かつては自律でなくてはロボットではないと思っていたが、今は人とのインタラクションのなかでロボットが役に立てばいいんじゃないかと思っているという。また、そのなかで人と密着するロボットは小型、軽量、やわらかいもので、違和感がないものにしないといけないと考えているとのこと。
もう1つの技術課題は、ハンドの器用さである。たとえば袋のなかに混ざったものをビジョンを使わず手探りで狙って出すといったことは今のロボットはできない。また、現状ではロボットが自分自身の体に干渉することもあるが、それらの事故が起こらないように、対策していかなければならないと考えているという。
つまり、全自動はしばらく止めておき、人とインタラクションするなかでうまくやっていける機械を目指し、しっかりしたセンサーを作ることで計算しなくても反射的に安全な方向にいけるようなロボットを作ることが大事なのではないかと述べた。
富士通・内山氏も「いまの技術で広がりのあるアプリはなかなか難しい」と同意した。将来の次世代ロボットの需要予測はあくまで、ロボットの機能が上がってさまざまな仕事ができるということを前提としている。「良いものができればもっと広く使われていくのではないか」と述べた。
三菱重工業・長島氏は、時間的なことをどう考えるかにもよるが、と前置きして、少し違う考えを述べた。小型軽量であれば本当に買うのかについては疑問であり、本当にブレイクするためには、技術開発以外の側面も重要ではないかという。「どうすれば一般家庭の人が便利だと思うのか。1つ1つ見出していくことが重要。何かとっかかりができれば、そこから派生して広げていける。どちらかというと、マーケットニーズのところをもっとやっていかないといけないのではないか」と述べた。
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パネルディスカッションの様子
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下山氏はロボットのサービスについて話題を広げた。たとえばロボットを使って老夫婦が孫を見るサポートをという話や、洗濯物をたたんでほしいという要望がある。だがロボットでそれらの仕事をしていいのかどうかという問題もある。家庭内の人間のやりとりを含む仕事に関しては、単純にロボットに仕事を置き換えてすむ問題でもない。ではどんなロボットが使いたいロボットになるのか。1台100万円で買いたいと思うロボットは何か、と話題を振った。
内山氏は老人ホームなど介護施設で使う食事運搬ロボットを作ったときの話を紹介した。ロボットが裏方仕事をやることで、介助する側が人と直接接する時間を増やすためのロボットである。一番大事なことは費用対効果であり、そのようなロボットだと400万円程度で提供しなければならないという。
長島氏もコストの問題について触れ、マスを広げることが重要だとした。ただし、対象としているフィールドで違うと、BtoBであってもロボットに対する要求仕様は全く異なっている。wakamaruは今はハードは極力オープンにしており、いわばゲームのハードウェアとゲームソフトとの関係のようなものを目指しているという。つまり、使いたい人によってソフトウェアが異なるのなら、違うものにしてしまえばいいということだ。1つ1つはニーズが少なくても、100台が100件あれば1万件になる。今はいろいろ確かめるためのオープン性が必要であり、そこから1,000台売れるものが出てくれば、それが世の中に受け入れられるものになるという。「カスタマイズとスタンダードを切り分けながら今はオープン性を高めることが重要なのではないか」と述べた。
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大勢が熱心にメモを取りながら聴講していた
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次に下山氏はIRTについて述べた。IRTの特徴は、ITでロボットやインフラのセンサーを繋ぐことだ。繋がることでロボットは、他のロボットが獲得した情報を共有できるようになる。「実世界でインタラクションしているからこそできるロボットの使い方があるだろう」という。
内山氏はenonは「動き回るサービスカウンターになって欲しい」といわれたという例を紹介した。商品情報をサーバー経由で引っ張ってきてenonが情報提供するというものだ。
長島氏は「ITは、現状のロボットができる有力なサービス。物理的サービスが可能になっても切っても切り離せないだろう」と述べた。いっぽう、ユビキタス社会が実現するにつれて、ロボットが所有あるいは提供する個人情報の管理が重要になってくる。そのようなサービスが発展したときにどんな管理をすればいいのか、もっと大きな取り組みが必要なのではないかと懸念を述べた。
最後に下山氏は「安全」に対する考え方について問いかけた。内山氏は、次世代ロボットのアカデミックロードマップ(ARM)のなかでもそれは議論になったが具体的なところまで話が進まなかったとコメント。だが手本になるのは車だという。長島氏も安全規格は大事だと述べた。だが現状ではロボットの市場はない。いっぽう車、おもちゃ、電子機器、それぞれの製品はそれぞれのなかで法律や規格で運用されている。そのなかでロボットも似た部分を探し、安全について取り組んでいかなくてはならないとした。
最後に下山氏は「いままでロボットは夢で引っ張ってきた。これからも夢で引っ張っていく部分はあるだろう。同時に、産業化が具体的な計画として目の前で出てきつつある。そのときにいろいろ解決しなくてはならない課題が社会的なものも含めていろいろある。大学の貢献も必要だ。ロボットを取り巻く環境が変わりつつある」と述べてパネルディスカッションを締めくくった。
■ 関連記事
・ 東京大学「IRT研究機構発足記念シンポジウム」レポート ~少子高齢化社会を救うロボット技術(2008/03/31)
・ ロボット+IT=IRTは10年後の新産業を目指す(2006/08/07)
■URL
ROBO_JAPAN 2008
http://www.robo-japan.jp/robo/
■ 関連記事
・ ITとRTを使いこなしてロボットを作る次世代の育成が急務 ~「ROBO_JAPAN 2008セミナー」2日目(2008/10/15)
・ 「ROBO_JAPAN 2008」開幕レポート 【会場展示編】(2008/10/11)
・ 「ROBO_JAPAN 2008」開幕レポート 【オープニングステージ編】(2008/10/10)
( 森山和道 )
2008/10/16 13:13
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