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第15回総合福祉展「バリアフリー2009」レポート
~ロボットスーツ「HAL」や本田技研工業の歩行アシストも体験できる
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~自由な発想でつくられた、楽しい大道芸ロボットが集結!
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ヴイストン、秋葉原に初の直営店舗「ヴイストンロボットセンター」、29日オープン
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大盛況の「とよたこうせんCUP」レポート
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ロボットフォーラム「人と共存する車とロボット」レポート
~「人とくるまのテクノロジー展2008」内で開催


名古屋大学エコトピア科学研究所 融合プロジェクト部門 大日方五郎氏
 5月21日、パシフィコ横浜にて23日まで行なわれている自動車技術会2008年春季大会「人とくるまのテクノロジー展2008」の中で、日本ロボット学会(RSJ)と自動車技術会(JSAE)との合同フォーラム「人と共存する車とロボット」が行なわれた。

 司会の名古屋大学エコトピア科学研究所の大日方五郎氏は「クルマがロボット化されている」と今日の状況について述べた。自動車とロボットは共に知能化された機械システムであり、類似点が多い。両分野の連携によるメリットは大きい。自動車技術会では、技術課題についての知識共有ならびに研究促進のために「カーロボティクス研究委員会」を立ち上げて、現在活動準備中だという。

 フォーラムでは、モビリティ、画像処理、コミュニケーション、社会受容性の技術領域に関する講演が行なわれた。


これからの機械のデザイン力

東北大学 大学院工学研究科 航空宇宙工学専攻 スペーステクノロジー講座 宇宙機械学分野 内山勝教授
 まずはじめに「ロボット技術の現状と将来展望」と題して、東北大学大学院の内山勝氏が、基調講演を行なった。内山氏は主に東北大学の研究を紹介して講演した。

 機械工学の立場から見るとロボット技術(RT)とは何か。RTとは自然・人工の環境情報をセンサで得て、それに働きかけるアクチュエータの動きを知能で統合したものだと言える。こう見ると、自動車とロボットは同じだとも言える。センサ、知能、アクチュエータからなるシステム3要素をインテグレーションしたところにロボットが生まれる。ロボットは「20世紀に現れた新しい機械」であり「知能をエンジンとした新しい機械だといえる」という。

 内山氏は、知能化、マイクロ化、生命化という座標軸でいまの機械工学の方向性は切ることができると示した。これからの機械はこのなかでどう作られるかという形で捉えられる。そのためには機械を考え、作り、動かす、または使うための「デザイン力」が必要になり、ロボットあるいは車はその具体的なコンセプトとなりえるという。

 RTにはさまざまな側面がある。一つにはソフトウェアでハードウェアを制御して動かすことによる情報世界と物理世界の統合、すなわちハプティックインターフェイスとしてのロボットだ。触覚や動きを使って情報を伝達するのがハプティックインターフェイスである。

 内山氏は一例としてハプティックインターフェイスを使った脳の手術シミュレーターを示した。オペレータはHMDによる立体的な視覚映像を得て、ハプティックシミュレーターを操作する。

 また、もう一つの例として「ハイブリッド・モーション・シミュレーター」を示した。数値シミュレーションと物理モデルとを組み合わせたシミュレーターだ。内山氏はヘキサ機構のテーブルを使って無重量状態での挙動を模擬した物体を、双腕ロボットが操作する様子を示した。


これからの機械工学の3軸:知能化・マイクロ化・生命化 ハプティックデバイスを使った脳手術シミュレータ

数値モデルと物理モデルを組み合わせたハイブリッドシミュレータ 【動画】無重量状態での挙動を模擬した物体を双腕ロボットが操作

 さらにセンサとアクチュエータを遠距離で繋ぐとテレオペレーションが可能になる。東北大学ではかつて、ドイツの航空宇宙研究所(DLR)と大学とを繋いでアームを動かす実験を行なった。通信遅れによる誤操作を防ぐための動かしては待つ「move and wait」をやめるために、シミュレーションを使って、ほぼリアルタイムの動きをオペレーターに示しながらテレオペレーション実験を行なった。

 この実験を踏まえて、衛星軌道での実験も行なった。1999年のETS-7(「おりひめ」と「ひこぼし」)の遠隔制御実験である。現在は遠隔操作による構造物組み立て実験などを行なっている。

 RTのもう1つの側面は知能である。運動知能を真面目に捉えるためにヒューマノイドを使って東北大学では研究を行なっていた。たとえば2005年に行なわれた「愛・地球博(愛知万博)」のときのHRP-2を使ったインパクト動作、すなわち太鼓叩きは東北大学によるものである。もともとはHOAP2を使った全身運動生成による運動量制御を使った「板割り」をHRP-2で実施する予定だったが、子どもを含む大人数のなかで行なうことを考慮して、太鼓叩きと棒術になったのだという。

 ロボットはメカトロとも関連が深い。メカトロニクスは単純なメカだけではできない機能をソフトウェアを使って行なわせるものだ。ロボットとの違いは、機能実現を機構で行なう(メカトロ)か、知能で行なう(ロボット)かであるという。両者は、お互いに組み合わさることで大きな力を発揮する。内山氏は高速動作するパラレルマニピュレーターや、フレキシブルマニピュレータの例を示した。メカトロの発想を使うことで、たわむような腕のロボットであっても高精度な動作を行なわせることができる。

 最後に最近の東北大学の研究として航空ロボットや、スズキと共同研究しているという自動車生産ラインにおける柔軟物(ハーネス)取り付け作業の自動化研究を紹介した。


宇宙ロボットの遠隔操作 【動画】ETS-7の実験 【動画】遠隔操作によるトラス組み立て実験

HRP-2を使った太鼓叩き 【動画】HOAP-2を使った板割り 【動画】別角度から

フレキシブルマニピュレータ 【動画】フレキシブルマニピュレータによる操作 【動画】航空ロボットの飛行制御実験

 なお内山氏の講演内容は、先日秋葉原で行なわれた「東北大学機械系フォーラム2008」での研究内容公開とも重なっている点が多いので、そちらも合わせてご覧頂きたい。

 内山氏は最後に、これからのロボット技術に科せられている使命についてふれ、「人間を置き換えるのではなく、人間中心・人間支援を行なう人間を助けるようなロボットがこれからは必要なのではないかと考えている」と述べた。ロボットが自律機能を持ちきれないところを人間が行なうことで職場環境を快適化・効率化したり、クルマの運転補助のように人間を助けるといったものだ。アシモフの「ロボット工学三原則」などが示唆的だと考えているという。


ホンダの歩行アシスト制御技術 ~「共振」と「引き込み」を利用

本田技術研究所基礎技術研究センター第2研究室主任研究員 及川清志氏
 株式会社本田技術研究所基礎技術研究センター第2研究室主任研究員の及川清志氏は「歩行アシスト」技術について講演した。先ごろ大阪にて行なわれた「バリアフリー2008」のなかで、希望者が体験できる形で公開されていた技術だ。なお本発表はスライド撮影禁止だったので画像資料がない。

 研究開発の背景は高齢化だという。高齢化に伴い、介護を必要とする人々も増えている。また歩行機能の低下や障害、活動低下による廃用症候群により、自立生活に問題を抱える人も増えている。そこでホンダでは、そのような人の活動範囲を少し向上させ、使えば使うほど元気になるようなデバイスとして歩行アシスト装置を開発しているという。

 開発が始まった1999年当時、装着型アシストの基礎実験のためのモデルは、モーターだけで16kgもあるようなものだった。それはケーブルを引きずっていたので、2000年にはアシスト制御基礎実験を行なうための全部搭載モデルを作ったが、こちらの重量は32kgもあった。

 そこで2003年にはモーターを薄型化、制御システムを小型化。16kgにした。このモデルでは力や動きなどさまざまな評価を行なった。ここまでの機体は制御プラットフォームと呼ばれているという。研究成果のなかから動きのアシストを取り出して、一つのシステムを作ることになった。

 2005年には重量3.5kgのモデルを開発。そして昨年にはデザイン性も加味した重量2.8kgの機体を開発した。


 アシスト手法には「共振」と「引き込み」を応用している。及川氏は、骨の入ったマネキンを吊るし、それにアシスト装置をつけて動かす様子を例として示した。アシスト装置の力は小さくても、外力/振幅の共振が起こると、少しの外力であってもだんだん大きな揺れになっていく。つまり、共振を使うことで非常に小さな力で大きな力を出すことができるのだという。

 また人は同じような動きの外部の力に徐々に引き込まれる性質があり、適切な外力であればアシスト装置からの位相に足の動きが引き込まれるのだそうだ。つまり、アシスト装置のほうからある程度人間の動きを誘導可能ということだ。この仕組みを利用すれば振動子(アシスト装置)側で位相を進めたり減速したりすることで脚の歩調を変えられるのだという。

 では、どんな共振を導けばいいのか? それがすなわち、与えるべき外力の性質(ルール)になる。アシストにあたってターゲットにしたのは2つ。1つは「左右非対称性の改善」、もう1つは「歩行比(ほこうひ)による歩容の矯正」だ。

 「歩行比」とは、単位時間内の歩幅(m)/歩調の比(歩/分)である。この値は、成人では平均0.0063になることがこれまでの研究から知られている。酸素消費量からみると、これがもっとも効率が良く、人はそこに自分の歩きを合わせているのだと考えられている。

 しかしながら、小さな歩幅でちょこちょこと歩いているお年寄りを見かけるように、年齢を経ると歩行比が変化する。これをアシストすることで、歩幅の広い歩き方にすることで、筋肉が衰えることを防ごうというのが歩行アシストの基本的な考えかただ。

 アシストタイミングも問題だ。振り子を単に振るばかりではなく、着地のタイミングもコントロールする必要がある。ホンダの歩行アシストでは、最伸展で膝を曲げるアシストを行ない、遊脚時には脚の振り出しアシストを行ない、接地で伸展を誘発するアシストを行なっているという。

 装置設計はどのように行なったか。アシスト装置は必然的に外骨格構造になる。人のもともとの骨格によるリンクの外に装置のリンクをつけることになるが、そうすると移動軌跡に距離差が発生する。また、太ももをねじったりすることもある。ホンダの歩行アシスト装置は、それらのずれをすべりで吸収して自由度を確保している。及川氏は、実際に膝頭とパッドの距離がどうなっているか、内転、外転、内旋、外旋それぞれの動きをビデオで示し、アシスト装置と人間の足が滑りによって共存していることを見せた。

アシスト装置はサイズが規格化されており、S、M、Lの3サイズが製作されている。それぞれの内寸は人体寸法データから決められたもので、312mm、342mm、372mmとなっている。ほぼこの3サイズでほとんどの人をカバーできるという。「バリアフリー展」で120名に着用してもらったところ、女性はSとMが半分、男性はSはおらず、MとLが多かったそうだ。


 システムは非常にシンプルにできている。腰フレーム、アクチュエータ、大腿部のフレームだけだ。アクチュエータぶ部分には関節角度センサーがつけられている。腰フレーム内にはバッテリと制御回路が内蔵されている。制御装置はブラシレスモータ2系統の制御と、アシスト制御アルゴリズムが一つの制御回路で実行可能。バッテリは携帯電話に使われている小型バッテリを転用、3.7V・1Ah×6セルで2時間の連続アシストが可能だ。

 アクチュエータは20極で24スロット、厚さ29mm、直径98mm、遊星減速機を内蔵した薄型モーターである。重量は550g、最大出力は50W。歩いているときに手が当たらないように薄型にしたが、腰骨が張り出している女性の場合は、これでもまだ当たってしまうので、もっと薄くしたいという。また、電源が入ってないときにも脚の動きを妨げないように、減速比が小さく、ダイレクトドライブに近いものとなっている。

 さて、肝心のアシストの評価はどうか。アンケート結果によれば、「つけたほうがゆったりと歩ける」という声が多く、また10人中9人は歩行比をあげることができたという。だが、うまくひきこめなかったケースもあった。

 アシスト装置をつけて坂道を模した場所を30分間、時速4.5kmで登坂し続けたところ、主観と心拍数の相関を示す値を使うと、アシストがあれば「かなりきつい」が「きつい」くらいになったという。

 また、筋肉活動への影響は、アシスト装置を付けたほうが上昇することが分かった。着用したときに下がっている人もいたが、アシスト装置による引き込みがうまくいかず、歩幅が広がらなかったケースだという。うまく引き込んで歩幅が広がった場合は、筋肉の活動は増大するとおもわれる。なお筋肉の活動は東京都老人総合研究所ポジトロン研究施設の「FDG PET」を使った筋肉活動解析技術を使って計測している。主に活動している筋肉は、腰の中殿筋、小殿筋、それと後腓骨筋、前腓骨筋、大腿二頭筋だ。

 2006年度には女性高齢者を対象に、アシスト装置を継続装用してもらった。期間は運動効果が出ると言われている3カ月間。週に2回、合計40回の訓練を行なった。するとほとんどの人が歩幅が広がり、速度も増した。主観評価では「長い距離を歩けるようになった」という運動能力向上効果以上に、メンタル面で「前向きになった」というアンケート結果が得られたという。


 では高齢者以外の、脳卒中などによる歩行機能障害への適用はどうか。片麻痺で片足にひきずりがある人であっても、アシスト装置をつけると、膝があがり、床とのクリアランスが増加することが分かった。さらに興味深いことに、アシスト装置をつけた影響が外したあと数分経っても残っており、しばらくは脚が上がる歩行ができた。このことからリハビリ効果も期待されるという。またパーキンソン病の一部にも効果があるのではないかと期待されているそうだ。

 2005年度からは中部労災病院リハビリテーション工学センターとの共同研究で、脊髄損傷者への歩行訓練適用研究も進めている。脊髄損傷者への歩行訓練は、「吊り上げ式トレッドミル」で体を引き上げた状態で歩行訓練を行なうことで、歩行パターン再形成を狙う。だがこの手法は患者の負担も病院の負担も大きい。これをロボット技術でサポートすることを狙う。少し大きな出力の130Wのモーターを使って、脚を交互に動かしてサポートする装置の開発研究を進めているという。トレッドミル側からロボットを動かして交互運動を実現している様子が示された。

 アシスト装置はエンジニアだけではなく多くの医学関係者と共同で研究をすすめており、人と共存するロボット、クルマの開発には多くの分野の人との共同が必要だという。また普及には、この装置がどういうものであるのかという社会全体の認知が重要になるという。たとえば、自動車ならば運転免許が必要であること、使い方によっては危険なものであることをみんなが常識として知っている。それと同様の、世間の認知が必要だという。また、着用すると少し気恥ずかしいという声もあるそうで、世の中の受容性も重要だと及川氏は述べた。

 なお、なぜアシスト装置を付けたほうが筋肉の活動が上昇するのかといったことに関してはまだ研究中であり、現在はまだ実際のデータを収集している段階だという。

 本誌でのホンダ「歩行アシスト」装置の紹介は下記のとおり。


関連記事
総合福祉展「バリアフリー2008」レポート
~ホンダが「装着型歩行アシスト」を公開(2008/05/01)


トヨタ「モビリティロボット」

トヨタ自動車 パートナーロボット開発部 第2開発グループグループ長 山岡正明氏
 トヨタ自動車 パートナーロボット開発部 第2開発グループグループ長の山岡正明氏は「モビリティロボット」と題して、トヨタのモビリティロボットの現状について講演した。モビリティロボットは「トヨタパートナーロボット」の一環として開発されている。

 トヨタは、ラインの自動化、複数車種への対応、人のスキルをアシストするロボットなどを製造現場で開発してきた。パートナーロボットは、人と社会のよりよい関係を築ける、人の活動をサポートするロボットとして開発されている。昨年まとめられた「TOYOTA GLOBAL VISION 2020」では、パートナーロボットを中核事業として育てていくとされている。

 安全柵の中からロボットが出て活動するためにはさまざまな技術が必要だ。「パーソナル移動支援」においては「人が行けるところはどこにでも行ける」ことを目指している。また、患者支援を目標とし、介護士・介護士に頼むほどではないが自分で行なうのは大変な作業の支援を行なうためにモビリティロボット技術を活用しようとしている。そのためには、あらゆる路面への対応が求められる。

 従来は平面上を移動していた。これを縁石があっても乗り越えることができるようにし、不整地での移動機構や歩行安定化技術、省エネルギー化技術などがターゲットだ。自律移動に関しては、部屋のなかだけではなく、フロアをまたいだ移動、街中での移動、自己位置の認識、障害物回避能力、雑踏の中でも流れにのった移動を可能にすることを目指している。


トヨタのロボット開発の歴史 クルマの高度化とも相まって福祉分野と製造支援分野でのロボット実用化を目指す

人が行けるところはどこでも行けることが目標 あらゆる路面を自律移動できるように

 不整地対応技術の一例が倒立2輪だ。倒立2輪は車体をコンパクトにしつつ、小回りな旋回ができ、斜面でも水平に保てるといった利点がある。実現のためにはパラメータ変動に対しても制御系を安定化する技術が必要だったが、近年、高精度で安いジャイロ、高性能CPU、ロバスト制御技術などが発達、それによって倒立2輪が実用化されつつある。

 トヨタではクルマのGセンサー、ヨーレートセンサーなどを活用し慣性力センサーシステムを開発、トヨタパートナーロボットのかなりの機種に搭載している。

 山岡氏は倒立2輪技術の例として「モビロ」を示した。左右独立に車輪を上下できるリンク式のアクティブサスペンション「スイングアーム」機構によって段差移動ができる、車椅子型の移動ロボットだ。シートのスライド軸で段差を乗り越えたときの振動も吸収できる。また、昨年モーターショーに出展した持ち運びが可能な「パーソナルムーバー」も示された。

 歩行ロボット技術については、車両制御を応用しているという。トヨタでは「スカイフック制御」という空中に仮想バネを想定した制御技術で車両の安定化技術を使っているがそれを二足歩行ロボットにも応用した。例として、万が一倒れても乗員を保護するシェル型キャビン、ジョイスティックによる自在操作、鳥脚による乗降しやすさを持った「ifoot」や、つま先の関節を追加し、最大4cmジャンプできる跳躍ロボット、それをさらに応用した走行ロボットの様子などが示された。


倒立2輪技術 ロボットに使われている慣性センサーシステム トヨタの倒立2輪ロボットの1つ「モビロ」

1人乗りの移動手段「パーソナルムーバー」 二足歩行ロボット制御には自動車制御から生まれた「スカイフック制御」を応用 【動画】階段を上がるifoot

【動画】つま先を使うことで重心を高くし、腰の負荷を低減し歩幅を広げられる 【動画】関節を柔らかくすることで着地時の足平のばたつきがない 【動画】着地位置補正技術により足踏み状態を人が押しても安定

 自己位置認識と地図の生成技術に関しては、病院内で患者を補助したり、施設内を案内するロボットで研究開発を行なっている。ロボットは車輪速センサを持っており、そこから自己位置を推定し、それをレーザーセンサで補正している。自己位置推定はパーティクルフィルターを使っている。パーティクルフィルターとは今の状態の次に起こりえる確率を持ったパーティクルを仮定し、それを実際の測定結果と比較して最尤推定を行ないながら、同様にまた次の状態を尤度に基づいて推定していく手法である。

 実用化に向けた展開に関しては、産官学の連携が重要だと考えているという。東大IRTそのほかとの共同研究のほか、一社だけではロボット実用化はできないと考えていることから、産産連携も重要だと述べた。また2010年代の実用化を目指し、2008年度以降、ラグーナ蒲郡、トレッサ横浜などで実証研究を行なうという。将来的には、呼べば玄関まで来てくれて目的地でも乗り捨ても可能な気楽な移動をサポートするロボットや、日々の暮らしのサポートをしてくれるロボットの実用を目指す。


病院内を自律移動するロボット 車輪速とレーザーレンジセンサを併用して自己位置を推定 自律移動の基本ロジック

自己位置推定にはパーティクルフィルターを使用 9割の場所でプラスマイナス5cm以下の精度が実現できたという 広い場所のマップも短時間で自動作成可能

他産業同様、ロボット産業創出でも産官学の広い連携が必要 実用までのロードマップ 2010年代に実用化させていくという

 トヨタのロボットに関する本誌のこれまでの記事は下記のとおり。


関連記事
トヨタ、施設案内ロボット「TPR-ROBINA」をトヨタ会館に導入
~ポイントは自律移動と指(2007/08/28)

トヨタ、新型ロボット2体と案内ロボット「ロビーナ」をお台場で一般公開
~2日間だけの特別公開(2007/12/10)

アムラックス東京に集結したトヨタ「パーソナルモビリティ」
~最新モデル「i-REAL」を目の前で見られるデモが土日に実施中(2008/02/21)

クルマは最終的にロボット化する
~トヨタ技監・渡邉浩之氏によるロボットビジネス推進協議会特別講演レポート(2008/02/21)


富士通のロボットにおける視覚認識技術の研究開発

 富士通研究所の内山隆氏は「ロボットにおける視覚認識技術の研究開発」と題して、富士通のロボット研究の歴史と現在を紹介した。内山氏は「コンピュータの究極の姿はロボットになる」と考えているという。

 ロボットには内部情報を検出する内界センサーと、外部情報をとる外界センサーが搭載されている。ビジョンは外界センサーの1つである。ロボットビジョンの用途には、マニピュレーション、ナビゲーション、ヒューマンインターフェイスの3つがあるという。ビジョンにはサイクルタイム以下の高速性や、照明変化への対応などのロバスト性が求められる。たとえば手先を使った作業を行なっているときにその作業速度以下の速度でしか認識ができないと対象をうまく操れないし、つるつるの床に写った影の分離もちゃんと行なわなければならない。

 またロボットが移動するために、内部に地図を持つ必要があるが、それをCADデータを使って作成していたのではSEの工数が発生する。できればロボットが自分で移動しながら自動的に地図を生成し、自動更新することが望ましい。SLAMと呼ばれる技術だ。

 ビジョンには色々な手法があるが、内山氏は特に2眼ステレオ視について述べた。富士通では3つの方法で課開発を進めてきた。年代順にトラッキングビジョン、3次元ビジョンLSI、ステレオビジョンLSIだ。

 一番新しいステレオビジョンLSIはNEDOの次世代ロボット共通基盤開発プロジェクトで開発されたもの。同社のロボット「enon」に搭載されている。汎用CPUであるCore 2 Duoと比較すると大雑把に言って75倍の性能を持ち、消費電力も9Wと少なく、移動ロボットに向いているという。2眼ステレオのカメラを繋ぐだけで、計測点3,000以上でエッジ検出やオプティカルフローなどさまざまな計測をリアルタイムに行なえることを内山氏は動画で示した。

 今後についてはenonを使った実証実験の模様を示しながら、安全性の重要性を強調した。力制御系を使った安全制御ではダメで、本質安全が重要だという。なおenonによる販売情報案内は比較的好評だという。人間の販売員が案内しているとモノを買わないといけないような雰囲気になってしまうが、ロボットだと気にせずに近寄れるため、顧客に十分な情報が提供できる。というわけで、ロボットは売り上げに貢献しているそうだ。また、enonは西村京太郎記念館などにも導入されている。


3次元ビジョンシステム さらに発展させたステレオビジョンLSI ステレオビジョンLSIの仕様

ステレオビジョンLSIの特徴。64PE×4を持つ 画像演算回路の構成 汎用CPUとの比較

【動画】ステレオビジョンLSIを使ったオプティカルフローの計測 【動画】コーナーの抽出 【動画】ステレオマッチング

【動画】屋内での人物データの切り出し 【動画】enonによる視覚ナビゲーションの様子 【動画】enonを使った安全性試験の模様

人とロボットのコミュニケーションデザイン

豊橋技術科学大学 岡田美智男 教授
 豊橋技術科学大学の岡田美智男氏は「人とロボットのコミュニケーションデザイン―現状と今後の課題―」と題して講演した。10年ほどまえには、コミュニケーション研究にロボットを使いたいといっても、なかなか他人にうまく納得してもらえなかったそうだ。岡田氏は、それは、コミュニケーション研究に「コト」的な側面と、「モノ」的な側面があるからだと語る。たとえば、「メッセージ」をどう扱うかがモノ的側面、コミュニケーションを成立する「場」について考えるのがコト的な側面だという。どういうことだろうか。

 自動販売機やカーナビ、風呂の自動給湯器が合成音声で「ありがとう」というメッセージを発しても、何も感じることはない。だから応答しない。人間は応答責任を感じないのである。ではロボットが歩いてきて、「おはよう」と挨拶をしたときに、人間は応答責任を感じるだろうか。あるいはロボットは人間に呼びかけられたときに、応答責任を感じてくれるだろうか。言葉の意味の受容、他者を揺り動かす力はどのようなところにあるのだろうか。それは単にメッセージの有無だけではなかなか議論できない問題がある。

 岡田氏はコミュニケーションのデザインを「コト」のデザインとして捉えるとどうだろうかと提案した。たとえば他者を揺り動かす「場」をどう生み出すか。コミュニケーションには、力学的な力だけではなく「情緒的な力」「場」を介した力があるのではないかという。

 ロボットには場を生み出すことを期待しているという。そのためには「不完結さ」を備えた存在であることが重要だという。不完結さとは何か。体は外から観察できるので、個として完結しているような感じがするが、実際にはそうではなく、周囲と絶えずかかわりあっており、関わりあいによりお互いに意味づけられるというのが岡田氏の考えだ。


 たとえば私たちはふだん、何気なく歩いている。何気なく放り出した一歩を大地が受け止めることにより「歩行」という動作に繋がる。そのようなやりとりのなかで場のようなものが生まれるのだという。会話も同じで、普段の会話のなかで我々はあまり考えて言葉を発しているのではなく、むしろ言葉を発するときにはかなり不完結なまま放り出し、何気ない言葉を相手に投げると、それが相手によってグランディングされ、会話の連鎖がつらなっていく。それが場を生む。「とりあえず自分の言葉を相手にゆだねる、それに対する相手のうなづきやあいづちによるグランディングでコミュニケーションが成り立つ」という。

 機械と人とのやりとりにもいくつかの段階が考えられるという。通常の機械とのやりとりであるボタンを押したりコマンドを出したりするのは「コードモデルに基づく伝達」だ。これ以外に、社会的なカップリングに基づく意味生成的なコミュニケーション、最小の手がかりをを介した「なり込み」に基づくコミュニケーション、相互のなり込みに基づく共感的なコミュニケーションという各段階が考えられるという。

 「む~(Muu)」は岡田氏がATR時代に開発したロボットである。「Muu」という名前は中国語で「目」という意味を持ってる。岡田氏は、「む~」を使った多人数会話や、モノを媒介したコミュニケーションによって、会話の「場」を維持する様子などを見せた。


自動販売機の「ありがとう」問題 コミュニケーション研究からのロボットへの期待 【動画】「む~(Muu)」と積み木を使ったコミュニケーションの様子

 また、もう1つコミュニケーションデザインによって岡田氏らが大事にしているのは、「引き算としてのデザイン」だ。すべてを伝えるのではなく、隠すことで、逆に相手のなり込みを誘う。反響模倣とランダム性で相手の発話を引き出して勝手に意味づけさせる研究などを行なってきた。

 ではどこまでそぎ落とせばいいのだろうか。豆腐のような真っ白くてやわらかいPCなどを開発し、最小の手がかりはどこまで許されるのかといったことを研究している。また岡田氏は「意外と弱さが面白い」と考えており、弱さを周囲の人間に示すことで、逆にサポートを引き出させる存在などを研究している。たとえば自分ではゴミを拾えないゴミ箱ロボットなどだ。ごとごととロボットが歩き、立ち止まったりすることで、子供たちにゴミを拾って入れてもらうことを促す。「相互になり込める関係」をどう築くかが面白いと考えているという。

 なお関西弁は、「ボケとツッコミ」といわれるように、相手による着地をある程度予定しながら言葉を互いに繰り出しているようなところがあるため、このようなロボットからの発話には向いているのだそうだ。


豆腐のようなSociable PC 相互性が成り立たないものは社会的な存在を許されない 「場」のデザインとコミュニケーションの関係

 岡田氏らの研究については下記の記事をご覧戴きたい。


関連記事
「インタラクション2008」レポート
~擬人化されたシュレッダー、弱さを武器にするゴミ箱ロボットなど(2008/03/05)

豊橋技術科学大学 公開シンポジウム「次世代ロボット創出プロジェクト」レポート
~次世代ロボットは和み系?(2008/03/11)


基本は「自立」の支援 ~人と接触するロボットのための安全技術

立命館大学理工学部ロボティクス学科 手嶋教之氏
 最後に立命館大学理工学部ロボティクス学科の手嶋教之氏が「人と接触するロボットのための安全技術」という演題で講演した。手嶋氏は、家庭にいろいろなロボットが来るような時代は決して来ないと述べ、高齢者を幸せにするという考え方が重要だと強調。いわゆるロボットによる介護は福祉ではないと否定した。福祉の現場に行くと、ロボットに介護されたいという人は皆無だという。

 手嶋氏は、介護はあくまで2次的な手段であり、基本は「自立」だという。自立とは、自分で生き方を決めて、生きたいように生きることだ。たとえば本人がご飯を食べたいときに食べることである。ロボットや道具がすべきことは、自立の支援であり、「介護ロボット」という呼び方は適切ではなく「介護支援ロボット」「自立支援ロボット」という呼び方にすべきだと述べた。介護の主体はあくまでも人間だからだ。

 手嶋氏は自立支援ロボットの一例として「MANUS」を示した。市販のアーム型ロボットで、車椅子に取り付けられる。日本ではテクノツールからおおよそ200万円くらいで販売されている(本誌でも以前「第33回国際福祉機器展レポート」で簡単にレポートしている)。市販されて15年経つが、まだ世界で300台くらいしか売れていない。だが、使っているユーザーはこれがなければ生活できないと語っているという。用途は食事や整容(顔を洗う、髭剃りなど)である。

 また、体の一部を掻いたりするのにも使っている人が多いそうだ。もちろんロボット研究者や開発者は想定していない使いかただ。しかし、ほとんどの人がかゆいところをかくのに使っているという。

 また面白いことに、食事の後片付けをやる人はいないそうだ。後片付けはヘルパーに任せる人が多く、ロボットアームを使っていても、あくまで、自分のやりたいことしか自分ではやらないのだそうだ。

 つまり、もし道具あるいはロボットを開発するのであれば、食事の後片付けのような面倒に思われることは全自動にし、その一方で、やりたいと思うことを支援できるような道具を作るべきだとうことである。


ロボットに介護してもらいたい人はいないという オランダ製の「NAMUS」

【動画】車椅子に取り付けたアームロボット「MANUS」を使っている様子 ほとんどの人がかゆいところをかくのに使っている

 対人サービスを行なうロボットは、仕事をするためにある程度のパワーが必要だ。だがアクチュエーターのパワーを上げると危険性も増す。だから力を絞ることになるが、そうすると仕事ができなくなるというジレンマを抱えている。

 たとえば抱き上げ介護支援ロボットがいくつか開発されている。介護者が腰痛になってしまうからだ。人を抱き上げるためのものなのでパワーは大きくなければならない。だがあまり大きいと危険だ。実は人間による抱き上げ介護場面では、腕が滑ったり力が足らなくて被介護者を落としてしまうのは日常茶飯事なのだという。だが「人間でも落とすのだからロボットだって落としますよね」という言い訳は、まず通じないだろう。機械による安全・安心は難しい。

 安全とは、受容不可能なリスクからフリーであること、とされている。だが受容可能リスクは時代によって変化するし、ケースによっても異なる。例えば自動車は毎年死亡者を出しているが、受容されている。いっぽう、ほとんど死亡事故を起こさない産業用ロボットは非常に危険なものだとされている。産業用ロボットの場合は重視されるのは労働安全であり、ロボットを導入して利益を受けるのは企業だ。だが危険にさらされるのは労働者である。つまり産業用ロボットの場合は利益を受ける人と危険にさらされている人が異なるため、利益対効果はいえない。


 ではサービスロボットはどうだろうか。多くのケースで利益を受ける人と、危険にさらされる人は同じであると考えられるという。だからロボットが便利だと認識されるようになれば、サービスロボットも受容されるかもしれないという。

 実際問題、許容されるケガはどの程度だろうか。手嶋氏は、皮膚組織の外傷くらいだろうと考えており、そのためには要するに速度が十分遅くて与える力が小さければ問題ないと考えているという。だが速度が遅くては仕事ができない。そのためには衝突する力を制限するほうが良いのではないかと考えられる。その方法は3つ。インピーダンスコントロール、柔構造、トルク制限機構だ。ただ単に柔らかい構造ではダメだ。例えば弾性エネルギーが蓄積されてしまい、ムチのように、一瞬、ものすごい力を出せてしまうことがあるからだ。弾性特性や粘性特性などにも基準が必要だという。

 そのために異方性のダンパーや、ローカルな電気回路と機構だけで人間の反射を模擬した機構を研究中で、ロボットアームに組み込めるようなものにするのが今後の課題だという。またフェールセーフトルクセンサを作り特許も出したが、どこの企業も買ってくれなかったそうだ。問題点がまだあることもあるが、なかなか安全に実際にコストを払おうとする姿勢がないこともまた課題という。

 また本当に重要なことはロボットである必要があるのかと考えることだ。目的を果たすために本当に福祉ロボットでなければならないのか考えることが必要だ。工場内ですらうまく操作できないことがあるものが、家庭で普通の人に使いこなせるのかという課題もある。いずれにしてもロボット研究者自身が福祉現場でもっとニーズを把握することが必要だという。

 なお福祉ロボットに関する国際会議ICORR2009が、2009年6月23日~26日の日程で国立京都国際会館で行なわれる予定だ。


直動式の3次元力制限機構 フェールセルフトルクセンサー

URL
  人とくるまのテクノロジー展2008
  http://www.jsae.or.jp/expo/

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第2回安全工学フォーラムレポート(2007/02/02)


( 森山和道 )
2008/05/23 18:32

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