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超重量級の扉を開いた「OmniZero.7」はどうやって生まれたか
~第14回ROBO-ONE総合&重量級優勝・前田武志氏インタビュー

Reported by 梓みきお

第14回ROBO-ONEで優勝を果たした前田武志氏とOmniZero.7
 二足歩行ロボットの競技会として広く知られている『ROBO-ONE』。2002年の第1回大会から6年、常連と呼ばれる参加者も少なくない。Team OSAKAでも中心的な役割を果たしているヴイストン株式会社の社員としても知られる名ビルダー・前田武志氏もそんな1人だ。第4回大会からROBO-ONEに参加し続けた同氏は、予選で何度も1位をとりながら、1度も決勝で「優勝」を味わっていなかった“無冠の帝王”だったが、2008年9月に行なわれた第14回ROBO-ONEで超大型機「OmniZero.7」を操り、ついに念願の初優勝を果たした。今回はその前田氏にインタビューする。


第1回ROBO-ONEは観客席にいた

――苦節○年、ついにROBO-ONE本大会での初優勝、おめでとうございます。

【前田氏】「ありがとうございます(笑)」

――二足歩行ロボットのビルダーとしては、第4回ROBO-ONE(2003年8月)のときが初めての参加だったわけですね。


第1回ROBO-ONEの様子。よく見ると観客席に前田氏が……
【前田氏】「そうですね。ただ、見に行っていたのは第1回(2002年2月)からです。プレ大会(2001年9月)があるのは知らなくて見られなかったんですが、そのあとは全部見に行ってました。見に行ってるときはほぼ、最前列で見ていたと思います」

――二足歩行ロボットを作りたい、という意識は元々あったんですか?

【前田氏】「どうですかね……。私は「二足が作れそうだな」と思ったんで、じゃあ作ってみたら面白いかなと。何でROBO-ONEを知ったのかはちょっと思い出せないんですが、そんなもの個人で作れるとは思ってませんでしたから。ただ、もともと機械は好きでしたから、例えば「サーボモーターが何であるか」といった(二足歩行ロボットを製作するための)要素技術のことはだいたいわかっていたわけです。その、自分の持っている知識を伸ばしていった、ちょっと先にあるものとして二足歩行ロボットが見えて、届くかもしれないと思って見に行ったんですね」

――第1回が終わってからすぐ作り始めたんですか?

【前田氏】「いや……第1回の時は自分がマネできるかどうか確信できなかったんです。でも、第2回のMetallic Fighterの時には、ロボットの中で何が起こっているのかが大体わかってきて、自分がマネできる領域だな、というのが理解できたんですね。このやり方でいったらロボットが動くところまでいけるかな、というのがわかったので、設計を始めたんです」


第4回ROBO-ONEに出場した前田氏初の二足歩行ロボット「OmniHead」
 前田氏のスタンスがよく現れているのはこのコメントかもしれない。第1回ROBO-ONEを見て「すごい」と心を動かされても、すぐに手を動かして作り出さず、次の大会まで見て、「できる」と確信したときに初めて行動を起こしたのだ。

 そしてその「できる」という確信が形を取って現れたのが、第4回ROBO-ONEに出場した「OmniHead」である。前田氏にとっては初めて製作した二足歩行ロボットでありながら、ボールを放り投げるデモや安定した動きで予選を2位で通過。本選では連覇を目指していたA-Doの前に屈したが、チャレンジ課題として本大会の1コーナーとして開催されていた、階段を上って下りる「ROBO-ONE Stairs」で見事に成功を収めるなど、“スーパールーキー”の印象を参加者/観客の区別なしに焼き付けたロボットだったといえるだろう。

 前田氏はたぶんすぐに優勝するだろうと思われていたし、じっさいに優勝できそうな機体を何度も送り出していたのだが、そこからじつにまる5年以上も優勝できなかったのは、運命のいたずらというほかはない。


前田武志氏
――他のビルダーさんから冗談半分に「前田さんは本気で勝ちにいってない」とよく言われていましたね。

【前田氏】「どうしてでしょうね(笑)。毎回ちゃんと勝ちに行っているつもりなんですが」

――今回、スパーリングはやられたんですか?

【前田氏】「“.7”は相手がいないんで(笑)。大会前のニュースリリースのときにALCNON?(F1-Project with 大阪産業大学テクノフリーク部)とスパーリングできるかと思ったんですけど、結局どっちもあまりいい動きができなかったので」

――“.7”以前の、小さいロボットのときはスパーリングはされていたんでしょうか?

【前田氏】「基本、スパーリングの相手はいないんです。操縦はやっぱり場数だと思うんで、会社の中や家にスパーリングの相手がいる人はだいぶ有利なんだろうなって思います」

――……居そうですけどねぇ?(インタビューが行なわれたヴイストン社内を見渡しながら)

【前田氏】「そう……ですね(笑)。ですが、たとえば仕上がりがROBO-ONE前日だったら当然スパーリングする時間なんかないですし。そういったスケジュール面のほうが問題としては大きいです。今回も相手を見つけることはできたかもしれないんですけど、プレスリリースの時点で「まだまだ」ということになれば無理ですから」


――普通のロボットは机の上でモーションを作りますが、“.7”の場合はどうやって作っているんですか?

【前田氏】「スタンドに座った状態で電源を入れて、あとは動かしながらです」

――普通のロボットみたいに、ハンガーで空中に浮かせて作るわけではないんですね。

【前田氏】「このロボットに関しては違いますね。いろんなところに余計な負荷が掛からないように、1時間立ちっぱなしにはさせないとか、そんなことはやっていますが。今まで作った大型のロボットでも、ハンガーがいるんじゃないかなと思って作ったりもしていたんですが、結局掛けたり外したりがめんどくさくなって使わなくなるんですよ。モーション作っている最中にハンガーに当たったりしますし。“.7”は仕事でもないし、面倒なので最初から作ってません。仕事のロボットの場合は、自分がモーションを作るわけではないので、やっぱり作っとけという話になります」

――モーションそのものは、普通のロボットと同じプログラムのやり方なんですか?

【前田氏】「いわゆる普通のポーズで作っていくモーションですね。歩行は計算歩行です。マイコンボードもVS-RC003を使っています」

――相手を倒すモーションを作るときにダミーを倒せるようにとか。

【前田氏】「もちろんちゃんと相手を立ててやります。ゴミ箱とか、自分が立って、挟まれたらどうなるだろうって、自分がはさまれたこともあります」


OmniZero.7 【動画】軽くデモを見せていただいた。巨体ながらも安定した歩行 【動画】攻撃モーション

前田流ロボット設計

 前田氏の戦績を振り返ってみると、前述の第4回・2位を皮切りに、1位と2位を4回ずつ獲得した予選での強さが際立っている。「格闘に強いだけのロボット」では取れないといわれるROBO-ONEの予選で高得点を得る秘密は、どこに隠されているのだろうか。

――前田さんは毎回新機体を作っていらっしゃるんですが、設計のコンセプトは予選デモンストレーションを主に意識したものなんでしょうか?

【前田氏】「それは両立させようといつも思っていますね。……でも、どちらかというと、予選の演技でまず「これをやる」と決めて、そして格闘も弱くならないようにしようという流れです。格闘を先に作って予選をあとで考えよう、ということはないですね。片方を捨ててるとかはないですよ」

――以前「誰もやったことのないことをするのが好き」というお話をされてましたよね。

【前田氏】「ROBO-ONEの予選は課題(規定演技)があるんで、まず課題はしっかりやろう、というのは意識してました。そのほかに何か面白いことを1つくらい入れとかないと、というのもあって、毎回、余裕があれば何か考えて新しいことを入れる、と」

――「次、何やればいいんだろう」みたいに、ネタ切れにはならないんですか?

【前田氏】「それは毎回ですよ。私としては今回(13回)は、“ロボットが大きいから新しい”っていう以外に何も新しいことを入れられなくて……。ダンスもその前(12回)に新しいこととしてやった「リズムに乗ったダンス」の焼き直しみたいなのをやってしまったんで。そういう意味では、私としては良くなかったと思います」

――でも、予選2位。

【前田氏】「それは私の予想よりは上をいったなと。2位でラッキーって思いました。新しいことができなかったんで。でも、コレはすごいだろう。1位だろうって思ったときも1位じゃないんで、私の予想って当てにならないんですよ(笑)」

――その、自信があったときというのは第何回なんですか?

【前田氏】「もう忘れちゃいました(笑)」


 新しいことをやる、という意識は、ROBO-ONEの上位入賞者に共通のものだ。特に前田氏に話を聞いていると、この「新しいことをする」ということこそが、自分に課した“規定演技”であるかのような口ぶりだったのが印象的だった。

――ロボットはどれくらい時間をかけて設計されているんでしょうか? 前田さんのサイトを拝見していると、最近は毎回「気がついたらこんな時期なので図面を書いてみた……」というような書き出しなんですが(笑)。

【前田氏】「だいたい2カ月くらいですかね。半年サイクルでやっているROBO-ONEの設計に半年かけていたらパンパンなんで、やっぱり長くても3カ月、短くても2カ月ですね。(大会の)1カ月前に設計を始めてるっていう状況は、たぶんないと思います。

 典型的なのは1カ月で設計して、1カ月で製造して、モーションを作ったりとかその他のことをやるのが最後の1週間くらいっていうスケジュールですかね」

――あとから振り返るとギリギリでやっていらっしゃいますよね。

【前田氏】「いつもそうです(笑)。余裕はないですね」

 前田氏のOmniシリーズの滑らかな動きや、独創的な予選デモを知っていると意外に思えるが、機体はパーフェクトに仕上げて、余裕しゃくしゃくでROBO-ONE本選に臨む……なんてことはないという。

【前田氏】「できれば余裕を持たせたいんですが……ちゃんとスケジュールを引いていれば、最初のほうのキツさと最後のキツさは同じになるはずじゃないですか。でも、やっぱり最初は楽で、だんだんしんどくなってくるんで、やっぱりスケジュールの引き方が甘いんだろうなと思ってます」


OmniCovered(写真:森山和道)
――デザイン(外見)のほうなんですが、最初の頃の“Omni”はアルミフレームむき出しでしたが、OmniCovered(第6回)から外装がついてますよね。前田さんの中には、“Omni”シリーズの外見に反映されている、あこがれのロボットのようなイメージはあるんでしょうか?

【前田氏】「ビルダーの中では珍しいほうだと思うんですけど、じつは好きなロボットはあんまりないんですね。例えばガンダム好きかと聞かれたら、ガンダムのプラモデルは子供のころ作ったきりですし、最近のガンダムは見ていませんし……それほど好きじゃないんだろうなと思いますね。

 逆に目標というか、ASIMOは良くできてるなぁと思いますね。自分でASIMOに追いつこうというわけではないんですけど、すごく良くできてるなと思います。技術者として見たときにですね」

――そうすると、前田さんがロボットから感じる魅力というのは、憧れとかではなく、工業製品としてのものなんでしょうか?

【前田氏】「そうですね。技術的な面からの、「ちゃんと動く」とか「耐久性がある」とか「よく考えられてる」といった見方ですね。別の言い方をすれば、自分が作るとしたらどうなんだろうっていう見方です。手の届かない、ファンタジーの世界の何かに感じる魅力ではないですね」

――ご自分で作られるときも、そういった方向でしょうか? 「カッコイイ」とかを全く考えていないわけではないですよね。

【前田氏】「まあそれは、あと付けでは……。やりたい動きを作ったあとで、これくらいはやろうかなと」

――ということは、今回の外装(全面を真空成型で作り、衝撃を吸収させる、肩部分はEVAを使用したという)は機能としての外装なのでしょうか?

【前田氏】「必要な機能だけならもうちょっとサボることもできたんですが、結局一番忙しい最後の1週間くらいを掛けちゃったんです。私としてはやりすぎたかなって(笑)」

――前田さんの最近のロボットの頭が共通なのは?

【前田氏】「CADで作るのが楽なんで、これに逃げてるっていう感じですね。もっと凝った複雑な形状にすると、もっと時間が掛かってしまうんで。たとえば、絵を書く人(デザイナー)がいて、CADを起こす人がいてという分業をすると、デザイナーは制約無しに好きにデザインできていいものができる、作業する人はしんどいけど良いものもできるということがあると思うんですよ。でも、私はどちらも同じ人がやってるんで「作るのしんどいし、これくらいでいいや」という妥協が生じちゃいますね。やっぱり設計が楽な形状とかね」


ロボットの設計には、まずルールありき

Vstone ティクノR
――前田さんが設計したロボットは、今回優勝した「OmniZero.7」だけではなく、ロボカップのティーンサイズに出場した「Vstone ティクノR」なんかもあるわけですが、強いサッカーロボットと強い格闘ロボットで、設計の時点から変わってくる構造というか、そういったものはあるんでしょうか?

【前田氏】「もちろんルールが全く違うので、足裏の大きさや重心を合わせなければいけない、というのが最低限の違いですね。(どちらの競技も)ルールの中でやっていくのが最初で、そこから、言葉は悪いですがルールの隙間を突いていくようなことになると思うんです。

 例えばロボカップだとPKという競技があって、そのポイントが大きいんです。だから「PKだけできればいい」と考えれば、ロボットは軽いほうがいいとか、キックだけ強いロボットを作ることができるんですよ。格闘の場合は腕の力が重要になるんですが、サッカーでは腕は使わないんで、棒でいいくらいのものです。ただ、結果的にティクノRと“.7”はまだ似ているほうかなと思いますね」

――突き詰めると違いはあまりないんでしょうか?

【前田氏】「ティクノRは、競技の中で敵のロボットと絡むようなことはそもそもないようなルールになっているロボカップ用なんです。だから、転倒は「基本的にない」と思って設計してもいいんですね。とはいえ、練習中にも転んだんで、そういうわけにはいかないだろうなと、ある程度は衝撃吸収装置をつけたんです。それでも足りなくて本番で転んだときに壊れたことはあったんですね。10回以上は転ばしていると思うんですけど、壊れたのは1回くらいだったかな」

――ROBO-ONEビルダーの皆さんに話を聞くと、大きいロボットはやはり壊れやすいという方が多いです。

【前田氏】「ROBO-ONEは絶対転倒があるじゃないですか。なんで、絶対こけるっていう意識で、“.7”はティクノRよりもずっときっちり衝撃吸収装置をちゃんと作ってますね。“.7”は10回以上こけてますけど、壊れてないんで、ちゃんとできてるんだろうなと」

――結局最後まで致命的な破損がなかった?

【前田氏】「外装は割れたんですが、中身は大丈夫でしたね。作ったほうからすると、組み込まれたショック吸収機構が有効に働いたと主張したいところです。なくても壊れなかったかもしれないですが(笑)。転倒に関する機構の設計が違いですかね」


各所に組み込まれたスプリングが衝撃を吸収する
――衝撃吸収装置を組み込んだのは“.7”が最初ですか?

【前田氏】「ROBO-ONE用だと最初です。先ほど言ったように、ティクノRにはちょっと入っているんですけど、ここまで全身に適用したことはなかったですね」

――これまで採用しなかったのは、採用しなくても壊れないだろうという判断ですか?

【前田氏】「昔はというか、ロボットが軽ければ必要ないと思うんですよ。実際大きくなって、やっとそういうものが必要になった、痛感したということですね」

――使用しているサーボモーターは、今回非常に強力なものになっていますよね。(VS-SV3310。トルク327kg・cm)

【前田氏】「そうですね」

――ヴイストン社と日本遠隔制御(JR)さんがタッグを組んだプロジェクトで開発されたものですが、前田さんが今までロボットを作るときに不満だったことがフィードバックされているんでしょうか?

【前田氏】「トルクが足りない、というのが一番だったので、それは解消されましたね。一つ前に100kgf・cmのサーボ(VS-SV1150。115kgf・cm)を発売しているんですが、その時点でフィードバックしたいことはすべて入れましたね。ケースをアルミにしたり、取り付け用の穴を開けていたり」

――全身には何個使われているんですか?

【前田氏】「大きいほう(SV3310)が10個、小さいほう(SV1150)が11個ですね」

――作るときに怪我をしそうになったことはありませんか?

【前田氏】「この前のロボット(第13回・OmniZero.6。SV1150を使用)でもだいぶ気をつけていたんですけれども、今度はそれよりももっと力があるんで、何倍も危ないなと思ってました。小さな半径で挟むような場所を作らないようにしないといけないんですよ。ですから、設計の段階で指を挟むところを無くすか、閉じきっても指の太さのぶん、ちょっとだけ残るようにしたりしましたね。小型のロボット作るときは、モーションを作ったりしている中で指挟んで怪我をしたりしたんですが、今回は気を使っていたんで、1回も怪我しなかったんです。ちゃんと気をつけていれば防げるんだって思いました」


“重い”ロボット

右側がOmniZero.6(写真:平沼久奈)
――昔の前田さんの日記を拝見すると、大きいロボットを作った後に「でかくて重いのに負けてもしょうがないけど、小さくて軽いもののほうが楽しいので、そちらを作る」と書かれていたことがあったんですが、前回、今回となぜ続けて大きなロボットになったんでしょう。

【前田氏】「だいたい今までは重いの作って、でかいのはしんどいし動かないんで、反動で小さいの作って、軽いと弱いから反動で……っていう繰り返しだったんですね。ただ、前回のロボット(OmniZero.6)はけっこう大きくなったんですが、5kgでもそこそこ動けることができたんで、私はすごい気に入ってたんですよ。それでキープコンセプトで、さらにこの上だ、という流れですね」

――今回のリングは“.7”がキビキビと動くには狭かったですよね。

【前田氏】「このリングだと、真ん中で転ばないと起き上がれないんですよ。大きいほうが不利っていう面もありますね。ほとんどリングアウトを意識しなくていいリングであれば、また違ったんでしょうが」

 前田氏は「たぶん皆さん“動かない(ロボット)”とおっしゃるんでね……それでもいいですけど」と苦笑する。もっと別のフィールドであれば、別の戦い方で証明できたのに、という意識もあるのだろう。それは、大型機である“.7”にとっても、また対戦相手の一般的なサイズのロボットにとっても不幸だったとしか言えない。

――今回は極端に重い大型機が出てきて、極端な勝ち方をしたために、参加者の間でもいろいろな意見が出ていました。

【前田氏】「重いロボットが強いのなら、重い「だけ」のロボットを作ってもよかったんです。重い「だけ」のロボットをですよ。でも、私は人型にして、外装も着けて、それなりにロボットらしくしたつもりなんですけどね。まだ足りないですか、という感じです」

――圧倒的に違いすぎた、というのはあったかもしれないですね。

【前田氏】「ショーとして見たときには、強そうなほうがそのまま勝ってしまうみたいな試合は面白くないとは思います。予想外のことが起こらないじゃないですか。こっちは必死でしたけどね」

――大きい機体なら楽というわけではないんですね。

【前田氏】「大きいサーボがあったららくらくロボットが作れるんじゃないですか、という感想をもたれることもあるんですが、そんなに楽なもんじゃないですよ」


――どんな苦労があったんでしょうか?

【前田氏】「モーション1つ作るのでも、重いし危ないし、肉体的にしんどいなというのが1つ。あと、いろんな場所に想像を絶するような力が掛かるんで、部品が壊れたり、曲がったりっていうのがあります。私は仕事で大きいロボットを作ったり、5kgの機体を作ったりしていて、大きいロボットはこれが初めてじゃなかったので、それを反映してまあまあいい機体にできましたが」

 前田氏が「10kgくらいかな?」と思っていたのに、実際に計ってみたら19kg、という話も、ここに関わってくるという。

【前田氏】「サーボを全部足した重さとそれ以外の部品の重さの比率は、小型のロボットだと40から60%、だいたい50%前後なんです。“.7”はサーボ全部の重さがだいたい5kgくらいなんで、目標として10kgくらいで作れれば、サクサク動くロボットが作れるんだろうなと思っていました。あと、最終的に重心を測ってみたら重心位置が微妙だったので、頭に500gくらい重りも積んでいます」

――大型機を作りたいなという人に、何かアドバイスはありますか?

【前田氏】「小型機を作ってからのほうがいいですよ。いきなりこれやるのはすごい大変だと思います。小型機をそこそこ満足行く状態でできるレベルに動かしてから行くほうが楽だと思いますね。最後に行くルールが大型機だとしても、小型機を経由したほうがスムーズだと思います」

――お金があるからといっていきなりSV3310を20個買うなと。

【前田氏】「それをやると、問題が起こったときにそれが小型機でも起こりうる問題なのか、それとも大型機特有の問題なのかを切り分けできないじゃないですか。あとは、ロボット一般のコツみたいなものは先日の講演でも紹介させていただきました」

――こういった材料で、これくらいの厚さで……というのも、そういった経験からなんですよね。

【前田氏】「そうですね。ですから、“.7”を見て真似するのはある意味手堅いですよね。そこそこ動いてますから。これから外れちゃうと、いいかもしれない、悪いかもしれない、未知の領域に入っちゃいますけど、これと同じものなら同じだけの動きができるんで、基準としてはいいと思います」

――とはいっても、モーションは自分で作らなくちゃいけませんからね。

【前田氏】「そうですね。でも、そんなに特殊なことはしてないですよ。そこそこ市販品で、大きさ以外は普通に作ってますんで」


ALCNON?(写真:森山和道)
――ALCNON?と“.7”のバトルが見れたのは、良かったです。

【前田氏】「あれがなかったら、ほんとに腕振り回して勝っただけって言われちゃうんで。あのときは負けるかもなと……確か2本とられましたよね。だから実際危なかったですし。そこそこいい試合ができたんだろうなと思います」

――リングが壊れないか心配でした。

【前田氏】「多少たわむくらいは平気なくらい安定してたんですけど、リングが抜けたりとかね。けが人が出なくてほんとに良かったなと」

――あまり危険物扱いになるのはちょっと嫌ですよね……。先川原さんや西村さんが「まさかこんなにきちんと動く、あんなでかいのが出てくるとは思わなかった」って言ってました。

【前田氏】「そうなんですよ。だからちょっとやりすぎたかなと。でも、ルールではOKですから、他に誰かがやっちゃったかもしれないし。まあまあ、これでルールが変わるんだったらそれで良しなんだと思いますよ」


タイム勝負もしてみたい

従来サイズのマウス(左)とハーフサイズマウス(写真:三月兎)
――サイトを拝見したんですが、マイクロマウスとかにも興味があるという記事がありましたね。

【前田氏】「やりたいなというのは頭の片隅にずっとあるんです。2008年からハーフサイズのマウス競技が始まったじゃないですか。あれは私にとってはチャンスだったんです。というのは、ルールがガバッと変わるときは、新規参入しても蓄積されたものがない人同士が戦うんで、ちょっとは有利かなと。作るものは小さくなって難しくなるんですけどね。結局何もやれていないんで、何も偉そうなことはいえないんですが」

――ROBO-ONEやロボカップであったり、ヴイストン社内で開発しているものだったりとかが忙しいんですか。

【前田氏】「いや、やっぱりやる気が足りないんだろうとは思いますね。どんなに忙しくても飯は食うし、飯喰わないと死んじゃいますけどね。ほんとにやろうとすればできるんだろうなと。ROBO-ONEやめるとか、極端な話仕事をやめてマイクロマウスやってもいいわけですし。時間がないって言うのは言い訳だなって思います」

――ロボットを作る会社に居ながら、プライベートでもロボット作りなんですね。

【前田氏】「会社では研究開発部門の長みたいなことをやってますが、ROBO-ONEのロボットはプライベートです。私が作りたいものを造っていて、会社に協力してもらえる場合には部品を買ってもらったりはしてます」

――ROBO-ONEを始めるときは、それまでのプライベートを削って?

【前田氏】「削るも何も、ROBO-ONEに関してはプライベートの時間全部突っ込んでやってますね。大会の1カ月~2カ月前からどこにも出かけず、家族の顔も見ずって感じでやってますね。とはいえ、寝に帰ってるんで、まだ平和なほうかもしれませんね(笑)」

 前田氏は「バトルが運だけだとは思っていませんよ。ここが強調されるとバトルで勝っている人に大変失礼な話だと思うんで」と前置きした上で、こんなことも話してくれた。


【前田氏】「私はやっぱり格闘は苦手なんだろうなと思うのと、時間をかけて積み重ねてきたものがごろっと運でいっちゃうところがあるじゃないですか。格闘って」

――反射神経とかありますもんね。

【前田氏】「反射神経で競うんだったらそれでもいいんですよ。何というか、誰かとガチンコでやるのではなくて、1人でやるのがすきなんですかね」

――そういえば、実車のジムカーナもやられてましたよね。

【前田氏】「そうですね。今はもうやっていませんが。そういったほうがいいのかもしれません。マイクロマウスとかも運があるんでしょうけど、全部自分のせいじゃないですか。よりストイックな方向ですべてが自分の中でって言うほうが好きなんですかね。運の要素が少ないほうが嬉しいですね」

――大きいロボットに進化していったことを受けて、西村さんは「お手伝いロボットプロジェクト」のほうに出てくれないかなとおっしゃってたんですが、前田さんは次のフィールドとして、“お手伝い”のほうに行かれる予定はあるんでしょうか?

【前田氏】「ルールとかをまだ読みきれていないんでわからないんです。ただ、昔のSpecialみたいなタイムだけで競う、という形は好きだったんですけど、審査して点数で決まるっていうシステムは、好き嫌いでいったらあまり好きじゃないんですね。ようわかんないなっていう。

 審査で決まる予選でいつも上位というのもあるんで、あまり審査員の心象を悪くするようなことは言いたくないんですけど(笑)、スコアとかタイムで決まるほうが私は好きですね。そういう風な競技だといいなぁと思います」

――ちなみに、ディフェンディングチャンピオンの前田さんにとって、春のROBO-ONEは軽量級のみの大会になってしまうんですが。

【前田氏】「出たいなとは思っています。足裏とか重心とかルール早く決めてもらわないと、私はまたルールに合わせて新規に作りたいと思ってるんで、早く作り始めたいですね。古い機体を掘り起こして動かすのは私あまり好きじゃないんで、きっとやらないと思います」


――そうすると、次に大型機が出られる大会があったときに、“.7”がディフェンディングチャンピオンとして出るのではなく、“.8”になるんでしょうか。

【前田氏】「作りたくなっていたらまた作るかもしれませんし、ちょっと先の話しすぎてわからないですね」

――今回の“.7”を作って不満だった部分はあるんですか?

【前田氏】「ありますね。でもハードとしてはそこそこできてたんで……。次の重量級の大会があったとして、今のルールのままだと30kgまでいけるじゃないですか。たぶん30kgにあわせてくる人がいると思うんですよ。ルールが20kgだったら、あるいは……と、いろいろ選択肢があって、ちょっとまだ方針とかわからないですね」

 ルールがあって作るタイプのビルダーである前田氏にとっては、まだ雲を掴むような話という印象だ。

――次の重量級が出られるROBO-ONEでは、みんな“.7”を倒すことを目標にするんでしょうね。

【前田氏】「そうでしょうね。私もちょっとやりすぎたかなという反省はあって、「これには同意せざるをえんなぁ」という意見もありました。先川原さんの「これがハードルだとしたらハードルが高すぎる」っていう、これでないと勝てないとしたらハードルが高すぎるっていうものですね」

――それは能力的にですか? 経済的にですか?

【前田氏】「両方ですけどね。私が初めてROBO-ONE見に行ったときに、こんなもの(“.7”)があったら、やっぱり自分の趣味の延長線上にあるとは思わなかったと思うので。ただ、軽量級とか分かれているじゃないですか。だから全否定まではしません。ここにみんな突っ込んできて、16台くらいこの大きさでガチャガチャできるとなったら面白いですけど、1年以内くらいにはそれはないと思うんで、やりすぎたかと」


――二足歩行ロボットビルダーの前田さんとして、これから先はこういうロボットを作りたいとかあるんですか?

【前田氏】「私は作りたいロボットを作って、それがたまたま大会に出られるから大会に出るというスタイルではないので。この大会に出たいからロボットを作るってやってきたので。面白い大会があったらまたロボットを作って出たいなと思います。それ以外で、大会とは関係なくロボットを作りたいというのは、ありませんね」

――こういう大会があったら出たい、というのはありますか?

【前田氏】「それ言っちゃうと出なよと言われちゃうと思うんですが、マイクロマウスはやっぱり面白そうだと思います。タイムで競うので。あと、ロボプロでやってたアスリート競技的な、3mダッシュとか。宇宙大会も2~3回前から面白いなと思ってます。でも、本選と両方はすごいしんどいなと思って。なんかやるにしても優勝してからだと思ってたんで、ある意味チャンスかもしれませんね」

――今までは勝てない大会が続いてましたからね。

【前田氏】「優勝しときたいなというのがありましたから。私も人並みに優勝は欲しかったということで(笑)」


――Robot Watch読者に何かありますか?

【前田氏】「ロボット作るのは楽しいんで、ぜひこっち側に来てください(笑)」

――前田さんももともとは見学者だったんですもんね。

【前田氏】「すげえ面白そう、ってくらいの気分で行ってたんですよ。入ってみたらやるほうがずっと面白いです」

――ありがとうございました。

 終始穏やかな表情でインタビューに臨んでいただいた前田氏だが、優勝した機体を前にしても「そこそこできた」「そこそこ動いた」と、現状に全く満足していないことが言葉の端々から伝わってきた。“無冠の帝王”が戴冠したことで、ROBO-ONEの歴史に新たな1ページが刻まれはしたが、だからといってこれで終わりということはなく、より「しっかり動く」ロボットを前田氏は作り出すに違いない。


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2009/02/06 13:06

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