ATR、京都府相楽郡で複数ロボットの連携による高齢者の生活支援実験を開始
12月10日、京都府相楽郡のアピタ精華台店のスーパーマーケットで、複数のロボットが連携し、高齢者の生活を支援する実証実験が始まった。本実験は、今年6月にスタートした総務省委託研究「高齢者・障害者のためのユビキタスネットワークロボット技術の研究開発」の一環として、ATR(株式会社国際電気通信基礎技術研究所)がアピタ精華台店の協力を得て実施する。
今回の実験は、ユーザーの自宅、スーパーマーケットなどの複数地点で、バーチャル型ロボット、アンコンシャス型ロボット、ビジブル型ロボットなどタイプが異なるロボットが連携し、買い物を楽しく支援するもの。実験期間は、来年3月までを予定。開発技術の実証と実証結果の開発へのフィードバックを目的としている。
ロボットと一緒に、会話をしながら買い物を楽しむ | ユビキタスネットワークロボット環境構築方法と、楽しく買い物をするためのロボット・インタラクションの演出方法を検討 | 萩田紀博氏(ATR 知能ロボティクス研究 所長) |
●自宅と店舗をシームレスに結ぶネットワークロボットサービスの実現
今回、モニターとして実証実験に参加されたのは、精華台に在住の長谷川さん(67歳)だ。実証実験は次のような流れで行なわれた。
長谷川さんが自宅(今回はキャンピングカー内)で、買い物メモを作成する。今日の買い物予定は、ミカンとブロッコリーだ。携帯端末を立ち上げると、ロボットの映像が現れ「こんにちわ、長谷川さん。買いたい物を教えてください」と話しかける。長谷川さんが、「今日はミカンがほしいわ」と答えると、ロボットが「ミカンですね」と応じる。
必要なものを全て告げて、メモの作成を終えたら、都合のよい時間に買い物に出かける。行き先は長谷川さんの行きつけのスーパーマーケットだ。長谷川さんが入り口で携帯端末を提示すると、無線LANアクセスポイントから自動的に通信が開始される。
入り口付近にはレーザーレンジファインダー(LRF)が設置されており、エリア内に10人以上の人がいても5cm単位の精度で個人と位置を識別している。店内にいるRobovie-IIが、携帯端末のIDで個体識別をし「長谷川さん、来てくれたんだね」と親しく話しかけてくる。
Robovie-IIはカゴを持たせてもらうと、長谷川さんの後をついて歩く。果物売り場に近づくと「ミカンを買うんだよね?」とRobovie-IIから話しかける。カゴにミカンを入れてもらったRobovie-IIは、自分が果物売り場にいることを認識して「今の季節、リンゴも美味しいよね」と話題を提供する。長谷川さんが「じゃぁ、リンゴも買おうか」と、Robovie-IIにリンゴを見せてカゴに入れると「ありがとう」とお礼を言う。
他にも、野菜売り場で予定していたブロッコリーを買うと「サラダにするなら、レタスもいれるといいよ」と提案してくる。長谷川さんも、ロボットと会話を楽しみながら、レタスを追加した。
この場合、携帯端末に現れる映像がバーチャル型ロボット、入り口付近にあるLRFがアンコンシャス型ロボット、Robovie-IIがビジブル型ロボットだ。
長谷川さんは、ロボットと一緒に買い物をする体験を「大きな孫と一緒にお店を回っているみたい。ロボットとのおしゃべりがすごく楽しい」と嬉しそうに語った。
●ユビキタス化社会における新しいネットワークロボットサービス
ATRはこれまで5年間かけて、バーチャル型ロボット、アンコンシャス型ロボット(LRFなど環境センサー類)、ビジブル型ロボットの3種類のロボットが連携してサービスを提供する研究をしてきた。各ロボットは、インターネットから情報を取得できる、環境から情報を取得する、移動して会話ができるなどの特徴がある。
そうした特徴を活かして、2006年に駅ロボLIVE、2007年ショッピングセンターを案内するロボット、2008年「ロボット喫茶店」でドリンクをデリバリーなど、さまざまな実証実験を行なってきた。このように複数のロボットが互いの長所を生かして連携し、単体ではできないサービスを提供するのがネットワークロボットサービスだ。
上記の実証実験は、全て単地点でのサービス提供であった。ロボットが稼働する場を構築し、その中でサービスを提供していたわけだ。今回の実証実験で、従来の実験と大きく異なるのは、自宅・スーパー入り口・店舗内といくつもの場所を変え、それぞれ違った環境の中で、複数のロボットと連携してサービスを提供している点だ。多地点(ユビキタス化)で、特定の人をずっと追ってサポートするサービスに拡張されたわけだ。
前述のように、自宅では携帯端末上のキャラクタ(=バーチャル型ロボット)、スーパー入り口では環境情報を読み取るセンサー(=アンコンシャス型ロボット)、店舗内ではRobovie-II(ビジブル型ロボット)と、多地点にある3種類のロボットがセンターを介して情報を共有し、ユーザーにサービスを提供している。
自宅で携帯端末に買い物メモをしている時は、遠隔地にいるオペレータがデータを管理し、店舗内をRobovie-IIがユーザーの後をついて歩く時は、ロボット本体のステレオカメラとLRFで周囲の状況を認識してオペレータにデータを送り、そのデータを元にオペレータがRobovie-IIを適切に動かしているのだ。
ロボットが稼働する場は、今回の店舗入り口のようにアンコンシャス型ロボット(センサー群)を設定できる場合もあれば、店内のように設置が不可能な場合もある。実証実験では、アンコンシャス型ロボットの有無など環境条件を変えて、現実的に動くロボットを作ることを目指していくという。
将来的には、店舗のチラシに掲載された特売品データを予めロボットにインプットするなど、販売促進への活用も見込まれる。また、技術の応用が進めば、自宅と病院を連携するなど多様なサービスが生まれてくるだろう。
「ネットワークに関しては、携帯電話に来年からLTEという高速無線通信サービスの導入が予定されている。こうしたサービスが定額で提供されれば、携帯電話でもネットワークに接続したまま、大量のデータをやりとりできる時代となる」と萩田氏はいう。従ってネットワークを介して、いろいろ場所で新しいインタラクションを支援するシステムが可能となるわけだ。
萩田氏は高齢者支援にロボットが必要な理由を「一人暮らしの高齢者は、コミュニケーションに飢えている。ネット通販で買い物が容易になったが、気軽に話ができる相手が欲しいという要望がある。そのために、各自治体ボランティアの方による買い物代行サービスがあるが、人に頼むことを精神的に負担に感じる人もいる。そこで、人が親しみやすく会話できるロボットに着目した」と説明する。
これまでの実証実験の中で、人がロボットとの会話を自然に受け入れることは確信があった。そこで、他人とのインタラクションが乏しくなりがちな高齢者支援として、ロボットを活用したコミュニケーション支援システムの開発にいたった。ロボットの発話とモーションの最適なバランスを検証し、自然なインタラクションの演出を研究するという。
遠隔地のオペレータは、ロボットから送られてくる情報をDB化したり、ロボットの移動をサポートする。萩田氏は、「将来は、コールセンターのような、ロボットオペレーターセンターという新しい職業創出につながるのではないか」と、期待しているそうだ。
高齢者の生活をロボットがサポートする必要性とは? | 従来のネットワークロボット実証事件では、単地点で3タイプのロボットが連携した | 今回のポイントは、「単地点=>多地点」。サービス連携の実現性を探る |
いつでも、どこでも、あなたのために。双方向性を持った個別サービスを目指す | 【動画】オペレーションルームでは、店内の人の流れをLRFでチェック | 【動画】買い物予約メモの応答は、プログラムで自動的に処理されている |
●将来的な応用:医師等の意見を反映した食事推薦
将来的には、医師のアドバイスと連携して買い物サポートをするなどの応用が期待できる |
東芝は、高齢者施設をつなぐユビキタス化のサービスを進めている。今回の実験では、ビジブル型ロボットとしてApriPoco、バーチャル型ロボットに携帯端末、アンコンシャス型ロボットとして腕につけて脈拍を取得する生体センサーを組み合わせている。
ビジブル型ロボットの活用例として、家の中でApriPocoと会話をし、何を食べたいかリクエストをしてお勧めの献立を紹介してもらうデモンストレーションを行なった。
ApriPocoは、「煮物、炒め物、揚げ物の中のどれがいい?」「洋食、和食、中華のどれがいい?」「あっさりしたものがいい?」とユーザーに質問をし、2種類の料理を紹介し「秋鯖の梅焼きの方が低カロリーだよ」と説明も加えた。
アンコンシャス型ロボットとバーチャル型ロボットの連携としては、生体センサーで蓄積した脈拍データを、携帯端末にグラフで表示した。
脈拍や、睡眠時間や睡眠の質、日常の運動量、転倒の有無などの情報取得は、アンコンシャス型ロボットが得意としている。将来、ユーザーがアンコンシャス型ロボット(生体情報センシングできるウェアラブルセンサー)を身につけて生活するようになれば、ユーザーの生活状態を継続的、かつ確実に、安価にセンシングしデータ収集が可能になる。
一方でビジブル型ロボットは、ユーザーとの対話や情報家電との連携で、食事のタイミングやテレビの視聴時間など生活状態を問い合わせることができる。こうしたタイプの違うロボットを組み合わせ、ユーザーの生活状態を判別できる。
複数のロボットシステムを組み合わせ、医師と連携することで、個人の体調に合わせ塩分やカロリーの制限を考慮した献立の提案を行なうなど、きめ細かなヘルスケアが可能となる。
2009/12/14 17:00