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環境情報構造化プラットフォームで案内を行なうRobovie
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1月23日、総合科学技術会議 科学技術連携施策群 次世代ロボット連携群 平成19年度第6回講演会/見学会「次世代ロボット共通プラットフォーム技術 -施設内外の人計測と環境情報構造化の研究-」が行なわれた。主催は内閣府とロボットラボラトリー。
「総合科学技術会議 科学技術連携施策群 次世代ロボット連携群」とは各府省を超えて環境情報の構造化とソフトウェア基盤の構築を実現し、技術をある程度共有することで次世代ロボットの応用範囲を広げて社会に普及させることを目的にした共同研究プロジェクト。
今回は株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)が開発した、施設のなかで人の流れを計測する技術「環境情報構造化プラットフォーム」の内容と実証実験を公開した。まずはじめに、大阪のロボットラボラトリーで講演が行なわれ、その後、大阪市此花区にあるユニバーサル・シティ・ウォーク大阪にて見学会が行なわれた。講演と見学会の模様をあわせてレポートする。
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東芝の松日楽信人氏
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はじめに次世代ロボット連携群副主幹をつとめる東芝の松日楽信人(まつひら・のぶと)氏から概要講演が行なわれた。こちらに関してはおおむね先のレポートと重なっているのでそちらをご覧頂きたいが、環境情報構造化とは要するにロボットがどこにいるのかといった地図情報、そしてそこに登場する人や物体の位置、移動速度や方向などのデータなどを共通化・規格化しようという試みである。
なお共通基盤は国際的な規格として整備していく予定で、技術成果の取り扱いについては、シミュレータはオープンソースとする予定のほか、現在検討中だという。
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ATR知能ロボット研究所所長 萩田氏
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ATR知能ロボット研究所所長の萩田氏は今回の実証実験の内容を概説した。実世界で移動できることがロボットの強みだが、ロボットが自分でサービスを提供するためには精度の高い位置情報が必要になる。「環境情報構造化プラットフォーム」とは、ロボットがサービスする場所ごとの環境情報、すなわち、人々の位置・行動、混雑する時間帯などを取り出せるネットワーク環境のことだという。
ロボットが人々に道案内やショップの情報を提供するシーンを考えると、たとえば「人が往来する場所」で「立ち止まっている人」がいれば、それはロボットそのほかによるサポートが必要なのではないかと知能システムは判断することができる。
しかしながらそれらの情報を単体ロボットのカメラやマイクでとるのには限界があるし、また、情報を取ったあとにも行動情報を取得するために行動解析ソフトウェアの開発が必要となる。
そこでATRでは、ロボットだけではなくロボットが動く環境側にセンサーを設置して、環境情報を物理的な観測量だけでなくキーワードの形式でも取り出せる形式にした。これが「環境情報構造化プラットフォーム」だ。
今回開発したプラットフォームでは、環境側に複数台のカメラやレーザ・レンジ・ファインダ、無線タグリーダなどのセンサ群を設置して、それらが協調・連携することによって、同時に10~20人の位置を観測して、数cm~10cm程度の精度で三次元位置や軌跡情報などの物理的な観測量を保存することができるという。
さらに環境情報構造化プラットフォームでは、「うろうろしている」「立ち止っている」などの人の行動パターンと、「この場所は午後5時から7時まで混雑する」などの場所特有の統計・履歴情報をキーワード形式で読み出すことができる。
環境情報構造化プラットフォームでは人の行動パターンのキーワードは「行動プリミティブ」、場所特有の統計・履歴情報のキーワードは「空間プリミティブ」と呼んでいる。環境情報は、物理的な量と、行動・空間プリミティブという質的データからなる階層的構造で表現されている。
ロボット開発者は自分が提供したいサービスに応じて、これらの情報を組み合わせたソフトウェアを開発できるようになるという。そのための規格の共通化もプロジェクトの目標の一つだ。
デモでは、実際の人々の動きに対して、プリミティブのキーワードが抽出されているかどうか、それに基づいてロボットのRobovieがサービスを行なう様子が紹介された。
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ユニバーサルシティ・ウォーク。ユニバーサルシティ駅からユニバーサルスタジオへの途中にあるモール
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天井に設置されたカメラとRFIDリーダ。RFIDリーダー9台設置されている
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ユニバーサルシティに合わせて青く塗られたレーザーレンジファインダー
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頭部の輪郭をさまざまな角度から計測して検出するカメラは16台設置されている
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6台のレーザーレンジファインダーは胴体を計測
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環境計測システムの誤差
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ぶらぶら歩きなど、歩き方を判別する手法を開発した
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行動情報プリミティブの種類
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計測の結果
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Robovie
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側面。ボディは柔らかい素材で覆われている
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頭部
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頭部よりも上に突き出たガンマイクと全方位カメラ
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ボディと脚部
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高密度でセンサーが配置されている
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環境情報4層構造モデルと研究技術の関係
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【動画】Robovieによる案内。マップの前で立ち止まっている人は「迷っている」と判断し、駅の方向を教える
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【動画】同じデモ。ロボビーが近づいてくるまでの様子
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【動画】古着の量り売りをしているお店の説明をするために寄ってくるRobovie
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これまでにも人の位置座標や行動・空間プリミティブを計測する方法は提案されていたが、プラットフォーム形式で、実際の現場に長期的に設置してロボットサービスの実証実験を行なえる場所はなかった。ユニバーサルシティウォークでの実験設備は少なくとも今年度いっぱいは設置された状態になる予定だ。
今回、ユニバーサル・シティウォーク大阪に実証実験環境を設置した理由は、幅広い年齢層が訪れること、ショッピング・レストランでの食事が施設の目的であること、そして騒音がうるさく、光の明暗が激しいなど実環境課題がたくさんあること。
同プロジェクトでは、環境情報構造化プラットフォームが設置されたショッピングモールやアトラクション会場では、単体のロボットの知覚能力の限界を超えるだけでなく、いろいろなロボットが、この環境情報を共有して、互いに協調・連携する、新しいロボット・ビジネスを創出する可能性があるとしている。
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同様の環境はNICTにも設置
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環境情報構造化プラットフォームは今年6月を目処にマニュアル類を整備して順次公開していく予定で、申し込めばトライアルに使えるものになる予定だという。また同様の設備をけいはんなのNICTにも設置しており、そちらでは海外とネットワークで繋いだ実験や、ほかのネットワーク環境やユビキタスネットワーキング環境との相互接続実験を行ない、24時間の日常生活を対象にしたロボットサービスを考えていく。
なお総合科学技術会議 科学技術連携施策群 次世代ロボット連携群では、2月22日(金)14時~18時の日程でシンポジウム「次世代ロボット共通プラットフォーム ~次世代ロボットの普及に向けた展望と課題~」をJAビル第一会議室(東京都千代田区1-8-3 JAビル)にて開催する予定だ。聴講は無料で、環境プラットフォームやロボットシミュレータの仕様や利用法について紹介が行なわれる。
● 視線に反応するインタラクティブ看板
また今回、ユニバーサル・シティウォーク大阪にあるホテル近鉄ユニバーサル・シティでは、ATRと株式会社ATR-Roboticsによる、「ぬいぐるみ型ロボット」と、人の視線検出を組み合わせた広告メディアの実証実験も合わせて行なわれた。
ホテルのフロントロビーで行なわれているもので、レストラン・客室・ショップの広告を含む案内板を見に来た人がどの広告を見ているかを視線で検出し、IPロボットフォンを使ったぬいぐるみ型ロボットが、看板だけでは説明しきれない情報を追加説明するというもの。実証実験を通じて、ロボットによる集客効果、広告に対する注目度、共同注意の様子などを検証するという。こちらは1月23日から31日まで実施される予定だ。
今回用いられている視線検出技術は特別な機器を装着しなくても3次元球体モデルを使って顔の特徴点から眼球中心を推定することができ、±5度の精度で視線を検出できるという。±5度は、看板の前に立った(カメラから1~1.5m)人から見て看板上で約±15cmくらいの領域に相当する。
実証実験では、ロボット導入前と導入後を比較し、集客数の比較や利用者の滞留時間を比較・分析する予定だ。いっぽう、システムが急に話しかけるといったことに対するネガティブな反応を調べることは今回は想定していない。
今後は、大型ディスプレーなども含めた、公共でのデジタル広告メディア(デジタルサイネージ)の分野で2年後を目処に実用化していくという。
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視線に反応するインタラクティブ看板
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ぬいぐるみロボットの下にある広角カメラで顔を発見して視線方向を検出する
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3次元球体モデルを使って眼球中心を推定する
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【動画】デモの様子
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【動画】視線を移動するとライトアップされる場所が変わる
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デモの行なわれているホテル近鉄ユニバーサル・シティ
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■URL
ATR
http://www.atr.jp/
ニュースリリース(1)
http://www.atr.jp/html/topics/press_08012201_j.html
ニュースリリース(2)
http://www.atr.jp/html/topics/press_08012202_j.html
■ 関連記事
・ 次世代ロボット共通プラットフォーム技術の現状は? ~「次世代ロボット連携群」講演会レポート(2007/09/20)
( 森山和道 )
2008/01/24 16:31
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