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MEMS 2009の会場ホテルであるHilton Sorrento Palace
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会期:1月25~29日(現地時間)
会場:イタリア カンパニア州ソレント
Hilton Sorrento Palace
MEMS(メムス)の研究開発に関する国際学会「MEMS 2009」のカンファレンス3日目が無事完了した。本レポートでは、3日目(28日)に発表された注目の講演論文をいくつか紹介しよう。
● 1,200ノズル/インチの高解像度プリンタヘッド
28日午後のポスターセッションでは、富士ゼロックスが1,200ノズル/インチと解像度のきわめて高いインクジェットプリンタ用ヘッドの開発成果を発表し、注目を集めていた(M. Murataほか、ポスター番号77-W)。インクジェットプリンタ用ヘッドには大別すると熱方式(サーマル方式)と圧電方式(ピエゾ方式)がある。熱方式は解像度が高いもののやや低速であり、圧電方式は高速であるものの解像度が低いという一長一短があった。
これに対して富士ゼロックスは、圧電方式(ピエゾ方式)で解像度が1,200ノズル/インチと高いインクジェットプリンタ用ヘッドを開発した。圧電膜とシリコンのダイヤフラムを積層しており、圧電素子とともにシリコンのダイヤフラムが変形してインクを吐出する。1個のプリンタヘッドには32×16=512個のノズルを格納した。基板はガラスである。配線密度が高くなるため、ガラスに貫通孔を設けて3次元的に配線接続を設けている。
試作したプリンタヘッドは、駆動電圧21V、周波数140kHzで動作した。1回で2ピコリットルと微量なインクを秒速10mで吐出する。
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インクジェットプリンタ用ヘッドの方式比較。MEMS 2009のポスターから抜粋したもの
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インクジェットプリンタ用ヘッドの構造。流体プレート、ピエゾ素子(PA)プレート、フレキシブルプリント基板(FPC)、インクのマニホールドで構成される。MEMS 2009のTechnical Digestから
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開発したプリンタヘッドの断面構造。中央部のピエゾ素子(PZT)に電圧を加えて変形させ、その変形をシリコンダイヤフラムに伝えて下端のノズルからインクを押し出す。MEMS 2009のTechnical Digestから
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試作したプリントヘッドのシリコン部分。電子顕微鏡による撮影写真。MEMS 2009のTechnical Digestから
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試作したプリントヘッドの主な仕様。MEMS 2009のTechnical Digestから
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● 小型カメラに向けたメカニカルシャッタ
夕方の一般講演セッションでは、小型カメラ向けのメカニカルシャッタに関する講演が非常に興味深かった。韓国Samsung Electronicsの開発成果である(C-H Kimほか、セッション)。ガラスウエハーに半導体製造技術によって大量のメカニカルシャッタを形成できるので、非常に安価なメカニカルシャッタを実現できる可能性がある。
シャッタの原理が非常に面白い。透明電極を形成したガラス基板に、三角形の2層薄膜を形成する。三角形の2層は金属層と絶縁層で形成されており、自然な状態では三角形の先端から根元にかけて「くるっと」巻いたようになる。すなわち、シャッタが開いた状態である。
この状態で金属層と透明電極の間に電圧を加えると、三角形がまっすぐに延びて透明電極に張り付く。すなわち、シャッタが閉じた状態になる。
この三角形を36枚ならべ、1個のメカニカルシャッタとした。三角形の2層はシリコン窒化膜(絶縁層)とアルミニウム(金属層)。シャッタの直径は2.2mmである。4分の1インチCMOSイメージセンサのメカニカルシャッタに使用することを想定してシャッタの直径を決めている。
厚さ300μmのガラスウエハー(直径100mm)に150nm厚のITO電極を形成し、36枚の三角形を作製した。シリコン窒化膜の厚みは300nm、アルミニウムの厚みは350nmである。
試作したシャッタは、500分の1秒~1,000分の1秒といった速度で動作した。5万回を超える寿命を確認している。動作に必要な電圧は30Vとやや高い。
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シャッタの基本原理。三角形の薄膜が巻き込んだ状態と真っ直ぐの状態を行き来する。MEMS 2009のTechnical Digestから
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36枚の三角形を使ったメカニカルシャッタの模式図。上が開いた状態、下が閉じた状態。MEMS 2009のTechnical Digestから
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ガラスウエハーに試作したシャッタのアレイ。MEMS 2009のTechnical Digestから
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試作したシャッタを拡大したところ。MEMS 2009のTechnical Digestから
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● オーディオ帯域をフルカバーするシリコンマイク
このほか、過去のレポートで紹介しきれなかったが、26日のポスターセッションで優れた発表があったので報告したい。オーディオ帯域をフルカバーするMEMSマイクロホン(シリコンマイク)の研究発表である。ドイツのFWBI(Friedrich Wilhelm Bessel Institute Research Society GmbH)とドイツのUniversity of Bremenの共同研究グループによる成果だ(Sl. Jungeほか、ポスター番号145-M)。
音声(空気振動)を拾って容量変化に変換するメンブレンチップと、空気振動の取り入れ口兼支持基板のバックプレートチップの2チップ構成である。バックプレートチップにはメンブレンチップのほか、接合型FET(JFET)チップを載せて信号を増幅する。
試作したシリコンマイクの周波数帯域は40Hz~20kHzと、オーディオ帯域をほぼカバーできた。バイアス電圧は直流52Vとやや高い。今後はエレクトレットとなるテフロン膜を張り付けてバイアス電圧を下げるとともに、マイクの感度を上げるつもりだという。
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シリコンマイクの断面構造図。MEMS 2009のTechnical Digestから
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試作したシリコンマイクとプリント基板(PCB)に取り付けたところ。MEMS 2009のTechnical Digestから
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試作したシリコンマイクの周波数特性。MEMS 2009のTechnical Digestから
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■URL
MEMS 2009(英文)
http://www.mems2009.org/
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( 福田 昭 )
2009/01/30 15:21
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