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「MEMS 2009」レポート
~水面の表面張力を制御した超小型ボートが推進


MEMS 2009のポスターセッション会場
会期:1月25~29日(現地時間)
会場:イタリア カンパニア州ソレント
   Hilton Sorrento Palace


 MEMS(メムス)の研究開発に関する国際学会「MEMS 2009」のカンファレンス2日目が27日、無事完了した。本レポートでは、27日に発表された注目の講演論文をいくつか紹介しよう。いずれもポスターセッションで発表された研究成果である。


眼圧センサーの信号を非接触で取り出す

 代表的な眼の病気である緑内障は、視神経が障害を受けて視野が狭くなっていく。緑内障が発生する原因の1つに、眼球の内圧(眼圧)の高まりがある。この眼圧を測定するセンサーを生体に埋め込んで非接触で信号を取り出す研究を、米California Institute of Technologyと米Dohey Eye Institute、米University of Southern Californiaの共同研究チームが進めている。

 この共同研究チームは、前年のMEMS 2008では圧力センサーの埋め込み技術に関して報告した。今年のMEMS 2009では、非接触で信号を取り出す技術の内容を発表していた(P-J Chenほか、ポスター番号11-T)。

 圧力センサーはコイルと抵抗、コンデンサの直列接続による共振回路を構成している。眼圧の変化によってコンデンサの容量が変化し、共振周波数が変化する。この変化を外部コイルとの磁気結合によって取り出す。眼球に埋め込むコイルの形状をシミュレーションで検討し、最適な形状を検討した。

 そして実際にウサギの眼球に圧力センサーを埋め込み、外部コイルで眼圧の変化を取り出してみた。その結果、眼圧の変化に応じ、共振周波数が変化する(インピーダンスが変化する)ことを確認できた。


ワイヤレスで眼圧を読み取る仕組み。眼鏡に組み込んだコイルで圧力センサーの信号を読み取る。MEMS 2009のTechnical Digestから 左はウサギの眼球に圧力センサーを取り付けたところ。右は3カ月後の様子。圧力センサーが割れたり、眼に病変が発生したりといった異常はみられない。MEMS 2009のTechnical Digestから 左は外部コイルで圧力センサーの出力を読み取る様子。右は眼圧の変化による出力の変化。MEMS 2009のTechnical Digestから

機械的な推進機構を持たない表面張力推進船

 水面上を表面張力によって推進する超小型ボートの研究も面白い。ボートの船体の一部を銅箔で作り、絶縁膜で被覆する。銅箔の電極に電圧を印加することで船体周囲の表面張力のバランスをずらし、推進力や回転力などを発生させる。米University of Pittsburghの研究成果である(S. K. Chungほか、ポスター番号222-T)。超小型ロボットの実現を狙った研究の一環だという。

 実際に箱形の小さなボートを試作し、小さなプールの水面上に浮かべてから表面張力を操作して船体を動かしてみせた。船体の大きさは2.5cm×1cm×1cm。印加電圧は100V~200Vとかなり高い。ボートを前進させる実験では、船体の後部に電極を取り付けた。印加電圧は160V。前進速度は秒速4mm(時速14.4m)とかなりゆっくりである。回転実験では、船体の左右に電極を取り付けた。印加電圧は140V。試作した小型ボートは、1分間に20回転の速度で回転した。

 さらに、船体の前部と後部の両方に電極を取り付け、曲線を描くように進ませることにも成功した。後部は全体に電極を取り付け、前部は左右の端部に電極を取り付けてあるので、左右のどちらにも曲げることができる。


表面張力の違いによって水面上を船体が進む原理。液体に対する誘電体のぬれを変えるので「EWOD(ElectroWetting On Dielectrics)」とも呼ぶ。MEMS 2009のTechnical Digestから 試作した小型ボートが前進する様子。MEMS 2009のTechnical Digestから 試作した小型ボートが回転する様子。MEMS 2009のTechnical Digestから

試作した小型ボートがカーブしながら進む様子。MEMS 2009のTechnical Digestから 印加電圧と小型ボートの前進速度および回転速度の関係。MEMS 2009のTechnical Digestから

CMOS回路との集積を狙った高感度の湿度センサー

 27日のポスターセッションではこのほか、CMOS回路との集積を狙った湿度センサーの発表が興味深かった。米Carnegie Mellon Universityと米U.S. Army Research Laboratory、米Maixm Integrated Productsの共同研究グループによる開発成果である(N. Lazarusほか、ポスター番号17-T)。

 湿度センサーは容量型。相対湿度の変化を、キャパシタの静電容量の変化としてとらえる。あらかじめCMOS回路を作り込んだ後に、湿度センサーのキャパシタ対向電極を加工する。キャパシタの対向電極内には有機高分子が注入してあり、この有機高分子が空気中の水蒸気を吸い込んだり放出したりすることで誘電率が変化し、キャパシタの容量を変化させる。

 キャパシタ対向電極はきわめて細長い柱のような形状で、中空に飛び出している。1対の対向電極が1チャンネルに相当し、チャンネルを増やすことで感度を高める。

 対向電極を87チャンネルと数多く備えた湿度センサーを試作したところ、相対湿度の1%の変化を0.18%と大きな容量変化に変換できた。CMOS回路と集積可能な容量型湿度センサーとしては、従来に比べて4倍も高い感度だという。


湿度センサーの電子顕微鏡写真。中空に飛び出した細長い柱がセンサー部(キャパシタ)。MEMS 2009のTechnical Digestから CMOS回路を作り込んだ後に、湿度センサーを加工する工程。MEMS 2009のTechnical Digestから

87チャンネルの湿度センサーの電子顕微鏡写真。MEMS 2009のTechnical Digestから 相対湿度の変化と湿度センサーの容量変化の関係。MEMS 2009のTechnical Digestから

URL
  MEMS 2009(英文)
  http://www.mems2009.org/

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( 福田 昭 )
2009/01/29 14:19

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