会期:1月25日~29日(現地時間)
会場:イタリア カンパニア州ソレント
Hilton Sorrento Palace
MEMS(Micro Electro Mechanical Systems、「メムス」と読む)とは、電気信号で動かす微小な機械デバイスや機械システムなどを指す用語である。シリコンやガラス、有機材料などをベース(基板)にしており、大きさは数ミリ角程度と極めて小さい。製造には、プロセッサや半導体メモリなどと同様の半導体微細加工技術(リソグラフィやエッチング、デポジションなど)と、MEMS独自の加工技術(深堀りエッチングやウエハー張り合わせなど)を使う。
私たちにとって最も身近なMEMSデバイスは、インクジェットプリンタのヘッドと、テレビゲームのコントローラだろう。インクジェットヘッドには、電圧を加えると変形する圧電アクチュエータが使われている。ゲームコントローラには、コントローラの動きを検知する加速度センサーが使われている。いずれもMEMSデバイスの一角を成す。
研究開発段階のMEMSデバイスには、各種のセンサーやアクチュエータ、ポンプ、シリンジ、発電器、燃料電池セルなどがある。これらの研究開発成果が集まるのが「MEMS」と呼ばれる国際会議だ。正式には「IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems」と呼ばれている。毎年1月に、米国、日本、欧州の持ち回りで開催される。
国際会議「MEMS」は、西暦の年号を組み合わせて「MEMS 200X」と呼称される。今回は「MEMS 2009」となる。MEMS 2009は2009年1月25日~29日にイタリアのソレントで開催される。ただし25日は夜に歓迎パーティが予定されているだけで、前夜祭といった雰囲気にとどまる。メインイベントである技術講演(カンファレンス)が予定されているのは26~29日の4日間である。技術講演の概要を以下に紹介しよう。
● 1月26日(月):バイオ関連の発表が相次ぐ
26~28日の3日間はすべて、午前の最初に招待講演が予定されている。初日の26日は、STMicroelectronicsのBenedetto Vigna氏が「MEMS Epiphany」と題して招待講演する。講演タイトルを直訳すると「MEMS降臨」または「MEMS出現」となり、抽象的でどのような講演内容なのかは予測しづらい。ただしSTMicroelectronicsは加速度センサーやインクジェットヘッドなどのMEMSデバイスの量産企業であり、MEMS分野では数多くの実績を有する。MEMS研究の将来を展望する内容を期待したいところだ。
招待講演の後は続けて一般講演のセッションとなる。MEMS 2009では常に1つのセッションだけが開催されており、複数セッションの同時進行とはならない。このため、技術講演をじっくりと聴講できる。
26日の午前には「MEMSアクチュエータ」(セッション1)と「RF MEMS」(セッション2)、「燃料電池セル」(セッション3)のセッションが予定されている。燃料電池セルのセッションでは、米University of California, Berkeleyがバクテリアを利用した微小な燃料電池セル技術を発表する。
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ポスターセッションの会場風景の例。写真は前年のMEMS 2008におけるポスターセッション
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昼食休憩を挟んだ午後の前半は、ポスターセッションとなる。研究成果(発表論文)の概要をポスターにまとめておき、そのポスターを衝立に貼って見学者の質問を受ける発表形式である。
初日のポスターセッションは、注目の発表が続出する。University of California, Berkeleyと米University of Michiganの共同研究チームが、無線で甲虫の飛行を制御するシステムの研究成果を発表する(ポスター番号4-M)。前回のMEMS 2008で発表された研究の続きとみられる。また米Ohio State Universityが、オンチップの血液粘度計の研究成果について述べる(ポスター番号10-M)。
University of Michiganは、埋め込み型の薬液配給システムに外部から皮膚を透過して電力を供給する技術を発表する(ポスター番号13-M)。立命館大学とニプロは共同で、メンブレンフィルタを使った血液細胞分離技術を発表する(ポスター番号15-M)。米Columbia Universityは、磁気流体を使ったコカインセンサーについて述べる(ポスター番号36-M)。
ドイツのUniversity of BremenとドイツのFWBIは共同で、2チップ構成のシリコンマイクを発表する(ポスター番号145-M)。オーディオ帯域をフルにカバーするマイクである。東京大学は、昆虫の羽根に空気圧センサーを取り付ける技術を発表する(ポスター番号157-M)。東京大学と旭硝子、オムロンの共同研究グループは、エネルギー収集用の超小型エレクトレット発電器を発表する(ポスター番号216-M)。
午後の後半には「微小な流体デバイス」(セッション4)をテーマとしたセッションが予定されている。ドイツのHSG-IMTとUniversity of Freiburgが共同で、液体金属の微小な液滴を空気圧で吐出する技術を発表する。
● 1月27日(火):水に浮く超小型ロボットの要素技術
2日目の27日も、招待講演でカンファレンスが始まる。University of California, BerkeleyのLuke P. Lee氏がMEMSのバイオメディカル応用を展望する。
続いて午前の前半パートとなる。テーマは「細胞と粒子」(セッション5)と「マイクロ反応と特性評価」(セッション6)である。米Analog Devicesが低湿度環境下での静止摩擦の様相を解説する。
昼食の後は前日と同様に、ポスターセッションとなる。米California Institute of Technologyと米Dohey Eye Institute、米University of Southern Californiaの共同研究チームが、眼球内部の圧力を測定する埋め込み型のセンサーと無線通信技術を発表する(ポスター番号11-T)。前年のMEMS 2008の一般講演で発表された研究の続きとみられる。
また米Carnegie Mellon Universityと米U.S. Army Research Laboratory、米Maixm Integrated Productsの共同研究グループが、CMOS技術による容量型の湿度センサーを発表する(ポスター番号17-T)。米Sandia National Laboratoriesは、ギガヘルツ動作でギガパスカルと高い圧力を計測するセンサーアレイ技術を報告する(ポスター番号162-T)。米University of Pittsburghは、表面張力によって物体を推進したり回転させたりする原理について述べる(ポスター番号222-T)。水に浮く超小型ロボットへの応用を狙う。
午後の後半には、「物理MEMS」(セッション7)をテーマとした一般講演セッションが予定されている。
● 1月28日(水):ガラス貫通孔による高解像度インクジェットヘッド
3日目の28日も、招待講演でカンファレンスが始まる。東北大学の寒川誠二教授が、損傷の極めて小さなプラズマエッチング技術を解説する。
招待講演に続いて午前の一般講演となる。テーマは「ナノプロセッシングとNEMS」(セッション8)と、「製造とパッケージング」(セッション9)である。ここではベルギーのIMECとオランダのPhilips Applied Technologies、オランダのASML、米国ASMLの共同研究チームによる1,100万画素のマイクロミラーアレイデバイス用パッケージ技術に関する講演が興味を引く。
昼食休憩の後は前日と同様にポスターセッションとなる。HSG-IMTとUniversity of Freiburgの共同研究グループが、磁気泳動を利用したDNAの抽出/精製技術を発表する(ポスター番号19-W)。米Cornell Universityは、昆虫のさなぎにシリコンのプローブを挿入する技術を報告する(ポスター番号34-W)。ガスセンサへの応用を狙う。
富士ゼロックスは、ガラス貫通孔技術を駆使した高解像度のインクジェットヘッドを発表する(ポスター番号77-W)。韓国のKorea Institute of Machinery and Materialsは、曲面に印刷するELディスプレイ技術を報告する(ポスター番号187-W)。パナソニック電工は、ウエハーレベルのパッケージ技術による2次元スキャナを発表する(ポスター番号191-W)。陽極接合を使う。
その後は一般講演セッションとなる。テーマは「光MEMS」(セッション10)である。韓国のSamsung Electronicsが、微小なカメラへの応用を狙ったメカニカルシャッタ技術の開発成果を報告する。
● 1月29日(木):微小部品をセルフアセンブリで製造
最終日の29日は招待講演がなく、ポスターセッションでカンファレンスが始まる。太陽誘電と米TRDA、University of California, Berkeleyの共同研究チームは、高周波MEMS技術による周波数可変ローパスフィルタを発表する(ポスター番号168-Th)。またトルコのMiddle East Technical Universityは、振動を電力に変換する発電器デバイスを発表する(ポスター番号220-Th)。
ポスターセッションの後は、「バイオMEMS」(セッション11)の一般講演セッションとなる。DNAで装飾された高分子による微小部品のセルフアセンブリ技術を京都大学と理化学研究所の共同研究グループが発表する。
このほかにも注目すべき講演が少なくない。随時、現地レポートを報告していくのでご期待されたい。
■URL
MEMS 2009(英文)
http://www.mems2009.org/
■ 関連記事
・ MEMS 2008レポート 昆虫に電子回路をつないで飛行を制御(2008/01/22)
・ MEMS 2008レポート 医療分野で活躍するMEMSデバイス(2008/01/17)
( 福田 昭 )
2009/01/26 12:19
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