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MEMS 2008レポート
医療分野で活躍するMEMSデバイス


会場のJW Marriott Starr Pass Resort & Spa。このテラスは昼にランチの会場となる
 MEMS(メムス)の研究開発に関する国際学会「MEMS 2008(21st IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems)」のカンファレンス2日目が終了した。本レポートでは2日目である15日の発表から、興味を引いた論文の概要をご報告する。


血液中の癌細胞を素早く見つけ出す

 まずは、朝一番に開催された招待講演をご紹介したい。MEMSチップの医療応用の最前線を米Massachusetts General Hospital, BioMEMS Resource CenterのMehmet Toner氏が語ってくれた。

 始めにToner氏は、遺伝子解析チップ(Gene chip)、細胞解析チップ(Cell chip)、検査室チップ(Lab on a chip)の3つの方向から始まった研究が、最近は融合してきているとの現状認識を示した。続いて同氏らの研究グループが実際に取り組んでいるMEMSチップの応用例をいくつか解説した。ここではその中で2つの事例をご紹介する。

 1例目は、血液中の癌細胞を分別するMEMSチップである。癌で死亡する場合の9割は癌転移(転移性腫瘍)によるものであり、米国だけで年間に50万人を超える人々が癌転移によって亡くなっているという。

 癌が転移するのは、癌細胞が血液に入り込んで人体のあらゆるところにばらまかれるからである。この癌細胞をCTC(Circulating Tumor Cells)と呼ぶ。Toner氏らが開発したチップは、わずか数ミリリットルの血液中から、CTCを分離する。採取する血液の分量がわずかで済むことと、採取した血液をそのまま(一切触れずに)、CTCの検出に回せることが大きな利点だとしている。

 このCTC分離用MEMSチップは、具体的には円柱が林立したマイクロ流体チップであり、円柱部分にCTCが捕獲されるようにできている。肺癌や乳癌、膵臓癌、結腸癌などを発生源とするCTCの分離に適用したところ、およそ50~60%の割合でCTCを検出できた。

 さらに、肺癌の治療薬であるイレッサを処方して経過を観察したときの結果を示した。およそ300日近い経過観察の結果である。処方前は血液1ミリリットル中に数多く(講演スライドからは160~200個にみえた)のCTCが存在していた。イレッサを処方すると血液中のCTCは劇的に減少した。しかし200日後にCTCの検出量が上昇した。そこでイレッサを再度処方したところ、CTCは再び、急激に減っていった。

 2例目は、ヒトがエイズウイルス(ヒト免疫不全ウイルス:HIV)に感染している状況を検査するMEMSチップである。HIVは、「CD4+T細胞」と呼ぶリンパ球に感染する。「CD4+T細胞」はヒトの免疫機能をつかさどる非常に大切な細胞である。HIVにヒトが感染したとしてもすぐには発症しない。HIVは潜伏期間を経て活性化する。HIVは活性化すると「CD4+T細胞」を破壊する。このため「CD4+T細胞」が減少し、ヒトは免疫機能を失う。その結果、さまざまな感染症を発症しやすくなる。

 Toner氏らの研究グループが開発したMEMSチップは、血液中の「CD4+T細胞」の数をカウントする。検査に必要な血液の量はわずか10マイクロリットルと極めて少ない。エイズの診断や治療の経過観察などで必須の検査項目とされる「CD4+T細胞」のカウントを、従来に比べて非常に安価で簡便に実行できるようになるという。


CTC(Circulating Tumor Cells)分離用マイクロ流体チップの電子顕微鏡観察像(MEMS 2008のTechnical Digestから) 血液中の細胞をカウントするMEMSチップで「CD4+T細胞」の数をカウントした結果。MEMSチップに適切なせん断ひずみを与えることで「CD4+T細胞」を分離する。HIVに感染した成人26名の血液を採取して検査した(MEMS 2008のTechnical Digestから)

緑内障の診断を目指す圧力センサー

 招待講演に続くセッション4「バイオメディカル応用」では、眼球の内圧(眼圧)を測定してワイヤレスで外部に測定値を出力する圧力センサーの発表が面白かった。米California Institute of Technologyと米University of Southern Californica、米Doheny Eye Instituteの共同グループによる研究成果である(P-J Chenほか)。

 緑内障の診断や治療などへの応用を目指した。緑内障は視神経が障害を受けて視野が狭くなる病気だが、原因の一つに眼圧の異常な高まりがある。そこで眼球近辺に圧力センサーを直接埋め込み、眼圧を常時測定できるようにする。

 考案した圧力センサーは電気的には抵抗とコンデンサ、コイルによる共振回路を構成しており、外部(読み取り器)のコイルとセンサーのコイルを誘導結合させることでセンサーの測定値を読み取る。圧力変化によってコンデンサの容量が変化するタイプのモジュールと、コンデンサの容量とコイルのインダクタンスの両方が変化するタイプのモジュールを試作した。

 実験動物であるウサギの眼(毛様体扁平部)に、外科手術によってモジュールを埋め込んだ。埋め込み後3~5カ月を経過しても、埋め込み部に病変などはみられず、生体との整合はとれていた。外科手術が複雑であることと、測定圧力があまり安定でないことが今後の課題だという。


圧力センサーの構造と等価回路(MEMS 2008のTechnical Digestから) 試作した圧力センサーモジュールの外観(MEMS 2008のTechnical Digestから) 圧力センサーモジュールをウサギの眼に埋め込んだ様子(MEMS 2008のTechnical Digestから)

機械部を省いた小型ジョイスティック

 セッション6「物理センサー/システム」では機械部を省いた小さな4軸ジョイスティックを、ドイツのUniversity of FreiburgとデンマークのTechnical University of Denmarkによる共同研究グループが発表した(P. Gieschkeほか)。

 CMOS技術で設計したひずみセンサーチップの上に、高分子樹脂のスティックを搭載した構造である。スティックの直径は6mm、高さは15mm。スティックの操作(倒し込みや押し込みなど)をひずみセンサーが検出し、電気信号として出力する。

 ひずみセンサーチップはセンサーのアレイと周辺回路を集積した、いわゆるスマートセンサーである。10個のひずみセンサーとアナログ回路、デジタル回路をワンチップにまとめた。センサーアレイに加わるひずみの分布や向きなどから、スティックの操作を判定する。

 実際にジョイスティックを試作し、4軸方向の操作(X軸、Y軸、Z軸の力と、Z軸のモーメント)を検出できることを示した。


ジョイスティックの構造図(MEMS 2008のTechnical Digestから) ひずみセンサーチップの写真。10個のひずみセンサーのほか、計測アンプ、10ビットA-D変換回路、I2Cバス回路などを集積した(MEMS 2008のTechnical Digestから) プリント基板にひずみセンサーチップとスティックを実装したところ(MEMS 2008のTechnical Digestから)

イタリア南部のソレントで開催される「MEMS 2009」を宣伝する展示。MEMS 2008の会場で撮影
 このほか15日は技術講演の最後に、次回の国際会議「MEMS 2009」の概要が発表された。「MEMS 2009」は2009年1月26~29日に、イタリア南部のソレント(Sorrento)で開催される。会場はHilton Sorrento Palaceである。投稿アブストラクトの締め切りは2008年8月24日。


URL
  MEMS 2008
  http://www.mems2008.org/
  MEMS 2009
  http://www.mems2009.org/

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( 福田 昭 )
2008/01/17 00:05

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