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MEMS 2008レポート
ジャイロや燃料電池などのデバイスに注目


会場のJW Marriott Starr Pass Resort & Spa
会期:1月14~17日(現地時間)
会場:米国アリゾナ州ツーソン市
   JW Marriott Starr Pass Resort & Spa


 MEMS(メムス)の研究開発に関する国際学会「MEMS 2008(21st IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems)」のカンファレンスが14日朝、始まった。本レポートでは初日である14日の発表から、興味深い論文の概要を紹介する。

 論文紹介の前に、MEMS 2008の全体像にふれておきたい。14日の朝は技術講演に先立ち、「Welcome Address」と題してMEMS 2008の概要をゼネラルチェアマン(総合議長)が解説してくれた。投稿論文数は778件で、神戸で開催された前年の「MEMS 2007」を上回った。採択された論文の数は266件で、採択率は34%である。「MEMS 2008で研究成果を発表したい」と考えた研究者が投稿した論文の中で、実際に発表できるのは3本中1本ということになる。かなりの「狭き門」であることが分かる。

 採択論文266件の内訳は、講演論文が42件、ポスター論文が224件である。国際学会「MEMS」は技術講演のセッションを1つだけに絞っており(同時に複数のセッションは実施しない)、カンファレンスの参加者が講演論文のすべてを聴講できるようになっている。それだけに講演論文の数が少なく、厳選された論文だけが講演の機会を得るとも言える。投稿論文が778件で講演論文が42件だから、投稿論文のおよそ5%だけが参加者の前で講演できることになる。

 地域別の投稿件数と発表件数は米州が304件と104件、欧州およびアフリカが148件と51件、アジアとオセアニアが326件と108件である。国別の発表件数は地元の米国が101件と最も多く、日本が62件で続く。総計の国数は20カ国である。組織別では東京大学が24件と圧倒的に多い。国別発表件数のグラフにわざわざ東京大学を入れておき、会場の笑いを誘っていた。


ドリフトを抑えたジャイロセンサー

 それでは技術講演の紹介に移ろう。セッション1の「集積マイクロシステム」では、出力のドリフト(時間的な変動)を非常に小さく抑えたジャイロセンサーを米Geogia Institute of Techologyが発表した(A.Sharmaほか)。

 MEMS技術によるジャイロセンサー(角速度センサー)は、デジタルカメラの手ぶれ補正で実用化されている。撮影者の手ぶれを検出するために、ジャイロセンサーを使う。この用途では、ドリフトはそれほど低くなくてよい。これに対して今回は、低いドリフトを要求するカーナビ用途を狙ってジャイロセンサーを開発した。

 ドリフトを低減するため、MEMS技術で作成した音叉型振動子の振動周波数に電気的に補正をかけた。音叉型振動子を使ったジャイロセンサーは通常、振動させるための駆動周波数と、回転(角速度)を検出するための検出周波数が異なる。このため振動子のQ値が低くなり、角速度の出力がある程度は時間的に変動してしまう。

 Geogia Institute of Techologyの研究グループは、検出周波数に補正をかけて駆動周波数を一致させることで振動子のQ値を高め、ドリフトを抑えた。試作した振動子では、25℃の温度条件下で1時間あたりの出力変動(バイアスドリフト)が0.15度と、従来に比べておよそ1桁低い値を達成できた。


音叉型振動子を利用したジャイロセンサーの電子顕微鏡撮影像。MEMS 2008のTechnical Digestから 試作したジャイロセンサーのボード(左)と周波数補正回路のASICチップ(右)。MEMS 2008のTechnical Digestから

ポンプを不要にした燃料電池セル

 続くセッション2の「マイクロ流体デバイス/システム」では、燃料供給用のポンプを不要にした燃料電池セルを独University of Freiburgが発表した(N. Paustほか)。燃料電池の方式は、直接メタノール型である。モバイル機器の長寿命バッテリを目指して開発が進んでいる方式だ。

 直接メタノール型の燃料電池セルでは、化学反応によって炭酸ガスが発生する。そこでアノード側で発生した炭酸ガスの気泡がカソード側に自然に移動する仕組みを、燃料電池セルに作り込んだ。炭酸ガスの気泡が移動することが、燃料(メタノールと水の混合液)をリザーバーからアノード側に送り込むポンプとして働く。この結果、燃料供給用のポンプが不要になる。

 炭酸ガスの気泡を自然に移動させるため、断面積が段階的に広がる微小な流路(マイクロチャンネル)を新たに設けた。マイクロチャンネル内では気泡の両端で表面張力に違いが生じる結果、気泡が自然に移動する。

 試作した燃料電池モジュールは、燃料が無くなるまで15時間ほど連続して動作した。発生電力は10mW~2mWである。燃料を継ぎ足せば、さらに連続して動くという。


試作した直接メタノール型燃料電池セルの断面図。化学反応で発生した炭酸ガス(CO2)の気泡が、左のアノード側から右のカソード側に自然に移動する(MEMS 2008のTechnical Digestから) 気泡が移動する微小な流路(マイクロチャンネル)。断面積が段階的に変化するように傾斜を付けた(MEMS 2008のTechnical Digestから) 試作した燃料電池モジュール(MEMS 2008のTechnical Digestから)

水滴がモーターになる

 午後のセッション3「マイクロアクチュエータ(微小なアクチュエータ)」では、2件の興味深い発表があった。1件は、エレクトロウエッティング効果を利用したモーターの発表である。東京大学の下山・松本研究室が開発した(A. Takeiほか)。

 エレクトロウエッティング効果とは、液体のぬれ性が電界印加によって変化する効果のことである。導電性のある液体の滴に絶縁膜を介して電極から局所的に電界を印加すると、液体は電極に引かれるように変形する。液滴の周囲を微小な電極のアレイで囲み、電圧を印加する電極を連続して切り換えてぐるっと回転させると、液滴の変形が回転力を生じる。液滴の上に適切な形状の微小な板を置くと板が回転し、モーターの回転子の役割を果たす。

 東京大学の下山・松本研究室は、最も入手しやすい液滴である水滴を使い、ほぼ円形の板を水滴の上に載せたモーターを実際に試作した。試作したモーターは、最大で毎分180回転の速度で動作した。また回転子(水滴に載せた板)の上に0.5mm角のサイコロ状のシリコンを載せても、モーターは問題なく動いてくれた。

 そこで水滴が光学的には透明であることを活かし、レーザー走査系として利用できることも示した。回転子の上にプリズムを載せ、水滴の下から赤色レーザーのビームをプリズムに照射した。モーターの回転によってプリズムが回転し、レーザービームの照射角が変化した。


エレクトロウエッティング効果を利用したモーターの原理図(MEMS 2008のTechnical Digestから) 試作したモーターの外観(MEMS 2008のTechnical Digestから) サイコロ状のシリコンを載せたところ(左)。この状態で問題なく回転した(右)(MEMS 2008のTechnical Digestから)

アメンボ(昆虫)型の輸送デバイス

 セッション3「マイクロアクチュエータ(微小なアクチュエータ)」で興味深かったもう1件の発表は、アメンボ(昆虫)型の微小な輸送デバイスの研究である。立命館大学の杉山研究室が発表した(D.V. Daoほか)。

 アメンボは4本の足が水面を掻きながら進む。杉山研究室が考案した微小な輸送デバイス(マイクロコンテナ)は、アメンボに似た形をしており、4本の翼(ウイング)によって前進する。前進させる仕組みは非常にユニークだ。くし型電極の先に糸ノコギリの歯のような部品(ラチェットラック)を取り付けたアクチュエータが、マイクロコンテナを前に進ませる。すなわちアクチュエータがマイクロコンテナの両側面をラチェットラックで挟み、ラチェットラックでマイクロコンテナを押す。すると糸ノコギリの歯とマイクロコンテナのウイングが噛みあい、マイクロコンテナが歯1個分だけ前進する。

 アクチュエータが繰り返し動くことで、マイクロコンテナは前進を続ける。アクチュエータの動作周波数が20Hzのとき、毎秒0.2mmの速度で前進する。アクチュエータの駆動電圧は100~140Vくらい。静電気引力で動かしている。

 直線用アクチュエータ、曲線用アクチュエータ、分岐用アクチュエータを考案し、これらを組み合わせた分岐付きの環状路を試作した。そしてマイクロコンテナを実際に動かしたときのビデオ撮影像を再生してみせた。ビデオを見る限りは、かなりの高速走行である。講演者が「フォーミュラワン(F1)のレースカー」とコメントしたところ、聴講者には大受けだった。


アメンボに似た形の微小な輸送デバイス(マイクロコンテナ、図中の青い部分)が進む仕組み。糸ノコギリの歯のような部品(ラチェットラック)を先端に取り付けたアクチュエータ(図中の赤色の部分)が、マイクロコンテナを駆動する。マイクロコンテナの大きさは長さ450μm×幅250μm(MEMS 2008のTechnical Digestから) マイクロコンテナの図解。駆動用の翼(driving wing)と逆進防止用の翼(anti-reverse wing)がある(MEMS 2008のTechnical Digestから) 試作したデバイス(分岐付き環状路)の電子顕微鏡観察像(MEMS 2008のTechnical Digestから)

URL
  MEMS 2008
  http://www.mems2008.org/

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MEMS 2008 前日レポート
微小な機械システムの最新研究成果が集結(2008/01/15)



( 福田 昭 )
2008/01/16 00:00

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