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MEMS 2008レポート
昆虫に電子回路をつないで飛行を制御


MEMS 2008のTechnical Digest表紙
 「MEMS 2008」が1月17日、盛況の内に閉幕した。現地レポートもこれが最後となる。

 最終日である17日は、午前にだけセッションが組まれており、1日当たりの技術講演の数そのものは14〜16日よりも少ない。ただし最終日には「MEMS 2008」の目玉となる講演が控えていた。それはセッション10「埋め込みマイクロデバイス」で発表された、2件の講演である。昆虫に電子回路を直に接続して飛行を制御するという、きわめてユニークな研究だ。米Cornell Universityと米Boyce Thompson Instituteの共同研究チーム(A. Bozkurtほか)、米University of Michiganと米University of California at Berkeley、米Arizona State Universityの共同研究チーム(H. Satoほか)がそれぞれ研究成果を発表した。


微小な飛行物体の開発は難しい

 MEMSの研究分野の一つに、微小な飛行物体の開発がある。「MAV(Micro-Air -Vehicles)」とも呼ばれる微小な飛行物体は、着想としては非常に面白く、また数多くの応用が考えられるものの、実現は極めて難しい。最大の障害は、バッテリの重量である。物体の離陸と飛行、着陸にはかなりのエネルギーを必要とする。飛行物体につきもののセンサーやアクチュエータ、コントローラなどにも電力を供給する必要がある。バッテリの貯蔵電力は外形寸法の3乗に比例するので、外形寸法が小さいことは供給電力が著しく小さくなることを意味する。このため重量が基本的な足かせとなり、微小な飛行物体の研究開発はあまり進んでいない。

 昆虫は、自然が生みだした微小な飛行物体である。エネルギーを自ら補給し、自律的に飛行し、また歩く。視覚や触覚などのセンサーを備えており、障害物に衝突することはない。そこでゼロから飛行物体を作るのではなく、昆虫の優れた飛行機能を利用してMAVを作る試みが登場してきた。

 しかし課題は少なくない。最大の課題は、生体である昆虫と無機物である電子回路の接続である。昆虫に電極を埋め込むには、生体組織を傷つけなければならない。その結果、昆虫が死んでしまう。また電子回路(およびバッテリ)の重量が、飛行の妨げとなることがある。こういった問題を解決しなければならない。


蛹の段階で電子回路を埋め込む

 ところが最近になって、昆虫と電子回路を接続する研究が大きく進展した。それは昆虫の成虫ではなく、さなぎ(蛹)の段階で電子回路を埋め込む手法である。昆虫は成長の過程で幼虫から蛹、蛹から成虫へと変態する。変態の過程で生体組織の大半は、新しく再生する。このため蛹の状態で生体組織を傷つけても、成虫になる過程で生体組織が再生し、傷口を塞いでくれる。さらには自己組織の一部であるかのように電子回路を取り込んで、成虫になってくれる。

 例えば米University of Michiganらのグループはカブトムシを使って飛行の制御を研究しているが、成虫に電極プローブやシリコンチップなどを埋め込むと3日以内に死んでしまうと講演で述べていた。これに対して蛹に埋め込むと、生存率が大幅に上昇する。例えば脳に神経プローブを埋め込んだ場合は生存率が82%、平均寿命が21日という成績だった。

 この埋め込みには最適な時期があり、早すぎても遅くてもいけない。米Cornell Universityらのグループは蛾(タバコスズメガ)を使って研究しているが、講演によると幼虫の段階では埋め込みによってほとんどが死んでしまう。また蛹の段階でも、早すぎると生体組織が流出し、遅すぎると筋肉組織を傷つけてそれぞれ成績が悪化する。逆に最適な時期に埋め込めば、90%以上が生存すると述べていた。


蛾(タバコスズメガ)の成長過程と、電極プローブの埋め込み時期。米Cornell Universityらの研究グループによる発表(MEMS 2008のTechnical Digestから) カブトムシに電極や半導体チップなどを埋め込んだときの成績。米University of Michiganらの研究グループによる発表(MEMS 2008のTechnical Digestから)

蛾の羽根を電気的に動かす

 それでは各講演の概要をご紹介しよう。最初は米Cornell Universityらの研究グループによる講演である。タバコスズメガの蛹に電子回路を接続している。電子回路は電極プローブとバッテリ搭載プリント基板、マイコン(米Atmelの「Tiny13V」)とLEDを搭載したプリント基板で構成されており、全体の大きさは8×7mm、重量は500mgである。バッテリの容量は16mAh、重量は240mg。

 タバコスズメガの蛹には4本の電極を備えるプローブを埋め込んだ。タバコスズメガの羽根を動かす筋肉は左右対称に大きく4カ所(2対)に分かれているので、それぞれの筋肉に電極を1本ずつ接続する。電極プローブの長さは8mm、幅は0.4mm。

 講演では、フレキシブル基板の電極プローブだけをタバコスズメガに埋め込んでケーブルで外部と接続し、羽根の動きを制御した様子の撮影画像をビデオ再生してみせた。羽根を上に動かす、羽根を下に動かす、羽根を上下に動かす、羽根を振動させる、実際に飛行させるといった動きが披露された。駆動電圧は5Vである。なお飛行制御の撮影ビデオ(WMV形式)をこのアドレスから閲覧できる。


電子回路を埋め込んだタバコスズメガの外観。右上は蛹の状態。このときに埋め込んだ。左上は埋め込み部のX線撮影像(A)とCT撮影像(B)(MEMS 2008のTechnical Digestから) タバコスズメガに電極プローブをケーブル接続して飛行を制御したところ(MEMS 2008のTechnical Digestから)

カブトムシの飛行軌道をマイコンで設定

 続いて米University of Michiganらの研究グループによる発表の概要を紹介しよう。こちらはカブトムシを使う。昆虫としては強力な飛行能力を備えていることなどが、カブトムシを選んだ理由だと説明していた。

 このカブトムシに4本の電極プローブを埋め込んだ。電極の1本は脳の飛行制御領域に、2本は羽根を動かす筋肉(左右で一対)に接続する。残りの1本は対向電極として背中に挿入した。電子回路はマイコン(米Texas Instrumentsの「MSP430」)とバッテリ(600mAh、170mg)、白色LEDで構成される。

 まず、電極プローブを埋め込んだカブトムシをケーブル接続した状態で羽根の動きを制御できることを確かめた。そしてマイコンにプログラムを格納し、ケーブルなしで離陸や着陸、右旋回、左旋回といったさまざまな飛行制御を試みた。これらの飛行制御が実際にできたことをビデオ再生画像で披露した。なおマイコンの消費電力は250μWである。連続して31時間、飛行を制御できるという。


カブトムシに電子回路を接続したときの概念図(MEMS 2008のTechnical Digestから) マイコンのプログラムで設定した飛行軌道をカブトムシが飛んでいるところ(MEMS 2008のTechnical Digestから)

時間とともに進化するMEMS

 MEMSが持つ古いイメージに「シリコンで製造した機械部品」がある。国際学会「MEMS 2008」に集結したMEMS研究の最先端の姿は、そんな古いイメージを簡単に打ち砕いてくれる。もちろんシリコンは今でも、MEMSを構成する重要な材料である。しかし一方でシリコンは、MEMSを構成する材料の一つに過ぎない。例えば医療・バイオ応用を狙ったMEMSデバイスの材料は有機高分子が多く、シリコンは少数派に見えてしまう。生体との相性が良いパリレン(parylene)や、立体構造の作成が容易なPDMS(poly-dimethylsiloxane)といった材料名を発表論文では少なからず見かけた。

 MEMSの大きな特徴に自由度の高さ、すなわちさまざまな用途に適したシステムをアイデア次第で生み出せることがある。新しいアイデアに基づく研究は、用途や仕様などに適した材料を選び、適切な構造を模索し、製造技術を考案し、システムを試作し、評価する作業となる。そして新しいMEMSが具現化される。その姿は、過去のどのMEMSとも違っているだろう。

 MEMS 2008で発表された論文のほとんどは、大学による研究成果である。大学の自由な発想がMEMSの研究に広がりを与え、MEMSを次々と進化させているように思える。来年のMEMS 2009では、MEMSのイメージがまた少し、広がるに違いない。そんな変化を期待したい。


URL
  MEMS 2008
  http://www.mems2008.org/

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( 福田 昭 )
2008/01/22 00:04

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