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MEMS 2009会場の看板
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MEMS(メムス)の研究開発に関する国際学会「MEMS 2009(22nd IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems)」のカンファレンス(技術講演)が26日(月)に始まった。
26日の朝は技術講演に先立ち、「Welcome Address」と題してMEMS 2009の概要をゼネラルチェアマン(総合議長)が解説してくれた。MEMS 2009での発表を狙って投稿された論文の数は856件で、過去最高に達した。採択された論文の数は276件で、採択率は32%と約3分の1である。かなりの狭き門であることが分かる。
採択された論文の内訳は、口頭で講演発表する論文の数が47件、ポスターで発表する論文の数が229件となっている。国際学会「MEMS」は同時に開催する技術講演のセッション数を1つだけに絞っており、同時に複数のセッションは実施しない。すなわちカンファレンスの参加者は、口頭で講演する論文のすべてを聴講できる。このため口頭発表される研究論文は、特に厳選された優れた内容だと評価されたものになっている。
地域別の投稿件数と発表件数(採択率)は米国が254件と94件(37%)、欧州およびアフリカが197件と61件(31%)、アジアとオセアニアが405件と121件(30%)である。国別の発表件数は米国が93件で例年と同様に断トツである。日本は64件で例年と同様、2位につける。そのほかは韓国が22件、台湾とドイツが19件で続く。
● MEMS加速度センサーがゲームコントローラに載った
それでは技術講演のトピックスを紹介しよう。26日の午前は最初の講演である、STMicroelectronicsのBenedetto Vigna氏による招待講演が興味深かった。同社の3軸MEMS加速度センサーが、任天堂の据置き型テレビゲーム機「Wii」のコントローラに採用された経緯が説明されたのである。
STMicroelectronicsと任天堂が会合をもったのは2000年に遡る。任天堂は新たな据置き型テレビゲーム機の開発にあたって、従来とは異なるゲームコントローラを構想していた。当時のゲームコントローラは両手で扱うことが基本であり、数多くのボタンを装備していた。簡単に言ってしまうと、ゲームプレーヤーにとって非常に複雑になり、扱いづらいコントローラになっていた。
任天堂が考えたのは、まったく新しいコントローラだった。誰にでも扱いやすいコントローラで、左右のどちらかの手で扱え、ボタンではなく手の動きで操作する。このようなコントローラの実現に不可欠な部品が、3軸の加速度センサーだった。
STMicroelectronicsの課題は、低コストで消費電力の低いMEMS加速度センサーを開発することだった。同社にとって経験のない分野だったという。これまで実績のある自動車分野向けのMEMS加速度センサーは、単価が高く、消費電力がそれほど低くなかった。
任天堂向けに開発した3軸加速度センサー「LIS3L02AL」の量産が始まったのは2006年3月のことである。STMicroelectronicsのMEMS事業による売上高は2006年に2,940万ドルだったが、任天堂の「Wii」とともに売上高は急速に拡大した。2007年の売上高は前年のおよそ3倍、9,600万ドルに達した。2008年になっても売り上げの拡大は止まらず、前年の2倍を超える、2億910万ドルを記録した。この年、STMicroelectronicsは世界最大のMEMSデバイスベンダーとなった。
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技術とコンセプトの両方が斬新であることが、イノベーション(Technology Epiphany)を生み出す。MEMS 2009のTechnical Digestから
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Technology Epiphanyの代表的な例が任天堂のゲームコントローラ開発だった。MEMS 2009のTechnical Digestから
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3軸加速度センサー「LIS3L02AL」の有限要素法(FEM)解析の様子。センサーチップとロジックチップを積層し、樹脂封止している。MEMS 2009のTechnical Digestから
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さまざまな大きさの3軸加速度センサー。MEMS 2009のTechnical Digestから
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● バクテリアで燃料電池セルの触媒を不要にする
26日午前に行なわれた一般講演では、バクテリアを利用した微小な燃料電池セルの発表が目を引いた。米University of California, Berkeleyの研究成果である(E.Parraほか、セッション3)。通常の燃料電池セルでは、白金(プラチナ)といった高価な触媒を必要とする。バクテリアの代謝を利用することで、高価な触媒を不要にすることを狙う。
燃料電池セルはアノード電極と電解質溶液、プロトン交換膜(PEM)、カソード電極と電解質溶液で構成される。研究中の燃料電池セルでは、アノード電極側の電解質にバクテリアを投入する。バクテリアが溶液中の酢酸塩を取り込んで電子と炭酸ガスを放出する仕組みである。試作した燃料電池セルでは、10日間の連続動作と最大出力0.12μWを確認した。
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バクテリアを利用した燃料電池セルの模式図。MEMS 2009のTechnical Digestから
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試作した燃料電池セルの構造(左)と実物写真(右)。MEMS 2009のTechnical Digestから
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試作した燃料電池セルの出力特性。MEMS 2009のTechnical Digestから
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バクテリアの電子顕微鏡写真。バクテリアの大きさは直径300nm×長さ.1.5μmくらい。MEMS 2009のTechnical Digestから
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● 血液から血漿を効率良く分離する
26日午後のポスターセッションでは、メンブレン(薄膜)のフィルタを使って血液から血漿を分離する技術の発表が注目を集めていた。立命館大学とニプロの共同研究成果である(T.Kobayashiほか、ポスター番号15-M)。
医療分野で血液検査は、健康診断の基本となる検査手法である。生体への影響を最小限にとどめるには、採取する血液の分量は少ないことが望ましい。MEMS技術を利用すれば、少ない分量の血液を分離・精製し、検査することが期待できる。
立命館大学とニプロが開発したのは、血液から血漿を効率良く分離するフィルタである。メンブレンのフィルタを内蔵した微小なチャンバで、チャンバに血液を送り込むと、血漿と残りの血液に分離して排出する。このフィルタを直列に3個つなげることで、血漿を分離する効率を上げている。
フィルタを直列に3個つなげた装置を試作して人工血液で実験したところ、血漿の収集効率は75%だった。フィルタが1個の場合は収集効率が34%だったので、効率が大幅に高まったことになる。また血漿分離の際に問題となる溶血現象は、実験ではみられなかった。
この実験結果を受けて、有機材料のPDMS(poly-dimethylsiloxane)を使ったフィルタチップを試作した。試作したPDMSチップで、人工血液から血漿を分離できることを確かめている。
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血液から血漿(plasma)を分離する原理。MEMS 2009のTechnical Digestから
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試作したフィルタの構造図。MEMS 2009のTechnical Digestから
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試作したフィルタの外観写真。3個のフィルタを直列につないである。MEMS 2009のTechnical Digestから
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フィルタ3個を組み込んだPDMSチップの構造。MEMS 2009のTechnical Digestから
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試作したPDMSチップで人工血液を分離したところ。MEMS 2009のTechnical Digestから
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■URL
MEMS 2009(英文)
http://www.mems2009.org/
■ 関連記事
・ 「MEMS 2009」前日レポート ~微小な機械システムの研究成果を競う(2009/01/26)
( 福田 昭 )
2009/01/28 15:19
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