|
NEDO技術開発機構ブース
|
6月26日(木)~28日(土)の日程で、横浜・みなとみらいのパシフィコ横浜の展示ホールBにて「ヨコハマ・ヒューマン&テクノランド2008(ヨッテク2008)」が開催されている。主催は社会福祉法人横浜市リハビリテーション事業団。テーマは「福祉を支える人とテクノロジー」で、テクノロジーの恩恵を肌で感じ取れるような体験参加型を貴重とした展示会を目指したもの。入場は無料で登録も不要だ。
福祉関連の展示会だが独立行政法人・新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)が特別協賛しており、スペシャルゾーンにてNEDO技術開発機構が助成している「人間支援型ロボット実用化基盤技術開発プロジェクト」の成果発表が行なわれている。
今回、ブースで展示・デモンストレーションされているロボットは全部で8体。介護施設や病院などのロボットユーザーの意見を取り入れて開発された介護福祉ロボットだ。身体機能の維持や向上を目的としたリハビリ支援ロボット、特定動作を支援するロボットならびに、介護者を助けるためのロボットなど人間との接触度が大きいロボットで、今後も介護施設や病院など現場で実証実験・機能評価を行ない、早期の実用化を目指すという。
まず、リハビリ支援ロボット技術4つを紹介する。
● 上肢リハビリ支援ロボット
「脳卒中片麻痺患者用上肢リハビリ支援ロボット」(研究団体:財団法人新産業創造研究機構(NIRO))は、空気圧のゴム人工筋肉と肘角度センサーを用いた上肢のリハビリ訓練支援ロボットである。健常の腕のほうをマスター、麻痺した側をスレーブとして、マスター側の腕を動かすと、それに応じてスレーブ側の腕がロボットによって動かされる。この運動を繰り返すことで1人での長時間訓練が可能になり筋肉の拘縮(こうしゅく)なども防げるという。
実際に患者さんに試してもらったところ、手を伸ばしてボタンを押すような運動において、リハビリ前は腕がぎくしゃくするような動きが見られたが、リハビリ後にはスムーズなリーチングができるようになったそうだ。
このロボット、見たことがあると思う読者も多いと思う。デザインされた外装こそないものの松下電器の社内ベンチャーであるアクティブリンク株式会社のリハビリ支援ロボットスーツ「リアライブ」と同じものである。現在、パナソニック(松下電器)本体から量産に向けて動いている段階だという。
|
|
脳卒中片麻痺患者用上肢リハビリ支援ロボット
|
【動画】マスター側を動かすと、もう片方も動く
|
● 下肢リハビリ支援ロボット
「MR 流体ブレーキを応用した下肢支援ロボット」(研究団体:NIRO)は、脳卒中による片麻痺、脊髄損傷による対麻痺の歩行を補助する装具。これまで固定されることが多かった足首部分の動きをMR流体(磁性流体)によるブレーキを使って硬さを調節しながらアシストする。磁性流体は直径数ミクロンの鉄の粒子を油やシリコンを主成分とする液体に混ぜて作られている。よって電磁石等を使って磁場をかけることで、流路抵抗を変化させることができるのだ。それによって、足継ぎ手を固定したり、フリーにしたり、半固定にすることで関節の硬さを調節する。
足裏2箇所、そして装具のフレームにもセンサーがついていて、足と装具リンクの曲げモーメントをリアルタイムで計算、足の振り出し運動を見ている。これにより坂道や不整地でも適切なアシストが可能だという。今後はより軽量化していくそうだ。NIRO、大阪電気通信大学、大阪大学、神戸学院大学、兵庫県立総合リハビリテーションセンター、ビー・エル・オートテック株式会社の共同で研究が進められている。
|
|
MR 流体ブレーキを応用した下肢支援ロボット
|
フレーム部分には曲げセンサー
|
● 手指リハビリ
「イメージトレーニング機能付き手指・上肢リハビリ支援ロボット」(株式会社丸富精工)は、データグローブを使って麻痺のない健常な側の手の動きをマスター、動かしにくい麻痺のあるほうの手をスレーブとして、自分で動かすことでリハビリする機械だ。各指関節それぞれを(自分の手指の動きで)他動的に動かすのだが、手には多くの自由度があるため、かなり大きなシステムとなっている。将来は遠隔モニターや診断も可能とすることを目指すという。
|
|
丸富精工「手指・上肢リハビリ支援ロボット」
|
【動画】手指・上肢リハビリ支援ロボットの動き
|
|
|
システム概要
|
訓練内容を視覚的に提示することでイメージトレーニングも行なえる
|
● トレーニング
「筋力向上トレーニングロボット」(財団法人にいがた産業創造機構、株式会社日立製作所トータルソリューション事業部)は、高齢者の廃用症候群など介護予防を目的とした筋力向上トレーニングを行なうためのロボットだ。上肢および下肢の4種類の筋力トレーニングが行なえる。基本的にはローイングを行なうのだが、負荷はトレーナーではなく、機械自体がロータリーエンコーダーを使って運動速度をモニター、適切な負荷を自律的に決める。
一番の特徴は、負荷方向を切り替えることで、絶えず「フル・コンセントリック運動」を行なえるようにしたこと。「コンセントリック」とは筋肉を縮めながら力を発揮している状態。たとえば階段を上がるよりも下る運動のほうが筋肉痛が出やすいが、コンセントリック運動では筋肉痛が出ることは少ないのだそうだ。これにより、運動を嫌う人でも運動しやすくしたという。
現在はかなり大きなシステムだが、今後は製品化に向けてコンパクト化、低コスト化、操作性の向上を目指す。
|
|
|
筋力向上トレーニングロボット
|
「フル・コンセントリック運動」を実現したシステムは世界初という
|
トレーニングモニター
|
次に、自律動作を支援するロボット技術3つを紹介する。
● 上肢支援
「上肢機能支援ロボット」(研究団体:セコム株式会社開発センターメディカルグループ)は、電動車椅子に取り付けられたロボットアームである。700gまでのモノを把持でき、腕の代わりとして機能する。例えば床上やテーブル上の物体を取ったりできるほか、事前に登録した基本姿勢や任意の位置までは一発で移動させることができるようになっているため、比較的容易にコップを口元へ運んだりできるという。おおまかな位置まではある程度ロボットが自律的に移動し、細かい動きは操作装置で決定するようになっている。
エンドエフェクタ先端にはカメラなどセンサー類が付けられている。先端はツメ状になっている。これはユーザーから、モノを引っかけて引きずって移動させたり、引き出しをあけたり、冷蔵庫の扉を開けたりしたいという希望があったからだという。
セコムの「マイスプーン」などを通じた安全性に関する技術なども反映されているそうだ。海外のメーカー製の似たような製品もあるが、それよりも遙かに使いやすいシステムとなっているという。現時点のシステムはフルスペックとなっているので、実用化にもっていくためにはここから必要技術を切り出すことになる。またシステム全体の小型・軽量化、複雑な作業の高速化なども課題だそうだ。
|
|
|
セコムの「上肢機能支援ロボット」
|
エンドエフェクタ先端にはカメラ
|
先端がツメ状になっているのは、モノを引っかけて引きずって移動させたり、引き出しをあけたり冷蔵庫の扉を開けたりする用途に用いるため
|
|
|
|
解説パネル
|
コントローラは各種用意されている
|
【動画】アームの動き
|
● 下肢支援
下肢麻痺者用の歩行補助ロボット「WPAL(Wearable Power Assist Locomotor)」(アスカ株式会社、藤田保険衛生大学医学部リハビリテーション医学講座)は、下半身が麻痺して動かない人たちの自立歩行を助けるための歩行補助装具だ。足を大きく振り出すことで重心移動しながら移動することになる通常の装具と異なるのは、モーターを使ってアクティブに膝部分を動かし、実際に足を踏み出させること。
歩行補助具とセットで使う機械で、コントローラとバッテリは補助具のほうに入っている。車椅子と併用することが前提のため、モーターやリンクそのほかは全て内側に配置された内側系構造となっている。モーターはこのシステム用に独自に開発した。
装具のソケット部分は軟性素材を用い、ユーザー個別に専用のものが作られる。やはり実際に自分の足で歩きたいという希望は強いそうで、最初はおそるおそる足を踏み出すものの、すぐに積極的になる人が多いそうだ。今後、訓練システムを使ってさらに実証実験を積み重ね、安全性、信頼性、機能向上を目指すという。
|
|
|
下肢麻痺者用の歩行補助ロボットWPAL
|
ロボット機構部分は全て内側に配置されている
|
ロボット部分と装具部分は分離可能
|
|
|
WPAL概要
|
【動画】WPALの動き。最初は足踏み動作で練習するそうだ
|
● 下肢支援
「自律動作支援用ロボットスーツHAL」は筑波大学システム情報工学研究科Cybernics研究室(山海研究室)、CYBERDYNE株式会社が開発しているアシストスーツである。装着者の意志に応じて動作する「随意的制御システム」とロボット制御によって動作する「自律的制御システム」とを組み合わせたハイブリッドシステムによる運動支援を行なう。
今回は全身型ではなく片足用や両下肢用のHALを出展し、支援機能をユニット化することで支援箇所・対象に応じた組み合わせができることをアピールしていた。
|
|
HAL
|
片足用HAL
|
最後に介護動作を支援するロボットをご紹介する。
● 排泄介護支援ロボット
排泄介護総合支援ロボット「トイレアシスト」(独立行政法人産業技術総合研究所知能システム研究部門安全知能研究グループ、TOTO株式会社総合研究所商品研究部、川田工業株式会社)は、トイレ介護を支援するためのシステムである。移乗支援、姿勢保持支援、清拭動作支援機能などにより、主にトイレでの介護者のサポートを目的としている。
アシストの流れはこうだ。まず、車椅子で入室する。前手すりは介助者のスイッチオンによって適切な位置に移動してくる。その後、立ち上がりの補助を行なう。被介護者が立ち上がると、車椅子が台車でバックし、空いたスペースに全方向台車上に乗せられた便座ロボットが適切な位置に移動する。着座・排便の後、再び便座と車椅子が入れ替わり、退室する。便器と車椅子が自動的に入れ替わることで被介護者の足の踏み替えが不要なことが大きな特徴だ。
デモをご覧頂ければ分かるとおり、今回のシステムは、どんな状況にでも対応できるようなフルスペックのシステムとして設計されている。これから必要用途・シーンに応じて各技術を切り出していくという。なお車椅子の移動を行なった台車は可搬重量が100kg以上あり、実際には人間が乗ったままでも移動可能だという。
|
|
トイレアシスト
|
トイレアシストシステムの流れ
|
|
|
【動画】入室からつかまり立ちの途中まで
|
【動画】便座が移動準備を開始、被介護者は立ち上がって前手すりで体を支える
|
|
|
【動画】台車に乗った車椅子がバック、便座が自動的に移動、着座、用便
|
【動画】便座と前手すりの補助で立ち上がり、再び車椅子と便座が入れ替わる
|
6月28日(土)には、各出展者によるプレゼンテーション(各10分)が行なわれる。日程は以下のとおり。プレゼンテーションは技術的なことよりも、むしろ用途や今後の目標を中心としたものになるという。
・第1回 10:30~12:20
・第2回 14:00~15:50
その他のブースにもロボットのほか、各種展示が行なわれている。最後に写真で簡単にご紹介しておく。
|
|
|
レイトロン「Chapit」は横浜市総合リハビリテーションセンター「ECS体験コーナー」ブースに並んでいる
|
同じく産総研の音声認識システムも同じブースでデモを行なっている。発話方向に応じてランプを点灯させるというデモ
|
セコムブースでは「マイスプーン」
|
|
|
|
各種トイレが並んだTOTOブース
|
神奈川トヨタ自動車株式会社による福祉車両展示
|
「チェアスキー」ゲームコーナー
|
|
|
|
陸上競技用車椅子
|
車椅子体験コーナー
|
ステージで行なわれていた介助犬デモ
|
■URL
ヨッテク2008
http://www.yotec.jp/
NEDO技術開発機構
http://www.nedo.go.jp/
ニュースリリース
http://www.nedo.go.jp/informations/press/200618_1/200618_1.html
■ 関連記事
・ 名古屋にて、第11回国際福祉健康産業展「ウェルフェア2008」開催 ~福祉分野で活躍するロボットテクノロジー(2008/06/13)
・ 総合福祉展「バリアフリー2008」レポート ~ホンダが「装着型歩行アシスト」を公開(2008/05/01)
・ 神戸市立青少年科学館「こうべロボット夢工房2008」レポート(2007/12/19)
・ 第33回国際福祉機器展レポート(2006/09/29)
( 森山和道 )
2008/06/27 17:53
- ページの先頭へ-
|