2008年4月25日~27日の3日間、インテックス大阪において、「第14回 高齢者・障がい者の快適な生活を提案する総合福祉展 バリアフリー2008」が開催された。主催は、社会福祉法人大阪府社会福祉協議会とテレビ大阪。
展示会場から、高齢者・障がい者の生活を快適にする福祉機器・製品を含めた総合的な福祉情報を発信した。出展対象は、車いすなどの移動器具および移動補助用品、福祉車両、トイレ設備、入浴関連用品、住宅・施設向け設備関連など多岐にわたった。317団体の出展があり、3日間で約9万7千人の来場者があった。
● ホンダ「装着型歩行アシスト」プロトタイプ体験レポート
今回、ホンダが高齢者などの歩行をサポートする「装着型歩行アシスト」装置のプロトタイプを参考出展した。プロジェクトリーダーの及川清志氏にお話しを伺いながら、歩行アシストの装着歩行を体験してきた。
歩行アシストは、加齢などにより脚力が低下した人の歩行をサポートする器具だ。1999年から株式会社本田技術研究所基礎技術研究センターで研究を行なってきた。二足歩行ロボットASIMOの歩行を研究する中で、ロボットの歩行技術を応用した時、どのような形で人間の歩行をサポートできるのかを考えたのが発端だという。
歩行アシストの装置は、腰の部分に巻き付ける電源やマイコンを搭載したベルトと、腿の前後に当てるパッド部分の2つからなる。サイズはS・M・Lとあり、それぞれ幅が312mm、342mm、372mm。重量はMサイズで2.8kgだ。手で持ってみると、重く感じるが腰に巻き付けた時には重量を感じるほどではなかった。本来は一人で装着が可能だが、今回はプロトタイプということもあり、スタッフが装着を手伝っていた。
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「装着型歩行アシスト」プロトタイプ
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腰の部分にマイコンやバッテリが搭載されている。これはSサイズ
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今回はスタッフが歩行アシストの装着を手伝っていた
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実際に歩行アシストをつけて歩いてみると、足を動かした後にもう一押しされて歩幅が伸びる感じがあった。電動アシスト自転車に乗ったことのある人は、自転車をこぎ始めた時に動力が効き始める瞬間の感覚を思い出してほしい。最初は、一呼吸の何分の1か遅れたタイミングでアシストがはいっている感じがあるが、リズムに乗り出すとすいすいと進む。そんな感覚だ。
残念ながら体験スペースに限りがあるため、快適な歩行を楽しむほどの距離を歩くことはできなかったが、蹴り足が軽くなり歩幅が伸びているという体感があった。歩き始めると足を優しく押し出されている感じがして、だんだん早足になっていくのが自分で判るのだ。スロープを上る時には、特に足が軽く感じられた。逆に下り坂では、自分の意識より前方に足が出るような気がして、少々へっぴり腰で歩くことになった。
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パッド部分に空気を入れて、腿とぴったり密着させる
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【動画】歩いていると足が勝手に前へ前へ出るような感じがして、思わず笑い出したくなった
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【動画】下り坂は、足が前に出そうでなんとなく怖く感じてへっぴり腰になってしまった
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歩行アシストは腰の両脇にある丸い部分に、角度センサとモーターが入っている。角度センサが脚の角度を読み取り、歩行周期を予測し腿の前後につけたパッドが「膝を曲げる動き」「脚の振り出し」「着地」「地面を蹴り出す動き」をアシストする。
人が歩行する場合、足を着地した時に膝を伸展させて地面を蹴り出し推進力を得ている。この「着地」と「蹴り出し」のアシストを確実に行なわないと、足踏みをするだけで前進できないという。
モーターの出力は50Wと小さい。2kgくらいのものを押す力しかないそうだ。数字で言われてもピンとこないが、「本人に歩くつもりがなければ、何も起こらない程度の力」と説明されてなんとなく納得した。歩行アシストを装着中に、突然立ち止まったとしてもパッドの力に押されるようなことはなく、自然に停止することができる。そのくらいのアシスト力ということだ。
つまり、歩行アシストはあくまでも自力歩行が可能な人の歩行をアシストする器具ということだ。高齢者になると、筋力が衰えて歩幅が小さくちょこまかとした歩き方になる。そうした方達の自ら歩く力をアシストするためのもので、歩こうとする人間の力がなければ機能しない。歩行アシストを装着して3カ月くらい活動すると、歩行アシストを外しても歩幅が伸びるという結果もでているという。
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マイコン部分。バランスをとるためにバッテリは両脇に取り付けてある
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腿に取り付けるパッドは、取り外しができる。右側の突起から空気を入れて腿に密着させる
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両脇の丸い部分に角度センサとモータ、電源スイッチが搭載されている。押すと電源が入る
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歩行アシスト研究の背景
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歩行アシスト装着時の心拍数の変化
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歩行アシスト装着時の歩幅の変化
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現在は、すり足やパーキソン病などの患者、遊脚へのアシスト効果をテスト中。また商品化については、アンケートをとりニーズや方向性を探る検討段階だという。
● 介護福祉ロボットの紹介
介護福祉はRT(ロボットテクノロジー)の応用領域として注目が高い分野だ。会場で見つけたRTに関係がある製品を紹介する。
「ロボット」と明示して展示されていた製品に、株式会社西澤電機計器製作所の自動ページめくり器「ブックタイム」があった。
文庫~A4版までの書籍に対応する卓上型の自動ページめくり器だ。寸法は幅610×高さ490×奥行290mm、重量は約8.5kg。座位姿勢や側臥位姿勢で読書ができる。操作は、本体のボタンでページをめくるほか、呼吸器スイッチや手元スイッチなど障害者の残存機能に応じた入力スイッチに対応している。
会場内で、多くの来場者が熱心に見学していたのが排泄介助を自動化する製品のブースだった。排泄介護は、介護を必要とする人、介護サポートをする人、両者にとって大きな関心事である。要介護者にとっては、羞恥心もあり精神的にも身体的にも負担が大きい。介護者にとっては、特に夜間の介護は十分な睡眠が確保できず体力的な負担が激しい。これを自動化することにより、効率的に質の高いケアの実現が期待されている分野だ。
ユニ・チャーム株式会社は株式会社日立製作所と共同開発中の「自動採尿システム」を参考出品していた。
これは、採尿パッドの中にセンサーを仕込み、排尿を検知すると自動的に吸引・採尿をするシステムだ。パッドに尿が残らないため、従来1日5~7回交換が必要だったのが、1~2回のパッド交換ですむようになるという。センサーは、フィルムにカーボンを印刷してあるため、従来品同様、使い捨てで燃えるゴミに出せる。
ユニチャームは以前から商品のアイデアを持っており、6~7年前に日立からポンプの技術紹介があって共同研究に乗り出したという。ポンプは小型軽量でバッテリを内蔵しているため、車いすで外出時にも使用できる。
現在、機能面は既にクリアしているので、今後、衛生面など安全性の確認をし来春の商品化を目指しているという。価格については介護保険を適用し、ユーザーの1割負担で従来のパッドとランニングコストを同等にしたいという。
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日立製作所の技術による尿採取ポット
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ユニチャームの専用の使い捨てパッド
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センサによって排尿を検知して自動的に水分を除去する
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隣のブースでは、株式会社エヌウィックが自動排泄処理装置「マインレット夢」を展示していた。この商品は、宮城県の平成13年度・14年度 医療・福祉機器等研究成果育成事業採択を受けて、宮城県補助事業として、岩手大学工学部福祉システム工学科大川井研究室の協力を得て開発した。
「マインレット夢」は排尿・排便をセンサが感知すると、1)自動吸引、2)温水洗浄、3)温風乾燥まで一連の処理を完全自動で行なう介護装置だ。肛門と尿道口を覆うように柔らかいナイロン製のカップを装着し、排泄があると尿か便かを判断してタンクに吸引。便の固さに応じて3~5回の温水洗浄を行なう。吸引した汚物は、タンクへ直行するため臭気が漏れる心配がない。タンク内が満杯になったら、内容物をトイレに流すだけでよい。
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柔らかいナイロン製のカップで覆い、便や尿を自動的に処理する
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便の固さに応じて、温水で洗い流す回数が変わる。洗いすぎによる弊害を防ぐために頻尿モードもある
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タンクの汚水はそのままトイレに流せばOK。丸洗いで洗浄できるため手入れも簡単
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大阪産業大学が市販の車いすにバックビューモニタを取り付けたデモ機を出展していた。
電動・自走式の車いす利用者が後方確認を容易に行なうために、車いすの背中にバックビューカメラを搭載し、手元のモニタで、後方の障害物を認識可能にした。エレベータをバックで降りる時や、背後からの人や自転車等の接近状態を確認でき、安全を確保できる。
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大阪産業大学の市販車いすにバックビューモニタを取り付けたデモ機
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モニタは上下に角度を変えて、足元から上部まで障害物を確認することができる
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ナブテスコ株式会社のブースでは、車いすの階段昇降ユニットが展示されていた。4~5階建ての公営住宅は、エレベータの設置がなく、また階段が急で踊り場も狭く車いすで昇降するには数人の人手が必要となる。
同社が開発中の階段昇降ユニット「J-MAX」は、専用の手動車いすに取り付けて階段の昇降をサポートする。角度センサによって、車いすの角度を読み取り正しい角度の時にL字型の昇降フットとセーフティアームが出て、階段を昇降する手助けをする。
1回の充電で5階建ての部屋から6往復できるという。介護保険適用で月5,000円くらいのレンタル料でユーザーに貸し出しできる見込みだという。
近鉄スマイル株式会社のブースに展示されていた「TranSupporter」は、車いすに階段昇降機能を追加した製品だ。適応する階段は、蹴上げ21cm以下、踏み面24cm以上の寸法に限られる。一般的な公営住宅であれば適応しているという。
踏み面の縁で自動的に安全ブレーキが働き、車体の滑り落ちを防ぐ。角度センサで車体の傾きを検知し、正しい角度(25度)でない時にはLEDが警報を出し動作しない安全設計になっている。約3時間の充電で500段の階段を昇降できるという。
既に発売されており、介護保険適用で月5,000円の負担で利用できる。
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ナブテスコ株式会社の車いす階段昇降ユニット「J-Max」。近日発売
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【動画】「TranSupporter」は、階段昇降機能付車いすだ
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視覚障害者のための音声案内システムも展示されていた。
TOA株式会社が展示していた「視覚障害者向け音声案内システム」は、画像認識部分をNECが担っている。カメラ映像の「動き」「色」「形状」で白状を認識し、予め録音された音声案内を再生して誘導する。音声案内サービスを受けるために、ユーザーが専用端末を購入・携帯する負担がない点が特長。既に千代田区役所本庁舎や新潟美咲合同庁舎などに導入されている。
三菱プレシジョン株式会社の赤外線音声案内システム「トーキングサイン」は、専用受信機により赤外線をキャッチして音声案内サービスを受けるシステム。赤外線装置が信号機に設置されていれば、ユーザーは受信機で信号の状態を音声によって確認することができる。また、道路横断中も音声を受信し続けることで、横断歩道から外れることがなく安全に歩行できる。街角への設置の他、眼科病棟など一時的に視力を失った人へのサポート器具としても有効だという。
■URL
バリアフリー2008
http://www.itp.gr.jp/bf/
ホンダ
http://www.honda.co.jp/news/2008/c080422.html
Honda R&D 基礎技術研究センター
http://www.honda.co.jp/RandD/wako_r/index.html
ニュースリリース
http://www.honda.co.jp/news/2008/c080422.html
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( 三月兎 )
2008/05/01 17:09
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