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ロボットビジネス推進協議会、ロボ検を開始
~メカトロニクス・ロボット技術者の人材育成指標確立を目指す
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グローバックス、名古屋にロボット専門店をオープン
~5月2日~5日にプレオープンイベントを開催
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【 2009/04/20 】
研究者たちの「知りたい」気持ちが直接わかる
~理研一般公開でのロボット
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【やじうまRobot Watch】
巨大な機械の「クモ」2体が横浜市街をパレード!
~横浜開港150周年記念テーマイベント「開国博Y150」プレイベント
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【 2009/04/17 】
第15回総合福祉展「バリアフリー2009」レポート
~ロボットスーツ「HAL」や本田技研工業の歩行アシストも体験できる
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「第12回 ロボットグランプリ」レポート【大道芸コンテスト編】
~自由な発想でつくられた、楽しい大道芸ロボットが集結!
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【 2009/04/16 】
北九州市立大学が「手術用鉗子ロボット」開発
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ROBOSPOTで「第15回 KONDO CUP」が開催
~常勝・トリニティに最強のチャレンジャー現る
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【 2009/04/15 】
「第15回ROBO-ONE」が5月4日に開催
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ヴイストン、秋葉原に初の直営店舗「ヴイストンロボットセンター」、29日オープン
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【 2009/04/14 】
大盛況の「とよたこうせんCUP」レポート
~ロボカップにつながるサッカー大会が愛知県豊田市で開催
[11:34]

名古屋にて、第11回国際福祉健康産業展「ウェルフェア2008」開催
~福祉分野で活躍するロボットテクノロジー


 6月6日~8日の3日間にわたり、名古屋市のポートメッセなごやにおいて、第11回国際福祉健康産業展「ウェルフェア2008」が開催された。

 現在の日本は少子高齢化が進み、2015年には65歳以上の高齢者割合は4人に1人になると言われている。名古屋市は高齢者が健康に生活し、障害者が自立して生活できる町づくりを進めるために、各種介護/福祉施策の実施や、公共交通機関のバリアフリー化を推進している。

 国際福祉健康産業展は、福祉・健康産業の振興と商取引の拡大、福祉の増進を目的として、平成10年に第1回目を開催した。今年は“みんなでつくろう「愛」ある暮らし”をキャッチフレーズに、131社・団体が出展した。本稿では、福祉に活用・研究されているロボット技術についてレポートする。


 まず目についたのが本田技研工業の歩行アシストだ。マスコミに歩行アシストの記事が掲載され、歩行障害のある方が興味を持ち体験に多くの人が訪れているという。医者から同社が歩行アシストを研究中だと聞き、県外からわざわざ体験しに来た方もいたそうだ。1日に30~35人の体験者があり、障害のある方を優先して体験してもらっているという。歩行障害の程度や状態はさまざまであるため、研究室での実験ではカバーしきれない。展示会は、実際に装着した人の意見を聞く貴重な機会になっているのだ。

 スタッフの方に話を伺うと、体験者から「いつ発売されるのか?」と質問が数多くあったという。現時点では、研究開発中のため答えられないのが辛いと語っていた。

 製品化にあたっては、歩行アシストの安全性などの問題と共に、法整備も必要となる。普通に道を歩いていても、転ぶことはある。もし、歩行アシストを装着した人が転んだ場合、歩行アシストが転倒の原因であるのかどうかを判断することは、困難である。PL法の対応や、車の免許制度に該当するような法整備も必要かもしれない。

 体験した方にお話を伺うと、「もっと強力にアシストするのかと思っていたから、意外に感じた。坂道などもスムースで装着している不安感などはなかった。階段昇降を体験してみたかった」という意見があった。筆者の体験レポートは、本誌総合福祉展「バリアフリー2008」レポートに掲載している。歩行アシストの開発背景や技術に関しては、こちらの記事が詳しいので参照してほしい。


歩行アシスト 1日に30~35人が体験しているという 体験整理券がない人達は、熱心に質問をしていた

【動画】WPAL(ウーパル)。機構部は内側に搭載されているため、車椅子と併用できる
 藤田保健衛生大学医学部リハビリテーション医学講座とアスカ株式会社が共同開発したのが、下肢麻痺者の歩行補助ロボット「WPAL(Wearable Power-Assist Locomotor)ウーパル」だ。脊髄損傷などで下肢が麻痺した方が、車椅子から起立、着座、平地歩行する際のパワーアシストを行なう。股関節、膝関節、足首関節の3自由度を持ち、ACサーボモータで駆動する。満充電で1時間の連続使用が可能。機構部分を脚の内側に搭載しているため、車いすに座ったまま着用ができる。コントローラは歩行器に搭載されている。実用化すれば、車いすで生活している方が1日に1時間程度、自分で歩きトイレなど身の回りのことが可能になる。現在は、2010年の実用化を目指して実証実験段階に入っており、3人の被験者が週に3回病院で使用している。


 対麻痺用の歩行装具をモータを使わずに実現したのが、労災リハビリテーション工学センターの「HALO(Hip and Ankle Linked Orthosis)」だ。同センターでは、従来のリハビリテーションにロボット技術を応用した訓練機器を取り入れて、効率的で長時間の訓練を安全に可能にするリハビリテーションシステムの研究開発に取り組んでいる。

 「HALO」は、重心の移動だけで歩くことができる歩行装具だ。従来の歩行装具は、足関節が固定されており足底の一部だけが地面に接して不安定だった。HALOはその点を考慮し、股関節と足関節を連動させ、常に足底が床に平行になって接する構造だ。足関節と股関節をスチールワイヤーで連結していて、右足に体重をかけると荷重によって足関節が背屈し、踵部に取り付けたスチールワイヤーが左足の下肢を引き上げて前方に振り出す。車いすに乗ったままで装着するのに3~4分、脱ぐのも2分程度と簡単だ。

 筆者もプロトタイプを体験装着してきた。HALOを装着すると両膝が固定されて動かなくなるので、ロボットになったような気分だ。杖を前に出して右足に重心をかけようと思うのだが、怖くて上手にできない。思い切って杖にすがって体重を預けると、反対側の足が遊脚になり勝手に股関節から回転して前方に出る。慣れないと杖と両足の4点に重心を掛けてしまい、ゆっくりとした歩行になるが、体重移動が上手にできるようになるとかなりスムースに歩けるという。スタッフの方に歩行を見せていただき、なるほどと思った。歩幅の大きさや歩行速度は、ユーザー自身の体力や習熟度による。今年の5月に販売を開始したばかりで、価格は50万円。


HALO(Hip and Ankle Linked Orthosis)。重心移動だけで歩行が可能となる 【動画】筆者もHALOを体験してきた。重心移動が上手くできずに、なかなか歩けない 【動画】スタッフの方に実演していただいた。慣れればかなり速く歩けるようだ

 同ブースには他にも荷重ブレーキ式膝継手や、足こぎ式車いすなど歩行を助ける製品が展示されていた。荷重ブレーキ式膝継手は、荷重時に膝を伸展状態でロックし、荷重が抜けるとフリーになる膝継手だ。麻痺等により、大腿四頭筋の筋力が低下した人は、膝を伸展したまま固定する装具を使用して歩行している。荷重ブレーキ式膝継手を使用すると、遊脚が屈曲して自然に歩くことができる。

 車いす使用者の中には、立位や歩行は困難でも膝の曲げ伸ばしは可能な人も多い。足こぎ式車イスは、車輪を手で動かすのではなく、両足または片足でステップ兼用のペダルを動かし、その動きをロッドによって車輪に伝えて動かす。ハンドルで前輪を動かし、レバーを握るとブレーキがかかる。足こぎ式で車いすを動かした場合、心肺機能の負担は通常の車いすと比較して約半分、歩行とほぼ同じ負担であることが同センターの実験結果で出ているという。片足ペダル式を今秋発売の予定。価格は未定。


荷重ブレーキ式膝継手 【動画】足こぎ式の車いす。片足で軽くこいで動かすことができる

 車いす関連では、階段昇降で介助者の負担を軽減する車いす用階段昇降機を出展しているブースがあった。車いす用階段昇降機は、設置工事が必要なく移動式なので、さまざまな場所で使用できる。エレベーターやリフトに比較して費用が安いため、公立の学校などの需要が増えているという。

 愛知福祉サポートのブースでは、株式会社アルバジャパンが取り扱う「スカラモービル」が展示されていた。スカラモービルは、階段の端に来ると自動的に安全ブレーキが働き、落下事故を防ぐ仕様になっている。日本を含む国際特許を多数取得しており、14年前から国内で販売され1,400台出荷の実績がある。販売価格は95万円。昨年、レンタルを開始し、介護保険適用で月々6,600円になる。専用車いすもあるが、後輪サイズなどいくつかの条件が合えば、他社製の車いすにも取り付けが可能。

 ナブテスコ株式会社の車いす用階段昇降ユニット「J-MAX」は今秋発売予定。介護保険レンタル対象商品となる。階段昇降の際に車いすを安全な角度に保つように、お知らせセンサで介護者へ状態を伝える。また、万が一危険な角度になった時には、セーフティアームが車いすをロックし、前方への転落を防ぐなど、安全に配慮した設計になっている。


【動画】移動式車いす用階段昇降機「スカラモービル」 【動画】今秋発売予定の「J-MAX」。手元のスイッチでL字昇降フットがアームが伸びて階段を登る

【動画】安全機能が搭載されており、前方にバランスを崩した時はセーフティアームでロックする 車いすへの取り付けはカンタンな操作で行なえる

 ロボットテクノロジーを活用したリハビリ支援システムや予防システム、聴覚・視覚障害者の生活を支援するグッズも展示されていた。

 愛知県産業技術研究所のブースに展示されていたのは、肘のリハビリ支援ロボット。肘のリハビリには、屈伸と捻りの動作を行なう。理学療法士の行なうリハビリの運動軌道と負荷をロボットに教示すると、ロボットがプログラムに応じてリハビリを行なう。リハビリを繰り返すと関節が柔らなくなり反作用が低くなるため、6軸力覚センサが負荷をモニタしてリハビリに最適なパワーを出力する。2本のリニアアクチュエータの出力を、独立したリンクを介してユーザーの腕に伝達するパラレルリンク構造。リニアアクチュエータの動きを合成して、屈伸と捻りの2種類の動作を行なう。


肘のリハビリ支援ロボット 【動画】試作機によるテスト風景。軌道と負荷を教示すると、ロボットが同様に動きリハビリを支援する

 株式会社IRIは寝たきり予防のための健康器具の開発を行なっている。展示したシステムは、歩行能力の維持を目的とした「協働性トレーニングマシン」だ。

 協働性とは、自分の意志でタイミングよく腕や足を動かす能力をいう。例えば、キャッチボールをする時は、飛んできたボールのスピードや位置に合わせてグラブを差し出してキャッチする。ボールという目標物に対して視覚・脳・筋力が円滑に協働作業をしなければ、キャッチできない。高齢者の転倒に関しては、筋力の低下だけではなく、協働性が低下したために転びそうになった時に足を出して踏みとどまるとか、手をついて衝撃を和らげるといった動作が困難になっていることも原因のひとつだという。

 「協働性トレーニングマシーン」では、モニタに表示される波形に合わせて、両手でレバーを押し合わせる筋トレを行なう。レバーを押す力に応じて、自分のパワーがピンクのラインで表示される。タイミングよく力を入れたり抜いたりすることで、筋トレを行ないながら協働性を向上する。

 今回筆者もトレーニングを体験してきた。トレーニングをするにあたり、事前に全力でレバーを押して筋力を測定し、トレーニング負荷の上限と下限、時間設定を行なう。そして実際に試してみると、波形に合わせてタイミングよく力を入れることよりも、その力を維持することの方が難しかった。筆者の協働能力は80歳と惨憺たるものだったが、初めてやった人はコツがつかめずに大体そこから始まるという。実証実験では1カ月間トレーニングをすると、協働性が上昇し、被験者からも「つまづきにくくなった」という評価を得ているという。


【動画】株式会社IRIの協働性トレーニングマシーン 筋トレを行なわず握力で、協働性向上だけに注視した廉価版も用意されている

名古屋工業大学 バイオメカニクス研究室では、血管のバイオメカニクス研究を動脈硬化の早期発見に応用するシステムを展示した。

 動脈硬化は動脈が肥厚し硬化した状態をいい、脳梗塞や心筋梗塞などの原因になる。脳梗塞などを起こす時、よく血液がドロドロになっていると言われるが、血液の状態をチェックするためには専門の病院で詳しい検査をしなくては判らない。そこで同研究室では、血管の硬さをチェックすることで動脈硬化の早期診断ができるのではないかと装置の開発を行なっている。

 血管は圧力を掛けると歪むので、その伸縮状況をチェックすることで血管の硬度を測ることができる。現在、血圧測定装置がフィットネスセンターなどに設置されているように、簡易的に動脈の硬さを調べる装置が普及すれば、日本人の死因の3割を占めるという脳梗塞や心筋梗塞などの予防効果が期待できる。


聴覚機能支援システム「サウンド・ウォッチャー」
名古屋工業大学の岩田・黒柳研究室のブースには、聴覚機能支援システム「サウンド・ウォッチャー」が展示された。聴覚障害者は日常生活の中で、インターフォンの音が聞こえないため来訪者に気づかなかったり、病院や銀行などで呼び出しされているのが判らない、路上で車の接近に気づかないなどの不自由を感じている。

 サウンド・ウォッチャーは、2個のマイクロフォンで9種類の音源を識別し、方向を前後左右8方向から特定できる。識別結果を装置本体へLEDで表示するとともに、腕時計型の携帯端末へBlue-tooth通信で送信し、バイブレータで音の検知を伝える。今後、携帯端末を小型化し実用を目指すという。

 株式会社日立製作所は、重度障害者用意思伝達装置「伝の心」や「心語り」を展示した。

 「伝の心」はキーボードやマウスを使わずに、口元や掌など小さな動きをタッチセンサなどで捉えてPCを操作する。文字盤を使って文章を作成する他、テレビやエアコンなどのリモコン操作も可能となる。ページめくり機「りーだぶる2」を操作すれば、一人で本を読むことも可能だ。

 「心語り」は、症状が進行して「伝の心」を操作することができなくなった患者の意思表示をアシストする装置だ。前頭葉の血液量変化を測定し、患者の意図による「はい/いいえ」の意思伝達を可能にした。現段階では、データ上80%の正答率だという。


重度障害者用意思伝達装置「伝の心」 「伝の心」で操作可能な「りーだぶる2」

URL
  第11回国際福祉健康産業展 ウェルフェア2008
  http://www.nagoya-trade-expo.jp/welfare/

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総合福祉展「バリアフリー2008」レポート
~ホンダが「装着型歩行アシスト」を公開(2008/05/01)



( 三月兎 )
2008/06/13 17:38

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