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ロボティクス若手ネットワーク・ランチタイムセミナー「君と共に、ロボティクスが拓く未来」開催
~学術講演会って実はこんなに面白い!?


 日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会'08(ROBOMEC'08)が、6月5日(木)~7日(土)の日程で長野市のビッグハット(長野市若里多目的スポーツアリーナ・長野市若里市民文化ホール)を主会場として開催された。

 『学術講演会』と聞くと「難しそう……」「研究者だけの集会?」と思われてしまうかもしれないが、実は意外と一般の方が無料で参加できる併設行事や展示が多数企画されており、中高生や親子連れで参加して楽しめるものも多い。今回は中高生をメインターゲットとして7日に開催されたロボティクス若手ネットワーク・ランチタイムセミナー「君と共に、ロボティクスが拓く未来」の内容を中心に、ROBOMEC'08で開催されていた一般公開展示や体験ブース、そして学術講演エリアの様子をレポートする。


日本ロボット界の「ライト兄弟」が太平洋を越えて見てきたもの

 併設行事として開催されたロボティクス若手ネットワーク・ランチタイムセミナー「君と共に、ロボティクスが拓く未来」は、新進気鋭の若手ロボット研究者が自身の研究内容・研究生活を始め、自らの留学経験やロボットを志した理由など、さまざまな視点からの「ロボット」の魅力と面白さを、主に中高生向けに発表するセミナーである。昨年度の日本ロボット学会学術講演会で初めて開催され、若手セミナーとしては2回目の開催となる。

 今回は2組(計3名)の若手研究者によって講演が行なわれた。「ロボティクスと世界」というタイトルで最初に講演を行なったのは、産業技術総合研究所日仏ロボット工学共同研究ラボラトリー研究員の多田隈理一郎氏と、電気通信大学・知能機械工学専攻、下条・明研究室の助教である多田隈建二郎氏。お2人の氏名から察していただけるかと思うが、どちらもロボット研究者というご兄弟である。兄の理一郎氏が、小学校1年生のときに読んで影響を受けたという『ロボット大集合』という学習漫画は、当然同じ部屋にいた弟の建二郎氏も手にとって繰り返し読むこととなり、兄弟揃ってロボットの道へと進むことになったそうだ。

 ロボットの道に進んだ2人は、修士課程や博士課程において入れ違いになりながらも、同じ東京工業大学の広瀬・福島研で研究者としての土台を積み、別の研究室に進学しながらそれぞれ研究者として活動を続けていた。しかし2006年、再び2人が子供のころと同じように同じ部屋に住み、共にロボット研究を行なうこととなった。その場所はアメリカのボストン。理一郎氏はハーバード大、建二郎氏はマサチューセッツ工科大(MIT)で、留学生活を過ごしたのである。


講演を行なう産総研の多田隈理一郎氏 ハーバード大とMITの中間地点にアパートを借りた2人。この2校は意外と近くにある

 そんなロボット研究者への道を歩んだ原体験や留学体験の話に引き続き、理一郎氏は古代ギリシャ時代の戯曲「ピグマリオン」やバチカンにあるシスティーナ礼拝堂の天井画の例を引き合いに、脳の理解がロボットの実現のキーになると述べ、「脳機能の理解が中枢に到達しつつある現在、『ロボットの夢』は実現するのではないか」との見解のもと、自身が行なっている触覚フィードバック可能なマスタ・スレーブシステムの研究について紹介を行なった。


システィーナ礼拝堂の天井画。右側の神の姿は人間の脳をモデルに描かれており、人類の叡智を現している。人間の脳が左側のアダム(ダビデ像)に命を吹き込むという図式になっているという 理一郎氏が研究を進めている、指先・手先以外の皮膚にも触覚をフィードバック可能なマスタ・スレーブシステムの概要。人型ロボットを遠隔操作する際に用いる マスタシステムとして開発された機械式触覚ディスプレイとモーションキャプチャ。サーボモータを用いて触覚を呈示する。呈示される触覚情報と、実際に操作しているスレーブシステムを見る視覚情報とのずれの釣り合い点から、視触覚が統合された際の分解能を求めている

 ここで発表者が理一郎氏から、弟の建二郎氏にバトンタッチ。中学生のころに見たテレビ番組「スペースエイジ」がきっかけで不整地移動ロボットに興味を持ってからというもの、一貫して移動ロボットの開発に携わっているという。今回のセミナーでは最近に開発した、Omni-ballという球状車輪と、Omni-ballを使った全方向移動機構を有するロボットの紹介が行なわれた。


電通大の多田隈建二郎氏 開発されたOmni-ballの内部機構

【動画】Omni-ballの回転の様子。小さなフリーローラーを上下に配置することで特異点を回避し、全方向に自由に回転することができる 【動画】Omni-ballを用いた全方向移動ロボットの運動の様子。全方向移動を実現しているのはもちろんのこと、従来の全方向移動車輪よりも高い段差踏破能力を持つ

 そして最後に、マイクは再び理一郎氏の手に。留学体験や外国人研究者との共同研究を通じて得た、アメリカとヨーロッパの研究者・学生と日本の研究者・学生の間にある研究観、そして研究の進め方の違いや、ロボット観の違いについて述べた。そして中高生に向けて「日本人の前には世界のあらゆる扉が開いていて、どこにでも行けるし何にでもなれる。英語を使う機会を多くして、外国の友人を大切にすること。そして長期的な展望を持った上で現代文明の方向を意識し、『自分の活動を通じてこの文明をどうしたいのか?』と常に考えること」とのメッセージを送った。


2週間などの短い周期で試作を行ない、それを基に次の試作を積み重ねることで目標に到達する米国のねじ回し式の研究の進め方に対し、日本の研究の進め方はシミュレーションなどで7割くらい問題を解決してから実際のロボットを製作する、釘打ち式であると理一郎氏は指摘する ロボットに感情移入する日本と、あくまでオートメーションの延長線上と見る欧米とのロボット観の違いから、ヒューマノイドの研究をリードできるのは「ピグマリオンの末裔」たる日本人ではないか?

得意科目は国語に音楽。そんな少年が人型ロボット研究者に

 2組目の講演者は九州大学高等研究機構若手研究者養成部門SSP学術研究員であり、同大学システム情報科学研究院特任准教授を兼任する杉原知道氏。「夢から始めた人型ロボットの研究」と題して講演を行なった。杉原氏のロボットの原体験は子供の頃に放映されていた数々のロボットアニメや、1985年に開催されたつくば科学万博で見たロボットだ。しかしながら「カッコいいものへの単純な憧れ」や「面白いメカへの興味」をそれらに持ったものの、それが直接的にロボット研究を志すきっかけにはならなかったという。中学・高校生時代の得意科目は国語で、合唱や吹奏楽の部活動に明け暮れていたという杉原氏。工作が得意でも理系科目が得意でもなかった少年が、ロボット工学に進むきっかけになったのは、「人の知」というものへの興味を通じて持った夢である「人の思考メカニズムを理解したい」というものだった。

 「人の思考メカニズムを理解したい」という夢はさらに進化し、「人のように思考するメカニズムを作りたい」と思うようになり、当初は人工知能の研究を志したという。しかしながら銅谷ロボットや人の歩行モデルなどの研究に触れ、身体の力学が「人の知」の大部分を支配するのではないかと考え、身体を作ること、すなわちロボットを開発することを決意し、そこから人型ロボットの研究を続けることになったという。


九州大学の杉原知道氏 杉原氏がこれまで研究・開発に携わってきたロボット。講演タイトル通り人型ロボットがズラリと並ぶ 杉原氏作成の人型ロボット研究の歴史年表

 さらに杉原氏はこれまでの人型ロボットの研究の歴史などを示しつつ、「専門家でない人が汎用的な用途でロボットを使う際に、理解するために擬人化することがある。そういう意味では人型ロボットは機械の究極の擬人化であり、人型ロボットが研究されてきた理由ではないか」と述べた。そして、このように人間のそばで活動する人型ロボットの研究開発を行なうにあたり、等身大の人型ロボットよりも気軽かつ安全に実験を行なうことができるシステムを、ということで開発した小型人型ロボットの紹介が行なわれた。


杉原氏や学生が設計・開発を行なった小型人型ロボット「mighty」と「magnum」。デザイン面に子供の頃に見たロボットアニメの影響が見られる 小型人型ロボットの内部構造。小型化されても搭載すべき部品数は変わらないので、どうコンパクトに搭載するかという点に工夫が見られる

 また開発された小型人型ロボットシステムを用いて行なった、人型ロボットの制御に関する研究内容と実験の様子が紹介された。最後に杉原氏は人型ロボットの最近の動向として、もはや人型は日本の独壇場ではないという世界の状況と、ハードウェア・制御に関するこれからの課題を示し、さらに「人の思考メカニズムを理解したいという夢はまだまだできていないが、自分が持った夢、ちゃんとやろうと思った問題がそれだけ難しい問題だったということは嬉しいことだし、これからも続けていきたい。夢を大きく持つと『知識の素』に出会え、その知識を詰め込んで知恵に変えるプロセスがロボットに限らず重要」との思いを、中高生へと伝えた。


【動画】外から力が加えられても全身のバランスを取ったり、もしくは脚を踏み出したりして、転倒を避けることが可能に 【動画】バランスを取りつつ足裏から床に力を加えることが可能な範囲を求めることにより、タップダンスを踏むようなロボットの動作生成も可能となる

子供連れの家族でも楽しめる学術講演会!?

 若手セミナーが行なわれたステージでは、他にも長野県上田市で開催されている「上田ロボコン」のデモンストレーションや「小諸ロボコン」の紹介、ロボコンプロデュースの発表やロボットグランプリの紹介など、ロボティクス・メカトロニクスに関連した一般向けの付随行事が多数行なわれた。ロボットグランプリの紹介では競技のひとつである「ロボットスカベンジャー」の体験操縦も行なわれ、会場の親子連れが実際にロボットに触れ、競技に挑戦していた。

 また、ステージ横に設けられた一般展示スペースは「キッズのための安全・安心社会をつくるロボット技術」をテーマに、子供に遊んでもらうことによって遊具を使う際の事故防止のためのデータが集められるロボティック遊具「ノボレオン」が展示され、来場した子供たちが実際に遊ぶことができるように開放されていた。


ロボットグランプリの紹介。3つの競技種目があり、幅広い年代の参加が可能な大会である ペットボトルやピンポン玉をゴミに見立て、2人一組で分別して箱に入れる競技である「ロボットスカベンジャー」。実際の参加者は親子が多いという ロボティック遊具「ノボレオン」。子供たちがこの遊具を使ってどう遊ぶかデータ収集し、事故防止に役立てる

国家ロボットプロジェクトの最新成果が一堂に介した

 さらに、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の次世代ロボット共通基盤開発プロジェクトによって開発されたロボットシステムの展示も行なわれており、一般に公開されていた。このプロジェクトではさまざまなロボットシステムに搭載可能な、画像認識・音声認識・運動制御を行なう3種のモジュールが開発されており、それらのモジュールを搭載したロボットシステムがデモンストレーションを行なっていた。ここではロボットシステムのデモンストレーションを中心に紹介する。


画像認識モジュールを利用した、首都大学東京の「ジェスチャーコミュニケーションロボット」 【動画】指差してうなづくという一般的な動作を認識し、ロボットへの指示に用いることができる。個人差に影響されず、かつカメラ以外の特殊な装置を使わなくて済むのが特徴 小型音声認識モジュールの開発により、従来のPaPeRoの体積の4分の1であるPaPeRo-miniに搭載することが可能に

音声認識モジュールと、もともと搭載されている音声認識機能の併用により、さらに聞き分けのよくなったwakamaru。掛け声にあわせてポーズもとってくれる wakamaruに搭載されていたマイク(顔の眉毛に見える部分)に加え、音声認識モジュール用に額と背面にマイクを追加し、音声認識の確実性が向上 安川電機のSmartPal。従来はHDDを搭載したノートPCをベースとした音声認識システムを搭載していたが、新たにHDDレスで小型化された音声認識モジュールを搭載した。これによりシステムの信頼性が向上したという。またより雑音レベルが高い環境下でも音声認識が可能になった

【動画】産総研のHRP-2によるデモ。音声認識モジュールの小型化により、HRP-2の頭部に搭載することが可能になった。モジュールの使用によって音声認識のための演算処理負荷を減らし、音声認識と画像認識、動作制御を同時に行なうことができる 運動制御モジュールが搭載された千葉工業大学・未来ロボット技術研究センターの脚車輪型実証ロボットとジャイロ応用高運動性ロボット。運動制御モジュールの小型化により、脚車輪型は計56個のモータを搭載することができた 運動制御モジュールを用いた「パネルスピーカーアレイ」と、開発した東京理科大学の溝口教授。256個のスピーカから位相の違う音波を出すことで、立つ位置によって違う音を聞かせることが可能に

【お詫びと訂正】初出時、SmartPalについて音声認識システムを新規で搭載したと記述しておりましたが誤りでした。お詫びとともに訂正させていただきます


学術講演&企業展示でも気になるデモンストレーションが開かれた

 ここまで紹介してきた一般公開行事・展示と違い、学術講演エリアや企業展示は基本的には講演会に参加登録をし、参加費を支払わないと見ることができない。しかしながら今回のROBOMEC’08では、高校生以下は無料で見学することができた。それらのエリアにも、気になるロボットシステムが多数展示されていた。


【動画】若手セミナーで講演を行なった多田隈建二郎氏が開発した全方向移動ロボット。自身のポスター発表の前でデモンストレーションを行なってきた。このように、実際のロボットを持参してデモを行なう研究者も少なくない 【動画】同じくポスター発表と同時にデモを行なっていた、大阪市立大学の燃料電池で動くマイクロ魚ロボット。全長5cmと小型ながら、見事な泳ぎっぷり 【動画】企業展示に出展されていた、西澤電機計器製作所が信州大・河村研究室と共同開発した自動ページめくり器「ブックタイム」。厚さ3cmくらいまでの本ならば、写真集などのようにページ用紙が厚いものでなければほとんど使用可能ということ

 このように、ロボットに関するさまざまな展示・発表が目白押しの「学術講演会」。興味のある方はぜひ一度参加して、最先端の研究成果に触れてみてほしい。来年のROBOMEC’09は、福岡県で開催される予定である。


URL
  ロボティクス若手ネットワーク・ランチタイムセミナー「君と共に、ロボティクスが拓く未来」
  http://women.ws100h.net/proj/robomec_young08.shtml
  日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会'08(ROBOMEC'08)
  http://www.jsme.or.jp/rmd/robomec2008/index_j.htm
  第12回ロボットグランプリ公式サイト
  http://rgns1.life.chukyo-u.ac.jp/RobotGrandPrix/index.html

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( せとふみ )
2008/06/12 20:42

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