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「JSRC」暫定全国大会開催
~二足歩行ロボットスタンダードクラス競技会ネットワーク構想


 1月11日(日)、大阪産業創造館で開催された二足歩行ロボットユーザー交流会「ロボゴング9」内で、二足歩行ロボットスタンダードクラス競技会ネットワーク構想「JSRC」の暫定全国大会が実施された。


JSRC暫定全国大会が開催 賛同団体が推薦する代表ロボットがトーナメントバトルで交流 JSRCシンポジウムも開催

 JSRC(Japan Standard class Robot Community)は、各地区のROBO-ONE認定大会関係者の意見交換会で生まれた。初心者~中級者が参加しやすいSRC規格(Standard Regulation Class:ロボットフォースのイベントで採用されている規格)のロボットによる大会を各地で開催し、地区大会代表選手による全国決勝大会を開催するという構想だ。

 JSRC全国大会の実施には主に3つ目的がある。1つめはユーザーのモチベーションを高めること。2つめは、地域を越えて人が集う場で二足ホビーロボットに対する共通の価値観を育てること。3つめとしてユーザー同士が幅広い情報交換を行ない、地元に戻って情報を還元することだ。

 昨年11月に構想が発表されたばかりで、組織として固まっていない点もある。そのため、賛同団体とイベント参加者が一堂に会する場で話し合いをするのが、暫定全国大会を開催した理由だ。

 代表者の選出は、賛同団体が地区大会の成績優秀者から複数名を推薦する形になる。しかし、「毎回同じ代表にならないようにする」「学生を優先する」「特徴のあるロボットを優先する」などの幅を持たせているため、賛同団体によって選出方法は異なっている。今大会には、6団体から16体のロボットが推薦され出場した。各団体の代表選手は以下の通り。

【ロボットフォース】
・ジローちゃん♪/motoぶちょう氏
・Robovie-XSF/zeno氏
・Captain.PEKO/クロイチ氏

【ROBO-PRO】
・I’ges/A4氏
・Halcyon/関本航氏
・Centurion/桃色兎氏

【中部ロボット推進委員会】
・ぷぁちすと/Marl氏
・RL05 Asura/みんなのやす氏

【香川ヒューマノイドロボット研究会】
・CROW lite/熊工房氏

【姫路ロボ・チャレンジ実行委員会】
・春風弐式/有紀ハル氏
・タケザック/チク氏
・シャボザック/シャボルト氏
・あすら/あっしーば氏

【九州ロボット練習会】
・メリッサ/クラフトマン氏
・拓歩/中村亮太氏
・スーパーディガーII For JSRC/ひろのっち氏


各地区代表によるバトルトーナメント

 ロボットフォースによるSRCの規格は、市販の組立キットおよび改造機、またはそれに準じた自作小型機となっている。機体は身長40cm以内、重量2.9kg以下、サーボの数は9個以上30個以下、ただし13kg・cm以上のトルクがあるパワーサーボは5個以下などの制限がある。今回はJSRCのレギュレーションが確定していないため、ロボットフォース規定にしたがっている。

 トーナメントの組み合わせは、同じ地区代表が緒戦であたらぬように大会当日にくじ引きで決定した。印象に残った試合と、上位の戦いを紹介する。


空いたリングで調整がてらバトルを楽しむ代表選手たち トーナメントは地区代表があたらないようにくじ引きで決定 トーナメント組み合わせ

 1回戦第4試合は、九州ロボット練習会の拓歩(中村亮太氏) VS 姫路ロボ・チャレンジのあすら(あっしーば氏) による高校生対決となった。岩気氏の呼び出しで登場したあっしーば氏は、客席から見てもわかるほど緊張していた。続いて登場の中村氏も同じくらい固くなっている。両名とも大阪でのバトルは初めてだ。

 黒いマントをまとったあすらは、かっこいいポージングで挑発した。サイドステップを踏みながらパンチを繰り出すあすらに対し、拓歩は腰を落として両腕を振り回して対抗。両者もつれあってダウンの後、拓歩が肘につけたパーツを活かしたサイドパンチで猛攻。かがんで防戦一方のあすらは、後退しながら隙を見て立ち上がり間合いを取ろうとしたがパンチを浴びてダウンを取られた。試合再開後、リング際に追い詰められたあすらは、パンチを出す方向を間違えてそのままリングアウト。九州と姫路の高校生対決は、中村氏の拓歩が勝利した。


【動画】1回戦第4試合、拓歩(中村亮太氏、左) VS あすら(あっしーば氏)の高校生対決。2人とも非常に緊張していた あすら(あっしーば氏)。姫路ロボ・チャレンジで自律競技にもチャレンジ。会場で熱心にプログラムを組んでいた

 1回戦第5試合に、昨年末に行なわれた姫路ロボ・チャレンジ第7回大会でデビューしたばかりのシャボザック(シャボルト氏)が登場。対するは、ロボットフォース大会常連のジローちゃん♪(motoぶちょう氏)だ。シャボルト氏は、この短期間のうちにロボットを改造してきた。足を流行の平行リンクに変更したのだが、足首ピッチを動かせなくなり起き上がりモーションができなくなった。そこで、腕にもリンク機構を取り入れて、手先が可変延長できるようにした。これで、起き上がりの補助と攻撃力がアップしたという。加えて「新春の大阪だから」と発射体“ハリセンカッター”を装備するノリの良さだ。

 試合開始早々に、シャボザックがハリセンカッターを放ったが命中せず。逆にスピードに定評があるジローちゃん♪の横パンチをくらって、横転してリングアウト。その後もリング際でダウンした時に、起き上がりモーションの途中でリングアウト。最後はジローちゃん♪が投げ技を決めて派手に勝利した。

 シャボルト氏は「会場でたくさんのロボットを見ることができて、それだけでも楽しかった」という。大会後に「姫路代表は全員1回戦負けだった。姫路でも練習会を開いてバトルの腕を磨きたい」と語っていた。


【動画】1回戦第5試合、シャボザック(シャボルト氏、左) VS ジローちゃん♪(motoぶちょう氏)。腕に延長パーツを使った独特の起き上がりモーションが特徴 足と腕をリンク機構にし、腰にハリセンカッターを搭載したシャボザック(シャボルト氏)

 1回戦第8試合、重量がわずか500gと最軽量ロボットの春風弐式(有紀ハル氏/姫路ロボ・チャレンジ)が、メリッサ(クラフトマン氏/九州ロボット練習会)と戦った。春風弐式がプルプルと腕を振るわせながら、メリッサに近づいていく様子が、勇気を振り絞って戦っていますという風情だ。真っ向勝負で打ち合うと、メリッサのパンチは小柄な春風弐式の頭上を超えてしまうくらい身長差がある。これだけ体格差があると、メリッサのパンチがあたらなくても、春風弐式は押されるだけで後退してしまう。パンチを浴びて2ダウンした春風弐式は、もつれあってメリッサをスリップダウンさせたが、自分も一緒にスリップ。これが2度目のスリップでKO負けとなった。

 製作者の有紀ハル氏は試合後のインタビューで「春風弐式が動いた時、会場から“速~いっ”と言ってもらえて嬉しかったです」と満足気だった。


【動画】1回戦第8試合、メリッサ(クラフトマン氏、左) VS 春風弐式(有紀ハル氏)。会場から「速い速い」と声が上がった、春風弐式の俊敏な動きに注目 大会最小&最軽量機体の春風弐式(有紀ハル氏)。姫路ロボ・チャレンジは総合競技のため、小型マシンでも上位入賞が可能だ クラフトハウスが販売する汎用パーツアセンブル機の「メリッサ(クラフトマン氏)」

【動画】準決勝第1試合は、RL05 Asura(みんなのやす氏) VS Captain.PEKO(クロイチ氏)。RL05 Asuraが動くたびに派手な効果音を出してカッコイイ
 準決勝第1試合は、RL05 Asura(みんなのやす氏) VS Captain.PEKO(クロイチ氏)だった。なぜか3位が多いクロイチ氏が「これに負ければ3位を狙える」という岩気氏の解説に従ったわけでもないだろうが、Captain.PEKOは一方的にやられてしまった。Captain.PEKOは、1ダウンを奪われた後にスリップ。その後、体当たりでRL05 Asuraを倒すが自分もスリップダウンを取られ2ダウン目。最後はRL05 Asuraのサイドパンチがきれいに入って、3ダウンKO。わずか44秒でRL05 Asuraが勝利した。


【動画】準決勝第2試合、ぷぁちすと(Marl氏) VS スーパーディガーII For JSRC(ひろのっち氏)
 準決勝第2試合はぷぁちすと(Marl氏) VS スーパーディガーII For JSRC(ひろのっち氏)の対戦だ。すでに中部ロボット推進委員会推薦のRL05 Asuraが決勝進出を決めているので、スーパーディガーII For JSRCには、中部地区同士による決勝対決阻止の期待がかかる一戦となった。

 ぷぁちすとは試合開始早々、しゃがんだ時に背中の翼(?)がリングについてスリップダウンを取られてしまう。ぷぁちすとは翼を広げて威嚇するが、効果がなかった。逆にスーパーディガーII For JSRCの下からすくい上げるようなパンチが決まり、立て続けにダウンを取られてしまう。スーパーディガーII For JSRCは、第1回戦に続き1ポイントも失わずに決勝戦進出を決めた。


 3位決定戦はぷぁちすと(Marl氏) VS Captain.PEKO(クロイチ氏)で争った。

 2.9kgあるスーパーSRCのぷぁちすとに対して、市販機のRB1000がベースのCaptain.PEKOは、見るからに小柄で苦戦が予想された。しかし、試合が開始されてもぷぁちすとが動かない。思いもよらぬ無線トラブルにリング際で焦るMarl氏。ぷぁちすとはスタンディングダウンを取られてしまった。「今だっ!」と喜んだCaptain.PEKOが、動けないぷぁちすとを攻撃。両手で抱え込んで倒した。しかし、ぷぁちすとはスタンディングダウンでカウントを取られている最中なので、この攻撃は無効となり、逆に倒れ込んだCaptain.PEKOがスリップダウンを取られてしまう。このおかげで、ぷぁちすとはタイム申請ができた。タイムを取ると1ダウン追加される。JSRCのタイムは10カウント内に復帰しなければ、追加ダウンを取られてしまうため後がない。トラブルが発生してすぐに控えブースから駆けつけてきたチームメンバーがサポートにあたった。微妙に長いカウントが読み上げられる中、緊迫した空気と妙な期待感が会場に漂う。岩気氏が「Captain.PEKOに3位の神様がついてるぞ」と言った途端、ぷぁちすとが復活! 観客の笑い声中、試合再開。うっぷんをはらすかのようにぷぁちすとがCaptain.PEKOを攻撃し、わずか30秒でKO勝ちした。


【動画】ぷぁちすと(左)のスタンディングダウンで3位の神様が、Captain.PEKOに微笑みかけたが…… 通信エラーで焦りまくるMarl氏(赤いジャケット)。サポートが駆けつけカウント9でリングに復帰!! 【動画】試合再開後の後半。ノーカットでご覧いただきたい

 決勝戦のカードは九州代表のスーパーディガーII For JSRC(ひろのっち氏) VS 名古屋代表RL05 Asura(みんなのやす氏)となった。ひろのっち氏は、ロボファイトのSRCで3連覇してSRCを卒業、ORCへ出場を表明している。ところが、ロボファイト8で同郷のAutomo03が大同工業大学のダイガックに敗れたため、チームメンバーと正月返上で新機体を共同開発。雪辱を果たすべくJSRCに乗り込んできた。ダイガックはオペレータが成人式のためJSRCには出場しなかったが、先輩のみんなのやす氏を相手に気合いが入ったバトルを見せた。

 審判の「ファイト!」のかけ声と同時に両者がステップを踏んで、相手に対し斜に構えた。この辺りのタイミングは、いかにもバトル慣れしている。RL05 Asuraはサイドステップを踏みながらパンチを放つが、ここぞという時には、一旦重心を逆に移動させて全体重を乗せてくる。見た目も派手で威力がありそうだが、スーパーディガーII For JSRCは絶妙な間合いで攻撃を避ける。激しいパンチの応酬が続き、RL05 Asuraの決め技をかわしたスーパーディガーII For JSRCが、引き手でダウンを奪う。その後、接近戦の中でスーパーディガーII For JSRCの手がRL05 Asuraにかかり、そのまま引きずり倒した。一方、反撃するRL05 AsuraのパンチもスーパーディガーII For JSRCの膝裏にヒットしダウンを取った。しかしRL05 Asuraもスリップダウンしてしまい、スリップダウンの累積でKOが宣言。JSRC暫定全国大会の優勝トロフィーは、スーパーディガーII For JSRCのものとなった。


【動画】決勝戦、スーパーディガーII For JSRC(ひろのっち氏、左) VS RL05 Asura(みんなのやす氏)の対戦。スーパーSRC同士の激しいバトルとなった スーパーSRCの本家、中部ロボット推進委員会のみんなのやす氏 九州練習会のひろのっち氏。JSRC出場のために新機体を製作して挑んだ。決勝まで1ポイントも落とさずに勝ち上がってきた

JSRC暫定全国大会優勝の「スーパーディガーII For JSRC(ひろのっち氏)」 JSRC暫定全国大会入賞者 JSRC暫定全国大会参加者

 ここでJSRCのトーナメントは終了なのだが、「サプライズ・エキシビジョンマッチ」としてJSRCで優勝を決めたスーパーディガーII For JSRCとレグホーン(NAKAYAN氏)によるバトルが実施された。レグホーンは1月4日に開催された「ROBO-ONE GP 2008 IN スパリゾートハワイアンズ」で優勝している。GP選手の名誉にかけても、ここでSRC規格のロボットに負けるわけにはいかない。

 とはいうもののさすがのレグホーンも、重心位置の規定がないSRC規格のスーパーディガーII For JSRCにかなりの苦戦を強いられることになった。スーパーディガーII For JSRCはしゃがみこむと安定し、レグホーンが全体重をかけた攻撃をしても微動だにしない。逆にレグホーンがスリップダウンを重ねてしまった。

 それでもリング際で必殺技の手羽スラッシュが決まれば、スーパーディガーII For JSRCはあえなくリングアウト。結果は、パワーの差でレグホーンが勝利した。


【動画】「サプライズ・エキシビションマッチ」。スーパーディガーII For JSRC(ひろのっち氏、左) VS レグホーン(NAKAYAN氏) GP選手の面子に賭けても負けられないNAKAYAN氏

JSRCシンポジウム~コンセンサスを育てるための話題提供

 そして各トーナメント表彰式の終了後に、JSRCシンポジウムが行なわれた。最初に岩気氏が、2000年にホンダがASIMOを発表してからホビーロボットが生まれ、今回JSRC構想が立ち上がったまでの経緯を紹介した。

 二足歩行ロボットを個人で作るようになったのは、2002年に第1回ROBO-ONEが開催されたのがきっかけである。個人でも二足歩行路ロボットが作れるというのは、国内だけではなく世界でも驚きを持って迎えられた。このROBO-ONEがきっかけとなり、2004年6月に二足歩行ロボットキット「KHR-1」が発売され、バラエティ番組の影響もあってユーザー数を増やした。同年大阪で、世界初のロボットプロダクション「ROBO-PRO」と地方の参加型イベント「ロボットフォース」が同時期に活動を開始した。


2000年~2003年、個人で二足歩行ロボットを楽しむ土壌が生まれた 2004年、KHR-1発売をきっかけに二足歩行ロボットがホビーとして広まった

 2005年には「愛・地球博」も開催され、世間がロボットに注目した。大阪だけでなく、東京でもKHRファーストアニバーサリーや関東練習会、高松でロボカントリーIV、福岡でヒューマノイドカップが開催されるなど、ROBO-ONE以外の二足歩行ロボットイベントが各地で実施されるようになった。それまで地方イベントは、ROBO-ONEの常連選手を招致したエキシビション形式が多かったが、2005年後半から参加型の競技会が開催されるようになる。


2005年、ユーザー増加に伴い新たな競技会が実施されるようになった 各地区で競技会が発足し、ユーザーを集めて開催された

 2006年には参加型競技会が本格的に増え、ユーザー全体のレベルがアップした。同時に新規ユーザーも増え、多くのメーカーが参入してキットの種類も増えた。オプションパーツも発売されるようになり、ユーザーの選択肢が広がった。地方の競技会もますます盛んになっていく。そしてホビーロボット専門誌の創刊、大阪ではニノミヤパーツランドにロボット売場開設、東京にKONDO ROBOSPOTがオープンと、ユーザーがロボットを作っていく環境が整い始めた。

 しかしこの頃からROBO-ONEは高度化し、J-Classが終了、決勝出場権認定制度導入と、初心者にとってはますますハードルが高くなっていった。


2006年、二足歩行ロボットキットの発売が相次ぐ。ROBO-ONEに高度化の兆し ホビーとしてロボットを作り楽しむ環境が整いつつある ユーザーがキットや参加競技会を選択することが可能になってきた

 2007年になると価格が10万を切る市販キットが発売され、若い世代が参入しやすくなった。ロボットを教材に使う学校も増え、ロボファイトやROBO-ONEにも学校単位の参加が目立つようになった。既存の大会も含め、公募型競技会が頻繁に開催されるようになり、サッカー競技などバトル以外の競技も普及し始めた。

 その一方で、ニノミヤが廃業、ホビーロボット専門誌が廃刊などネガティブな要素も見受けられた。2008年には周辺機器も出揃い、各種ノウハウも確立されてきた。しかし市場の拡大は当初の期待より遅く、ユーザーも爆発的な増加というには苦しい状況である。そんな中、ロボットは大型化が進み、個人で製作が不可能なサイズも登場した。

 また、今までのようにホビー層の競技だけではなく、「お手伝いロボットプロジェクト」のような実用系競技も開催された。


2007年。学校の授業に二足歩行ロボットを取り入れるケースが増えた 競技会が増え、新製品のロボットキットの発売が続いた 2008年。周辺機器が出揃い競技会も増え、ユーザーが活動しやすくなった

 そして2009年。岩気氏は「これまでのリソースを融合していなかくてはならない時期になった」という。各地域単位で練習会などで情報交換しているが、それを全国規模で1つにしていきたいと語る。

 例えば、大同大はSRC規格ギリギリのスーパーSRC機体で出場しているが、名古屋ではそれが普通になりつつある。けれど、他の地区に遠征すると「ちょっとあれはやりすぎじゃない?」と言われてしまう。そうした意見の衝突は、これまでにも何度もあった。

 せっかく同じ競技をしているのだから、地域を越えた交流の中でもめ事が起こらないような価値観統一をしておいた方がいいのではないか。これまで地区単位や世代間に点在してきたリソースや価値観を、統合していく必要があるというのだ。


JSRCルール制定の考え方と問題点

 岩気氏は、「SRC規格は、初心者を含むできるだけ多くのロボットユーザーが、同じようにロボットを楽しめる環境を生み出すための手段」としている。その規格内でバトルに強いロボットを製作するのが目的ではない。優勝を究極の目的とすると、ルールの抜け道を探して規格内でロボットを作る競争になってしまう。SRCが目指しているのは、もっと多くの人が新たに入ってこれるイベントだという。


ロボット競技会のルール制定の問題点
 そうした前提示した上で、岩気氏はルール制定の考え方と問題点について意見を述べた。

 例えばエキシビションの後で、NAKAYAN氏が「ROBO-ONE本戦経験者でも苦戦するようなロボットがSRCに残っていると、初心者が入ってきた時に実力差がありすぎるのではないか?」というコメントをしていたように、当面の議題はスーパーSRCの存在だ。

 ルール制定する時にネックとなるのは、ロボットは人間よりも動きや構造に自由度が高いということだ。ルールをどのように改正しても抜け道に合わせて、ロボットを作ることができるため、人間の競技ルールを当てはめてもなかなかうまくいかないのだ。

 勝つためにルールの隙をついたロボットがあれば、「素晴らしいアイデアだ」と評価する人と「前例がないからまずいのではないか?」と否定的に考える人にどうしても別れる。その基準が曖昧で、基準自体も変化しやすい点が問題だと、岩気氏はいう。

 分かりやすい例として、前転攻撃を挙げた。今は参加者内で「前転(捨て身)攻撃の多用は好ましくない」というコンセンサスが取れている。しかし、初めてロボット競技会を見る子ども達は前転攻撃を見て「ロボットはこんなこともできるんだ!」と興奮して喜ぶ。このようにいろんな層に渡るコンセンサスは取れていない。JSRCのように、ユーザーや観客が集まり統一規格で試合をする中で、コンセンサスを育てることが重要なのはそのためだ。


ルール改定は対処療法になりやすく、根本的解決にはならない
 岩気氏は、個人的にはルールを改正するならば「勝ちたい人には勝たせてやればいい」という考え方をしているという。勝ちたい人は相応の努力をした結果、勝っている。「その勝ち方(コンセプト)が気に入る・気に入らない」というのは、個人の価値観による。「自分はそのやり方はイヤだ」と思えば、真似しなければいいというのが岩気氏の意見だ。

 ルールやレギュレーションで厳しく縛ると、結果として個人の好みを出せなくなる。また、ルール改正には必ず抜け道があるので、突出したロボット防止策としては根本的な解決にはならない。これは、ロボットは構造変更の自由度が高いことと、ユーザーのコンセンサスを取るのが難しいことが抜本的な原因なため、対処療法では解決できないというのだ。


レギュレーションは、同じ土俵内で競技を楽しむために定めている
 ロボットフォースでSRCを実施する際には、参加者ができるだけ多くの競技会で楽しめるようにレギュレーションの汎用性を高めていたという。初心者向け新製品が発売されれば、そのロボットが参加できるように規格を変えていくといった対応をしてきた。特殊な構造で圧倒的に強いロボットは受け入れ難いが、あからさまに弱いロボットであれば、多少規定をオーバーしていたとしても許可する場合もある。それは、主催者の尺度で決定しているそうだ。

 仮にスーパーSRCをなんらかの形で規制するとしたら、1)重量などによってSRC内でクラス分けをする、2)ハンディ制を導入、3)スピンアウト制の導入といったことが考えられる。しかし、それぞれに問題があるとして意見を述べた。


多クラス制の導入で、強者弱者間の幅が広くなったSRCをカバーできるか?
 多クラス制を検討した場合、例えば1.8kgを目安にSRCを2つのクラスに分割する、または重量ではなくサーボの合計トルクで分けるというのも考えられる。しかし競技人口に限界があるので、特定重量のクラスへの参加者が少なくてつまらないという問題が起こる。その一方で、どのクラスも十分な参加者がいれば、また同じ問題が起こり細分化をせざるをえなくなる。


ハンディ制の導入は地方大会では効果があるかもしれないが、地域差が大きいため全国大会では難しい
 ハンディ制については、地区内でハンディ戦を行なうことは可能だとした上で、地区によってレベルも参加人数も違うため、地区ハンディを全国大会に適用させることは意味がないと指摘した。極端な話、地区に2体しかロボットがいなければ、1勝=全勝になってしまうからだ。機体重量差や総トルク数でハンディを算出するのも、合理的であるかどうか疑わしい。

 また、ユーザーのメンタル面においても、頑張って作ってきたスーパーSRCにハンディが負荷されれば、製作意欲がそがれてしまうだろうと岩気氏は懸念する。ロボットを好きな人が集まっているのだから、作る楽しさを失うような規制はしたくないというのだ。


優勝ロボットはスピンアウトしトーナメントには参加できず、エキシビション参加とする案
 スピンアウト制は、SRCで優勝したら次回以降トーナメントに参加できないという規制だ。しかし、SRCで勝った人はORCへ移行してくださいという趣旨ではない。規格上限がないORCは、ロボット製作に費用が掛かりすぎるという問題もあり、規格内で工夫するからこそ楽しいというユーザーもいるからだ。優勝者はトーナメントには出場できないが、エキシビションのみ参加可能などの措置をとる。スピンアウトが増えれば、SRC規格のロボットでスピンアウトリーグも可能となるだろう。

 岩気氏は「全てのユーザーの意見を聞いたわけではないし、ロボットを見たわけではない。その都度考えて対処してきている」と、大会運営者としてルールやレギュレーション制定の苦心を参加者に伝えた。

 今回のシンポジウムでは、参加者から意見を募りディスカッションする時間はなかったが、大会後、ロボットフォースの運営する掲示板では活発に意見交換が行なわれている。

 ホビーロボットというのは、他の趣味(例えばラジコンなど)と比較すると教育的効果を求められることが多いと、岩気氏はいう。個人で活動していても、地域のイベントや学校などでロボットのデモンストレーションを求められることがある。JSRCもホビーロボットユーザーの出発点ではあるが、子どもたちへのものづくり教育の一環や学校の部活動、地域の活性化などへの寄与も見込める。JSRC構想賛同者が全国各地に広がり、ネットワークの輪が広がっていくことを期待したい。


URL
  ロボットフォース
  http://www.robot-force.jp/index.htm
  JSRC
  http://www3.llpalace.co.jp/robo/JSRC01.htm

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( 三月兎 )
2009/01/22 17:20

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