1月16日(金)、NEDO技術開発機構は省エネ効果の高いITS(Intelligent Transport Systems、高度道路交通システム)の実用化推進のため2008年度から開始した「エネルギーITS推進事業」の概要について記者発表会を開催した。自動運転・隊列走行を可能にして省エネ走行の実現を目指し、また同時に国際的にも信頼されるCO2削減効果評価の確立を目指す。
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NEDO技術開発機構 省エネルギー技術開発部 統括調査員 岩井信夫氏
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まずはじめにNEDO技術開発機構の岩井信夫氏が、概要と背景を述べた。経済産業省では運輸交通部門の省エネルギーに関する計画・戦略・イニシアティブを策定し、新国家エネルギー戦略、省エネルギー技術戦略、次世代自動車・燃料イニシアティブ、社会還元加速プロジェクト、クールアース50革新技術計画など各計画を進めている。NEDO技術開発機構はそれに対応してクリーンディーゼル、バイオ燃料利用拡大、電動、次世代バッテリ、燃料電池などの研究開発事業を立ち上げている。そして今回、新たに「ITを活用したクルマ社会」に関する研究開発事業を開始することになった。
ITを使うことで無駄な燃料消費を削減し、渋滞などを解消することを目指す「エネルギーITS」では、10の研究目標が抽出されている。公募の結果、今回は協調走行(自動運転)に向けた研究開発と、国際的に信頼される評価基準を目指したシミュレーションのフレームワーク開発を目指す。2008年度の事業規模は、8億800万円。2012年度までの5カ年計画で、2012年度には電子式隊列走行の実証実験の完了を目指す。なお「信号制御の高度化」という研究目標もあり、公募をしたが応募はなかったという。
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経済産業の各施策とプロジェクトの関係
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エネルギーITS関連施策
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実施体制
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協調走行
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達成目標
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国際的に信頼される効果評価方法の確立
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最終目標は2012年度
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● 協調走行・自動運転の技術開発
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財団法人日本自動車研究所 ITS研究センター 主席研究員 青木敬二氏
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このあと2つのプロジェクトの概要が、委託先である財団法人日本自動車研究所の担当者からそれぞれ解説された。まず自動運転・協調走行では、自動運転技術の開発、隊列走行技術の開発を行ない、効率的幹線輸送の実現を目指す。自動運転の車の研究は世界各国で行なわれているが、財団法人日本自動車研究所ITS研究センター主席研究員の青木敬二氏によれば「自動運転の明確なパラダイムは示されていない」という。この技術では、CO2削減やモーダルシフトを可能とするデマンド型交通システム、安全性と省エネを両立する自動運転車の実現を目指す。目標は、入力された目的地に従って経路を自動生成、それにしたがって省エネ運転をする車の実現だ。「サイバーカー」と呼ぶ超小型自動運転車の実現も目標に入っている。
これまでの自動運転に関する研究は、道路側のインフラを利用するものが多かった。だが今回は車の自律走行技術で走行することを目指す。そのために自動車にはGPS、カメラ、レーザーレンジファインダーやミリ波レーダーなど、各種センサー類を搭載。目標車線にしたがって走行する技術、省エネのための自動速度制御技術、そして一般道を対象としているので、高度な障害物回避技術などを開発する。
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自動運転技術と高効率な幹線物流システムの実現を目指す
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安全性と省エネを両立する自動運転車
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自動運転車の基本技術
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自動隊列走行については、目的および実用化時期を考慮した3種類のコンセプトを策定。コンセプト1・2は一般車との混合交通で省エネを実現することを目指す。いっぽうコンセプト3は専用レーンを使い、高効率な幹線物流システムの実現を目指す。隊列形態も3台以上とし、先頭車のみドライバーが乗車するなど、高度な自動走行制御技術が要求されるものとなっている。それぞれのコンセプトにおいて、ドライバーとシステムの機能分担が非常に重要となるという。
今回開発される自動運転車両は、道路側のインフラにあまり頼らないことを目指している。まるで屋外環境で動作する自律移動ロボットのようなものだ。要素技術としては、
1)燃費の良いルート案内、隊列走行による空気抵抗低減を行なう省エネ運転制御技術
2)高精度GPSと3次元道路地図を使った自律走行制御技術
3)各種境界、構造物を認識する走行環境認識技術
4)慣性計測装置、GPS、カメラ、レーザースキャナ、オドメトリなどから作成する3次元デジタル地図と認識技術、高精度GPSを使った高精度の自己位置認識技術
5)隊列走行用の車車間通信技術
などを研究開発していくことになる。
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専用レーン利用を含む3種類のコンセプトを策定
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自動化の機能、省エネ化の程度の観点で見た3種類のコンセプトの比較と要求される技術
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各種要素技術
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記者会見では、コンセプト2の隊列走行システムの基本構成や、自動運転隊列シミュレーターを使ったコンピュータシミュレーションの結果が示された。全長12mで25tクラスの大型トラックを車間距離4m、時速80km/hで走行させたときの圧力分布と流速分布を調べ、Cd値(空気抵抗係数)低減率を見ると、先頭車、最後尾車とも、低下していることが分かった。これは燃費がよくなることを意味し、特に真ん中の車両ではCd値は半分になっており、3台平均すると15%程度の削減が可能になるという。
他の自動運転システムとの技術比較の図表も示されたが、それを見る限り、今回開発を目指す技術は、DARPAアーバンチャレンジで勝利した車両の構成にもっとも近いようだ。実験は新東名高速道路で行なう予定だという。
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隊列走行システム基本構成
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隊列走行空気流体シミュレーションの例
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隊列走行における走行環境認識技術
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他の自動運転システムとの技術比較
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開発スケジュール
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研究開発体制
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● 国際的にも信頼されるCO2削減効果評価の確立
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財団法人日本自動車研究所 エネルギ・環境研究部 主管 平井洋氏
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また、ITSによる二酸化炭素低減効果を評価できる手法の確立を目指しており、これについては財団法人日本自動車研究所 エネルギ・環境研究部 主管 平井洋氏より述べられた。現状ではITSを使った二酸化炭素低減効果に関して、国際的に同意を得ている評価方法はないのだという。
開発する技術要素は大きく分けて6項目挙げられる。
1)ハイブリッドシミュレーション
2)車両CO2排出量推計モデル
3)プローブによるCO2モニタリング
4)交通データ基盤の構築
5)国際連携
6)CO2排出量推計技術の検証
この6項目が、国際的な標準とすることを目指す。ミクロからマクロまでシミュレーションを行ない、車両や道路の状態をシミュレーションしてから統合して推計する技術を開発する。また、さまざまな既存の交通関連データがあるが、そこに標準的なデータ構造を提案する。具体的なデータ構造についてはまだ検討中とのことだ。
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効果評価方法の確立
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研究開発の各項目とその関係
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ハイブリッドシミュレーションのフレームワーク理論構築を目指す
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ミクロからマクロまで統合したモデルを構築
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各モデルの連携
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交通データ基盤の構築が目標の1つ
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■URL
NEDO技術開発機構
http://www.nedo.go.jp/index.html
自動運転・隊列走行の研究開発を開始-ITを活用した「世界一やさしいクルマ社会」を目指して-
http://app3.infoc.nedo.go.jp/informations/koubo/kaiken/BE/nedopressorder.2009-01-16.4721301763/
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( 森山和道 )
2009/01/19 18:03
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