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国際大会の前哨戦「WRO Japan2008」国内決勝大会レポート


全国から勝ち抜いた精鋭が頂点を目指す

 夏休み最終日となる8月31日、パシフィコ横浜の展示Cホールにおいて、小中高校生を対象とした自律型ロボット競技会「WRO Japan2008」の国内決勝大会が開催された【写真1】。全国22予選608チームの中から勝ち抜いた精鋭80チームが、国際大会への日本代表の座をかけて競技に挑んだ。前回、速報として国際大会の代表者をお知らせしたが、ここでは決勝戦の模様についてレポートしよう【写真2】。


【写真1】パシフィコ横浜において開催された自律型ロボット競技会「WRO Japan2008」国内決勝戦。組織副員長の山本利一氏(埼玉大学教育学部教授)による説明 【写真2】決勝戦の競技。小学校・中学校・高校ごとに部門が分かれており、選手2~3名、コーチ1名のチーム編成にて競技が行なわれる

 WROは、子供たちの理科離れや大学工学部志望者の減少といった問題への取り組みの1つでもある。ロボットや組込みシステムを使うチャレンジの場として、世界に通用する未来の科学者・技術者の育成を目指し、産学官連携で開催されるイベントだ。

 競技は、小・中・高校生ごとの参加となり、選手2~3名、コーチ1名のチーム編成にて行なわれる。具体的な内容は、大会指定の市販ロボットキット(LEGO MINDSTORMS)とソフトウェアによって、自律型ロボットを製作して、課題コースの競技や展示を行なうもので、「レギュラーカテゴリー部門」と「オープンカテゴリー部門」がある。前者のレギュラーカテゴリー部門は、事前に発表されたルールに則り、課題をクリアしたポイントと完了までの時間によって順位を決定する。決勝戦の参加チームの内訳は、小学生29チーム、中学生30チーム、高校生31チームだった。

 では、レギュラーカテゴリーのコースについて簡単に見ていこう。小学生の競技コース「ベースランナー」は、スタートエリアから始動し、ゲート(2つの空き缶)を通過して、3カ所の三角柱上に置かれたターゲット(空き缶)を倒す。さらに再びゲートを抜けて、スタートエリアに戻ってくるまでを競うものだ【写真3】【写真4】。

 中学生の競技コース「スマッシュトライアスロン」も、小学生とフィールドは基本的に同じだ。しかし、途中に最大6つの障害物ゾーンが設けられている点が異なる。障害物は、坂道、丘、トンネル、狭い道、沼地、さざ波、荒波がある。これらの障害物をすり抜けて、3カ所の三角柱上に置かれたターゲット(空き缶)を倒してから、再びゲートを抜けて、スタートエリアに戻るまでを競う【写真5】。なおコース上に設置される障害物の組み合わせは、当日の競技会にならないと分からない。当日のコースでは【写真6】のように坂道、トンネル、狭い道、荒波が設置されていた。国際大会では、さらに多くの障害物アイテムが組み込まれるかもしれない。

 高校生の競技コース「リサイクルキーパー」は、ターゲットエリアが4カ所に増え、そこに置かれた空き缶をロボットで落とす。また、今回は2行×8列に並べられたピンポン球をポイントゾーンに運ぶというルールだ。ピンポンボールは走行エリア中央に配置される。走行中にピンポン球に少しでも触れると、すぐに四方に転がってしまうため注意が必要だ。いかにピンボールをうまくピックアップできるかということが勝敗の分れ目になるといえるだろう【写真7】【写真8】。


【写真3】レギュラーカテゴリー、小学生の競技コース「ベースランナー」。3カ所のターゲット(空き缶)を倒して、スタートエリアに戻る 【写真4】小学生の競技コース。スタートからの直線ではライントレース部分がないなど、若干コースは変更されていた 【写真5】レギュラーカテゴリー、中学生の競技コース「スマッシュトライアスロン」。基本的なコースとターゲットの位置は小学生の競技とほぼ同じだが、障害物があるため難易度が上がっている

【写真6】小学生の競技コース。障害物として6つのアイテムが用意されているが、今回のコースでは、坂道、トンネル、狭い道、荒波が設置されていた 【写真7】レギュラーカテゴリー、高校生の競技コース「リサイクルキーパー」。ターゲットエリアの空き缶を落とし、走行エリアの中央に配置されたピンポン球をポイントゾーンに運ぶ 【写真8】今回の競技では、ピンポン球は2行×8列に並べられた。ピンポン玉の配置によってhは、先にピンポンを回収したほうがよいかもしれない

小・中・高校生ともに競技は全般的に難易度が高かった!?

 WROの国内決勝戦は、いわば国際大会の前哨戦ともいえる。そのためルールも国際大会をにらんで、同じような形で行なわれる。午前中は全チーム一斉に、規定時間150分以内にロボットの組み立て作業とプログラミングを行なうことになる。機体を組み立てる担当者と、プログラミング担当者が協力しながら1つのロボットを製作していくプロセスだ【写真9】。ここはチームワークの見せどころだろう。ロボットの機体をいかに早く組み立て、プログラムを作成して、ロボットを調整できるかという点がカギになる。ロボットが思い通りに動くかどうか、製作したロボットをコースで試走させる際には、周囲環境(明るさ)によって、うまく動かないこともあるので、プログラムやセンサ感度を何度か変更する必要がある。

 次に、ロボットが規定どおりのサイズでつくられたものか、車検が行なわれる【写真10】。車検が済んだら、いよいよ競技がスタート。競技のほうは、小・中・高校生別に用意された各2つのフィールドで並行して行なわれる。1回目の競技後に15分間の調整時間が与えられ、再度の車検を経て2回目の競技が始まる。今回の競技は、いずれの部門とも全般的に難しかったようで、コースから外れてしまったり、途中で立ち往生したりするチームも多く、コースを完全にクリアできたチームは少なかったようだ。以下、部門別に競技の模様について紹介しよう。


【写真9】競技スタート。全チーム一斉にロボットの組み立て作業とプログラミングを行なう。規定時間は150分以内だ 【写真10】ロボットの組み立てが終わったら、車検を済ませる。ここで規定どおりのサイズでつくられているかどうかを検査

小学生部門

 小学生部門の競技は、コーナー部の缶を落とし、正確にコースをトレースしながらゴールに辿り着くことがポイントとなる。2個の空き缶でつくられゲート部の中央、およびコーナー部などには黒いラインが引かれているので、そのラインをトレースしていく。コーナー部を判断したら、そこにターゲットの缶があるため、ロボットで缶を落とせるように動作させる。缶を落とす手段には、直接ターゲットにロボット本体を当てるものや、コーナーに来たら水平バーを回転させて落とすものなど、いくつか工夫が見られた。

 小学生部門では、強豪の富山市立鵜坂小学校が製作した「サンダーバード33号」【写真11】と「同22号」【写真12】【動画1】の活躍が際立っていたようだ。2回の競技ともに、両者はコーナーにある缶ターゲットを見事に落として完走を果たした。2回完走は両チームだけだった。いずれのチームも「うさかポータル運営グループ」(島田敏一代表)の教室で指導を受けていたチームだ。

 春日井市立中央台小学校のビークルズのように、缶をすべてクリアしたものの、ゴール手前あと一歩というところでコースから外れてしまった大変惜しいケースもあった。彼らには、観客席からは健闘をたたえる大きな拍手がおくられた【写真13】【動画2】【写真14】【写真15】。


【写真11】小学生部門のロボットその1。富山市立鵜坂小学校の「サンダーバード33号」(写真左)と、野田市立北部小学校/同清水台小学校の「ビッグハンマー」(写真右) 【写真12】小学生部門のロボットその2。富山市立鵜坂小学校の「サンダーバード22号」(写真左)と、奈良市立青和小学校/東登美ヶ丘小学校/奈良教育大学附属小学校の「大仏3MAX」(写真右) 【動画1】見事に完走を果たした富山市立鵜坂小学校の「サンダーバード22号」。同校の「サンダーバード33号」も完走

【写真13】小学生部門のロボットその3。春日井市立中央台小学校の「ビークル」(写真左)と、横浜市立篠原小学校の「チームしのはら」(写真右) 【動画2】春日井市立中央台小学校の「ビークル」。ターゲットを倒し、ゲートもくぐり抜け、スタートラインに戻るだけ。最後にあと一歩のところで軌道から外れてしまって残念!

【写真14】小学生部門のロボットその4。勝山市立成器西小学校のロボットファイターズ西(写真左)我孫子市立我孫子第三小学校の「チームYUNA」(写真右) 【写真15】小学生部門のロボットその5。高岡市立博労小学校/同千鳥ケ丘小学校の「399高岡」(写真右)

 小学生部門で入賞したチームは以下のとおりだ。

・優勝 サンダーバード33号(富山市立鵜坂小学校)
・準優勝 チームYUNA(我孫子市立我孫子第三小学校)
・第3位 サンダーバード22号(富山市立鵜坂小学校)
・デザイン賞 チーム生目台(宮崎市立生目台西小学校)
・技術賞 399高岡(高岡市立博労小学校/同千鳥ケ丘小学校)
・チームワーク賞 大仏3MAX(奈良市立青和小学校/東登美ヶ丘小学校/奈良教育大学附属小学校)
・入賞 ビークルズ(春日井市立中央台小学校)
・入賞 チームしのはら(横浜市立篠原小学校)


中学生部門

 コーナーにあるターゲットの空き缶を落としてポイントを得る点は小学生の競技と同様だ。だが前述のようにコースにさまざまな障害物があるため、小学生の競技より難易度が高くなっている。坂道の急斜面があったり、波のような足場の悪い障害物が用意されているため、ロボット駆動部にも工夫を凝らしているものが多かった。

 たとえば、横浜市立樽町中学校の「T・T・T」【写真16】や、富山市立速星中学校/射水市立大門中学校の「サンダーバード55号」【写真17】などは、クローラー(キャタピラ)タイプの無限軌道にすることで、駆動系の走破性を向上していた。また、ターゲットとなる缶を落とす機構には、水平方向からアームをスイングして回転移動させるもの、本体の突起部を当てるものなどが主流であった【写真18】【写真19】【写真20】【写真21】【写真22】。中学生のコースでは、ターゲットが置かれているコーナー近傍に目印となるラインが書かれていないため、コーナリングの制御も難しかったようだ。

 常連の奈良教育大附属中学校のロボット「Challenger」は、センシング部にひと工夫してユニークだった。通常のライントレースを行なう際には赤外線センサが下を向いているが、トンネル部などに入るときにはアームが上昇し、センサが前方を向くようにして使い分けをしていた【動画3】。中学生部門で入賞したチームは以下のとおり。昨年の国際大会に出場した常連校がよい成績を収めていた。


【写真16】中学生部門のロボットその1。横浜市立樽町中学校の「T・T・T」。走破性に優れたクローラータイプだ 【写真17】中学生部門のロボットその2。富山市立速星中学校/射水市立大門中学校の「サンダーバード55号」。こちらもクローラタイプ 【写真18】中学生部門のロボットその3。横浜市立奈良中学校/同東山田中学校の「たけんちゃん」。昨年の国際大会にも出場した強豪だ

【写真19】中学生部門のロボットその4。越前市立南越中学校の「チーム3232」。水平方向からアームをスイングさせてターゲットを落とす 【写真20】中学生部門のロボットその5。勝山市立勝山北部中学校の「ホクマイル」。チームワーク賞を受賞 【写真21】中学生部門のロボットその6。越前市立南越中学校の「南越WA」(右奥)、横浜市立上郷小学校の「ストーンパンサーズ」(左奥)、岐阜東中学校の「OHY」(右前)、勝山市立勝山南部中学校の「TEAM IKK」(左前)

【写真22】中学生部門のロボットその7。横浜市立田奈小学校の「アームT-2」(写真右)と宮崎市立東大宮中学校の「team.Miyazaki」(写真左) 【動画3】毎年、好成績を残している奈良教育大附属中学校の「Challenger」。センシング部にひと工夫していた

・優勝 T・T・T(横浜市立樽町中学校)
・準優勝 奈良教育大附属中Challenger(奈良教育大学附属中学校)
・第3位 たけんちゃん(横浜市立奈良中学校/同東山田中学校)
・技術賞 チーム3232(越前市立南越中学校)

・入賞(チームワーク賞) ホクマイル(勝山市立勝山北部中学校)
・入賞 Team IKK(勝山市立勝山南部中学校)
・入賞 サンダーバード55号(富山市立速星中学校/射水市立大門中学校)
・入賞 team.Miyazaki(宮崎市立東大宮中学校)


高校生部門

 高校生部門の競技では、ピンポン球のピッキング機構や搬送方法の視点から、さまざまな機構のロボットがつくられていた。ピッキング機構としては、対壁までボールを押して、ショベルカーのようなアームでピンポン球をすくい上げるタイプが代表的。たとえば、このようなピッキングをしていたチームとしては、武生工業の「The・My」【動画4】、吉田高校の「輝桜」【動画5】などが挙げられる。一方、昨年の国際大会の覇者、磯子工業の「X(イクス)磯工」【動画6】は、籠のようなアームを振り下ろしてボールを捕獲するユニークな方式を採用していた。

 また、ピンポン球を囲んだり、ロボット内部に取り込んで搬送するタイプも多かった。こちらは宇都宮工業の「インストール」【動画7】、香椎工業の「電子機械科Type-R」【動画8】、宮崎工業の「SEISAN.Sys」【動画9】などで用いられていた。このようなオーソドックスな手法の一方で、バスケットにピンポン球を入れて搬送し、ポイントゾーンに来たらバスケットごとをロボットと分離させてしまうという鳥栖工業の「TOSU2」のような大胆なアイデアも面白かった【写真23】【写真24】【写真25】。


高校生部門のロボットその1。福井県立武生工業高校の「The・My」。ショベルカーのようなアームでピンポン球をすくい上げる 【動画5】高校生部門のロボットその2。愛媛県立吉田高校の「輝桜」。こちらもアームでピンポン球をすくい上げるタイプ 【動画6】高校生部門のロボットその3。昨年の国際大会の覇者、神奈川県立磯子工業高校の「X(イクス)磯工」。ロボットがピンポン球に接触し、ボールがバラけてしまった。籠のようなアームが特徴

【動画7】高校生部門のロボットその4。栃木県立宇都宮工業高校の「インストール」。最初に缶を倒す。次にロボット本体でピンポン球を囲みながらポイントゾーン手前まで搬送。いったんボールを外に出してから、壁を利用してアームで押し上げる 【動画8】高校生部門のロボットその5。香椎工業の「電子機械科Type-R」。こちらもインストールと同様に、ターゲットエリアの手前まで搬送して、ピンポン球を外に出してからアームで押し上げる。ただし最初に缶を落とさず、ピンポン球から確保している点が異なる 【動画9】高校生部門のロボットその6。福岡県立香椎工業高校の「電子機械科Type-R」。スクリューのような機構で、ロボット内部にピンポン球を取り込んで搬送するタイプ

【写真23】高校生部門のロボットその7。佐賀県立鳥栖工業高校の「TOSU2」。ピンポン球のピッキングと搬送機構がユニークで印象的だった。まず折りたたみアームを展開する 【写真24】「TOSU2」のピッキング機構。壁と展開アームによってピンポン球をまるごと持ち上げる 【写真25】「TOSU2」のピッキング機構。展開アームはバスケットのようになっており、ロボット本体と分離できる。バスケットをそのままポイントゾーンに落としてしまうという大胆な発想

 一方、戦略的な視点からは、ターゲットエリアに置かれた空き缶をすべて倒してからピンポン球を運ぶ方法と、ピンポン球を運んだあとに空き缶を倒す方法に大きく分類できるようだった。前者の方法を取っていた代表的なロボットはインストール、The・My、輝桜、X磯工などだ。一方、後者には電子機械科Type-R、SEISAN.Sysなどがあった。どちらも攻める順番が違うだけで、あまり差はないようにも思えるが、記者の目では後者のほうが有利であるように思えた。

 というのも、前者のように最初に空き缶を倒す場合には、ロボットの走行制御をしっかりしておく必要があるからだ。缶を落す際に、コース中央に置かれるピンポン球に接触してしまうケースがあり、もしピンポン球に少しでも触れると、中央に集められているピンポン球がバラけてしまい、ピッキングする際にまとめて処理できなくなるので厄介なことになる。実際にこのような事態になってしまったケースがいくつかあった。一方、後者のように、最初からピンポン球を搬送する場合は、ロボットの走行もある程度は自由が利くようになるため、あとから着実に缶を落としていけばよいだろう。


【動画10】TOSU2の動き。最初にピンポン球をピッキングしておく。次にピンポン球を把持した状態で空き缶を倒す。その後ピンポン球をポイントゾーンに入れる。残念ながら2回の競技では、途中でバスケットが外れてしまったが、発想はとても面白い
 また、前述のような2つの方法を併用するアイデアもあった。TOSU2は、最初にピンポンをピッキングしておくものの、ボールを把持した状態で空き缶を倒し、その後ボールをポイントゾーンに入れるという方法を採用していた。これは時間短縮につながるため、大変よい方法だと感じた。ただし、TOSU2の場合には、バスケットを分離するという斬新な機構がアダになってしまったようだ。空き缶を落とす際にバスケット部が外れてしまうという不測のアクシデントに見舞われ、大会では実力を発揮できず残念であった【動画10】。

 今回の競技は難易度が高かったのか、最後までピンポン球をうまく搬送できたチームが少なかったようだ。ピンポン球の搬送に成功したチームが上位に入賞した。高校生部門で入賞したチームは以下のとおり。

・優勝 インストール(栃木県立宇都宮工業高等学校)
・準優勝 SEISAN.Sys(宮崎県立宮崎工業高等学校)
・第3位 クラウディ スカイ(栃木県立宇都宮工業高等学校)
・技術賞 蜜柑樹(愛媛県立八幡浜工業高等学校)
・デザイン賞 TOSU2(佐賀県立鳥栖工業高等学校)
・入賞 電子機械科Type-R(福岡県立香椎工業高等学校)
・入賞 The・My(福井県立武生工業高等学校)
・入賞 輝桜(愛媛県立吉田高等学校)


国際大会初出場のオープンカテゴリー! 日本独自のからくりも

 オープンカテゴリー部門は、与えられたテーマ「地球環境保護」に沿って、ロボットを自由に設計・デザインし、審査員の前でデモンストレーション、発表、質疑応答、プレゼンテーションを行なうものだ。テーマは共通で「地球環境保護」。小学生・中学・高校生の3部門で、それぞれ賞が決まる。今回の参加チーム数は、中学生2チーム(富山県・サンダーバード66号、東京・玉川学園中学部アルキメデス)、高校生1チーム(栃木県立宇都宮工業高等学校・生産システム研究部)の合計3チームだ。

 サンダーバード66号は「自然エネルギー発電」をテーマに風力発電システムを製作した【写真26】【写真27】。化石燃料を使わないクリーンな自然エネルギーとして風力を用いて、地球温暖化を防止するというコンセプトだという。本システムでは、送風機で風を風車に送ると、風向きを検出して自動的に風上に向かう仕組みが組み込まれている【写真28】。また風車が回ると、風車に直結したモータから電気が起こり、それを利用してビル内の電気を光らせるようにしている【動画11】。


【写真26】オープンカテゴリー部門その1。射水市立大門中学校/富山市立速星中学校「サンダーバード66号」のテーマは「自然エネルギー発電」。写真はLEGOで作った風車 【写真27】「サンダーバード66号」。風車をまわすと電気が起こる。その電気によって、ビル内の電気を光らせるしくみ

【写真28】送風機(換気扇)を使って風車に風を送ってまわす。送風機で風を送ると、風向きを検出して、自動的に風上に向かう 【動画11】自然エネルギー発電のデモンストレーション。風車をまわすと、隣のビルの電気がしっかりと光っていることがわかる

 アルキメデスは、バイオ燃料によるカーボンフリーのシステムを研究し、「バイオ燃料リサイクルシステム」をロボットで再現していた【動画12】。このリサイクルシステムのコンセプトは次のとおりだ。まず家庭からの廃油を家庭から回収車で取り出す。家と回収車の双方に取り付けられたRCX同士で赤外線通信を行ない、廃油を積み込む。次に回収車が工場に到着したら廃油を下ろす。廃油は工場内で燃料としてリサイクルされる。また赤外線で通信して、工場でつくられたバイオ燃料を積み込む。さらにガソリンスタンドに行って、ここでバイオ燃料を供給する。

 一方、バイオ燃料となるトウモロコシの収穫と搬送は別ルートで行なわれる。特にユニークだったのは、トウモロコシを収穫する機構と、それを工場に搬送する部分だ。トウモロコシ収穫機構は、四方で囲まれた枠の中で収穫ロボットが前後に動きながら、トウモロコシに見立てたガラス球を取り込んでいくというもの【動画13】。前後の動きは光センサで、左右方向はタッチセンサによって制御されていた。また、このようにして取り込んだトウモロコシは、ベルトコンベアで工場に搬送されるようになっていた【写真29】。


【動画12】オープンカテゴリー部門その2。玉川学園中学部のアルキメデスは、「バイオ燃料リサイクルシステム」をテーマにシステムを製作 【写真29】バイオ燃料リサイクルシステムの一部。家と回収車の双方に取り付けられたRCX同士で赤外線通信を行ない、搬送ロボットが廃油を積み込む 【動画13】バイオ燃料リサイクルシステムのデモンストレーション。エネルギーと燃料の循環を考えてシステムを構築

 生産システム研究部は「廃油石けんで地球を守ろう!」をテーマに、ユニークなロボットのシステムを披露していた。これは食用で使われた廃油(天ぷら油)と苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)などを混ぜ合わせて石けんをつくるシステムだ【写真30】。まず中央にある攪拌機に、2体のロボットで廃油と苛性ソーダ(展示では白い絵具)を運んでくる。これらを攪拌機に投入して混ぜ合わせ、廃油石けんのモトになる原液をつくる【写真31】。攪拌機のバルブが開くタイミングに合わせて、列車型ロボットに搭載された樹脂製の型に原液が流し込まれて運ばれていく【動画14】。

 さらに乾燥させて完成した石けんを、江戸時代の茶運び人形をベースにしたロボットで運ぶ仕組みだ【動画15】。このロボットは手元の石けんを取り出すとお辞儀して、元の位置に戻るようになっていた。日本の伝統的なカラクリをLEGOで再現しながら、工場の生産ラインもつくってしまうというアイデアがとてもよかった。このような創造性のあるロボットがもっと多く出てきて欲しいところだ。


【写真30】バイオ燃料リサイクルシステムの一部。収穫されたトウモロコシは、ベルトコンベアによって工場に搬送される 【写真31】オープンカテゴリー部門その3。栃木県立宇都宮工業高校 生産システム研究部は「廃油石けんで地球を守ろう!」をテーマに、ユニークな生産システムを披露

【動画14】生産システム研究部によるデモンストレーションその1。2台のロボットで廃油と苛性ソーダを攪拌機に運んで混ぜ合わせる。その原液を型に入れ、列車型ロボットで搬送する 【動画15】生産システム研究部によるデモンストレーションその2。こちらは完成した廃油石けんを日本同時のからくり人形の機構で運ぶ。茶運び人形を模したもので、石けんを取るとロボットがお辞儀をして、元の位置にリターン

残りあと2カ月、国際大会に向けて始動!

 さて冒頭で説明したように、この国内決勝大会で上位の成績をおさめたチームは、11月1日と2日にパシフィコ横浜で開催される「WRO2008国際大会」の推薦が得られる。今年で5回目となるWRO2008国際大会だが、日本(横浜市)での開催は初めて。今年は国内での開催となるため、主催国である日本は6位まで推薦枠が拡大され、20チーム以上が世界の強豪と戦うことになる。国際大会に出場する各部門の記者発表会の模様は既報のとおりだ。昨年の国際大会では主催国である台湾チームが上位を独占していたので、ぜひ今年は日本チームに張り切ってもらえればと思う。大会まで残りあと2カ月ほどだが、まだいろいろと改良の余地はあるだろう。頑張れ! ニッポンチーム。


【写真32】オープンカテゴリーの表彰式。生産システム研究部はアイディア賞、アルキメデスはチームワーク賞、サンダーバード66号は技術賞を受賞 【写真33】国際大会出場チーム(小学生チーム)の発表。オレンジ色が映える日本代表ユニフォームもお披露目 【写真34】中学生部門準優勝の奈良教育大附属中Challengerチームの皆さん。毎年、上位に食い込む強豪だ。国際大会での活躍に期待!

URL
  WRO Japan
  http://www.wroj.org/2008/index.html

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( 井上猛雄 )
2008/09/10 18:02

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