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JAXA相模原キャンパス一般公開レポート
~はやぶさ後継機、次期固体ロケットなどに注目


JAXA相模原キャンパス。最寄り駅はJR横浜線・淵野辺駅
 日本の宇宙機関はご存じの通り宇宙航空研究開発機構(JAXA)であるが、その中で宇宙科学の分野を担当している部門が宇宙科学研究本部(ISAS)だ。もともと2003年のJAXA統合前は、宇宙開発事業団(NASDA)とは別の宇宙科学研究所(これも略称はISAS)という組織であり、神奈川県相模原市に拠点があった。これが今のJAXA相模原キャンパスである。

 毎年、相模原キャンパスでは夏に一般公開が行なわれており、今年はこれが8月9日に実施された。当日は昼過ぎに激しい雨が降る一幕もあったが、大勢の家族連れや宇宙ファンが訪れ、楽しんでいた(一般公開イベントというと“子供向け”のイメージがあるが、JAXAの一般公開はマニアでも安心な内容なのだ)。本レポートでは展示の一端をご紹介したい。


はやぶさの後継機はどうなった?

 まずは小惑星探査機「はやぶさ」関連の話題から。といっても、現在「はやぶさ」は2010年6月の地球帰還に向けて慎重な運用が行なわれているところなので、新しい話はあまりない。本レポートで注目したいのは、後継機の動向になる(「はやぶさ」に関しては、過去記事などを参照して欲しい)。


「はやぶさ」関連のコーナー。初めて来た人は、この実物大の模型に驚くだろう 小惑星イトカワの新しい模型(左)も。比重が同じとのことで、持ってみると案外重い

 JAXAでは同型機の「はやぶさ2」を計画している。「はやぶさ」ではS型に分類される小惑星イトカワを調べたが、「はやぶさ2」ではより遠くにあるC型小惑星からのサンプルリターンを狙う。「太陽系の化石」とも言われる小惑星にはさまざまなタイプがある。違ったタイプの小惑星も探査することで、太陽系について、より多くの知見が得られるようになるのは間違いない。

 この「はやぶさ2」は2010年代前半の打上げを目指しているが、残念ながら、打上げロケットはまだ決まっていない(この経緯はいろいろあるのだが、ここでは省略)。海外での打上げを目指し、欧州宇宙機関(ESA)と協議を続けているところだ。また大型化してさらに遠くの小惑星に向かう「マルコポーロ」(従来「はやぶさMk-II」と呼ばれていたもの)も計画されているが、こちらはESAの「Cosmic Vision 2015-2025」の候補として現在選考にかけらている。


JAXAが検討しているサンプルリターン計画。より遠くにある小惑星を狙う 「はやぶさ2」計画。初代とほぼ同型なので、開発期間は比較的短くてすむ より遠くに向かう「マルコポーロ」では、イオンエンジンが強化される

 小惑星探査は、日本が世界をリードしている数少ない分野だ。海外から高い評価を受けている「はやぶさ」の後継機くらい、自前のロケットで送り出してやりたいところだが、こうなってしまった以上、とにかく実現を期待したいところだ。

 それと興味深かったのは、「国際始原天体探査ワーキンググループ(IPEWG)」の紹介パネルに「有人」の文字が出ていたこと。世間的にはいま、月や火星の有人探査が注目されていると思うが、月と火星の間には技術的に大きなギャップがある。しかし地球近傍天体(NEO)であれば、NASAが月探査用に開発している有人宇宙船「Orion」で行けるという話もあり、人類が月の次に向かうのは小惑星になるかもしれない。有人であれば、当然ながら地球に帰ってくるわけで、「サンプルリターンの量も質も変わる」(ブース説明員)。その場合、日本が「はやぶさ」のような無人機で協力することも考えられるそうだ。


日本が主導して発足した「国際始原天体探査ワーキンググループ(IPEWG)」 始原天体の探査にはさまざまな意義がある。有人探査も視野に入っている

運転中のイオンエンジンが見られる

 「はやぶさ」には直径10cmのイオンエンジン「μ10」が搭載されているのだが、より遠くに向かう「マルコポーロ」のために、直径を20cmに大型化した「μ20」が開発されている。すでに耐久試験を開始しており、お盆明けにも2,000時間を達成する見込みだ(ちなみに、μ10のときは2万時間のテストをしている)。


ここでイオンエンジンを運転中。装置の中は真空になっている 左から右にキセノンガスが噴射されている。中央の光は中和器 正面の窓から見たところ。これがイオンエンジンの光だ

 またμ10についても、改良によって推力を8mNから10mNに向上することができたそうだ。「はやぶさ2」は「はやぶさ」よりも遠くの小惑星に向かうが、これを使えばエンジンの数を増やさずにすむそうだ。


「太陽系大航海時代」の幕開け

ソーラーセイルの探査機。木星を周回するオービター、大気に突入するプローブ、木星をフライバイしてトロヤ群小惑星に向かう探査機本体で構成される
 大きな薄膜を展開して、まるで帆船のように宇宙空間を航海するのが「ソーラーセイル」。何とも優雅な探査機だが、ほとんどの人は「そんなことが可能なのか?」と思うだろう。宇宙にはそもそも空気がない。だが、ソーラーセイルで利用するのは、太陽からの光。ほとんど感じることはないが、光子にはわずかに運動量があるので、巨大な帆を張ってたくさん受ければ、実用的な推力が得られるのだ。ソーラーセイルでは薄い太陽電池も貼って、電力も得られるようにしている。

 実際には、50m級の帆でも推力は小さすぎるので、イオンエンジンの併用が考えられているのだが、ソーラーセイルによって燃料を節約することができる。浮いた重量は観測機器にまわすこともできるだろう。

 一般的に、木星以遠の外惑星探査には、電力源として放射性物質が利用されてきた。しかしこれを日本で使うのは国民感情的にも難しい(打上げ失敗時の危険性もある)。となると使えるのは太陽電池しかないのだが、外惑星は太陽から遠く離れているため、必要な電力を得るためには巨大な太陽電池が必要になる。ソーラーセイルは、日本の外惑星探査にとって、非常に合理的な選択肢なのだ。

 というわけで、ソーラーセイルでは木星およびトロヤ群小惑星の探査ミッションが計画されているのだが、その前に、小型の衛星で技術を実証する必要がある。2010年代初頭に小型実証機「Ikaros」を打上げる計画で、大きさ20mのポリイミド製の帆を展開するという。確実に展開するため、形状がいろいろと研究されているが、現時点では四角形になるのが有力だとか。


実証機で予定されている帆の形 こんな感じに畳んでから展開される 軌道制御のゲームも用意されていた

次期固体ロケットは2012年に打上げ?

立ち見客で溢れた講演会場。記者会見の時よりも楽しそうだった森田プロマネが印象的
 現在、小型衛星の打上げ用として開発が進められているのが「次期固体ロケット」と呼ばれているもの。このコーナーでは15時から、森田泰弘プロジェクトマネージャによる講演が行なわれていた。

 JAXA発足当時、日本にはNASDAのH-IIA、ISASのM-Vという、2つの打上げロケットがあった。しかしJAXAは2006年にM-Vの廃止を決定、現在、打上げに利用できるのはH-IIAロケットのみとなっている。次期固体ロケットは、このM-Vの後継となるものだ。

 ISASのロケットは伝統的に固体燃料を用いており(なので“固体ロケット”と呼ばれる。ちなみにNASDAは液体)、そのルーツは故・糸川英夫博士のペンシルロケットにまで行き着く。次期固体でもそれは受け継がれるが、変わっているのは1段目がH-IIAで使われている固体ロケットブースタ(SRB-A)になるということだ。この目的は、安いSRB-Aを使うことで、コストを下げること。また2段目については、M-Vをベースに改良する。


ISASの固体ロケットの流れ。50年かけて大型化してきた 基本的に、上段はM-V、下段はSRB-Aを利用する ロケットの基本緒元。高性能化と低コスト化を図る

 日本にはJ-Iロケットの失敗という苦い経験があるが(J-Iでは1段目がH-IIのSRB、2段目がM-3SIIの上段だった)、「大きな1段目はコストが高い割に、ロケット全体の性能には影響が少ない。対して小さな2段目はコストは低いが性能への影響は大きい」と森田プロマネ。SRB-Aを使うことで性能は少し損をするが、ここでコストを低減、性能については上段でカバーするという。M-Vの打上げ能力は低軌道に1.8トンだったが、次期固体は1.2トン。能力は2/3になるものの、コストは1/3になるので、コストパフォーマンスは高い。

 コストダウンのほか、次期固体で注力されているのは打上げの簡素化だ。ロケット内部のネットワーク化やインテリジェント化により、自律点検を実現。M-Vで47日かかっていた射場準備作業を6日に短縮するということで、「運用性も世界一になる」(同)。

 初号機の打上げ時期については、「遅くとも2012年度には上げられるよう準備している」(同)という。普通、初号機は試験機ということでペイロードはダミーだったりするものだが、次期固体は「宇宙研方式で」(同)いきなり本番になる見込み。搭載する衛星は惑星望遠鏡「EXCEED」(旧称:TOPS)になる予定だ。


小型科学衛星シリーズが検討されている。安く、早く打上げるのが狙い 1号機となるのが極端紫外線(EUV)による惑星観測を行う「EXCEED」 小型ながら月着陸を目指すプロジェクトも提案されている

 ところでこの次期固体ロケットであるが、関係者の間では「イプシロン(E)」ロケットというニックネームで呼ばれているそうだ。ISASのロケットは、これまでカッパ(K)→ラムダ(L)→ミュー(M)ときているので、順番からするとニュー(N)になるが、これではNASDAのN-I/IIと紛らわしい。“イプシロン”では何だかデルタロケットの後継機みたいな名前になってしまうが、これは「Exploration」「Excellence」などの意味が込められているとか。


意外に実現も近い? 再使用ロケット

 現代の打上げロケットはほとんどが使い捨てだ。再使用型としては米国のスペースシャトルがあるが、これも外部燃料タンクは使い捨ての上、オービターは毎回分解して整備する必要がある。しかし、JAXAで研究している再使用型ロケットは「完全再使用」を目指しており、まるで飛行機のように、繰り返し飛行することを想定している。重量約500kg、全高約3.5mの実験機が開発されており、これまで何度か離着陸実験を実施してきた。


過去に使っていた実験機。垂直に上がって垂直に降りてくるのが特徴だ 次世代の再使用型ロケット。大型化にはターボポンプ化などが必要になってくる

 この次世代機として、ペイロードが100kgのロケットが検討されている。これは高度100km~120kmまでの弾道飛行が可能ということで、再使用型の観測ロケットとして利用できる。実現は「最短で5年後」(ブース説明員)ということだが、開発の予算が付くことが前提条件。米国のように、大口のスポンサーを見つけてベンチャーを立ち上げる方が早い気がしないでもない。


相模原にもロケットの実機がっ!

 相模原キャンパスの一角に、M-3SIIロケットの原寸模型が展示されているのだが、その隣に何やら乗りそうな土台が。ここにはなんと、惜しまれつつ引退したM-Vロケットの実機が展示される予定だとか。


入って右側に進むと、見慣れたM-3SIIロケットの模型がある その向かいに土台が。ここで10月上旬から公開される予定

 展示機のベースとなるのは打上げられなかった2号機だが(これはLUNAR-A用だったがプロジェクトが中止)、6号機のために1段目は流用されてしまったので、この部分については予備品(モーターケースのみで中身は空っぽ)を使用するという。やはり模型と実機では“重み”が違う。筑波宇宙センターのH-IIロケットとともに、見学の新たな目玉になりそうだ。


今年の展示コーナーは?

 掲載順では最後になったが、会場に着いたらまず最初にチェックしておきたいのが販売コーナー。ここだけの限定グッズや、特別価格で販売されている商品もあり、人気商品はすぐ品切れになってしまうこともある。荷物にはなってしまうが、「帰る前に見ればいいや」などと思わず、すぐに買ってしまうのがベストだ。


入ってすぐの場所にある販売コーナー クリアファイルやらノートやらの文具系 Tシャツや帽子などもいろいろある

スターリングエンジンのキットも販売している 紙でクランクやカムが作れる本。色も塗れるぞ 車輪もないのに進む超音波リニアモーターのキット

URL
  宇宙航空研究開発機構(JAXA)
  http://www.jaxa.jp/
  宇宙科学研究本部(ISAS)
  http://www.isas.jaxa.jp/

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( 大塚 実 )
2008/08/22 17:04

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